ごきげんよう
そこで、『お姉さま』のアタクシに一同の視線が集中する。
どうする私?
カテーシーで返す?
普通に挨拶する?
乙女ゲームなら、初めの大切な選択だけど、乙女ゲームじゃないから、ここは高校生の挨拶って奴を見せつけてやらなきゃいけないんじゃないかしら?
私は辺りを見渡した。
混乱気味の校長先生…痩せて少しせわしなく動く体が、女子高の校長経験者って感じがしたわ。
何かの本に、女子高で若い女性に囲まれていると校長先生も神経質になるって書いてあったの。
本当かどうかはわからないけど。
で、横のソファに座るのは着物姿の元文芸部部長…天竜先輩のお母さんが座ってるの。横にいる、作業服姿のオジサンは、多分、商工会の人みたいだから、この場合、温泉女将会、会長として座ってるんだと思う。
なんか、お金の臭いがしてきたー(・∀・)
ドキドキしてきたわ。
やはり、あの噂は本当なのかもしれない。
なんかね、うちの文芸部と自治会の人達でイベントをするとか…そんな噂があるんだわ。
うまくいったら、色々、備品が買ってもらえるかもしれない(>_<。)
ホント、文芸部って、予算つかないし、ネットやパソコン関連の予算は却下される。バカッターがどうとか意味不明な説教が飛び出して色々とうるさいんだもん。
うち、ネットの文芸サイト投稿だって、去年、やっと許可がおりたのよ。
もう、そんなビビらなくても変な事はしないし、大体、スマホで勝手にみんなあげてるのに。
なんて、文句も出るけれど…今、考える時じゃないわ。
欲しいものは沢山あるわ。製本するためのプリンターや挿し絵の為のアプリ…
お金はあったにこした事はないのよ。
さて、どうしよう?
こうなると、後輩のカテーシーの意味も気になるわ。ついでに、私がのらなきゃ、彼女たちがかわいそうよね?中二病なんて言われるかも。
とはいえ、私のスカートじゃ、カテーシーなんてしたら、スパッツがチョロ見えしちゃうから上手くない。
天竜先輩のお母さんは、少女歌劇がお好きだったはず。
と、こんな事を高速で考えて、私は背筋を伸ばし、美しく…美しいと思い込めるくらい気合いをいれて、優雅に左胸に上品に右手をのせた。
本当はね、手を突き出す敬礼、ローマ式の敬礼が古くに馴染みがあったようだけれど、ナチスのイメージが強くてアメリカではルーズベルト大統領が胸に手を当てる方式に変えたんだって。
確かに、ここで手を突き出してローマ式の敬礼なんてしたらドン引きされるわ。
とにかく、ここで大きく…こっそりと空気を吸い込み、ハンサムな私に変身する。
古代アマソネスの戦姫の様に凛々(りり)しく微笑みを浮かべる。そして、なんか即興でいい感じのセリフを発したの。
「葉月さん、弥生さんごきげんよう。校庭に浮かぶ羊雲はご覧になりましたか?とても爽やかな秋晴れの午後ですね。」
私、密かに声優を目指してるのよね。
で、美少年の声は得意なんだ。この学校、演劇部が無いから、文芸部に所属してるんだけど。
家族や商店街のイベントで披露してるから、メンタルは強め。そして、少しだけれど私にはファンもついてるのよ。
ほら、天竜先輩のお母さん、ちょっと、嬉顔になるの、止められてないもん。
後輩たちも…デレてるなぁ…。大丈夫かな。