銀行
そこそこな学歴を手に入れた俺はそこそこな幸せを手に入れて銀行員になった。彼女もいる。年収は手取りで600万円程だ。世間から見たら成功した人生。そんなのを噛み締めながらその日も勤めている銀行へ向かった。
その日の午前中はいつもどおりほのぼのとしていた。特に問題もなくお昼休憩になった。どうも、これといった昼飯が決まらない。俺は偏食なのだろうか。だとしたら治さないとな。彼女にも申し訳ない。そんなことを考えていると後輩が声をかけてきた。
「先輩、今日の調子どうっすか?」
「どうって、まぁけっこう落ち着いてて俺は好きだよ。このまま毎日こうだったらいいのになぁ。」
「そうっすか。僕もけっこう好きっすね、平和って感じがして。でも、先輩みたいに彼女のなんかいないから先輩ほどのでかい幸せは感じられないっすよ。」
なんだこいつはとは思ったが彼なりの嫉妬表現だろう。
「僕には出会いなんてないからなぁ。先輩、なんかご享受ください!」
不真面目そうに頭を下げる。
「そんなんねぇーよ。自分で考えろ。ばーか。」
かくいう俺もここ一ヶ月彼女と電話すら予定が合わなくてできていないくらいだし人にどうこう言える立場でもないしな。
そんな他愛もない話を後輩としていたらお昼休憩になって持ち場に戻った。こういう幸せがいつまでも続くといいなぁ。
そんな寝ぼけたことを考えていたら悲鳴が聞こえた。銀行の正面入口だ。そこを見やるとそこには目出し帽を被ったいかにも泥棒という音が四人立っていた。そのうち二人は拳銃らしきものを持っていた。
その男は俺に気づくと
「金を出せ」
短い言葉でそう告げた。こんな白昼堂々とあるものなのかと呆気に取られていたがどうもそれが現実らしい。俺は必死に言葉を出した。
「お客様は外へ!!他の店員は裏へ!!ここは俺が対処します!!」
咄嗟に出た言葉はまるで勇者が発するようなとてもイタイ言葉だったかもしれない。しかし、俺は腐っても銀行員。今までいろんなことを解決してきたはずだ。能力で言えばこの支店ではトップクラスの会話術を持っていると自負している。
「お客様。いくらの額をご所望で?引き出しですか、それとも、、、」
「銀行強盗だ。あるだけ出せ。」
男は脅すように俺に銃口を向けてきた。今ある現金は金庫に1億5000万円ほど。そんな額で満足するか?言ってみるだけ言うか。
「申し訳ありませんあまり大きい声にしては言えないので耳を近づけてくれませんか?」
なんで詐欺とかで簡単に金が稼げるご時世で白昼堂々と銀行強盗なんてするんだよ。内心きれてきた。あーむかつく。だめだ。怒ったら撃たれるかもしれない。感情的になるのはやめよう。裏を一瞥するとそこには小声で警察やり取りしている後輩がいる。銀行強盗の男が耳を近づけた瞬間俺はそいつの目出し帽を取った。
「1億5000万円しかないのですが。」
「てめっ。なにしやがる。顔見たな。」
瞬時に冷や汗が出る。
まずい。ですぎたな。やりすぎた。これは死ぬな撃たれるな。待って、まだ心の整理できてない。なんかいわないと。そんじゃ俺を愛してるかどうかわからないマイ・ハニー、愛してないぞグッバイ。その瞬間銃声が店内を響かせる一発目は耳を貫通し、二発目は右目の下部、三発目は額のど真ん中にズドーンと。即死だった。死ぬ直前、後輩が声を出せずに泣いていた。あぁ、もうちょっと感じたかったなこの幸せ。
半ば強引な感じで死んだ主人公。




