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無能な勇者恋をする  作者: ぶーたん


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第2話 新聞配達員はツンデレにご用心

スライムに敗北し、村を追放され、激辛ドラゴンに初恋を砕かれた無能な勇者イチカラ。

彼が次なる舞台に選んだのは、活気あふれるソノニ王国であった。


「お待たせしました! ソノニ新聞の配達でーす!」


イチカラは颯爽と……ではなく、ボロ雑巾のような格好で、自転車をこいでいた。彼が新聞配達員として働くのには、明確な目的がある。


「マダム・セクシー! 今日の新聞です! ああ、今日もマダムの香りは、甘美なカクテルのように僕の脳を痺れさせる……!」


王城の受付嬢、マダム・セクシー。艶やかな黒髪のロングヘアをなびかせ、妖艶な紫の瞳でイチカラを見つめるその姿は、まさに大人の美女である。落ち着いた高級感漂うドレスのラインが、彼女のセクシーさをさらに強調していた。


「あら、ご苦労様。イチカラくんはいつも熱心ね」


ふわりとセクシーが笑うだけで、イチカラのHPは全回復する。


「マダムのためなら、僕は自転車で空だって飛んでみせます! ……あ、そろそろ次の配達へ行かないと」


未練たらたらで自転車を走らせたその時だった。


「どきなさいよ! 新聞野郎!!」


激しい怒声と共に、強烈な体当たりがイチカラを襲った。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


イチカラは新聞の束と共に宙を舞い、地面に叩きつけられた。

砂煙の中から現れたのは、燃えるような赤髪を高い位置でポニーテールにした少女——ソノニ王国の現役勇者、ルナだった。少しつり目気味のキリッとした眉が、彼女の勝気な性格を物語っている。


「ちょっと! 私の特製魔法ポーションが全部割れたじゃない! どうしてくれるのよ!?」


動きやすさを重視した軽量の鎧が、陽光を浴びてキラキラと輝く。


「それはこっちのセリフだよ! 僕はただ配達を……って、え? ルナちゃん……?」


文句を言いかけたイチカラは、ルナの顔を見てフッと冷めた顔をした。

怒りで真っ赤に染まった頬、炎のように燃える真っ赤な瞳。

……確かに可愛い。ルナちゃんは最高に可愛い。でも、やっぱり僕が求めるのは、あの大人の、妖艶な……!


「な、なによ! 私の顔になにか付いてるの?!」

「いや、別に。ただ、そんなに怒ってると美人が台無しだよ。……マダムに比べれば全然だけど」

「はあ!? アンタ喧嘩売ってるの?この変態ッ!」


最悪の出会いから、二人の大喧嘩が始まった。

——その瞬間、空が真っ黒なインクに覆われた。


「グハハハ! ソノニ王国のニュースは、俺様『ブラック・ニュース』が全て黒に染めてやる!」


街中の新聞を真っ黒なインクに変えてしまう魔物が出現したのだ!


「くっ、魔物!?」


ルナは瞬時に聖剣を抜き放ち、魔物へと跳んだ。


「ハッ! セイヤッ!」


ルナの剣技は正統派そのものだった。ポニーテールを激しく揺らしながら、音速を超える一閃が魔物を切り裂く。剣から放たれる蒼い衝撃波が、周囲の瓦礫を吹き飛ばした。まさに伝説の勇者の名に恥じない、華麗で凄まじい剣捌きだ。


「グルァ! ならばこれでどうだ!」


魔物が大量の黒インクを撒き散らす。ルナはそれを剣で弾くが、インクの勢いが強すぎて視界を奪われてしまった。


「くっ、目があぁぁ!!」

「ルナちゃん!!!」


イチカラの魂が叫んだ。

ルナちゃんがやられたら、そのインクが街中に広がってマダムに降りかかる! マダムの綺麗なドレスが汚れてしまう!


「ルナちゃん、剣を振れ! マダムへの想いを、その刃に重なり合わせろ!」


イチカラは散らばった新聞紙を拾い上げ、インクまみれで盲目的に剣を振り回すルナに向けて、ありったけの力で投げつけた。


——その瞬間。イチカラの限界突破が発動した。


ルナが振るった聖剣の軌跡に合わせて、宙を舞う新聞紙が絡み合い、聖剣を巨大な鋼鉄の巨大剣へと変貌させる!


「ルナちゃん、いまだッ!!」


ルナが本能的に振り下ろしたその一撃は、新聞紙で強化された超重量級 of 超重量級の鉄剣となり、魔物をインクごと一刀両断! 物理的に粉砕した!


「グルァァァァ……! 黒い……黒い……」


魔物が消え去り、インクが晴れる。


「……助けてくれたの?」


ルナは信じられないという顔で、インクまみれになりながらも凛として立つイチカラを見つめた。


「ルナちゃんがピンチだったからね。……ルナちゃん、剣技も凄かったけど、怒った顔も最高に可愛かったよ」


イチカラのストレートな言葉に、ルナの顔が限界まで真っ赤になる。


「な、な……あんたっ……! 私に……惚れたっていうの……?」


ルナが目を潤ませ、期待に満ちた視線をイチカラに向ける。

——その時だった。


「あら、ご苦労様。素敵なショーを見せてもらったわ」


魔物のインクを浴びていない、完璧に美しい姿のマダム・セクシーが霧のような香水を漂わせて歩いてきた。


「マダム・セクシー!!!」


イチカラの心臓が「ドックン!」と大きく揺れる。ルナのことなど、霧のように消え去った。


「マダム! 僕の勇姿、見てくれましたか! ああ、やっぱりマダムは僕の女神だ! 今すぐ結婚……」

「な……な……なによアンタ!!! 今さっき私に告白したばっかりなのに!!!」


ルナの背中から炎が見えた。


「はぁ? ルナちゃん? まだそこにいたの? 今忙しいから後にして!」

「殺す!!!」


ルナの鉄拳が、空中に舞うインクと共にイチカラの顔面を捉えた。


「ぎにゃぁぁぁぁぁ!!!」


——こうして、無能な勇者イチカラの、二股未遂という波乱に満ちた(そして切ない)旅は、まだ始まったばかりであった。


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