校長室
有明先輩は気になったけれど、校長室のドアの前に立つと一気に忘れてしまった。
お婆ちゃんの学生時代からそこに存在していたらしいクルミ材の見事なドアの前で先生が一度、身なりを整えた。
私もそれにならってスカートを下に引っ張って膝小僧の辺りまでもってゆく。
校長先生は、そんな固い人じゃないけど、ミニスカでソファーに上品に座るのは難しいのよね。うちの校長は女子の制服の乱れが気になるタイプなのよ。
最近、ネットニュースでは教師の不祥事の話題が増えてるし、ここの高校、若い男の先生も多いからなのかもしれないけど…まあ、校長の気遣いは私的には悪い気はしないわ。
プリーツスカートは裾が乱れやすいから、スパッツがチョロ見えしたりすると上品ではない。こう言うところは最低限、気にしてあげないと。
ついでに、中に誰がいるかも分からない。
PTAとか、お母さんの知り合いとかがいて、なんかあったら面倒。
その予想を確定するように、あやりん…文芸部顧問の彩乃先生は私を軽く睨む。睨むと言うか、なんか、緊張してる。
「八乙女さん、いきますよ。」
いきますよって…誰がいるのか話してよ。
と、言いたかったが、ドアがあく。『ええぃ、ままよっ』なんて、昔の時代劇の台詞を心で叫んで中に入る。
頭を下げて、なかを見ると…そこには、なかなか香ばしい面々が座って要らした…
が、ビビったのは私だけではない。
私の中学の後輩2人がピョコンと顔をあげ、私を見たとたん、パブロフの犬のように立ち上がり、スカートの裾を左手で軽くつまみ、片足を引いて上品に西洋風の敬礼を…カテーシーと言うやつを私に向けてやらかした。
私の母校の中学は…ジャンパースカートと丈の短いジャケットの制服なので、スカート丈の平均は長めだ。が、彼女たちはそれより結構長い膝丈20cm。
細身の体にまつわるようにタップリのスカートは、持ち上げられると上品に彼女たちのシルエットに華を添える。
右側の長い黒髪の少女、南紗由理は、日本人形のような美少女で、こういうお嬢様趣味な少女である。
彼女の祖母が、お茶の先生とかしているので、紗由理は甘やかされてお嬢様路線を爆走して育った。
なんか、年配女性に愛され、使えもしないファンタジースキルが高い。
そんな彼女が、こなれた感じで上品にカテーシーなんてやるもんだから、校長先生を含め…私すら、それを見とれるしかなかった。
紗由理は開きかけの寒椿の様な唇で続々するような甘い声で、こう言った。
「ごきげんよう。お姉さま。」