第67話 帝国
現皇帝は幾つかの小国を飲み込み併呑し更なる野望を持って次なる目標を定めた
召喚勇者を要するハインデル王国である…
ハインデルとは今まで幾度かの小競り合いを続けて来た仲である
「皆に集まって貰ったのは他でもない」
「どうせ陛下の事だ俺達じゃ想像も出来ねぇようなとんでもねぇ事を考えてるんだろ?」
「これ!失礼であろうが…」
「良い!皆、思うところがある筈だろうが今回も私の我儘に付き合わせるのに違いはない」
「だろうな」
「毎回の事とはいえ…今回はどうされたのでしょう?」
「…」
「シルファルド陛下?どうされました?」
「フム…今回も…と言いたいが…今回だけは少しイレギュラーな問題が…と言うか…事態であるか…」
「もったいぶらねぇでくれ陛下!俺達は何をすれば良い?」
「フム…」
「どうやらイツもとは様子が違う様ですね陛下」
「例の件ですかな?」
「そうだな…爺はどう思うよ?」
「今回の召喚勇者…四人とされとりますが…
異世界人の波動と申しましょうか…異常な魔力波動が検知されておりますれば
どうやら五人目が居るようですな…
はてさて、ハインデルは何を隠しておるのやらフォッフォッフォッ♪実に興味深い」
「やはり…か」
「いってぇどう言う事なんですかぃ?俺にはサッパリ分からん、説明して欲しいですゼ」
「これ!アンディ!常日頃から言葉使いに気を付けよと申し付けているであろうに!」
アンディは帝国四士の一人で重騎士である
戦闘スタイルが少し変わっている両盾持ちの重騎士である
盾を防具にも攻撃にも使う、楕円形で両端が尖っていて外側は湾曲した盾使用するのだが…
受け止めると言うよりその湾曲した形状を活かして逸らすのを目的とした盾になっている
上部と下部は尖っていて下側をアンカーに地面に打ち込める様になっている
上部の突起は横薙ぎでも突きでも敵を屠れる防御盾ではなく攻撃盾である、それを使って戦う戦闘スタイルは帝国で確立され広く異世界に知れ渡っている
爺と呼ばれるウォーレス・ダービンは帝国四士の大魔導士
紅一点女性騎士のローズマリ
智謀に優れた策士ではあるが、いかんせん見た目が厳つい、両手持ちの戦斧を片手でぶん回す巨漢の女性だ…
体躯だけ見ればガハハと豪快に笑う豪胆な性格に見えるが失礼だが見た目と裏腹に話し方から仕草まで繊細な女性のそれであるからして見た目とのギャップが激しい
ぱっと見、男勝りな性格だと勘違いされがちである
四士、四人目はゼネビクト・ディース・リクイッド
普段は短剣を使う双剣使いだ
帝国のスピードスターソードマンの異名を持つ、本人は「恥ずかしいし長いからその名前で呼ぶな」と自身の異名を嫌っている
「つまり…今回…ハインデルを攻めるにあたりその五人目とやらの情報収集をしなくてはならん訳だ…が…」
「訳だが?何が陛下を躊躇させてるんだ?俺にはサッパリ分からんぜ、ドーンと当たって駄目なら引きゃいいんじゃねぇの?」
「フフフ♪相変わらずアンディは単純だな…」
「何だよ!陛下ぁ!事はそんなに単純じゃねぇみてぇな言い方じゃねぇか!俺にも分かる様に説明してくれよ!」
「これ!アンディ陛下に対してその口調は如何なものかと今言ったばかりであろうに!控えよ!」
「未確認事項が多すぎるんだ、観測された魔力波動は、人が持つそれとは比べ物にならん!
最早神レベルの魔力総量が観測されている」
「はぁ!?ハインデルが勇者じゃなくて神を召喚したって事ですかぃ?」
「はぁ〜アンディよ…全く持って話しを聞かぬ奴よ…」
「いや、それは無い」
「陛下も陛下ですぞ、アンディには騎士としての矜持と品格を問うお立場の筈」
「…」
「神でも無ければ人でも無い?俺にはサッパリだ」
「皇帝陛下にもウォーレス様にも分からない事をアンディが理解出来る筈がないだろ」
「んだと!ゼネビクトぉ!お前に分かるのか!」
「不確定要素が多すぎると陛下は言っているんだよ
先ずは情報収集からだろ
ドーンと当たって砕けちまったらどうすんだよ」
「…うん…まぁ砕けちまったら駄目だ…な…」
「アンディ、やけに素直だな」
「ったりめぇよ!情報無しに突っ込むのは確かに危険だ」
「おっ少し成長したか?お前?」
「相手の力を見誤ればドーンと当たる前に死ぬだろ?
ドラゴンにドーンと当たって駄目なら引くとか当たる前に死ぬじゃん!」
「おぉ!脳筋馬鹿が猿並の知能を得てるぞ!どうしたんだアンディ!変な物でも拾い食いしたか!」
「食ってねぇし!拾ってもいねぇ!俺を一体なんだと思ってるんだ!」
「脳筋!」
「脳筋?」
「脳筋じゃろ」
「脳筋ですわ」
「ひでぇ!みんな!俺だって陛下のお役に立つにはどうしたら良いのか日頃から考えてるんだゼ!」
( T_T)\(^-^ )「成長したな」
「てめぇ!ゼネビクト!馬鹿にしてんのか!」
「してねぇよ四士としての自覚が芽生えて来たお前を褒めてるんだ」
「んだよ!その上から目線は!俺はお前みてぇに策士策に溺れる様な事はねぇ!」
「そうだな、お前は無策だからな溺れねぇよ」
「あぁん!やんのかゼネビクト!」
「その辺にしてやれゼネビクトよアンディはアンディなりに帝国の行く末を考えておるのだ、そこは評価してやれ!」
「はっ!ウォーレス様!」
「…」
「で?考えはまとまりましたかな陛下?」
「うん!ハインデル攻めるのやめた!五番目の名前すら分からんのに手の打ち様もへったくれもない!」
「懸命なご判断かと」
「しかし情報は欲しい!ゼネビクト!頼めるか!」
「はっ!ハインデルの冒険者ギルドに偽名を使って変装し行って来ます」
「良し!頼む!」
後日、出掛けたゼネビクトは…
偶然キョウイチロウに出会ってしまった為に…
王城に連絡され
素性が即バレし
ギルド本部に呼び出され…
他の間者と共に丁重に送り返される羽目になる
( ̄▽ ̄;)
「ゼネビクト!どうなっている!」
「私にもサッパリ…以前のハインデルとは全くの別物でした…バレる速さと対応が異常に早い、こんな事…
以前と比べても考えられない…」
頭を抱えるて落胆するゼネビクト
「ありえない!あり得ない!アリエナイ!」
ブツブツと同じ言葉を繰り返すゼネビクト
「一体何が起こっている!?
対応の速さが異常!?
勇者召喚してから何がハインデルで起こっている?
これではまるでコチラの動きが筒抜け状態になっているとしか…」
「コレ!シルファルドよそんなに頭を掻きむしっては禿げるぞ」
「分かっている!分かってはいるが…」
ワシャワシャワシャワシャ
両手で頭を掻きむしる帝国皇帝シルファルド…
ゴッソリ抜ける髪の毛
「陛下…
ハインデルが勇者の召喚に成功してからずっとそんな状態じゃないですか…
少し休んでは如何です?」
「はぁっ!?あぁ!?
コレが休んでいられる状況か!?
情報はゼロ!!
ゼネビクトは手ぶらで強制送還!
しかも!間者まで熨斗を付けたかの様に返されたのだぞ!
間者だぞ間者!ヒッソリとコッソリと分からない様に情報を集めるのが間者の仕事だぞ!
それを!!しかも全員!」
ワシャワシャワシャワシャ
「…」
陛下…相当まいってらっしゃるな
ヒソヒソ小声「ウォーレス様…」
「分かった任せよ」
「よろしくお願いします」
「シルファルドよ少しワシが仕入れた魔族の情報をワシの執務室で聞かぬか?」
「爺の?…執務室…?魔族の…?」
「ふぅーーーー」
深い息を付き頭を切り替えた様だ
「分かった!聞こう!美味い茶はあるんだろうな!」
「(=`ェ´=)フフフ…gと同等の金貨が必要な程の高級茶葉のとっておきのがあるぞ」
「良し!飲ませろ!行くぞ!」
そそくさと自分の執務室を出て行くシルファルド
「ほい♪ほい♪フォッフォッフォッ♪現金な奴め」
「狡賢く立ち回った結果!三男の俺が皇帝の座に付いている事を忘れるなよ!」
「ほいほい♪シル坊は賢い♪賢い♪」
「取り敢えず爺の提案に乗ってハインデルの件は据え置きだ!当面の脅威である魔族の動向を仕入れたと解釈して良いな爺?」
「フォッフォッフォッ♪多分聞いたら禿げるぞ!それでも聞くか?」
「なっ!?だが!しかし!茶が先だ!」
ハインデルが度重なる魔族の奇襲を喰らっていると聞き
高級茶葉を淹れて貰ったにも関わらず
「我が国は歯牙にも掛けぬと!?」
そう言いながらハインデルと別件でも結局頭を掻きむしるシルファルドだった
皇帝の苦悩は続く…