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49 応用演習4

開始直後、サリアが華麗な風属性の精霊術を繰り出してきた。イルマの簡易障壁生成器で防御するが、出力が足りず、一瞬で弾かれる。


「わ……強い……!」

イルマは焦った声を上げる。だがベルティアが音響士気向上をかけ、「皆、スピードを上げて攻めに転じて!」と鼓舞する。


ここでサリア側の仲間が二手に分かれ、一方はファロンやベルティアを狙い、もう一方はツェリに集中攻撃してくる。ツェリが狙われるのは明らかだ。過去の因縁を晴らすかのように、サリアが「負け犬は黙って倒れてなさい!」と声を上げる。


ファロンが風術で迎撃しようとするも、相手もCクラスらしい巧みなコンビプレーで押し返してくる。


「ファロン、イルマと位置を交換して! ツェリ、ベルティアの近くへ!」

アルドはすかさず指示。


イルマは障壁を張りながら相手の中衛を抑え、ファロンはその影に回り込んで鋭い突風を放つ。

ベルティアの音響魔法は全体に行き渡り、短い歌声がみんなの行動速度と精神活性を高める。


しかし、サリア自身も風属性の技巧に長け、さらに仲間と連携してアルドたちを分断しようとする。バインド系の術でイルマが捕まりそうになり、ベルティアが幻術気味の音波でカウンターするも、逆にポイントを奪われかける場面が続出。


「やばい……いままでとは比べ物にならないくらい手強い」

イルマが苦しげに言う。実際、C2クラスの上位は侮れない。


ツェリは恐怖心を堪え、「治癒薬使います!」と叫びながら仲間に速効性ポーションを投げ渡す。ファロンはそれを飲んで体力を持ち直し、サリアの仲間を風刃で一人ずつ足止めする。

アルドは戦闘不能にならないよう後衛ポジションを保ちつつ、相手の術に対し対策を指示。


「イルマ、障壁の角度を変えて! ベルティア、音響周波数を低めにして動揺させて!」


サリアは怒りを帯びた目つきでツェリを狙い撃つ。


「味方に守られてるだけの雑魚女が! ぶっ飛ばすわよ!」


と風術で土埃を巻き上げ、一気にツェリへ突撃。しかし、アルドは勢いよく飛び出して、ツェリを庇う形で衝撃を受ける。


「ぐっ……!」


アルドは一瞬地面に膝をつくが、気力を振り絞って立ち上がる。


「ツェリ、最後の治癒薬を自分じゃなく私に使って!」


ツェリは動揺するが、すぐにアルドの言葉通りポーションを手渡す。アルドの疲労が軽減され、ギリギリ体を動かせる状態になる。


最終盤、相手チームも2人がポイントアウトで撤退しており、サリア含む3人が残る。こちらはイルマ・ファロン・ベルティアがかなりダメージを受けた。ツェリとアルドだけがまだ動ける状態。


サリアは笑みを浮かべ、

「大勢は変わらないわ。おとなしくやられなさい!」


と風刃を繰り出す。


「……もう二度と、あなたたちに好き勝手にはさせません!」


ツェリが恐怖を振り切って前へ踏み込み、と叫んで水術を展開する。ヒーラーだが、水属性で相手の足下を崩す程度の妨害は可能だ。


その隙にアルドが素早く、棒のようにしたイルマの魔道具を使いサリアの魔力制御をわずかに乱す。


「しまっ……!」


サリアは防御姿勢を取るまもなく、背後へ回りこんだアルドが体重を乗せた回し蹴りをサリアの顔に叩き込む。すかさず腕輪に打撃を加え、サリアはポイント喪失。


残り2人もファロン&ベルティアが最後の力を振り絞って押さえ込み、辛くもDチームが勝利を得る。


「試合終了!」


審判が高らかに宣言。


実況役の教師が


「このDチーム、なんとC2クラスを破りました! 波乱が続きます!」


と大声で叫び、観客席がどよめく。実に珍しい快挙だ。


ツェリは息を乱しながら、サリアの姿を見つめる。サリアは地面に倒れつつ、

「な……負けるなんて……」


と唇を震わせている。

イルマとベルティアが駆け寄り、

「やったよツェリ!」「勝ったわ!」


とツェリを抱きしめる。ツェリは少し涙を浮かべ、小さく呟く。


「ありがとう、みんな……私、もう逃げない。ちゃんと戦って勝ててよかった!」


アルドは微笑を浮かべて、ツェリを称える。


「これで、君の過去を嘲笑してた相手にリベンジ成功だね」


ファロンも無言ながら目を細め、ほんの少し満足げに頷いた。


ーーその後、サリアたちを下した3回戦目で相当な疲労を強いられたDチームは、次の対戦でCクラス上位チームに当たり、残念ながら力尽きて惜敗する。


戦闘中、イルマの魔道具が故障し、ベルティアが音響術を維持できないなどのトラブルが重なり、ファロンもツェリもすでに限界を超えていた。アルドも満身創痍で指示を出す余裕さえない。

結果、集団的なポイントアウトで敗退。悔しいが、ここまで勝ち進んだだけでもDクラスとしては前例のない好成績だ。


試合が終了すると、会場アナウンスが


「Dチームの躍進はここまで! しかしながら、Cクラス上位とも互角の戦いを繰り広げ、その実力を示しました。これはDとしては驚異的です!」


と紹介。観客席の一部から拍手が湧き起こる。


「敗けちゃいましたね……」

ツェリは肩で息をしながら残念そうな顔をした。


「でも、ここまで来られるなんて夢みたいだよ……Cクラスに3勝もできるなんて」

イルマは深い溜息を吐きつつ目を輝かせる。



「そうよ、ほんとすごい! 今日はいっぱい歌ったから喉が限界……」

ベルティアはヘロヘロながら笑う。


ファロンは「……悪くない結果だ」とだけ呟く。


アルドは彼らを見回し、静かに微笑む。

「みんな、お疲れさま。私たちでよくここまでやれたね。Dクラス5人でCクラス相手に3勝を上げるのは大快挙だよ」


彼らの肩をポンポンと叩く教師が現れ、

「立派だったぞ、Dの底力を見せたな。帰還して休むといい」


と声をかけてくれる。周囲でも意外そうな面持ちの他クラス生が、目を丸くしてD-45チームを見つめている。


「リーシェ……ありがとう。あなたがいなかったら、わたし崩れてたかも」

ツェリがポロリと涙をこぼす。


「何を言ってるの。あなたが最後頑張ったから勝てたんだよ。みんなのおかげだよ」


「ほんと、最高のチームだった!」

「このチーム、また組みたいね! あ、でも体力的にもう無理……」


イルマとベルティアも笑い合い、ファロンはわずかに口元を緩める。彼もまた、仲間として認め合う瞬間を感じていた。


こうしてアルドたちは応用演習を終え、2日目の試験を締めくくった。結果は残念ながら途中敗退だが、Dクラスではかつてないほどの上位成績を収めた。観客や教師たちの間でも話題になるほどの善戦。


あとは明日の個人の実技試験が終われば今回の試験は終了だ。


チームメンバーは疲労困憊で、袖を引きずるように講堂へ戻り、次々と各自の控え席で水を飲んだりポーションを使って体力回復に努める。


「いやぁ……マジで限界」

イルマは椅子に腰を下ろし、「でも悔いはない。やっぱチーム戦って楽しいわ!」と笑顔を見せる。


「どんなに辛くても、仲間がいると思えば頑張れますね」

ツェリも小さく微笑む。


(サリアたちに勝てて、ツェリの過去をある程度晴らせた――それだけで今日は大きな前進だ)


アルドは遠くを見つめる。


とはいえ、まだ試験は終わってない。ここまでのアルドの成績はDクラスでトップ、Cクラスを含めても上位に位置するだろう。だが明日の個人実技は精霊術が使えないアルドにとっては一番の難関だ。


外ではまだCクラスの上位チームが試合を続けている。アリシアがいるAクラスはここからでは見えないが、スコアボードを見るに圧倒的な強さを見せているようだ。

だが、Dチームの活躍も、また一つ学園に小さな衝撃を与えたのは間違いない。


「また一緒にやりましょうね……!」

ツェリがそっとアルドの袖を引く。


「もちろん」

アルドは応じ、仲間たちと軽くハイタッチして笑い合う。


こうして2日目の応用演習は終了を告げた。D5クラスの小さな奇跡は、多くの観客の記憶に刻まれ、ツェリの因縁も少しだけ報われる形となる。

試験全体としてはまだ最終結果が出ていないが、ここで彼らの大きな山場は乗り越えた。


夕方の日差しが優しく皆を照らし、アルドたちは一歩ずつ希望と達成感を胸に、明日の個人試験へと臨んでいく。

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