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27 C区画

アルドはバスコの体を使い、C区画へ入場するゲートを抜けてC区画への侵入を果たしていた。


C区画内部は、思った以上に整然とした構造になっており、視線を上げれば五つの大きな塔が中心の塔を囲うように建てられているのがわかる。五つの塔それぞれにC1〜C5のクラスが割り当てられているらしい。


上位クラスAやBほどではないが、C領域もそれなりに広く組織化されており、その中でも中心に聳えるC1塔はC区画内では特権的な地位を保っているようだ。


アルドは今、三年C5所属のバスコに乗り移った姿で、その様子を密かに観察していた。黒く短い髪、背が高い体格、少々無頓着な歩き方――バスコの身体に染まったアルドは、できるだけ自然な挙動を保ちつつ、C5塔へ入ってみることにした。


塔への入口にはゲートがあり、そこには警備員が立っている。魔力検知用の装置が設置され、手をかざせば所属クラスや大まかな魔力属性を確認される仕組みになっているらしい。C5生徒であれば当然スムーズに入場できる。


アルドは先を歩くハンツの動きを頼りに、何食わぬ顔で塔のゲートを通過する。警備員は特に疑問を呈さなかった。


だが問題は、貴族派が多く在籍しているC1塔へ向かおうとするときに発生した。各塔は独立しており、C1塔への入場にはC1所属の魔力パターンが必要になるはずだ。


仮にC5生がC1塔へ行こうとすれば、間違いなく不審がられる。警備員は魔力パターンのみならず簡易的な身分照合を行っているらしく、無断で立ち入ろうものなら即座に足止めを食らうだろう。


アルドは心中で舌打ちをした。C区画は予想以上にセキュリティが厳しく、複数の塔という構造がアルドの原型上書き《アルキウム・オーバーライト》戦略を複雑化している。ベルジがいるC1塔へ行くにはC1所属生徒に乗り移らねばならない。


しかし、今のバスコはC5所属だ。C1生徒に近づくためには、途中で数人の生徒に乗り移って段階を踏まねばならないかもしれない。最低でも二回以上の乗り換えが必要になりそうだし、最悪三回、四回と連続使用すれば一度に何人もの存在を上書きするハメになる。


原型上書き《アルキウム・オーバーライト》には一時間という制限があるうえ、連続使用するとその制限時間が半減していく。もし三回以上の乗り移りが必要なら、時間切れや不自然な行動で露見する可能性が跳ね上がる。しかも既に潜入開始から二十分近く経っているのだから、悠長に人選を考えている余裕もない。


「これは無理だな……」


アルドはバスコとして歩きながら、冷静に考えをまとめる。下手な冒険はリスクしか生まない。今日の潜入はあくまで急場しのぎで行ったテスト行動に過ぎない。C領域がこうした多重セキュリティとクラスごとの隔絶構造で守られているとわかったことだけでも、成果と捉えるしかないだろう。


時間ギリギリまでC区画を調査したアルドは、C5塔のラウンジのソファに腰掛けた状態で能力の解除を行った。バスコの瞳に宿っていた白銀の輝きが淡く揺らめき、消え入りそうな小さな残響だけを残して、ふっと途絶える。


バスコの瞳から白銀の光が消えた瞬間、彼は意識を失ったように頭を垂れた。先ほどまで無言で何かを思案していたかのような姿勢が崩れ、肩が落ち、息づかいが乱れる。その状態は長くは続かない。数秒もしないうちに彼は浅く息を吸い込み、ぼんやりと瞼を開いた。先ほどまで自分の身体が乗っ取られていたなど知るはずもなく、ただ「ここは……?」と首をかしげるしかない。


一方その頃、D区画の暗い資材倉庫では、アルドの元の身体が微かに身震いするようにして動いた。床上に崩れ落ちていた身体が淡い揺らめきとともに、ゆっくりと呼吸を取り戻す。まるで長い眠りから覚めるかのように、アルドはまばたきを重ね、体勢を整えた。倉庫の埃っぽい空気が鼻腔を刺激し、わずかながら床板の冷たさが背筋に染み込む。


アルドは静かに立ち上がり、衣服の埃を払う。再びDクラス領域の暗い倉庫に戻ってきたことで、潜入中に得た情報が頭の中で整理されていく。苦労してC区画へ入ったが、大きな成果はなかった。しかし、それでもC区画の地理や塔ごとのセキュリティを確認できたのは無駄ではない。


アルドは元いた場所に人影がないか一瞥し、幸い誰もいないのを確認する。乗り移り中の身体をここに放置していたわけだが、周囲の静寂から判断すると、近づく者はいなかったようだ。


前回と異なり、今回は存在の破壊は行わずに離脱した。ナジャの話では、自分が乗っ取っていた間の記憶はぽっかりと抜け落ちた状態になるらしい。バスコは先ほどまで自分が何をしていたか思い出せず、記憶が抜けているこの現象に戸惑うだろう。しかし、その原因を突き止めることはできない――結局、謎のまま納得するしかない。


こうしてアルドは能力の解除を経て元の身に戻り、少なくとも《アルキウム・オーバーライト》が計画的に使えるという手応えを確認した。次の機会では、より有効的にこの力を使ってやるだろう。


「全二年生共通魔力適性標準試験」なら全学年が一堂に会する。その時ならベルジも同じ空間に現れるはずだ。そこで一気に接触し、短期決戦を狙う方が現実的だろう。

しかしその試験は一ヶ月以上先……今すぐ行動はできない。もどかしさが胸を刺すが、無駄な消耗を避けるには仕方ない。仮に無理して突っ込んでバレれば、すべてが水の泡になるのだから――

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