表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

そもそも、本当にあの時間に

違和感が、ふと頭をかすめた。


――そもそも、本当にあの時間に、金庫の金は盗まれたのか?


金庫近くの廊下の防犯カメラには、影すら映っていなかった。

だったら、本当に“犯行”は起きたのだろうか?

それとも、誰かが、最初から違う時間に何かを仕掛けていたのではないか?

 

けれど、事件の直前には、役員全員で金庫の金額を確認していた。

共同経営者の高橋も、僕も、役員たちも――確かに確認した。

あのときは、間違いなく、金は揃っていた。

そして、そのわずか数時間後には、金が消えていた。

 


 

だが、考えてみれば――

その役員会議自体、普段ならこの時期に開かれる予定がなかった。


期末でもなければ、特別なイベントがあるわけでもない。なのに、金庫の現金確認を含めた役員会議が開かれた。


 

僕は、慌ててスケジュール記録を見返した。


役員会議の開催を提案したのは――佐伯(アイツ)、そしてもう一人、役員の鈴木(すずき)。 

 

なぜ、この時期に?

なぜ、金庫の現金確認を急に?


まるで「犯行が起きた」という記録を作るために、わざわざ会議そのものが仕組まれたのではないか。


そんな考えが、頭を離れなかった。


 

夜、シズカに問いかけた。


「……シズカ。事件のために、記録が作られたって、あり得る?」


シズカは一瞬、応答を保留した。

やがて、静かな声で答える。


シズカ:「人間は、記録という言葉に弱いものです。記録が存在すれば、真実であるかのように思い込みます」


「つまり……記録そのものが嘘なら?」


シズカ:「人は、嘘にすら救われようとします。たとえ、真実を裏切ることになっても」


僕は、深く息を吐いた。

孤独な違和感が、胸に重く沈んだ。



あの役員会議。

僕は、細かい違和感を思い出そうと、何度も頭の中で再生した。


誰かが、不自然な動きをしていなかったか?

誰かが、妙な発言をしなかったか?



そして――思い出した。


会議中。アイツがある報告資料を読み上げる途中で、ふと眉をひそめて言ったのだ。「……あれ? この現金残高、少しズレてませんか?」

役員たちが資料を確認し、一度ちゃんと確認しておいたほうが良いという流れになり、金庫を確認した。犯人ならば犯行時刻を曖昧したいのではないか?

会議の最後。鈴木が、妙に急いで退出した。他の役員たちが雑談をしている中、鈴木だけが、ひとり、そそくさと姿を消していた。

理由を尋ねた時、彼は「急な用事が入った」とだけ答えた。



シズカに、ぼそりと漏らした。


「……もしかしたら、アイツが裏切ったんじゃなくて、誰かに裏切らされたのかもしれない」


シズカは、すぐに答えなかった。


代わりに、こんな言葉を残した。


シズカ:「裏切りとは、突発的に起きるものではありません。多くの場合、裏切りは“静かに準備された狂気”の結果です」



犯行時刻は「会議後すぐの時間帯」とされていた。

なぜか? 会議で金庫を開けた後、すぐに金がなくなったからだ。


でも、それは「金庫が空だったことに気づいたタイミング」でしかない。


金がいつ盗まれたのか? それ自体が、実は誰にも分かっていないのでは――?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ