空回りな転生者②
王立魔法学院は寮生かつ、皆一人部屋を与えられる。
エルナは重い瞼を擦りながら、日当たりのいい部屋で起床した。
かえって寝にくいと思っていた高級な寝具にも慣れ、身支度を済ませてから、寮の食堂へと向かう。
校舎本体は何処かの宮殿を改装したような出たちだったが、寮は木造で、まだ庶民的な印象を感じる作りになっている。
普段から気を張っているエルナからすれば、唯一安心感のある場所だが、安心してばかりも居られない、エルナはカウンターから朝食を受け取る。今日はパンに野菜のスープ、オムレツと果物が三種類ほどカットされた物だった。
エルナの住んでいた村は比較的裕福で、食べ物に困った事は無かったが、品目はやはり学校の食事の方が多く、エルナにとっては一日の小さな楽しみの一つでもある。
いつもは窓近くの誰も居ない端の席に座るエルナだが、今日は意を決して中央の長机の席に座った。人が多く座るこの席は賑やかで、友人同士の他愛の無い会話が次々と聞こえてくる。
家の話、趣味の話、学業の話。どれもよくある話のようでいて、貴族の娘の世間話はエルナにはどこか現実味のない話にすら聞こえていた。
エルナは聞き耳を立てながら食事を続けていると、ある三人組の令嬢の話が聞こえてきた。
「私、この果物好きですが、いまだに何の果物がわからないんです」
「そういえば、朝食によく出てくるけど、何なのかいまだに知らないわ」
「料理人の方に聞いたりは?」
「それが、誰も分からないと答えられて、何でも学園長が直々に仕入れているとか」
「たしかウチには商人の娘がいましたよね、彼女なら何か知らないかしら」
「あっ、あ、あの!」
エルナが会話に割って入る。
どこか見窄らしさを感じさせる金髪の平民に、急に話しかけられ三人は目を丸くさせる。
「良ければコレ、お好きなら、どうぞ」
辿々しい口ぶりで果物の入った小さな皿を差し出す。
誰かに与えて欲しければ与えるべきだと、エルナは考えた。自分に利益があると思えば関わってくれるに違いないという悲しい打算があった、が。
「気持ちだけ受け取れせていただきます、そちらは貴女が召し上がって」
世の中はゲームのように、贈り物を贈れば好感度が上がるシステムは無く、関係性とシチュエーションは重要である。
そもそも、こういうのはそれこそ友達にされたら嬉しい事であり、これで友達になれるかと言われると微妙だろう。
「……はい……ありがとうございます」と、何に対するものか分からない感謝をして、エルナは席に着く。
和気藹々と会話を楽しんでいた令嬢達も、微妙な空気のまま食事を再開し、気まずい空気だけが時間に置いてかれ停滞しているようだった。
彼女はヒロイン『エルナ』では無い。
(……次はもっと上手くやろう)
そしてもう中央の席には座らない事も、エルナは誓った。