誰もが黙って、誰もが誰かを守ろうとしていた
それは事件の直前、高橋、鈴木、佐伯の間で交わされた、断片的なやり取りだ。
鈴木 → 高橋:
「宮野さん、この後どうするんだ?」
高橋→鈴木:
「まぁ辞めるだろうな。もしばれたら自分1人でやった事にしてくれって」
「大丈夫。俺らの証言もアリバイになる」
高橋 → 佐伯:
「宮野さんがね。私の責任だからやらせて下さいって、なんか最後まで巻き込んでしまいましたね」
「自分のせいにしろって、正気ですか?」
「何かあれば、防犯カメラに影が映らないのは有り得ないって言います。皆で佐伯さんを守りますから」
佐伯 → 高橋:
「海外にツテがあるから心配するな」
……そういうことだったのか。
僕は、モニターの前でしばらく動けずにいた。
つまり、事件の真相は――
実績を良く見せようとするために記された“演出の数字”。
演出という暗黙のルールに気がつけなかった責任を感じた宮野さんが、金庫室から経理室の金庫へと現金を移す“犯人”を買って出た。
それを知った佐伯は、彼女を守るため、自ら“横領犯”の役を演じた。
彼らは、罪を擦りつけ合うことなく、
互いに背負い、覆い隠し合ったのだ。
会社の経営には大きな打撃は無かった。
佐伯の横領の話題も減っていた。
僕は、この事件を問い詰める事を止めた。
これで良いんだ。“見たい真実”を知る事が出来たのだから。
シズカ:「嘘は、真実を隠すものです。でも時に、嘘は――言えない真実を、形を変えて語るものですね」
僕は、うなずいた。
真実は、いつも不完全だ。
完全な正しさも、完全な間違いもない。
あの時――誰もが黙って、誰もが誰かを守ろうとしていた。
正義じゃなかった。
優しさとも言い切れない。
それでも、その沈黙の中に、確かに人のぬくもりはあった。
誰かが傷つくのを見たくなかっただけ。
その願いが、不器用にすれ違いながら、形になっていた。
僕は今も、ときどき思い出す。
あのメールの文面を。
彼女の目の下の隈を。
そして――問い詰めなかった、自分の沈黙を。
正しかったかなんて、分からない。
けれど、誰かを守りたかったという想いだけは嘘ではない。




