第49話 バレバレ
魔王寝所
パチっ…
ムクッ
「フハ♪フハハハハハハ!彼奴!どうやら復活しおった様だな」
「うぅーん…どうなされました魔王様?」
眠い目を擦り魔王の脇で寝ていた女が起き上がる
…(;・`д・´)
そう、魔王とて眠るのだ、当たり前の事である。
いくら人を超える身体能力を持つ存在であろうとも、生きているので眠りもするのだ
「フム…少し気になっておったのだ、先だって人族側の召喚勇者なる者を屠りに遠征したのだが…どうやら仕留め損なった様だ」
「フフフ」
「何がおかしい?」
「何がおかしいって、そんな遠足に行くかの様な感じでチョイと遠征みたいな言い方フフフ魔王様らしいですわ」
「そうか?其方はその様に捉えたか、フハっフハハハハハハ然もありなん」
「魔王様!魔王様!一大事にございます!」
「無礼者!此処は魔王様の寝所ですよ!」
「フフフ、四天王も気付いたか、フフフ部下の成長と言う物は実に良い物だな」
「魔王様そんな悠長に成長など待ってはおられませんわ、敵方は着々と戦力の増強を図っていると聞き及んでいます」
「急いては事を仕損じると言うでは無いか、慌てるだけではいかんぞ」
「毎回、魔王様は下等な人族如きの言葉を用いて難しい事を仰る」
「知識も力だぞ、お主も我が妻ならもう少し励め」
「かしこまりましたぁ〜」
やる気の無い返事で応える女魔族
そう、魔王とて幼少期が無かった訳ではない、この世界の魔族とは家庭を持っているのだ!
ただ産まれ、1人で育つ訳では無い…
当代の魔王の話しはいずれ
「今、準備する謁見の間にて待て!」
「御意」
「さて、準備する、手伝ってくれるか?」
そう言いながらベッドから降りて寝間着のローブを脱ぐ魔王
「ただ、貴方様は私に、準備する手伝え!と命令して下されば良いのです」
髪を手櫛で解き先に準備を始めていた魔王の妻と称する女魔族は魔王の後ろに立ちローブを脱ぐ手伝いをする。
「その様な事、我が一度でもお前に言った事があるか?」
「ありませんわ、しかし魔族の長としての立ち居振る舞いとしては、私とて等しく同じに扱って下されば至上の喜びですのに」
「お前がそう言っても我は我を変えられん許せ」
「そんな貴方様も素敵ですわ」
「よさぬか!部下が待っておる。急ぎ支度する」
「はい!」
「四天王よ待たせたな!すまん」
「魔王様!我らに謝罪など不要!我らを手足の如くお使い頂ければよろしいのです!」
「馬鹿者!其方らを何故、道具の様に使い潰さねばならぬか!其方らは我の唯一無二ぞ!」
「失言でございました。確と承りましてございまする」
「分かれば良い!以前に申した通りぞ」
「ははぁ!」
この世界の魔王を復活と人族は言っているが事実は知識を引き継いだ魔王の転生である。数種いる魔族のどこかの種族に魔王が産まれ変わるのである。
ドノヴァンには当代の魔王の言った以前に申した通りとの言葉には苦い経験を思い起こす。
そして当時の事がありありと脳裏に浮かびあがる。
当代の魔王の誕生より遥か昔、インプ族に魔王が転生した時、軟弱なインプ如きが魔王などと納得いかないと牛頭馬頭が連合を組んで転生魔王のインプ族を滅ぼしたのだ。
その後は各種魔族たちによる次の魔王が転生するまでの100年もの間、魔族領は群雄割拠の時代が訪れる。
血で血を洗う争いの繰り返し、最終的には牛頭馬頭も分裂し最後に勝ち残ったのはミノタウロスの一族
そして活気盛んに人族領に攻め込んだのだ。
準備期間を多く取れた人族は周到な罠を張り巡らしていた。
トゲだらけの落とし穴を掘り先陣を切ったオウガ族の戦士達は全員穴に落ち
穴が死体で埋め尽くされた上を
「オウガ族は罠にかかる能無し、我らの礎となって死ねたのだから役にはたった」と嘲笑い牛頭馬頭が進み
そして又、次の穴に落ちた牛頭馬頭の戦士達も全員死亡
それでも進む魔族軍は渓谷で待ち伏せされ両岸からの攻撃で一網打尽にされ、各部族は戦士を全員亡くし衰退の一途を辿り、人族との境界線は大きく塗り替えられた。
脳筋の牛頭馬頭たちは魔王城の宝物庫にある歴代魔王の蓄積した叡智を軽んじ、その魔王の情報収集した書物を読む事を怠った。
その結果、全ての戦士を亡くし
策略、情報収集無しに突撃を繰り返した結果、魔族軍は劣勢に立たされ、打つ手なく次々と人族に女、子供までもが蹂躙されて行った。
戦士達を亡くした各部族の衰退は著しく里がまともな状態に戻る目処すら立たないそんな…
魔族に取っての暗黒時代が訪れた…
領地は魔王城周辺のみまで攻め込まれ、あわや滅亡の危機と言う所で次の魔王が転生して成長し反転構成をかける事が出来、少しだけ領地を取り戻す事が出来た。
あの時代に戻りたくは無い、ここ数世代お陰と内乱は無い
当代の魔王様は過去最大の版図を広げて人族を圧倒し続けている。
元々人族より身体能力に優れる魔族は人族に対して奢り軽んじて来たが現在の魔王様は人族の知識までもを我が叡智としその知略はこの私でさえ深淵を知る事が出来ない程だ今回こそは我らが人族を滅亡の憂き目に立たせてやるチャンスなのだ!
魔王様は仰った魔族同士争っている場合ではない!
相手の知略を上回り、常に先手を打つ、でなけば一方的に座して死を待つのみだと…
里の戦士の多くが死ねば里の力は著しく低下する!
魔王様は仰った部下は宝に等しく、子はそれ以上の宝である!
その宝を戦さ場にて無駄に浪費せず勝つ事こそ肝要であると
生きて帰ってこそ強き戦士に育つのだと…
全てが理にかなっている。
魔族だけではない、繁栄は生き残ってこそだ、今まで人族より能力の高い事を有利と捉えて人海戦術にモノを言わせてゴリ押しして来た過去の魔王と今回の魔王様は別次元の思考をお持ち…
我らを宝と称して当たり前の様に大切にして下さる
里の戦士の死は里の強さのリセットである
それは弱体化と言っても過言ではない
リスタートを繰り返していたあの頃とは違う、継続的な強さの上積みが成されている。
となれば、無駄に長く生きて来たワシが魔王様のお役に立つ事と言えば1つ…
ワシ1つの命で相打ちは可能であろうか?…
いや!あの者を討ち取り情勢を更に此方に有利にするのだ!
などと思考に耽っていると魔王様より質問が飛ぶ
「して今回の件!四天王としてどの様に考える!」
「又もハインデル王国にて膨大な魔力が観測されましてございまする、こうも立て続けだとあの国が一体幾つの秘策を持っているのか検討も付きませぬ!」
「否!感じぬか!前回と同じ魔力波動ぞ!今回も前々回と同一人物で相違無い!」
「しかし!前回とは些か」
「フム…そうだな、何か混じっておる様だ、多分だが一度死んだか仮死状態だかの状態から、何者かが彼奴を再構築し産まれ変わらせたと称した方が納得はいくか」
「その様な事!?前例がございません!」
「ドノヴァン!! お主は頭が固い!
過去の数値が、動向が今回の出来事に当てはめて比較出来るならまだしも、前例が無いから対処出来ませんでは対策の為に集まった本来の意味が報告会になってしまうぞ」
「仰る通りでございます」
「実際に己が目で見て来たであろう!このままでは何度危険を賭して奇襲をかけても同じ事の繰り返しになる!貴様の知略を持って打開策を述べよ!
よもや!無策ではあるまいな!!」
「魔王様の知略と比べて私如きが及ぶ筈もございません」
「ドノヴァン!!
我より長く悠久の時を生きて来た他でも無いお主だから我は質問しておる!
トップダウンのみの指示待ちで思考を止めるな!馬鹿者が!」
「面目次第もございません」
「なぁ爺よぉ、アイツを一部だけでは復活出来ないくらい細切れにしちまって俺たち四天王で食っちまえば良いんじゃねぇの?そうすれば器が無くなった魂なんぞ恐るるに足らねぇじゃん!」
「その案も然り!」
「ありがとうございます魔王様!」
「ロゴスは!どうじゃ?」
「私めは、父上の教えに従い魔王様の下知を待つのみでございます」
「それも又然り!己が裁量では無く優れた者の指示に従うと言う事だな」
「魔王様の采配に従い遂行せしめるが私の勤めと心得ます」
「しかし!我の指示が聞けぬ事態が起こった場合はどうする!」
「我が身の持てる力の全力にて魔王様の傍らを離れぬ所存にございますれば指示に従えるかと」
「フム、父のゴロスと同じ事を言う様になったか…其方の成長を心良く思うぞ!励め!」
「ははぁ!」
「魔王様!しかしあの男が復活したとして、見て来た者としてはさしたる危険は無い様に思われます。
過去最弱ではと思わせる脆弱な勇者であった事は紛れもない事実でございます。
暫く放置しても良いかと
当面は1番初めに勇者召喚とおぼしき魔力波動を感じた時の他の4人にターゲットを絞り、我らが脅威となる前に摘み取るべきかと」
「ルードリヒよ其方は何かあるか!」
「私は此度のロゴスの成長を目の当たりに致しますれば魔王様の采配に誤り無しと痛感させられた次第!全ては魔王様の御心のままに!」
「うむ!ではドノヴァン案を採用!追って沙汰を下す故!今後に備えよ!」
「ははぁ!」
「魔王様…折り入ってお話ししたき義がございます」
「うむ!ルードリヒ以外は下がって良い!」
「御意!」
「してどうしたルードリヒよ」
「はっ僭越ながら申し上げます」
「うむ」
「此度、ドノヴァンは、かの勇者を放置の方向と申しておりましたが…
1人で仕留めに行くつもりかと」
「ほほぅ何故そう思った」
「かの者は確かに脆弱、しかしこの短期間で従者2人を異常な速度で進化させておりますれば、今後次々と多くの者を進化させる恐れがあり、それは我らにとって大いなる脅威になり得るかと具申致します」
「流石よのルードリヒ」
「と申しますと?」
「其方の思考、父のハインリヒ譲りと言う事よ、其方の父とは長い付き合いだ良い息子に恵まれたと伝えてくれるか」
「はい!私の様な若輩者には勿体無きお言葉」
「良い!畏まるな!其方の具申しかと受け取った!その方もそれとなくドノヴァンを気に掛けてやってくれるか?」
「はい!命の安売りはするなと言い聞かせます!」
「頼んだぞ、彼奴もこの我にはなくてはならなき存在故」
「魔王様に於かれましては、ドノヴァンの件、伏してお願い申し上げます」
「心得た!」