小説練習(ある楽曲の小説化)パクったくせに完成度は微妙
序章
雨の降る中、僕の家の前で「君」は立っていた。
下を向きびしょびしょになり、震えながら立っている「君」の顔を僕はいつも通りそっと覗き込む。
雨の中立って僕を待っていた時点で何かがあったのだろうとは思っていたが、何の感情も示さず、疲れ切ったその顔に、僕はこれはまずいと直観させた。
僕の体が勝手に動き、「君」を家の中に引き入れ、お風呂に入れる。
何も言わずにお湯を浴びて帰ってきた「君」は、寒くないだろうにも関わらず、未だに手を震わせていた。
勇気を振り絞ってた尋ねる。
「何かあったの」
しばらくの無言の後に「君」は口を開く。
「人を殺したんだ」
もともと弱弱しかったその声は事情をしゃべるにつれ、しゃくり声が混ざり、話が終わるころには嗚咽の音だけが部屋に響く。
それは罪の告白だった。
昨日、「君」は事故でいじめっ子を殺した。
学校の端にある教室でいじめられていた「君」はあまりの痛さに耐えかねて思わずいじめっ子を突き放した。
突き放してよろけたいじめっ子は、その先にあった机の角に頭をぶつけ、動かなくなった。
正直あいつが死んだことを聞いても僕の胸には何の感情も生まれなかった。
当時の僕は死についてそれほど深く考えていなかったというのもあったが、目の前で泣いている「君」がこれから捕まってどこか遠いところに行くだろうということだけが僕の中のすべてを占めていた。
「君」がこれからどうするのかだけが心配だった。
「これから...どうするの」
君は無言でうつむいて、泣き始めた。先のことなんて全く考えていられないようだった。
背中を撫でて無言で隣にいた僕は泣き止むまでの半時間ほどの間必死に考え続けた。
僕は「君」と一緒にいたい。その一心だった。
「一緒に逃げよう」
それを聞いた「君」はしゃくりあげるようにうなづいた。
part1
そこからは早かった。
必要そうなものは入るだけカバンに詰め込んだ。
幼いなりにも大事なものは分かっていた。
昔何かの本で雨は体力を奪うと聞いたから雨合羽も入れた。何が起きるかわからないのでナイフも食料も入れた。
生きるのに最も必要なお金は「君」の家から盗んだ。まともに親をしていないのだからこれぐらいいいのだと僕は思った。
出発する段になって、「君」と色々話し合った結果、「まずは遠くに逃げなきゃいけない」ということになった。
「君」は、自分が犯人だというのはすぐに特定されるだろうといった。
「僕がいじめられているのは、みんな知ってるし、死体が見つかったらすぐに僕が犯人だと気づくと思う」
「なら早く遠くに行かなきゃいけないね」
「君」はうなづいた。
そこからは歩き続けた。歩き続けるほかになかった。
人目を避けて、人通りの多い駅などは避けて、いろいろな道をただひたすら北に歩き続けた。
part2
初めての窃盗
part3
全国指名手配
終章
まだ雨は降り続いている
雨合羽は擦り切れて、ボロボロになってしまっていたので、雨を防げる適当な場所であまり余裕のない食料・水を消費し、生きていた。
僕たちはもう完全に限界だった。
世界の全部が敵に見えていた。夜寝ているときに聞こえる音は大人が追いかけてくる足音のように思え、眠れないし、昼間はその限界状態で街に降り、いかにもみすぼらしい格好で怪しまれながら食べ物や水を盗まなければいけなかった。
体力がなくなるにつれ次第に進む距離が落ち、進む距離が落ちるごとにその周辺の街では逃亡中の子供がいるという噂が大きくなる。
噂が大きくなると、警戒度合いも大きくなり、盗みを成し遂げる前に大人に追いかけられることも多くなる。
街に入って早々に追いかけられると、体力も失うし、盗めるものも減ってくる。
どんどんと暗い未来が近づいてくるようだった。
それでも、「僕たちは進むしかない」と僕はそう思っていた。
でも、「君」はそう思わなかったようだ。
ある朝、「君」はいなくなっていた。
荷物のほとんどは残っていたが、ナイフだけがなくなっていて、書置きに一言「巻き込んでごめんね」とだけ書いてあった。
少し途方に暮れて、どうやら「君」が死ぬつもりだということに気づいた僕はすぐに僕は街に降り、警察に駆け込んだ。
そして、すべてを話し、探してもらえるように頼み込んだ。
警察のおじさんはうなづいてくれた。
次の日の朝が来た。 何の知らせも来なかった。「君」の死体がみつかったとも、「君」を捕縛したとも何も。ただまだ見つからないとだけ言われた。
数日経っても、数十日経ってもそれは変わらなかった。
2か月が経って、警察は捜査を諦めた。僕に警察を責めるような発想はなかった。もうすべてが絶望的なのだと、頭の中の僕が言っていた。
その二か月の間、僕は盗みを働いた店に頭を下げて、盗んだ分のお金を返す。そういうことを何十回も繰り返した。「友達に連れられただけの被害者」だというストーリーで親は話を進めた。ほとんどの店の人は状況を聞いて比較的好意的だった。盗んだものは一件当たりでは少額だし、数か月も世の中を騒がせ続けた子供だということで根性のあるガキだと感心されたのかもしれない。
謝罪が終わった後、僕は学校にまた通うことになった。
クラスの中では僕はちょっとした英雄だったが、正直どうでもよかった。周りに何を言われようとも、クラスの中で空いた一つの席が常に頭の中で意識されていた。
いつまで経ってもその席に誰かが座りに戻ってくるようなことはなくて、机に入ったプリントだけが時間の経過を僕に教えてくれた。
冬休みが明けたころにはその席ももうなくなっていて、僕は思わずへたり込んで、泣いてしまった。
24歳の僕から
もう「君」がいなくなってから15年が経とうとしている。
今年も6月が始まって、もう9月が終わろうとしている。
僕はこの季節が来ると、「君」がある日ふっと帰ってきてくれるんじゃないかと思って毎日朝を迎えるんだ。
「君」がどこに行ってしまったのかわからないけど、僕は待ってるから
9歳の「君」へ