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タイプじゃないって言わないで!

作者: もよん

 婚約が決まった。

 彼の容姿は客観的に見て、とても整っていると思う。

 けれど、私に対して何とも当たりが強いように感じる。

 不機嫌………というより、怒っているような態度なのだ。


「リバルド様。今日はいいお天気ですね」

「あぁ。そうだな」

「そう言えば、今度のパーティー。楽しみですね」

「あぁ」

「ドレス何色にしようかしら。一緒に選んでくださる?」

「分かった」


 素っ気ないと言うより、怒っている。 けれど、理由が分からない。そもそも、婚約するまでは、ろくに会話もしたことなかったはずだ。


 パーティーに着ていくドレスの候補が3着用意でき、家族にリバルド様と選ぶよう言われ、試着しては彼に見せた。

「あぁ、良いと思う」

 3着ともそんな投げやりな返事だった。3着目の青いドレスを見せ終わったあと、私はため息を漏らした。


「そう………ですか。どれもお気に召しませんでしたか?」

「どのドレスも良かったと言ったじゃないか」


  彼はソファーに組んだ足を、軽く指でトントンとしながら答えた。 私は彼の正面のソファーへ、腰を下ろした。


「婚約した時から思っていました。リバルド様、私に何か思う事があるのではありませんか?」

「別にそんなものない」

「では………どうしてそんなに苛立ってらっしゃるのですか?」

「苛立ってなどいない!」


 そう言いながら、声は先程よりもつっけんどんだった。


「そうでしょうか。私には信じられません。もし、私が気に入らないのであれば、今おっしゃってください。婚約を解消するため、両親の説得に尽力するとお約束いたします」

「はっ? だから、違うと言っているだろ」

「ですが………」


 顔をそらした彼は、私と話しもしたくもないと言っているようだった。


「はぁ………。分かりました。私が嫌です。私が不機嫌なリバルド様と、結婚してやっていく自信がありません」

「なっ!?!?」

「婚約は無かったことにしたほうが、お互いの為だと思います」


 そう言うと、リバルド様はわなわなと震え、うつむいた。 何か言っているようだが、聞き取れず「えっ?」と、聞き返すと


「どうせ私なんか、ジュリエッタの好みの男じゃないと言ったんだ!!」  


 私はぱちぱちと、目を瞬かせた。


「どう言う………ことでしょう?」

「知ってるんだ! 君の好みは、あの金髪の伯爵令息だろ?」


  伯爵令息の彼とは、社交界で令嬢たちを虜にしている彼のことだろう。 甘い顔立ちに、金髪、青い瞳は、まさに絵に書いたような美男子だ。


「いえ………、特には」

  伯爵令息の彼は、女性たちの憧れで、素敵な方という印象はあるが、好みかと言われるとまた別だ。


「嘘だ!! ちゃんと聞いたんだからなっ」


 リバルド様曰く、私が友人と伯爵令息の彼について話しているのを耳にしてしまったらしい。


「甘く下がる青い目が良いだの、輝かんばかりの金髪が羨ましいだの。対応が細かで優しいだの………。優しい対応くらいなら、私だってジュリエッタにはできる!!」


 できてない。

「出来てないじゃないですか」


 思うと同時に、言葉が口から漏れていた。 しまったという顔をしたら、こちらの瑕疵を咎められそうだったので、すましておくことにした。 幸いにも、リバルド様は驚いて固まっている。申し訳ないが、ここで更に困惑して貰うことにした。


「笑いかけてもくださらない。話しかけても、ほとんど相槌だけ。まるで怒られているように、いつも感じていました。どこが私に優しく出来てるんですか」


 リバルド様は誰に対しても、ドライな印象がある方だった。 それでも、婚約者になれば、多少その印象も変わると思っていたが、間違いだった。

  ここまで言い切って、正気を取り戻したリバルド様に生意気だと怒鳴られては敵わない。怒った風を装い、部屋を出ることにした。


「それでは失礼しま」

「待て」


 終わった。呼び止められてしまったので、勢いのまま部屋を出る案は消えた。


「それをしたら………。ジュリエッタの言ったその行動を取ったら、私のことを好きになるか?」


 それ以上のマイナス的部分があれば無理だが、私はとりあえず話を合わせた。

「まぁ、今の態度を取られるよりは、好きになると思います」

「分かった。ジュリエッタ………。失礼な態度をとって、すまない。わ、悪かった」


  恐らく………。 恐らくだが、リバルド様は口角を上げて笑ってみせたのだと思う。彼の顔が整っていて良かった。凡庸な顔であれば、変顔になっていたかもしれない。 彼の顔の良さのおかけで、ぎこちない笑顔? なんだろうと、察することができた。


「これからは、もっと配慮できるよう努力するから………婚約解消は駄目に決ま………婚約解消しないでくれないか?」


 私はふむ、と少し考え、彼の隣へ座った。

 リバルド様の体がビクッと跳ねた。


「本当に? 本当によろしいんですか? もうリバルド様の怒った態度は嫌ですし。リバルド様も私になにか不満があるなら今のうちに」

「近い!!」

 彼の顔をまっすぐ見て、話していたら、叫ぶようにそう言われ、手で距離をとられてしまった。


「そんなかわいい顔で、人をじっと見るな! 照れるだろ! 小さな口を動かして、いつもより眉をキリッとさせて! ジュリエッタは、真面目な顔も可愛すぎるから駄目だ!!」


 キレてるのか。怒っているのか。内容だけよく聞くと、褒められているのか………。なんなのか。

 私の頭はハテナでいっぱいだ。信じられないが、ひとまず、照れ隠しだろうと結論付けた。


「リバルド様………」

「なっ、なんだ!?」

「私のこと、好きですか?」

  とりあえず、先程よりは離れ、彼の胸のあたりを見ながら尋ねた。


「すっ………!? きっ、嫌いじゃない!! 全くもって嫌いじゃない! 嫌いの反対だ!」


  そのあとも、似たような言葉が止まらないリバルド様を見て、彼のイメージがガラガラ崩れていく。 三白眼気味の目つき。引き結ばれた唇。 黒っぽい髪色に、赤褐色の瞳。 もっと、クールで大人なイメージだった………違ったようだ。


「ジュリエッタが私のことを、落ち着いて、しっかりした人に見えると、言ってくれてから! 君のことを好ましく思っていた!」

  言った………かもしれないが、本人に直接言った覚えはない。


「ダンスが得意ではないのに、誘いが多くて、断わっていたら、スカしてるや、鼻持ちならないと言われ放題で、参ってた時。庇うように言ってもらえて、嬉しかった」


「………またどこかで私の会話を聞いてらしたんですね」

 伯爵令息の彼の時のように、また私の話は聞かれていたのかと、遠い目になった。


「違う! この日は偶然だった! この日から 、君の話が耳に入ってくるようになっただけだ!」

  私が気づいてなかっただけで、リバルド様は結構、私の近くにいたんだろう。


「やっと、君との婚約話が進み始めたと思ったら、君は伯爵令息の彼がタイプだと言うし」

  リバルド様は、イジイジと拗ねた顔になった。

 

「相槌は打っていたかもしれませんが、好みのタイプとは言ってないと思いますよ」

「本………当か?」

 疑いつつ、期待するような瞳を向けられ、子どもっぽい表情に微笑ましくなり「えぇ」と、少し笑いながら返事をした。

「なら! なら私は、ジュリエッタのタイプか!? 金髪でも青い瞳じゃなくても!?」

「金髪でも、青い瞳でなくとも。リバルド様は素敵じゃないですか。ご自身でも良く、ご存知でしょう?」


  多くの女性たちの視線を集めているのだから、見目の良さは本人だって嫌でも自覚しているはずだ。


「………好きな人のタイプじゃなければ、意味がない。だって、好きになってもらえる要素がないと、始まりもしないじゃないか」


 そうなのかもしれないが。リバルド様に言われるのは、贅沢過ぎる気がする。

 

「私が君のタイプじゃなきゃ、君が妻になってくれても、私から離れていくかもしれない。他の男に目移りしたり、盗られたり。捨てられたり………」


 私と婚約したあとも、不安や、嫉妬を抱えていたんだろう。失礼な態度を許す訳では無いが、どうしてその態度になったか、理由は分かった気がした。


「何より。ジュリエッタは私のことが好ましいから、庇ってくれたと思ってたんだ。それが、伯爵令息の彼がタイプだと分かって裏切られた気持ちになった」

 彼は、少々子供っぽく、ヤキモチ焼き、嫉妬深そうだ。


「そうだったんですね。1つ言うなら私は、怒ったように話す方はタイプじゃありません」

「………悪かった。良く分かった」

「私は私のことが好きで、私の事を想いやってくれる方がタイプです」


「………!!! 任せてくれ! それなら自信がある! 私が適任だ! 私が1番むいている!」


 いつのまにか、リバルド様に手を取られ、熱弁されるように言われた。


「ふっ………フフッ! ごめんなさい。 あまりにも頼もしい、お言葉についっ」

  話しながら、笑いがこらえきれてない私を、リバルド様が私をジトッと睨むように見た。  


「笑いすぎだ。可愛いが、少し………面白くない。

なぁ」


  リバルド様が言葉を区切ると、私の握られた手は彼の顔へと引き寄せられた。


「タイプじゃないって、言わないでくれ」  


 リバルド様の唇が、私の手の甲に落とされる。 少し上目遣いの彼は何とも様にも、絵にもなっていて。 言葉をを失くし、赤くなった私を見て、リバルド様は満足気に微笑んだ。


「とりあえず、ドレスだな! ジュリエッタが可愛いから、どのドレスも似合っているのは、前提として。青いドレスはあいつの瞳を彷彿させるからやめようか?」


  リバルド様は晴れやかな笑顔で、そう言ってのけた。 先程の下手な笑みの面影は、全く無い。不穏な発言が霞んでしまうほど、きれいな笑顔だった。



 それから徐々に

『私のことが1番タイプだと言ってくれなきゃ嫌だ!』

 と、駄々っ子のような台詞に変わることになるのだが。

 この時のジュリエッタは全くそんなこと、露ほども知らないのである。



ー完ー

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