前編
「おじいさん、おばあさん。今まで育ててくれてありがとうございます。僕は鬼ヶ島へ鬼を退治しに行ってまいります!」
村はずれにある古家…そこで育てられた少年-桃太郎-が18歳となったその日、彼は育ての親であるおじいさん、おばあさんに唐突にそう告げました。
「こ、これ桃太郎や。そんな危ないことをしてはいかん。いくらお前が強くても、鬼に勝てるわけがないじゃろう」
大切に育ててきた息子…その身の危険を案じたおじいさんとおばあさんは何度も説得し必死に桃太郎を止めますが、彼の決意は変わりません。その眼には強い光が宿り、まるで『自分は鬼退治のためにこの世に生を受けたのだ』という人生の目的を主張しているようです。
一週間もの間、寝ずに説得し続けたおじいさんとおばあさんもついに体力の限界が来たのか桃太郎の熱意に負け、鬼退治に行くことを許さざるを得なかったのでした。
そして、ついに桃太郎の旅立ちの日。
意気揚々と鬼退治に赴かんとする桃太郎に、おばあさんがきび団子を持たせます。
「長い旅となるじゃろう。…桃太郎や。これを持っていきなさい」
「ありがとう、おばあさん」
そしておじいさんも名残惜しそうに桃太郎を見つめると、かつて鬼の頸を1000ほど切り落としながら一切の刃こぼれがない名刀『鬼殺し』とアサルトライフルM16を桃太郎に持たせました。
「これを持っていくがいい。きっとお前の役に立つじゃろう」
「すごいもの出てきましたね」
きび団子と鬼殺しとM16を持って旅立つ桃太郎…意気揚々と歩くその後姿を、おじいさんとおばあさんはさみしそうに見送りました。
「ああ、心配じゃのう。あいつは生粋の箱入り息子…いや桃入り息子じゃ、変な奴に騙されなければよいが」
「心配ですねえ…こっそりついていきましょうか」
さて、鬼ヶ島へ向かう途中で桃太郎が農道を歩いていると、一頭の柴犬が桃太郎に話しかけてきました。
「わんわん。桃太郎さん、桃太郎さん。お腰に付けたきび団子、一つわたしにくださいな」
人の言葉が喋れるなんて賢い犬だなあ、と桃太郎はきび団子を一つ柴犬に食べさせてあげました。
瞬間、犬の体の底から凄まじい衝動と溢れんばかりのエナジーが湧き立ち.全身を貫いた。
悪逆非道なる鬼への深い怒りがその身を燃やし、鬼に虐げられし無辜なる民の涙がその胸を打ち、守るべき世界への夢が彼に翼を生やす。
「なんだこれは…!迸る衝動!!溢るる熱情!!そして呼び醒まされる未来への希望!!…私の中にこれほどの秘力が眠っていたとは!!」
犬は天を仰ぎながら涙を流し、大きく遠吠えをすると…桃太郎に首を垂れ跪いた。
「我が主人よ…感謝いたします。貴殿は燻っていた我が魂を呼び覚ましてくれた。これよりは貴殿の剣となり盾となり、この身をただ貴殿のために捧げましょう」
ついに己が生涯の主君に出会えた喜びに犬はまた遠吠えをし、その翼をはためかせた。
「あっ?翼が生えたって比喩じゃなかったんだ」
その様を見て桃太郎は呑気に呟きました。
さてさて、桃太郎と翼の生えた犬が険しい山道を越えていると、猿が吠えながら行く手を塞ぎます。
「キキッ、この先は通さないよ。どうしても通りたいなら、オイラになにか貢物をすることだね」
殺しますか?と言う犬を制止して桃太郎は腰につけたきび団子を猿に投げつけます。犬に翼が生えたのなら、猿はどうなるんだろうと思いながら。
きび団子を食した猿の心に炎が宿る。
…その奥底に眠っていた闘争本能を加速させ、全てを焼き尽くすほどの炎が。
闘争を!闘争を!血湧き肉躍る闘いを!
強敵を!強敵を!生命を実感する強敵を!
勝利を!勝利を!栄誉と称賛、そして次の闘いへと導く勝利を!
「ゴオオオオオウウゥゥゥ!!!ゴッガアアアアア!!!!」
大山を鳴動させるほどの雄叫びと共に、猿がドラミングする。その肉体は5倍ほどにパンプアップし、目は赤く染まり爛々と光り輝いている。2本だった腕は6本に増え、さながら神話に登場する阿修羅のごとき畏怖すべき様相となっていた。
「桃太郎!鬼を倒しに行くんだってな!俺もついていくぜ!この俺が鬼どもを皆殺しにしてやる!ハハハハ、悪辣無道な鬼どもをバラバラに引き裂いてやるぜ!!」
「うん、いいよ」
吼え滾る猿に、桃太郎はあっさり答えました。
さてさてさて、桃太郎と翼の生えた犬、それに6本腕の猿というかゴリラは進みます。
「下賤にて下品なる猿め。主人にその薄汚い手をもし伸ばそうものならば、その首すぐに掻っ切ってやるぞ。ゆめゆめ忘れるな」
「なんだぁ〜犬コロ!鬼の前にテメエがハラワタ先にぶちまけてえのか?」
あまり仲が良くなさそうな犬と猿を仲裁しながら、犬猿の仲というのは本当なんだなあと桃太郎が笑いました。
そのうち、一行は広い川にあたります。鬼ヶ島へ行くには川を渡るしかなく、このままでは進むことは出来ません。まあ羽が生えている犬は飛べそうですが。
桃太郎が困っていたところ、空を舞うキジが楽しそうに鳴きながら桃太郎たちに話しかけてきました。
「ケーン、ケーン、桃太郎さん、桃太郎さん、川を渡るなら…ってなんなのあんたのその犬と猿は!化け物ばっかりじゃねえかどうなってんのよ!?」
殺しますか?殺そうぜ!と沸き立つ犬と猿を制止し、桃太郎はキジの口目掛けきび団子を投げつけます。ギャーギャー喚いていたキジは運悪くそのきび団子を口でキャッチして食べてしまいました。
キジの体が燃える。比喩ではなく、真なる意味で。
色鮮やかな羽は炎に燃え尽き、嘴は溶け、全身は焼き焦がれる。しかし、苦痛などは一切ない。いやむしろその身を焦がすような熱情を己が心から勢いよく全身に漲らせ、キジは新たな姿に生まれ変わった。
その身には永劫の炎を宿し、目は真実を見通す光を放ち、眩しくも暖かに人を照らし続ける存在…すなわち不死鳥としてこの世界に再臨したのである。
「ふふっ、この姿になったのも久しぶりだな…桃の兄貴、あとは私に任せてくれ」
そういうと不死鳥はその翼をはためかせ…目の前を遮っていた川を一瞬のうちに干上がらせた。
「さあ、今のうちに渡りましょう」
そういう不死鳥の声に桃太郎、犬、猿は意気揚々と川を渡った。
「川が干上がって、村の人たち困らないかな?」
渡り終わった後に心配そうにいう桃太郎に、不死鳥は笑いながら言う。
「心配いらない、上流からすぐに水が来る。誰かを苦しめることはないよ」
その言葉に桃太郎は安心するが…犬が気を引き締めるように言う。
「主人。その素晴らしきお心意気、私も感銘いたします。願わくば鬼を倒すまでそのお志を持ち続けていただきたい。世界を救うことこそが主人の使命、我らは御身の大望を遂げるためこの身を捨てても成就させて見せましょう」
継いで猿と不死鳥も決意を新たにした。
「おい桃、早く鬼ヶ島へ行こうぜ!鬼の悲鳴や泣き声、命乞いを聴かなきゃもう俺は眠れそうにねえ!」
「キジがなんの役に立つのかって昔からよく言われてたけどね…今こそわからせてやれそうだよ」
桃太郎は彼らの言葉を聞くと、笑いながら言いました。
「そうだね。でも、全員で生きて帰ろう」
と。
さてさてさてさて、それを隅から気配を殺しおじいさんとおばあさんは見ておりました。
「桃太郎、立派になったのう…」
とおじいさんがショットガン イサカM37を手にむせび泣いています。
「やですよ、おじいさん。桃太郎の旅はまだ始まったばかりなんですから」
とスナイパーライフルPGMへカートⅡを手に、それでも涙をホロリと流しました。
さあ、3匹の配下を率いて桃太郎は鬼ヶ島へ向かいます。旅の期待と鬼への恐怖、そして未来への希望を胸に抱きながら。




