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プロローグ
氷美は狐の面の下で笑った。
月光が降り注ぐ中、紅く染まった刀を振って。
紅葉色の地に、花のような紋が入っている着物。刀のように紅く染まったのが目立たないように。
でも氷美は、この着物が好きではなかった。
なぜか。
やりすぎてしまったことを自覚させる色。
氷美の嫌いな、紅。
知らない人は「殺人鬼」と。
知っている人は「義賊」と。
氷美たちは、そう言われる。
氷美は、やりすぎてしまうから。手加減ができないから。
氷美は、紅く染まってしまうのだ。
そして、氷美は。
紅く染まった自分の顔を見たくないからこそ、狐の面をかぶる。
恐れられることを恐れているから、やりすぎてしまう。
どうすればいいのかわからないから、操り人形のように、刀を振るうのだ。