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47 応用演習2

2戦目も運良く相手はDクラスの中堅で、やや精霊術を使えるメンバーが揃っていたが、Dクラスの威力だとイルマの障壁魔道具が連続稼働できるうちはほぼ無敵に近い。アルドが戦術を的確に指揮し、ベルティアの音響術が絶妙なタイミングで味方の動きをブースト。ファロンは背後から風術を浴びせ、相手リーダーの動きを封じる。そこへアルドの攻撃。体術による打撃は威力こそ弱いものの、最小限の干渉で相手のフォーメーションを崩すことに成功し、大きくポイントを奪取した。


周囲を見ると、他のチームも激闘を繰り広げている。遠くで叫ぶ声、魔力がぶつかる衝撃音、障壁が砕ける音がフィールド各所からこだまする。運営スタッフは高い台から監視し、ペナルティや安全管理を徹底している様子が見てとれる。最近の不正摘発騒ぎもあってか、皆が全力勝負で挑んでいるようだった。


2戦目も余裕の勝利。リーシェチームは、ポイント獲得ランキングで早くもDクラストップ層に並んだらしい。あと1戦勝てば、Cクラス陣営との対戦ゾーンに移るのはほぼ確実だと運営が発表している。それだけ順調なのだ。


「やったね、あと1戦は昼前までに済ませるんだっけ?」

イルマが言うと、ツェリも「ええ、次の試合が終われば午前ラウンド終了で、お昼休憩に入るようですね」とスケジュールを確認する。


ベルティアが手を打ち鳴らす。

「じゃあ、最後の試合も勝ちましょうよ! Cクラスへ行って上位に挑戦するんだ!」


「うん、そこが目標ね。ポイントをさらに稼げば総合評価も期待できるよ」

アルドが言いながら、ふと遠くの観客席を見やる。そこには試験を観覧している一部の教師や高学年が陣取っており、中にはアリシアの姿は見えないが、Aクラスの何人かが軽く見物しているらしい。


(アリシアも別の会場で試合や監査委員の仕事を兼ねているのか、ここには居ないんだろう。彼女が相手という展開も、Bクラス以上に上がればあるのか……)


ファロンは耳を動かして周囲の雰囲気を探る。

「……次の対戦相手は、けっこう手ごわいらしい」


斥候的に動き回って情報を拾ってきたのかもしれない。


「まじか。それなら備えねば」

イルマがゴーグルを下げ、障壁生成器のエネルギー残量をチェックする。ツェリは薬瓶を再度確認し、ベルティアは新たな音響術の下準備を始める。アルドはマップを眺め、初期配置と移動ルートのシミュレーションを脳内で組み立てた。


「いよいよだね……」


アルドは姿勢を正し、チームを振り返る。

「午後のステージに進むため、これが勝負の一戦になると思って頑張ろう」


「オーッ!」

とイルマが元気良く応える。


「うん、気合い入れましょうよ! わたし、音響アップの魔道具をちょっとだけ改造したんだ。さっきの試合は出力弱めにしてたから、今度はもう少しだけ強く響かせる!」


「わたくしは治癒薬と精霊術でみんなをフォローします。疲労の激しいファロンさんも頼りにしてくれて構いませんから」

とツェリらしい穏やかさを漂わせながら、専用のポーチを確認している。


「ファロン、怪我とかない?」

アルドが声をかけると、ファロンは短く首を振るだけ。その無口な態度は相変わらずだが、周囲を警戒する視線にはまだ余裕が見える。さきほどの試合で嗅覚と風属性の機動力を活かし、相手チームの裏をかき勝利へ導いた。午前2戦を消化し、一度も倒されることなく要所を抑えている。


試合運営スタッフから声がかかり、リーシェたちD5チームは魔道具で囲われた円形フィールドの待機ラインへ向かう。今回の対戦相手はD1クラスの生徒『ユウキ・ロサ・ケイト・ジャン・ライル』の5名。相手もポイントをそこそこ稼いでおり、互いに2勝している実力派チームらしい。


「では、試合を開始します。制限時間は15分、全力で戦ってください!」


試合スタッフが高らかに宣言し、周囲の結界が色を変えてゆく。


フィールド中央へ踏み出す直前、ベルティアが「音響魔道具、これでOK……!」と小さく呟き、腰の小型スピーカー状の魔道具を調整する。ツェリは薬ポーチをもう一度確かめ、イルマは簡易障壁生成器のスイッチを入れて点検。ファロンは黙ったまま鋭い眼差しを相手チームに向け、リーシェは場の全員を見渡す。


「……行こう!」

リーシェが短く言い、5人が散開する。対戦相手も5人で、それぞれ槍や小型火炎魔道具を手に構えている。魔力が充満する結界内は、外部からの視線を少し薄れさせるが、観客や他の生徒たちの歓声は聞こえる。


開始の合図が鳴ると同時に、相手チームのロサが指で合図を出し、ケイトが火属性術を放ってきた。ボッと炎の弾が飛ぶが、イルマが躍動しつつ障壁生成器で一瞬で防御を張る。


「やった、防げた……!」

イルマが笑みを浮かべるが、その背後から別の敵、ジャンが突進してくる。


「ツェリ、右サイド頼む!」

リーシェがすぐ察して声をかけると、ツェリが水属性術を軽く放出し、相手の動きを鈍らせる。滑るような水膜で一瞬ジャンが足を取られ、バランスを崩した。


「助かった!」

イルマがそこへ障壁を再度展開、ジャンを突き飛ばしてポイントにはならなかったが動きを封じる。


一方、ベルティアはチーム後方で音響術を微かに奏でる。心地よいビートがチーム全員の身体をじわりと軽くするような効果を発揮し、反応速度が増す。ファロンもその加護を受け、すっと風属性で加速し相手のライルを狙う。


「ライルは長槍持ちか……」

ファロンが素早く懐へ入り、槍のリーチを無効化する。風で姿勢を崩しつつ、ライルの肩を蹴り上げた。ライルは槍を落とし、必死に立て直そうとするが、ファロンはとどめの風圧で足元を払うように突風を起こし、ライルをフィールド端へ追い込む。


「くっ……!」

ライルが踏ん張るが、ベルティアのバフが乗ったファロンの動きは想像以上に鋭く、さらにイルマが小型の火放出魔道具で威嚇。ライルは逃げ場を失ってフィールドの外へ足を踏み外し、退場。ポイントがD5チームに入る。


やや中央寄りではリーシェがロサと正面で睨み合う。ロサは水属性の精霊術を扱うらしく、片手に氷剣を形成し攻め寄ってくる。リーシェは精霊術が使えない分、体術で対抗しながら、周囲の状況に指示を出す。


「ファロン、援護! ツェリ、こっちに少し水を散布して!」


声を張り上げると、ファロンは飛ぶように移動し、後ろからロサの肩を狙って突風をぶつける。ロサが一瞬よろけ、その隙にツェリが水を撒き、足元を滑りやすくする。


「そこっ!」


リーシェがすばやく距離を詰めてロサの腕を払う。氷剣が崩れ、ロサが体勢を崩したところを背中へ蹴りを入れ、倒れたところ腕輪を殴り第二ポイントを獲得。


ケイトとジャンの二人が逆サイドでイルマ・ベルティアと対峙している。ケイトは火弾を連射し、ジャンは近接突進を駆使。ベルティアは音響術のバフで仲間を支援しつつ、走り回って火弾を避けている。イルマは障壁を適度に張るものの、連射される火弾すべてを完全には防ぎきれず、幾度か被弾しかける。


「くっ……! ベルティア、後ろから回って!」

イルマが叫ぶ。ベルティアは足運びをミスりそうになるが、音響術の自分自身への効果でギリギリ踏み止まると、ジャンの正面へ声を響かせる。


「ハアァァッ!」


と叫ぶだけでなく、小型スピーカー魔道具から発せられる不協和音がジャンの聴覚を混乱させ、一瞬硬直。そこをイルマが横合いから障壁突進し、ジャンを押し出す形で脱落させる。


「ありがとう、ベルティア、ナイス不協和音!」

とイルマが笑うと、ベルティアも「やったね!」と手を挙げる。


あとはケイト1人が残っている状況。ファロンが援軍に入り、ツェリも水流で足止めを補助。アルド(リーシェ)は後方で全体状況を監督しつつ、仲間へ短い指示を与える。混戦になっても通信がスムーズにいくのは、ベルティアの音響バフが集中力を上げているからだろう。


ケイトは焦って火弾をあちこち撃ちまくるが、ファロンの風属性とイルマの障壁で巧みに防がれる。ツェリが後ろから水の渦を送り、ケイトの体勢が崩れたところにベルティアが再度不協和音をぶつけ、頭がくらっと揺らいだ瞬間にファロンが一気に間合いを詰め、肘打ちで押し出しにかかる。


ケイトは最後まで粘ろうとするが、ちょうどリーシェが足元を払い、ファロンが突き飛ばす形で転倒したところでポイントを奪う。大きく砂埃が舞い、試合終了の合図が高らかに鳴った。


「勝者、D5チーム・リーシェ、イルマ、ツェリ、ベルティア、ファロン!」


運営スタッフが声を張り上げ、周囲からは拍手と歓声が上がる。相手チームも悔しそうに肩を落とすが、さらに上位チームへ挑むための敗者復活戦もあると聞いて、顔をわずかに上げる。


リーシェたちは大きく息を吐いて集まり、お互いに目を見合わせる。


「やったね! 今ので午前中3連勝じゃない!」

ベルティアは飛び跳ねそうな勢いだ。


イルマはニコニコしながら障壁生成器を抱える。

「危ない場面もあったけど、チームワークで何とかなった!」

と満足げ。


ツェリは水ポーチを確かめながら「皆さん無事で何よりです。まだ大きな怪我も出ていない……ベルティアさんのバフとイルマさんの障壁が本当に安定していて、助かります。」と微笑み、ファロンは相変わらず無言で軽く会釈する程度。だが、その瞳には満足そうな色がわずかに宿っている。


午前中の最終試合を終えたアナウンスが流れ、

「これにて午前の部はすべて終了! 皆さん、次のマッチングは午後の部となります。ゆっくり休憩を取ってください」

と響く。


「じゃあ、もうお昼休憩なんだね」

アルドは微笑みながら、視線を仲間たちへ向ける。

「疲れたでしょ、ここまで。お昼をしっかり食べて、午後も頑張ろう」


イルマとベルティアは「うん、そうしよう!」と元気に答え、ツェリも小さく頷く。ファロンは表情を変えず「……ああ」とだけ応じる。


みんなで魔道具置き場から自分たちの装備を片付け、フィールドを後にする。外ではDクラスの友人たちが声をかけてくれたり、「すごいじゃん」「あっさり勝っちゃったんだね!」などと声をかけてくる。


ベルティアは音響術の件で「新曲効果抜群だったわよー!」と軽く照れながら笑い、イルマは「魔道具の改良も役立ったし、リーシェの指揮が的確だったからね!」と感謝を伝える。


アルドは「いや、みんながそれぞれ動いてくれたからこそだよ」と返しながら、ふとファロンを見やる。彼は大きな取り立てた表情こそ浮かべないが、満足感と警戒心を同居させた雰囲気を漂わせるまま、足早に先へ進む。


こうして、D5チームは午前の部を3連勝という好調な結果で終え、昼食を取るために人混みの中に入っていく。それぞれの思惑や秘密は抱えながらも、今はチームがまとまって強くなれている事実を喜ぶ時間だ。午後にはさらに上位クラスの精鋭と当たる可能性がある。そこから先の試練をどう乗り越えるか、それはこの昼休みのわずかな時間に作戦を立てることになるだろう。


賑わう学食や屋台の匂いが漂う学園の広場で、仲間たちは戦果を語り合い、また午後からの戦いへ気持ちを切り替える。アルドもまた、午後の試合で自分の本領をどう発揮するか、仲間をどう導くかを考えながら、そっと微笑むのであった。

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