第57話 妖刀村正
姫騎士アンナの愛刀は妖刀村正である
所持すると主人、又は身内が非業の死を遂げるとされる曰く付きの刀である
修行で母の実家であるジーパン国に居た時の事
草木も眠る丑三つ時…
「姫……よ…」
誰かの呼び声に目を覚ますアンナ
「気のせい?…かしら?」
「姫騎士よ…」
「どうやら気のせいではなさそうですわね」
寝床の傍らに置いた刀と脇差しを手にする…
「其方の野望の手伝いをさせてはくれまいか?」
「わたくしの野望?」
「剣の国から来た…」
「何処です!?」
「あっ…えっと…最後まで喋らせて…欲しい…です…」
「わたくしに何用です!」
「だから説明してたのに…」
「姿を表しなさい!!」
「だから…説明…聞いて…」
「ものの怪の類!?」
「おい!聞けや!話しを!」
「あっはい…」
「表の蔵の中だ…」
普段は虫の声が聞こえて来る筈なのに、何も聞こえませんわね…
アンナは摺り足で辺りを警戒しながら腰に挿した刀をいつでも抜ける様に構えて足で障子戸を開ける
「おいコラ!戸を足で開けるとは躾の成っていない娘だな」
「こんな深夜に若い娘を誑かす輩に言われたくありませんわ!」
「いや、あの…それは申し訳無いとは思うけど…無作法は駄目だよ」
「…ごめんなさい…」
「分かれば良い、蔵の封印を解いてはくれまいか?我が名は…」
「封印!?駄目に決まってますわ!」
「あの…待って…」
話しを聞かない娘っ子だな(・・;)
「明日の朝、師匠にお話しして裁決を頂かないと無理ですわ!」
「いや…今日の朝ではないのか?何故?明日なのだ?」
「…一々細かいものの怪ね」
「…」
「何か言いなさい!」
「性分だ、許せ」
「まぁ、この話しは朝に成ってからよ!寝るわ」
「言い直したな…フフフ」
「五月蝿いわね!ものの怪の分際で、猪口才な!」
「クックック…無理してコチラの言葉を使わなくとも良いぞ、小生意気な姫騎士よ」
「どっちが!と言いたいですわ!もう東の空が白んで来ましたわね…今から寝たら昼行燈と言われかねませんわね、少し身体を動かして眠気を飛ばしますか!」
チチチ!チチチチチ!チュン!チュン!ジュン!ジュン!チチチチチ!
雀の喧しい鳴き声の合唱が始まった
井戸に行き顔を洗うアンナ
パシャパシャ
「ふぅ〜」
手拭いでポンポンと顔の水気を取る
そこは姫!ゴシゴシはしない
「おぉアンナよ、朝から精が出るな」
「お師匠!おはようございます♪」
「んん?昨日は寝れなんだか?」
「アハっ師匠には叶いません、丑三つ時に蔵からの声に起こされました」
Σ(・ω・ノ)ノ
「何と!?あの村正の声を聞いたと申すか!?奴は何と?」
「封印を解いて欲しいと」
「何と!?それは誠か!?」
「どうせ、ものの怪の類と捨て置きましたわ」
「いかんぞ!アンナ!其方は選ばれたのだ」
「何にですの?」
「妖刀村正じゃ」
「妖刀村正?刀が喋りますの?ものの怪の類では無く?」
「ジーパン国のとある武家が所持しておったのだが先代と先先代がその刀にて討たれ、その嫡男も又…
当代が老いて私に預けに来たのだ、妖気が宿り喋る刀よ
自らも望んで次の使い手が現れるまで凡人の手に収まる事を嫌い封印を望んだ刀、それが妖刀村正よ新しき主人を得られると喜び勇んで話しかけたのであろうて、してアンナ!主はどの様に対応したのだ?」
「…ですから、お師匠様の裁決が必要かと思い
捨て置きましたとお話しした通りですわ」
「なんと酷い…少しも話しを聞かなんだか?」
「はい、少しも」
「おぉぅ…」
頭を抱える師匠
「では、明日の丑三つ時に…」
「今ではいけませんの?」
蔵の前に立つアンナ
Σ(・ω・ノ)ノ
「いや…あの…多少の雰囲気的な物も必要かと」
「そんな物は必要ありませんわ!時間は有限ですのよ!村正!わたくしの元に来ますの!」
「( ゜∀゜)・∵ブハッ!フハハハハハハ!」
「おぉぉ村正様!お声を聞くのは封印以来」
テンション爆上がりの師匠を尻目に
「笑って無いで答えなさい!わたくしの物になりますの!」
「説明を聞かぬ娘っ子よのうフハハハハハハ♪世話に成ったな主人よ!我は行くとしよう!まだ見ぬ異国の剣達と鍔迫り合いで語りおうてくるわ!」
「おぉ!村正様!我が国の刀こそが世界最強であると!世間に知らしめて下さいませ!」
「応!任された!」
「話しは終わりましたか!今回はちゃんと聞きましたわよ!」
「フハハハハハハ♪根に持っておったか!フハハハハハハ……封印…解いてくれる?」
「自分で出れませんの?」
「うん…」
「あら?高慢ちきな物言いの割に情けないですわね」
「うん」
「素直で可愛いじゃありませんの、良いでしょう!このお札を取ればよろしくて?」
「然り!」
ペリっ
「なっ!?アンナ!?封印ぞ!そんな簡単に取れる物では無い筈じゃ…が…いとも簡単に!?」
「フハハハハハハ♪流石我の見込んだ奴よ!」
「…奴ではありませんわ!わたくし女子ですわよ!その辺!よろしくて!」
「あい!分かった!我!姫騎士の刀とならん!末永くよろしく頼む!其方の命尽きるまで共に歩まん!」
蔵の扉\\\└('ω')┘////バーーーーーーン
「アナタがそうですの?」
「そうです!私が村正です!」
「(;゜д゜)アッ…もう少し優しく開けて扉が壊れちゃう」オタオタする師匠
「アナタ妖刀なんですってね!」
「はい!私が村正です!」
「そんなテンプレみたいな台詞は不要ですわ!出掛けますわよ!」
「よろしく頼む姫騎士よ」
喋る妖刀村正、ここに姫騎士の刀となる
暫くして免許階段の奥義をマスターしてジーパン国を後にするアンナの腰には…
「アナタ大口を叩いた割に脇差しですのね…」
「うん」
「うん♪じゃありませんわ!可愛く言っても駄目ですわよ!」
「まぁ妖気で切先は、小次郎の物干し竿と同じだし可愛がって貰えると嬉しい」
「良いでしょう、軽いし、長物と同じ用途で使えますから、働いて貰いますわよ」
「うん楽しみ♪」
封印時は尊大な物言いだった村正ですけど何だか残念な感じの話し方になってしまいましたわね…
わたくしより先輩でも主人はわたくし、村正との会話は敬わず通常運転で参りましょう
斯くして姫騎士の刀と成った村正とは長い付き合いになるのであった