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16 覚醒

「ここで死ね」


レヴンが死刑執行人の如き声で告げ、最後の一撃を放とうとする瞬間、空気が震えた。

まるで世界の呼吸が乱れたかのように、周囲の埃が金色の光を帯びて舞い、闇に沈んでいた倉庫内に淡い輝きが差し込む。


イルマはすでに失神して動かない。


「何だ、この光……?」


レヴンは驚愕の表情で足を止め動揺を露わにする。


彼の取り巻きである4人の精鋭たちも、先ほどまでニヤニヤと悪意に満ちていた顔から一転、戸惑いと不安を浮かべて視線を巡らせる。

誰もが、立ちこめる光の微粒子がなぜこの閉ざされた空間を照らしているのか理解できず、唖然としていた。


アルドは痛みに耐えながら、弱々しく顔を上げる。

すると、彼の周囲に半透明な人型の存在が浮かび上がった。


白銀とも虹色ともつかぬ光を纏い、その姿は神秘的で、神聖な雰囲気を醸し出している。

宙に浮くようにして現れたその存在は、静かだが明確な声で語り出した。


「ようやく声が届いた……ずっと汝と共にあったが、今まで何も伝えられず、歯がゆかったぞ」


その声は清澄な光を宿したかのように透き通り、温かく、同時に強大な存在感を感じさせる。

淡く微笑むかのような表情で、その不思議な存在は困惑するアルドへと目を向けた。


「お前は……精霊なのか?」


アルドが小さく唇を震わせると、存在は短く息をついてから、静かに告げる。


「妾はナジャ。汝らの言葉で言えば、精霊よりも原初の存在……始祖精霊といったところじゃの。

精霊たちの理を超え、世界の理をも歪めかねぬほどの存在。

普通の精霊とは異なり、遥か高次の力を持つ存在」


その説明とともに、ナジャの周囲に漂う微かな光粒が金色に瞬き、神秘的な余韻を残して倉庫の暗がりを照らしているようだった。


その名が放たれた瞬間、倉庫の闇がわずかに揺らめき、光の粒が金色に瞬いて、まるでこの名を祝福するかのように舞い始める。


「汝が求めた力、世界の理すら揺るがしかねぬ力を、授けようじゃないか」


その声は透き通っていて、温かく、同時に計り知れぬ強大な意思を感じさせる。


アルドが息を呑む中、ナジャはアルドの背後に浮かび、その指先をアルドの手首へと重ねた。


その瞬間、アルドの瞳が静かに変化した。


元々は深い緑を湛えていた瞳の色が、淡く白銀色へと滲むように変わり、光を反射して不思議な輝きを放つ。

まるで内なる力が湧き上がり、外界への干渉を可能にした証のように。


そして、奇妙なことに、アルドの手が勝手に動き出し、宙を探るように前へ伸びる。

距離があるため、レヴンには直接触れていないが不思議とレヴンに触れているような感覚があった。

ナジャが誘導するかのようにアルドの指先が虚空を弄るように動く。


「見ていろ……私は汝と共にある。

汝は存在の根底(アルキウム)――魂や精神よりさらに深い、いわば原初の設計図にまで干渉できる。

汝が憎む者を掌中に収めることができるのだ」


レヴンが歯噛みして「何をしているっ!?」と慌てて風の精霊術を放とうとするが、その瞬間、不可視の鎖が彼の精神と体を締め上げた。


「ぐっ……!」


レヴンは急に苦しそうな表情に変わり、膝が崩れる。

術の詠唱が乱れ、風の流れが不自然に揺らめく。

瞳が震え、周囲を求めて泳ぐが、何一つ解決策は見当たらない。


「な、なんだ、この……体が……意識が……勝手に……」


レヴンは己の四肢が自らに逆らうような感覚に戦慄し、声を震わせた。

その様子を見て、Cクラスの取り巻きが硬直する。


「おい、何が起きてるんだ!?」

「レヴンさん!? 大丈夫ですか……!?」


先ほどまでニヤニヤと嗤っていた彼らは、一転して混乱と怯えに満ちた表情を浮かべる。

誰も助けに飛び込む勇気を持たず、言葉を失いかけた声が倉庫内にか細く弾けている。


その間にもアルドの手先は、ナジャの誘導によって虚空を操るように動き続ける。

淡い光が幾重にも重なり、見る者の視界が歪むような奇妙な光が生じる。

金色の粒子が螺旋を描くように舞い、空気が静謐な張り詰めた空間へと変化していく。


次の瞬間、アルドの体が急に崩れ落ちるように力を失う。

膝が折れ、倒れ込むが、同時にレヴンの苦悶がより激しくなる。

光が揺らめき、アルドの中身が抜け出して、レヴンの中へ移行するような不可解な淡い光が周囲を包む。


誰も何が起こったか理解できないが、アルドは存在が溶け合うような感覚を通じて本能的に悟った。


(これは……俺は、ナジャの力でこいつの中に()()()()()いる……!)


そして、これは単なる精神支配ではない、より根本的な存在の置換――

いや、“存在の上書き”に近い、恐るべき能力であることも……。


レヴンは悲鳴を上げたいが声が出ず、半ば開いた口が震えるだけ。

取り巻きたちは一歩も動けぬまま、奇怪な光景を凝視するしかない。

倉庫内には神聖な光が漂い、血と埃の中に奇妙な静寂が訪れた。


アルドは崩れ落ちた自分の肉体を感じながらも、今やレヴンの中へと入り込む感覚を得ている。

無意識の直感で、この逆転劇を理解していた。


(あぁ……この瞬間、絶体絶命の死刑宣告は、復讐の始まりへと変わる……!)

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