埃のなかの聖域
―――巡府・普現寺倉庫―――
私、刀 真葉音。
幼い頃に見た「竹灯籠祭」――あの幻想的な本宮の儀式に心を奪われ、猛勉強の末に典礼院へと入庁した。
華やかな行事運営の最前線に立つ自分を、何度妄想したことか。
なのに、現実はどうだ。
「・・・なぜ、倉庫?」
文華推進局の同門は本宮で優雅な執務。
食膳方の同門は豊彩楼で活気ある調理場。
なのに、わが行事運営局の研修先は、この埃っぽい倉庫。
食材庫でもない、ただの倉庫。
え? 疑問しかない・・・。
煮え切らない気持ちはある。
でも、ここで腐らずに済んでいるのは、倉庫勤務の同門が最高だからだ。
和尚:「真葉音!あと5分で竹灯籠祭の装飾品着くって、シャッター行くよ!」
この凛とした頼れる女性が普現寺 和尚、通称「和尚さま」。
なぜ同門なのに「さま」なのかって? サバサバしてて賢くて、なんとなくそう呼びたくなるから。
入庁面接のとき、緊張で言葉に詰まった私を助けてくれたのも和尚さま。
もう、入庁前からありがたい存在だ。
和尚:「本宮付きの絵師・中祐の作品集も今回の便で届くって」
真葉音:「本宮勤務になったら会えるのかな?」
和尚:「そりゃーもおー、向こうから会いに来るでしょ」
真葉音:「うーわーもおー」
―――微かに、しかし主張のある咳の音。
真葉音・和尚:「あっ、すみません・・・」
―――人差し指を口に当て、静かにしようとするがテンションは下がらない。
和尚:「もう11節なのに同門が未だに厳しい・・・(小声)」
―――シャッター前で、年配の外注職人が腕を組んで立ち止まっていた。
職人:「この箱、伝票と数が合わないんだが」
空気が重くなる。
和尚は冷静に箱の封印紋を見る。
和尚:「昨日の最終便ですね。本宮便、第三棚、二段目。
竹灯籠の予備なので数は一つ多いはずです」
職人は一瞬きょとんとし、すぐに伝票を見直した。
職人:「あ・・・ほんとだ。悪い」
和尚:「いえ。確認ありがとうございます。
運ぶ前で助かりました」
そう言って、和尚は何事もなかったようにシャッターを上げる。
「流石、和尚さま」
―――シャッターオープン。




