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無能な勇者恋をする  作者: ぶーたん


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3/3

第3話 アフロ撃破!愛のバリカン炸裂!

ソノニ王国の朝は、黒いインクのシミとの戦いから始まった。

前日の戦闘で街中に撒き散らされた魔物のインクは、通常の水では落ちない頑固なものだった。イチカラは罰として、あるいは次の「運命の恋」を探す下心と共に、大通りをデッキブラシで一心不乱に擦っていた。


「ああ、カレンさん……! あなたの振るうブラシの軌跡は、まるで銀河を流れる天の川のようだ! 汚れと共に、僕の心の塵も洗い流してくれる……!」


イチカラの視線の先には、亜麻色のセミロングをふんわりと揺らす清掃員のお姉さん、カレンがいた。エメラルドグリーンの瞳を優しげに細め、額にうっすらと汗を浮かべて働く彼女の姿は、昨日のマダム・セクシーとはまた違う「清楚な女神」そのものだった。彼女の少し汚れたエプロン姿さえも、イチカラの目には聖衣のように輝いて見える。


「ふふ、イチカラさんは本当に熱心ね。昨日は魔物を倒してくれた上に、掃除まで手伝ってくれて、助かるわ」

「カレンさんのためなら、僕はこの国の石畳を舐めてピカピカにだってしてみせます! ほら、この部分なんか、僕の顔が映るくらい綺麗になりましたよ!」

「うふふ、それは少し恥ずかしいわね」


カレンが上品に笑う。その微笑みだけで、イチカラの精神的HPは全回復する。マダム・セクシーへの未練タラタラだった面影は、今のこの瞬間、カレンという新しい太陽の光に霧散していた。


だが、そんな甘い空間は長くは続かない。


「ちょっと、変態野郎……。こんなところで何ニヤニヤしてるのよ」


聞き覚えのある怒声に振り返ると、そこには燃えるような赤髪をポニーテールにした女勇者ルナが、腰に手を当てて立っていた。彼女の動きやすい軽量の鎧が、朝日にキラキラと輝く。少しつり目気味の眉をハの字にして、顔を赤らめるルナ。昨日の件で、お礼(とお説教)を言いに来たのだ。


「ちょっと、変態野郎……。……昨日は、その、助かったわ。でも勘違いしないでよね! アンタが変な力を出したから、私のペースが乱れただけんだから!」


キリッとした眉をハの字にして、顔を赤らめるルナ。だが、今のイチカラにとって、現役勇者のツンデレなど背景のノイズに過ぎない。


「あー、ルナちゃん? 邪魔。そこ、カレンさんが今さっきワックスかけたばっかりなんだから、足跡つけないで。ゴミ拾いがしたいなら、そっちの隅っこでやってて」

「なっ……! 私に向かってゴミ拾い!? 私はこの国の平和を守る勇者よ!? なんでアンタみたいな変態新聞配達員に指図されなきゃいけないのよ!」

「うるさいなぁ。カレンさんの掃除の邪魔をするだけなら、帰ってよ」

「誰が邪魔よ! ……っもう! 私、アンタに借りを返しに来ただけなんだからね! 別に心配したわけじゃないんだから!」


ツンデレ全開で怒鳴り散らすルナ。しかし、今のイチカラにとって、現役勇者の抗議など背景のノイズに過ぎない。彼はルナを一瞥すると、すぐにカレンの作業の手伝いに戻ってしまった。ルナは怒りで顔を真っ赤にし、地団駄を踏んで悔しがった。


その時だった。王都の四方にある鐘が一斉に鳴り響き、緊急警報が街中を包んだ。


「報告! 南門に怪異出現! アフロゴブリンの大群が街へ向かっています!」


街中の人々の叫び声が上がる。イチカラが空を見上げると、そこには頭部が異常に巨大なアフロヘアーで覆われた奇妙なゴブリンたちが、異様な威圧感を放ちながら迫ってきていた。その数は数十、いや数百にも及ぶ。


「グハハハ! ソノニ王国の住民ども! 俺たちの素晴らしいアフロの前に跪け!」


迎撃に出た王国の兵士たちが剣を振るうが、自慢のアフロが衝撃をすべて吸収してしまう。剣がめり込むだけで全くダメージが通らない。逆にアフロの毛の中に武器を絡め取られ、引っ張られて転倒する者たちが続出した。


ルナが先行して飛び出し、蒼い衝撃波を放つ剣技を繰り出すが、やはりアフロの弾力に聖剣が弾き返される。


「くっ、何なのよこの弾力……! 髪に熱を加えても焦げもしないなんて、どうなってるのよ!」


アフロゴブリンの一体がルナのポニーテールを掴もうと手を伸ばす。絶体絶命のピンチ。しかし、その光景がイチカラの怒りに火をつけた。


「……おい、クソ毛玉ども……!!」


イチカラが、地面に落ちていた戦士の剣を拾い上げた。その目は、かつてないほど血走っている。ルナへの心配ではない。カレンの掃除を邪魔されたことへの怒りだ。


「お前らのその汚い縮れ毛が……カレンさんが一生懸命磨いたこの道を、汚してるのがわからないのかぁぁ!!」


限界突破。カレンへの下心と愛の情熱が、イチカラの魔力を極限まで高める。

手に持った剣が超高速で振動し、青白い放電を始める。それはもはや剣ではなく、巨大なバリカンと化していた。


「マダムへの想いを、その刃に重なり合わせろ……! いや、今はカレンさんだ! 掃除の邪魔をする不浄な毛根どもを、この世から一掃してやる!!」


イチカラが爆発的な速度で突撃する。

「愛のバリカン・スラッシュ!!」


超高速振動の刃が、ゴブリンのアフロを次々と捉える。

ジジジジジ! と小気味よい音と共に、自慢の毛髪が空を舞う。それはまるで、刈り取られた稲穂のようだった。


「ギャー!? 俺のボリュームがああぁぁ!!」

「涼しい! 涼しすぎるぞぉぉ!! 羞恥心がぁぁ!!」


わずか数秒で、大群のゴブリンたちは一人の例外もなく、青光りする見事な丸刈りへと変えられた。弱点である頭皮を丸出しにされた彼らは、羞恥心のあまり涙を流し、互いに頭を隠し合って敗走していった。


「ふぅ……。カレンさん、もう大丈夫ですよ」


イチカラはバリカン化した剣を捨て、カレンのもとへ駆け寄った。頬を赤らめ、誇らしげな笑顔のつもりで彼女を見つめる。


「ええ……本当にすごかったわ、イチカラさん。でも……」


カレンは恐怖に顔を歪め、後ずさりしていた。


「生き物の髪をあんなに無慈悲に刈り取るなんて……、ちょっと野蛮すぎて引いちゃうわ……」


「え……?」


そこへ、アフロゴブリンにボコボコにされて負傷した一人のイケメン兵士が駆け寄ってくる。


「カレン! 無事か!?」

「ああっ、あなた! 大丈夫!? もう、無茶しないでって言ったのに!」


カレンはイチカラを無視して兵士に抱きつき、献身的に介抱し始めた。


「あの、カレンさん……僕、頑張ったんですけど……」

「ごめんなさい、イチカラさん。私、この人と婚約してるの。……あと、もう二度と私の前に現れないでくれる? 怖いのよ、そのバリカン」


 ——パリン。

イチカラのガラスのハートが、粉々に砕け散った。


「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


絶叫するイチカラの横で、ルナが冷たく言い放つ。


「……アンタ、本当に報われないわね。まあ、あんな戦い方したら引かれるに決まってるじゃない」


ソノニ王国のピカピカに磨かれた石畳の上に、イチカラの涙とゴブリンの毛髪だけが虚しく散らばっていた。

無能な勇者イチカラの旅は、新たなトラウマを胸に、まだ始まったばかりであった。


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