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無表情な妹

 目の前には、予め野菜などを定位置に配置してある弁当箱。

 緑しか入っていないスペースの有り余ったショールームに、出来上がった品をフライパンから一つづつ盛り付け、黄色や桃色で着々と彩っていく。

 因みに桃色とかいうと甘そうな雰囲気あるけど普通にベーコンです。だって桃色なんだからしょうがないじゃないか。

 仕上げにメインとなるおかずを広く空けておいた最後のスペースに投入。因みに今回はみんな大好きであろう鶏の唐揚げ。なんと冷凍食品ではなくワタクシスペシャルの手作りで御座います!

 今のご時世これだけでお高いお店で買ったかのようにそこそこ胸張れちゃうのよ。便利になり過ぎたが故ですよね。皮肉なもんですわ。


 トントンと階段を降りてくる音がする。

 17の若造がまるで4、50の先輩方のように時代と世の中の流れを覚え感傷に浸っている…

 そんな何とも言い難い空気に締めが入る。

 「おはよう御座います。兄さん」

 上之花梨。俺の妹。14の中学三年で、所謂受験生。まあ、俺も高校とはいえ三年なので他人事ではなく、年相応の忙しさに苦しんでいる訳だが。

 「おはよう。ご飯作ってあるから食べちゃってくれ」

 俺の言葉を聞くと流れるように席に着き食事を開始する少女。着々と食べ進めていく。常時真顔で。

 彼女はいつ何時でも一切表情を変えない。それどころか、行動にも振れ幅というものが無い。会話の際の口調や声音にも。

 一方此方は料理を全て弁当箱に詰め終わる。携帯用の袋に入れ花梨の分は目立つ場所に置いておく。

 「じゃ、俺はもう行くから弁当忘れんなよ?」

 「はい。いってらっしゃい。兄さん」

 花梨の返事を聞き、適当に「うい」と返しながら鞄と弁当を持って玄関に向かう。

 家を出ると同時にベランダを確認。洗濯物を干してある事をサラッと確認し、不備の無い事に安堵して学舎へ向かった。


 きっと多くの人は、朝自分の教室に入ると愉快な仲間達と挨拶を交わし新たな話題を共有し合うのだろう。

 相手が居ない人?彼らは自分の個性を貫いて良き明日に向けて突き進んでいるんだよ。

 自分にだけは嘘を吐かずに頑張ってるんだよ。カッコいいじゃないか…

 話を戻すと、俺は相手がいる側の人間だ。だから周りの民衆の様にポポポポーンな空間に…

 「よう莎楽。今日は一段と疲れさせる顔してやがるぜ?」

 開口一番これである。クレームに近い嫌味。良い空間になどなる訳がない。

 「それ。休みの無い社畜みたいな顔して。頑張ってますアピールですかー?不快なんで消えて貰うことできますー?」

 普通にイジメ認定されるような事を平気でかます奴らである。

 朝一番に人にする事が顔面批判コメ。こいつら何で学校いんだよ。掲示板に帰れや。帰巣しろや。

 「ああそうだな少なくともお前らみてえな人権アンチ煽りキッズよりはよく頑張ってるって胸張って言えるよ。致死的低レベル発言してるお前らは頑張る事すらできずにビービー泣いてそうだなママに抱っこされてこいよw」

 ワタクシが暴力コメをしないなんて一切言ってませんけど。思いっきりこいつらと同類ですけど何か?何で学校いるんだろうね?

 そんな訳で現在言葉の刃による血みどろのデッドオアアライブが展開されております。

 会話が耳に入った周囲のクラスメイト達は、「殴ったりしないよね?」などと不安の声を漏らす…

 という訳でもなく、「またかよアイツら…」と完全に呆れムーブである。

 「「「フフフ…」」」

 3人を取り囲む空気は歪みを増していき、今にも拳が飛びそうな雰囲気…普通ここまで来ると少し警戒し始めるものだ。

 しかしクラスメイト達は違った。一切気にかける素振りを見せず楽しいモーニングトークに戻ってしまっている。

 それ程までに彼らは肝が据わってしまっているとでも言うのか。険悪さを極めるムードの中、冷戦状態は臨界点に達し、3人の間に開戦の焔が上がる…

 「…そんで莎楽、俺化け学のノート失くしちまってさ…今から速攻で写すからお前の貸してくれよ?」

 と言う訳ではない。これもう何回目か分からない。

 あれだけ暴力沙汰の予感を焚き付けておきながら、まるで忘れたとでも言うようにノート貸与の願い出。

 「100万。「酷くね?」…冗談」

 切り替えが激し過ぎて直視できない。俺でなきゃ見る気すら失せるね。そりゃ皆んな放置決め込みますわ。

 そんな俺たちにクラスメイトが呆れの意味で真心を込めて付けてくれたグループ名が「2/3ちゃんねる」。

 朝一で掲示板みたいな言い合いを始めたかと思えば、何事もなかったかのように仲良しムーブを始めるからだそうな。

 何その誰も見ない動画投稿チャンネルみたいなネーミング。それではイかれたメンバーを紹介するぜ!…本当にイかれてるんだよな…

 まずはワタクシこと上之莎楽!特に言うこと無いので次!土屋章樹!暴走族!アホ!超絶ウルトラスーp…「ゴフッ」

 「何すんだよお前…」

 いきなり腹パンされました。訴える権利あると思うのですが…

 「…何となくお前に滅茶バカにされた気がした」

 何で分かんだよエスパーかよキモッ…

 「お前聖典を貸し与えた恩人にこんな仕打ちするかよ…てかどうせ面倒でやってねえだけだろ」

 俺の言葉に土屋は顔を引き攣らせる。

 「ノート如きを聖典呼ばわりするか普通…?あとバカにしたことは否定しねえのな」

 は?土屋如きが鋭いんですけどキモ過ぎだろ。遂にコイツキメやがったか?葉っぱに手を出したか?

 …と思ってたら案の定拳が飛んできた。やっぱコイツキモ過ぎだわ。俺と同じ闇の脱力者の癖に超常に昇華してんじゃねえよ。

 因みに拳は当然避ける。誰が好き好んで攻撃喰らうかバーカ。てかはよ写して返せや。

 そして最後のメンバー!雲坂舞!口が悪く男二人組に着いて回る妙な女!要はヤベエ奴!

 …念の為拳や蹴りが飛んで来ないか警戒。だが異変は感じられない。大丈夫そう…

 何か睨まれている気がする。本人は土屋の方を向いていて表情も穏やかだが謎の圧を感じる…いつからここは超能力者の養成所になったんだ。

 「おはよう御座いまーす。ホームルームするから座ってー」

 異様な性質を見せる二人にそこそこ恐怖感を抱いていると、朝から声を張り上げて我らが担任が顔を出してきた。

 その声をしかと聞き入れた生徒一同はそれぞれ即座に己の席へと着いていく。

 「えと…今日の6限数Aだと思うけど小テストあるってこの前言ったよね?それで…」

 小テスト…たった一人がこのワードを発しただけでこの場の温度がかなり下がる。

 「クソムズいんだよな桐山のテスト…どうせ欠ったら居残りだし…ねえわ」

 土屋が堪らず愚痴を溢す。小テストがあること…まあそれも普通に面倒だが問題はそこではない。

 彼女…桐山夏実の担当する科目である数学Aの小テストは難易度が極高であることで知られており、彼女曰く大学入試を視野に入れて構成されているという。

 しかし明らかに入試で済む…というより目指している大学のレベルがバグっているというのが生徒等の共通認識である。

 頭のネジが数本外れているのではなかろうか。やってる事は育てる気など一切ない一種の拷問だ。

 「うん。因みに私が欠ったらアンタも道連れだから」

 雲坂がとんでもない事を言い出した。欠ってなくても自分が補習になれば付き合わなければならないらしい。冗談じゃない。

 「はあ?何で俺がんな事しなきゃいけねえんだよ!一人で「はーいそこ?」やってろよ」

 当然土屋は抗議する。しかしその声に苛立ちを覚える担任が強いプレッシャーを放っている。

 「今ボクが喋ってるんだけど。邪魔するようなら補習確定だから」

 なかなか重い刑罰である。補習の理由が先生の話を遮ったからとか情けなさ過ぎる…普通に引く…

 因みに担任の一人称はボクで、所謂ボクっ娘という奴である。漫画や芸能人のキャラ付けでしか存在しないと思っていたが、意外とそうでもないらしい…これが多様性というやつか…

 「はあ…癒されたい…」

 …と、土屋は癒しを乞うているが面白いのでスルーする。この後雲坂は本当に補習になり、土屋も結局欠点になり補習になった。

 しかし何故か担任は欠点を回避した俺まで残れと言い出す始末。

 理由を問うと二人と仲が良いから運命を共にしろとの事。冗談じゃない。頭沸いてんじゃねえのクソちび男の娘が…

 と思っていると笑顔だが高圧力なプレッシャーを掛けてくる。だから何で今日超能力者ばっかなんだよキモ過ぎるって!

 てか絶対補習を全員分見るのが怠くて手伝わせたいだけだろ…教えるのも勉強ですって?喧しいわ!

 因みに終始困惑する俺を悪友2人はそりゃ楽しそうに笑っていた。どうせなら補習の時に思う存分締め上げるか…

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