後編
桃太郎のお供たちの奮闘により、鬼ヶ島は大混乱に陥っていた。
不死鳥は悠然と空を舞い口から輝く熱線を放ち、翼の生えた犬は目にも止まらぬ速さと鋭い爪牙で鬼たちを次々と屠っていく。
その様には、さすがの鬼といえども恐怖にかられ逃げ出す者も出る有様であった。
「ええい、怯むな!貴様らそれでも鬼か!」
その姿を見て鬼集団のリーダーが仲間を叱咤するが…。
不意に、ドン!という重い音が響き、彼の頭を銃弾が貫いた。
まわりの鬼たちが驚き辺りを見渡すが、そのうち1人が悲鳴を上げて空を指差す。
…なんと、迷彩色に染まった一機の軍用ヘリが轟音を鳴らして空を舞っていたのである。
その軍用ヘリの中で、おばあさんがスナイパーライフルを構えて笑う。
「ほっほっほ。まだまだ、ウデは衰えていませんよ」
そう言うと、おばあさんはそのまま地上にいる鬼の集団のリーダー格の頭に次々と鉛玉を撃ち込んでいく。
「さすがじゃのう、婆さん。これほど揺れるヘリの中で、正確に頭を狙うとは」
ヘリを運転していたおじいさんがそれを見て笑いながら、コクピットの赤いボタンを押す。するとヘリから爆弾が投下され、狼狽する鬼たちを爆発四散させた。
「リーダーは個別撃破、残った有象無象はまとめて爆破。やっぱりこの戦略が一番やりやすいのう。さあ、次の獲物を探そうか」
眼下の敵を全滅させると、おじいさんは次の標的を探しに軍用ヘリを旋回させた。
荒地となった地上、鬼どもの骸で死屍累々となった辺りを見回して、犬が呟く。
「ふむ、ここはもう大丈夫だろう。ならば私は愚猿の間抜け姿でも拝みに行くか」
そう言うと犬は鬼ヶ島内部へ向けて駆け出した。
一方、その猿はと言うと、鬼ヶ島の門を守護する風鬼・雷鬼の『二鬼風雷拳』の前に苦戦を強いられていた。
素早い風鬼のスピードに撹乱され気が逸らされたところを力強い雷鬼の攻撃を受ける、そしてますます頭に血が上りスキを突かれる…という悪循環に陥り、すでに体は満身創痍である。
(クソが…さすがに2対1では分が悪かったか…)
トドメとばかりに迫り来る風鬼・雷鬼を前に、さしもの猿も敗北を覚悟するが…その時、一陣の影が鋭く飛び出し、風鬼の足首を噛みちぎった。
バランスを崩した風鬼は倒れ込み、それに気を取られた雷鬼が起死回生の猿の反撃を受けて吹き飛ばされる。
「うっ!?な、何奴!我が風の如き動きをとらえるとは!?」
「ぬう、不埒者め!されどなかなかの腕前、名を名乗れい!」
一陣の影-すなわち犬は、風鬼・雷鬼の問いには答えず、猿を見て軽やかに笑いかける。
「愚猿、大言を吐いておきながらそのザマか。まったく、その程度では蟹一匹討ち取ることもできんぞ」
挑発するような犬の発言に、猿も唾を吐き不敵に笑う。
「へっ、ぬかせ犬コロが。お楽しみはこれからってやつだ。見せてやるよ…すぐにな!」
同時刻、桃太郎は立ち塞がる鬼たちをアサルトライフルM16で薙ぎ倒し、ついに鬼ヶ島最深部へ辿り着きます。途中で弾切れを起こすこともありましたが、桃太郎が懐から取り出した桃が弾薬に変わり、また敵を薙ぎ倒していきました。
さて最深部まで辿り着いた桃太郎が大きな扉を蹴り飛ばし中に入ると、そこは大きな講堂になっていました。中には数十匹の鬼がおり、遠く離れた壇上には豪勢に着飾った鬼-おそらく鬼の親分が立っています。
大きく離れた向かい側…その親分が、呆然として呟きます。
「な、なんだよ…なんなんだよ、お前…なんでここまで辿り着けるんだよ…」
親分が付けたピンマイクからその間抜けな声がスピーカーに漏れ出しますが、彼はすぐにハッと我に帰ります。そして、割れんばかりの彼の大音声がスピーカーから講堂中に響き渡りました。
「こ、殺せ!殺せっ、殺せえええ!!!」
その声が合図となり、鬼たちは一斉に桃太郎に襲いかかりますが…気勢を上げる桃太郎の前に鬼は次々と倒れていきます。いかに百戦錬磨な鬼たちといえど、桃太郎の勇気とアサルトライフルの前では敵ではありません。
親分は部下たちが斃れ逝く様を震えてただ呆然と見つめていました。こんなことあるはずがない、あっていいはずがないのだ…と涙を流しながら。
「ち、ちくしょう!このままじゃ済まさねえぞ!俺の切り札を見せてやる!絶対に殺してやるからな!」
親分は泣きながらそう叫ぶと、ピンマイクを投げ捨てて裏に逃げていきました。
その場のすべての鬼を屠り去ると、桃太郎は大きく息をついて、親分が先ほどまでいた壇上を睨みました。
あいつだけは逃がさないぞ、と桃太郎が意気込みますが…不意に鬼ヶ島が大きく揺れます。
「なんだろう、地震かな?」
桃太郎はそう呟きますが…すぐにそれが地震でないことに気づきます。
次の瞬間、巨大な手がドカン!という爆発音と共に床を突き破りました。それは天井まで伸び、講堂を破壊します。
「まずい、ここは崩れる!」
施設全体が崩れることを察知した桃太郎が急ぎ講堂から出て地上へ向かいます。これが最後の決戦だ、と予感しながら。
地上で戦っていたおじいさん、おばあさんや不死鳥、そして地震を察知して地上に出た犬と猿、さらには一時休戦した風鬼・雷鬼が、鬼ヶ島に聳え立つように現れた巨大な鬼を見て驚愕します。
それは身長12メートル、体重2トン、足は3本、腕は4本、さらには3つの頭を持ち、6つの目で周囲をギョロギョロと見回しています。
「ぬう…あれはまさか世に聞く『天鬼』!本当に実在していたとは…」
「知っているのか雷鬼…?」
雷鬼曰く、『天鬼』とは元は神であった者が天に反逆を企て地獄に落とされ鬼となった存在とのこと。しかしそれはおとぎ話の中だけの存在だったはず…。
その天鬼の肩に乗り、鬼の親分が狂ったように笑います。
「ハハハハ!そうだよ!天鬼とは神話の中だけの存在だ!だがな、この俺が実際に作り出してやったんだ!この俺の発明品『鬼ジェネレーター』によってな!」
天鬼は雄叫びを上げ、鬼ヶ島を破壊しつくします。犬、猿、不死鳥やおじいさんおばあさん、そして地上に戻った桃太郎も攻撃を加えますが、まったく通用しません。
「フハハハ!無駄だ無駄だ!こいつにはなんの攻撃も通用しない!それ、天鬼よ!まずは俺様の野望を邪魔した桃の野郎から血祭りにあげてやれ!」
天鬼はその言葉にうなずくと、大きく両腕を振りかぶり…桃太郎めがけて組んだ手をハンマーのように鋭く振り落としました。
爆発音が周囲に響き、大地は吹き飛び大きく抉れ、鬼が島全体が大きく揺れます。
「主人!」「桃!」「兄貴!」
三匹のお供が悲壮な声を上げます。
「フハハハ、ハハハハハ!馬鹿め!人が鬼に勝てると思ったか!鬼こそ人の天敵なのだ!未来永劫、人は鬼の供物にすぎんのだ!ハーッハッハッハ!」
親分が天鬼の肩の上で勝ち誇ったように笑いますが…。
「な…なんの!!こんなところで負けてたまるか!」
天鬼の拳の下から、桃太郎の掛け声が聞こえます。
そしてそのまま天鬼の拳を押し返し、その腕を跳ねのけました。しかも、まったくの無傷で。
「おおっ!見ろ、ばあさん!桃太郎は無事じゃぞ!」
軍用ヘリに乗っているおじいさんおばあさんは、桃太郎の無事を知って大喜び。その反面、親分の顔は赤鬼のくせに恐怖で真っ青に染まっています。
「そ、そんなバカな…お前はいったいなんなんだ…」
その声が聞こえたのか、桃太郎は天鬼の肩に乗っている親分を睨むと、腰から名刀『鬼殺し』をスチャリと抜きました。見ると、刀は蒼い炎を纏っています。
「鬼が人の天敵ならば、鬼の天敵が僕なのだ!正義の鉄槌、受けてみろ!」
桃太郎はそう気勢を上げると刀を上段に構え、高く、さらに高く天鬼の眼前まで跳躍しました。
剣が纏った蒼い炎はより勢いを増して伸び、刀身はまるで月のように淡光を放っています。
「くらえええええ!!!」
桃太郎は渾身の力を込めて刀を振り下ろします。
レーザーのように長く伸び、青白く輝いた『鬼殺し』は、そのまま天鬼を頭から一刀両断しました。
真っ二つになった天鬼、その肩に乗っていた親分が驚愕します。
「そんな…俺様の最高傑作がこんなガキに…あ、あー!落ちる!落ちる~!…おぶぇ!」
絶叫を上げた親分は、斃れ逝く天鬼と一緒に鬼ヶ島の最深部まで落ち、その下敷きになってしまいました。
「やりましたな主人!」
「まったく、さすが俺が見込んだ男だぜ!」
天鬼を屠り去った桃太郎に駆け寄り、犬と猿が祝福します。そして、不死鳥が鬼にさらわれていた人々や家畜を鬼ヶ島の牢から解放しました。
「やったぞ!僕たちの完全勝利だ!」
完全勝利を確信した桃太郎は『鬼殺し』を天高く掲げ、勝ち鬨を上げました。
場面は変わり、鬼ヶ島の最深部。
天鬼の下敷きになった親分が息も絶え絶えに這いつくばり、怪しげな光を放つ巨大な機械ににじり寄っていく。
「ま、まだだ…こ、この『鬼ジェネレーター』さえあれば…鬼ヶ島は何度でも復活するんだ…」
天鬼の下敷きになりながらも、絶対に復讐してやる…という執念で親分は生き延びていた。
『鬼ジェネレーター』…それは、人の欲望や怨念を利用し、無から新たな鬼を生成する摩訶不思議な機械。これによって天鬼や他の鬼は生み出されていたのだ。
そして今、攫ってきた人々の怨念は十分に溜まっている。ならば新たな鬼を生み出し、人知れず人間をさらい鬼を生成し続け…桃太郎やあのバケモノお供がこの世を去った後に、また鬼が天下を牛耳るのだ。
自身はいずれすぐに死ぬ身だが、その未来を想像し、復讐の笑みを浮かべながら親分は鬼ジェネレーターに迫っていた。
…その時、どこからともかくキジトラ猫が現れ…鬼ジェネレーターについていた『自爆』ボタンをポチッと押した。
「ボタンを見ると押したくなるのです。猫ですから」
それだけ言うと、キジトラ猫はどこかへ走り去っていってしまった。
「自爆ヲ開始シマス。アト5分デス」
鬼ジェネレーターの無機質な声が鬼ヶ島最深部に響く。今の親分にはもう自爆を解除する体の力は残っていない。
カウントダウンを始める鬼ジェネレーターを前に、なぜ自爆ボタンなどつけてしまったのか、と深く後悔しながら…。
「あっあ~!あ~!あ~!!…あろ!!」
親分はそのまま爆発に巻き込まれた。
鬼ヶ島に備え付けてあった船に人々と金銀財宝を乗せて、桃太郎は帰路へ漕ぎ出しています。
そんななか、桃太郎とそのお供は爆破炎上する鬼ヶ島が目に入りました。
「風鬼と雷鬼が後始末を付けたか…敵ながら天晴なものだ」
崩れゆく鬼ヶ島を見て、犬が感慨深そうに呟きます。
鬼側の敗北を悟った風鬼と雷鬼は桃太郎たちとともに脱出せず、鬼ヶ島に残り始末をつけると言ったのです。
もっともこの爆破は鬼ジェネレーターの自爆のせいなので、風鬼と雷鬼もあずかり知らぬものだったのですが…。
「ふん、決着はつけたかったがな。まあ、先に死なれちゃしょうがねえ」
猿が笑いながら腕を組みそう呟きます。
その横で船を操る桃太郎に、キジトラ猫が駆け寄り肩に飛び乗りました。
「あれ?君も来てたんだ」
「気紛れに来てみました。猫ですから」
このキジトラ猫が最後に鬼ヶ島を壊滅させた偉業を知ってか知らずか…なんとも猫らしい習性だな、と桃太郎は笑いました。
空にはおじいさんが駆る軍用ヘリが、轟音を立てて舞っています。
船では、救援された人々が歓喜の声を上げています。
船で大海原を駆る桃太郎は、自分の物語がいったん終わったことを悟りながらも、これからの大冒険に思いを馳せ、生まれた村へ帰るのでした。
めでたしめでたし。




