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一話 俺のラブコメ作戦

 「新しい季節、新しい学校ってのは、まるで新しい自分を迎えてくれているようだな」


 暖かい春風を感じながら、俺は外の空気の感傷に浸っていた。

 そして桜の木を見上げてみるとそこには・・桜は咲いていない、というかきれいせっぱり桜の花が散っていた。


「まあ、もう六月だからな。そりゃそうか」


 まあ桜なんて四月には枯れてることも多いしな。

 そもそもこれ桜の木なのか?梅の木とかもなんか似てるからわかんねぇな。

 それに六月の風って春風って言えるのか?

 そんな意味のないことを考えながら俺は新しい通う高校、東部高校へ向かっている途中だ。

 

「よし、そろそろこのへんだな・・」


 俺はカバンの中からあるものを取り出した。

 ・・それは食パンだ。この道には人がぶつかりそうな曲がり角がある。まずそこを通って・・


「これを口にくわえてっと・・いっけなーい!ちこく、ちこくぅー!!」


 俺は引き返して、その曲がり角目指して駆け抜けた。

 これで美少女とぶつかってフラグを立てるのだ。ラブコメにはべたべたな展開だな。

 このためにわざわざ遅刻ギリギリの時間を選んだのだ。

 ・・断じて迷走してるわけじゃないぞ。断じてだ。


「・・兄貴、何してるの、ほんとマジで・・・」

 

「こ、梢・・なんでこんなところに・・・」


 なんと曲がり角には、美少女がいました。・・妹だけど。


「いやあたしもこの道通学路だから。ていうか、こんなことするためにわざわざ何分も玄関で食パン握りしめてたの?怖いかったよあれ。正気の沙汰じゃないよ・・」


 そんなことを言いながら梢は遠い目をしていた。完全に諦めの目をしているなこいつ。いやごめんよこんなお兄ちゃんで。


「てかクソ、なんでこんなことしたの?」


「おい、兄貴がぬけてるぞ。それじゃあお兄ちゃんただのクソじゃん。うんこじゃん。それにこんな汚い言葉を女の子g」


「な・ん・で・こんなことしたの?」


 もうヤダ怖いよなんで実の兄をそんな怖い目で睨みつけるの?梢さんそんな目で俺を見ないで・・

 ―俺は正直に包み隠さず事の経緯を梢に伝えた。

 話の途中で何言ってるのこいつとかこれが兄なのが恥ずかしいとか言いたげだったが気にしない。


「そもそもさ、そういう食パンくわえて走るのって少女漫画なんじゃ・・」


「・・・」


 そうさ気付いていたさ、でもここまでした以上後には引けなかったし。それに・・


「女が出来るんだから漢の俺ができないわけないじゃないか!」


「出たよその謎理論、男尊女卑ってやつ。今いろいろと繊細だからそういうことあんま言わないほうがいいよ。それに話聞いてる限り普通に意味わかんないし」


 梢は溜息をつきながらそう言った。

 はぁ、曲がり角美少女大作戦はどうやら失敗だったようだ。


「って時間やば!マジで遅刻する!」

 

 俺はそういえば自分が遅刻ギリギリなことを思いだした。


「梢は時間大丈夫なのか?」


 その心配は無用だったようで


「いやあたしの学校もう近くだから。母校の場所も忘れるなんてどんだけバカなの?」


 そういえばそうだった。

 俺はこみ上げる怒りを原動力に梢を無視して学校へ走り出した―


 ―学校にはギリギリではあったが何事もなく無事につくことができた。

 職員室によって軽い手続きを済ませた後、担任の先生と共に教室へ向かうことになった。


「緊張するなあ」


「佐藤、そう固く並んでもいいぞ。こういう時はリラックスだ」


 俺の様子を見た担任がそう助言してくれた。

 若干老けてはいるが黒髪のポニーテールが似合うきれいな人だと思った。


「私の名前は白藤(しらふじ)(いさみ)だ。勇気の勇と書いていさみだ。よろしくな」


「なんか強そうな名前っすね・・あ、俺は佐藤拓海です」


「知っている。しかし強そうか・・まあ学年主任兼、生徒指導でもあるからな権力的な意味で言ったらこの学校では強いかもな」


 白藤先生はそう淡々と答えた。


「そんな重役を任されるなんてすごいっすね・・」


 長いことこの学校に就任してないとそんな重役任されないだろう。いったいこの人歳なんだ?


「おい佐藤、お前失礼なこと考えているだろう」


 そう眼光を光らせながら白藤先生は言った。


「い、いやあ、別にそんなこと考えてなんていないですよ?」


 怖えぇ、この人あれだな、うん、怒った時のうちの母さんに似てるわ。


「なぜ疑問形なんだ・・はあ、君は君の父に似ているな」

 

「親父のこと知ってるんですか!?」

 

「いやまあ、君の父ってよりは知っているのは母親のほうだ。私にとって君の母は、いわゆる高校の時の先輩ってやつだったのだ」


「どうりで・・」


「どろりで・・なんだ?」


 いやだから怖いよこの人。それにしても驚いたな。母さんの後輩ってことはこの人もきっとスケバンだったんな。

 この目つき間違えない。怖いし。

 そっかぁ、悪から足を洗って教師に・・きっと壮大な感動ストーリーがあったに違いない。

 俺も公正してこのような人に役立つことを・・・そんな尊敬のまなざしを白藤先生へ向けていると


「悪いが、別に私もヤンキーだったわけじゃないぞ」


「えぇ!?・・・なんだそっか。違うのか。」


「君はほんとに失礼な奴だな。まあそのなんだ、あまりがっかりするな。さすがの私も少し傷つくぞ・・」


「すみません・・」


 何とも言えない微妙な雰囲気になってしまった。

 なんか空気悪いな。俺のせいじゃないぞ。まあ少しは悪かったかもだけど。ほんのちょっとだけ。


「ごほんっ、そろそろ教室につくから準備しなさい」


 白藤先生は咳払いをして、俺に教室に入る準備をするように促した。

 

「は、はい」


 俺は軽く返事をしてから、気持ちを落ち着かせようとした。

 新しい自分、新しい生活、そして新しいラブコメが今始まろうというのだ。

 可愛い女の子とたくさん仲良くしたいな・・カラオケして、ボーリングして、ランチやディナーなんかもしちゃったりして・・・映画やイルミネーションなんかも雰囲気あっていいなぁ。ふふふふふ。

 そんな期待を胸に膨らませ俺は教室のドアを開けた―



 ―確かに期待した時があったのだ・・


「なぜだ!なぜこうなったぁ!」


 気が付けば俺は一人、屋上でお昼ご飯を食べていた。


「俺の求める学園生活はこうじゃない、こんな寂しいのは嫌だよぉ・・」


 俺は泣きべそをかきながら今までのことを思い出していた―


「初めまして。佐藤拓海です!よろしくお願いします。」


 俺は話しかけられやすいように愛想よく自己紹介をした。

 そのかいあって最初はもう体は大丈夫なのか?とかこれからもよろしくねーとかみんなが話かけてくれていたが、それはほんとに最初だけで、今では特別仲のいい奴なんて一人もいない。

 やはり二か月というハンデは大きかったようで、そのくらいの時間があれば人間関係の構築はもう終わってしまっているのだろう。


「話せる奴はいるけどいつも昼飯とかはグループで固まっちゃうからなぁ・・はぁ、今んとこの癒しはこの開放的な空気と鳥のさえずりを聞きながら屋上で昼を過ごすことかな」


 基本的学校は屋上には行けない。それはこの学校も例外ではないが一か所だけ屋上へ続くハシゴがあるのだ。

 いつの間にか屋上は教室に居場所のない俺にとって癒しの場所になっていた。それはそうと、


「今日もいるなあの子・・」


 どうやら屋上は俺だけの場所ではないらしい。

 

「あいかわらず可愛いなぁ」


 そこには、背の低い栗色ボブの美少女がいた。赤スカートってことは一年、同級生だな。

 東武高校では学年ごとの色というものがあり上履きのほかに女子はスカートの色で区別することができる。一年が赤、二年が緑、三年が青といったように。まあそれはともかく、この美少女を見て俺はあることを思いついた。

 こんなところで昼飯食ってるなんて俺と同じような理由に違いない。はぐれモノ同士仲良くなれるかも・・それに


「まずは友達からだ。この子に友達になってもらおう!こんな美少女と友達になれればラブコメだって夢じゃないだろう・・よしっ」


 俺は緊張しながら今までの練習を思い出したラブコメの告白シーンで何度もセリフを復唱してきただろう!今まさにその練習の成果を発揮するとき・・!!それにただ俺と友達になろうというだけだ。

 告白するわけじゃないし簡単な話ではないか。


「あの、俺と・・・付き合ってください!!!」


 あれ?あ、あー、こりゃやばいなぁ。言い間違えた。

 あーあれだな、うん、練習の成果がよからぬ方向で発揮しちゃったな。

 俺は諦めモードで放心状態になっていると・・


「いいよ」


 え?なんて言ったのこいつ?

 え、うそでしょいやいや聞き間違えかもしれないし・・


「・・えと、なんて?」


 笑顔で俺がそう聞くと・・


「いいよっ!」


 その美少女も満面の笑みで告白の返事を返してきた。


 ・・・今回のラブコメ作戦の成果・・・・彼女が出来ました。あれこれもう俺のラブコメ学園生活終わってね?







最後まで読んでくださりありがとうございます。☆をくれると嬉しいです!

ゆっくり更新していくので、楽しく読んでくれると幸いです。

これからもよろしくお願いします。

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