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24 力の制約

ツェリから得た貴族の不正に関する情報が、アルド(リーシェ姿)の脳裏で渦を巻いている。

妹を陥れた貴族派――アルドの胸中には、業火にも似た憎悪が絶えることなく燃え続けていた。


次なる標的は決まったが、その前に片づけねばならない課題がある。


「ナジャ、いるか?」


アルドは小声で呼びかける。

すると、視界の端で半透明な神秘的な人形が淡く現れた。始祖精霊ナジャ――精霊たちの理を超え、世界の理をも歪めるという普通の精霊とは異なる存在だ。


ナジャは柔らかく、しかし確固たる響きをもつ声で応える。


「妾は汝と契約を結んだ精霊、離れはせぬ。いつでも傍におるぞ」


「昨日は途中で話を遮ってしまって悪かったな」


アルドは声を落ち着かせる。


「能力について、もっと詳しく知りたい。ツェリから得た情報で次のターゲットは決まったが、それを実行に移す前に、この力を理解しておきたい」


この力 原型上書きアルキウム・オーバーライト は、自分にとって生命線たる力。

軽々しく扱えば大失敗を招きかねない。ルールと制約を正確に把握してこそ、妹の仇討ちも妹救済も可能になるはずだ。


ナジャは淡々とした調子で、「よかろう、何が聞きたい?」と返す。

その佇まいは不動であり、揺るぎない知恵の泉のようだった。


アルドは頷き、わずかに微笑む。

ナジャから与えられた 原型上書きアルキウム・オーバーライト は他者の身体を上書きして操る術式。

これをどう活用するかによって、貴族派への復讐の難易度は大きく変わる。


「そうだな……例えば、イルマに乗り移って、それからイルマの姿でツェリに触れれば、ツェリへ乗り移ることはできるのか?」


ナジャは淡々と返答する。


「うむ、可能じゃ。だが、連続で他者へ移るたびに制約が増すことになる」


アルドは心の中で考えを巡らせる。

連続乗り移りで相手の側近を経由し、標敵へ直行する――理想的な暗殺術だが、制約が増えるとは?


「制約とは、どんなだ?」


ナジャは澄んだ声で説明を繰り返す。


「昨夜も話したが、原型上書きアルキウム・オーバーライトは1時間が限度じゃ。じゃが、他者へ移るたびに使用時間は半減する。2回目で半分、3回目でさらに半分、それ以降も同様にな」


「半減か……時間がどんどん削られるな」


アルドは腕組みして天井を仰ぐ。


「他に何かあるか?」


ナジャは続ける。


「接触時間も増える。初回は短くとも、2回目で10秒、3回目で20秒と、相手に触れ続けねばならぬ。加えて、先日のように相手の存在の格が高位でない場合は接触不要じゃが、連続使用時は相手が格下であっても必ず触れる必要がある」


「なるほど、連続乗り換えは強力だが制約も大きいな」


アルドは溜息をつく。


「Cクラス塔へ侵入し、ターゲットを発見するまでには最低2回の連続使用が必要だろう。現実的に考えたら4回は使用したいところだ。短期決戦は夢物語か」


アルドは自嘲気味に苦笑する。


「一気にCクラスの貴族をぶっ殺そうなんて考えたけど、現実的じゃないな」


「焦るな、アルド。時間はある。無謀な突撃より、入念な下準備が賢明じゃ」


その声には叱咤よりむしろ諭すような優しさが滲んでいた。


「分かったよ、焦っても仕方ない」


アルドはペンを握り、ノートに新たな計画の下書きを走り書きする。

長期戦を前提に情報収集や協力者探しが必要になるだろう。妹の仇を討つには戦略が要る。


「まずは何度か軽い実験だな。どれぐらいの連続乗り移りが現実的か、そして領域間の移動や、禁書庫パスワード入手の手段はないか……調べることが増えたな」


ランタンの光が机上の紙片を照らし、影が微かに揺れる。

制約だらけとはいえ、原型上書きアルキウム・オーバーライト は強力な武器。

ナジャとこうして相談できる環境も悪くはない。

他の誰も頼れず一人で試行錯誤するよりは遥かに有利だ。


「この力でいつか必ず妹の仇を滅ぼしてやる」


アルドは静かに誓う。

ナジャは黙したままだが、その沈黙は肯定を感じさせる。

アルドは滲み出る緊張感を抱えながらも、冷静な策を模索する。

甘い夢ではなく現実的な道筋を探る――それが今できる最善策だ。


深夜の学園、外は微かな風音だけが響く。

アルドは夜更けまでペンを走らせ、妹への復讐を果たすための新たな計画を積み上げていく。

短期で蹂躙はできないが、長期で挑めばいい――その意志が心に灯されていた。

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