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第2話 後方腕組み最古参ヅラする所存!

 か、飼い主……。

 かか、かかか、かい、かい、かぃ、ぬ、し……。かい、ぬしぃぃぃぃぃ~~……。


『禁断症状が出てる……』


 中ボスの念話が遠巻きに聞こえるも、吾輩、全く反応する気になれず。

 我がダンジョンが『攻略難易度SSS』に格上げされて、早くも二か月が過ぎた。


 一人も、来ない。

 この二か月、誰も来ない。攻略しに来ない。探索者が、来ない!


『にゃあぁぁぁぁぁ~~~~んでェェェェェ~~~~……』

『だから言ったでしょ。こんな山奥の最高難易度ダンジョン、誰も来ないって』


 寝心地62点の場所でゴロゴロ転がってる吾輩に、ポツィがそうのたまう。


『黙れ黙れ! 元々、ここは難易度SSだったではないか! 大して変わらんだろ!』

『そーですね。だから毎月二桁もいなかったんですけどね。攻略挑戦者』

『しみじみ言うでないわァ~~~~!』


 フシャ~ッ! 吾輩、寝ながら全身の毛を逆立たせて、フシャ~ッ!


『せめて立ってやってくださいよ、その威嚇……』

『めんどい』

『だらけボスニャンコがよォ~……』


 猫に働けというのがそもそもの間違いなのだ。

 吾輩の本能が告げている。猫とは、寝て遊んで食べて怠けてだらけてこその、猫!


『そもそもですね~、ダンジョン猫様』

『何じゃい』

『あんた、人に飼われたいって言ってますけど、ダンジョン猫でしょ? ダンジョンから出たらダンジョンコアからの魔力供給なくなってただの猫になりますよ?』


 ポツィが、あまりにも当然のコトを言ってくる。

 そりゃ、吾輩はダンジョン猫であるからして、ダンジョンを出ればただの猫だ。


 ただの、世界最高レベルに可愛らしくて愛され体質な茶トラ一歳オスだ。

 それだけでも十分といえば十分。

 が、ポツィの懸念もわからないではない。吾輩の最強性能は、ダンジョン内限定ゆえ。


『自分の長所を完全になくしてまで人に飼われたいんですか、あんた?』

『ニャッフッフッフ~、浅い、浅いなぁ~、ポツィ。あまりの考えの浅さに、吾輩、思わず顔で手を洗い始めてしまったぞ。これは明日は雨だな。間違いないぞ』

『その天気予報、今まで当たった試しありましたっけ?』


 ない。一度もない。

 だが正論に公然と反抗してこその吾輩である。何せ吾輩、自由の使徒、猫ゆえ。


『……で、何か考えでもあるんですか?』

『考え? 作戦? ニャッフフ~、そんな段階はとうに越えておるわ。衝撃的な事実を教えてやろうではないか、ポツィ。吾輩はすでに飼われる準備を終えている!』

『ワ、ワンですってェ~~~~!?』


 このダンジョン猫が、何の準備もなしに人に飼われたがっていたとでも思ったか!


『思ったに決まってるじゃないですか』


 あ、そーなんだ……。


『だってあんた、猫でしょ』

『猫だけどさ……』


 前準備とか計画性とか、その辺の言葉は聞くだけで虫唾が走るけどさ。

 でもでも、今回ばかりは真面目に作戦を考えたのだ。吾輩、飼い猫になりたいのだ!


『うっわァ~、今まで思いつきとアドリブと気まぐれだけで生きてきたダンジョン猫様がそこまで言うなんて、これは本気で明日は雨ですね。ここダンジョンですけど』

『あんまり降られるとダンジョンの入り口から水が入って地下一階が水浸しになるから、雨は好かん。寝心地70点ポイントは一階にあるんだぞ!』

『そんなことは知りませんけど。一体どんな小癪な作戦を考えたんです?』


 小癪て。

 この柴犬型中ボス、一応吾輩の手下だよね? 上司に敬意なさすぎじゃない?


『まぁ、いいわ。説明してやるからありがたく聞くがよい』

『拝聴するのでどうぞ』

『何、簡単なことよ。飼い主に相応しい人間がこのダンジョンに来たら――』


 ピロ~ン♪


『ん? 何の音です?』


 あ、思念が繋がってるから吾輩が聞く音がポツィにまで届いてしまった。


『吾輩がチャンネル登録したダンジョン探索者の攻略生配信開始の通知だな』

『盗み見てる分際でちゃっかりアカウント作ってたんですか!?』


 作ってたよ。当たり前ではないか。

 吾輩ほどの最強愛玩マスコットともなれば魔力を使ってネット活動も思いのままよ。


『通知が来た以上、吾輩は配信を視聴せねばならん!』

『ぇ、あの、説明は……?』


『飽きた。吾輩はお楽しみの時間ゆえ、念話も切るぞ』

『もぉ~~~~、結局こうなる! これだから猫はよォ~~~~ッ!』


 はいはい、うるさいうるさい。ワンコの悲鳴など吾輩にとっては雑音雑音。

 ポツィとの念話を強制的に遮断して、吾輩は目を閉じて意識内に配信を投影する。


『は、はぁ~い、こんにちは~……。ぇ、始まってる? もう、始まってるよね?』


 配信画面に映し出されたのは黒髪を肩辺りまで伸ばした、化粧っ気のない少女。

 やや童顔で、クリッとした大きく丸い瞳が印象的だ。

 人間基準でいうならば、将来は美人確定な素朴な美少女という感じだ。


 背は、ふむ、150ちょっと程度か。

 おそらくは学生。骨格の成長具合からして、高校一年か二年であろう。


 赤いジャージの上に合成皮革四枚重ねのデミレザーアーマーを装着している。

 頭につけた高輝度ヘッドライトが辺りを照らしている。

 両手に持っているのは鈍い銀色をしたそこそこの太さの金属棒。メタルロッドである。


 それだけでも相当な重さだが、軽量化の魔法効果が働いているようだ。

 魔法の武器。と、呼ぶにはいささか安物だが、それでも価格は余裕で万を越えそうだ。


『えっと、どうも~、まさきちで~す。今日はBowtubeにチャンネルを開設して今回で三回目の配信になります。よろしくお願いします……』


 メタルロッドを持ったまま、まさきち嬢がたどたどしく頭を下げてお辞儀する。

 しかし、この配信、今現在の同接人数は吾輩を含めてたったの四人。


『わ、四人も来てくれてる。……嬉しい~!』


 なのにまさきち嬢はその程度の人数にキャッキャしている。わずか四人にだ。

 その笑顔に演技の気配は全くない。この少女の喜びは本物だ。何とも初々しいものよ。


 ク、クックック、これよこれ。これこそが生配信を見るときの醍醐味の一つよ。

 即ち、まだ発展途上ですらないド新人を最初期から応援し、その成長を見守り続ける。


 この『まさきちチャンネル』はいずれ必ず、大物になる。

 先日、登録者数10人以下の彼女のチャンネルを見つけた吾輩はそう直感した。


 そしてしばらくの間、まさきち嬢の配信を視聴することにしたのだ。

 彼女のチャンネルが躍進した暁には、吾輩は全力で後方腕組み最古参ヅラする所存!


『ぇ~っと、今回はですね~、ちょっと遠出してきたんですよ~』


 ダンジョン内と思われる闇の中、まさきち嬢は不安げに辺りに視線を巡らせている。

 チャンネルの概要には首都圏在住とあったが、遠出とな?


『実はこちら、国内に四カ所しかないSSSランクダンジョンの一つなんですよ~』


 何とッ!?

 探索者としてはまだまだ駆け出しのまさきち嬢が、いきなりSSSランクとは!


 確かに、探索者はランクに限らずどのダンジョンでも挑戦可能ではある。

 何故ならダンジョン内に限り、死んでも蘇生が可能だからだ。

 ただし、蘇生には大量のリソースが必要で、蘇生後に莫大な料金を請求されるが。


 探索者になる際には、専用の保険への加入が推奨されているという。

 まさきち嬢もきっとそれに入っているのだろう。だからSSSランクに挑んだのだ。


『今回の企画は『最低ランク探索者、最高ランクダンジョンでアイテムをゲットするまで帰れません』ですよ~。……うぅぅ、怖いなぁ、早まったかなぁ』


 とにかく注目されたい。

 そんな本音が見える大胆な企画を立てながら、まさきち嬢はいかにもビビっている。


 うむ、いい。やはりこの子はいい。先が実に楽しみだ。

 装備と格好はまだまだ野暮ったく垢抜けていないが、彼女自身のビジュアルはいい。


 その点も、今後の飛躍を予感させる要因の一つだ。

 やはり、何はなくともまず見た目。

 生物の価値は外見だけで決まらないが、大きなウェイトを占めるのもまた事実。


 そう、だからこそ猫こそ最強。猫こそ至高。猫こそ究極なのだ。

 何せ猫であるのだからな。見た目で吾輩と互するものなどそうそうおるまいて。


『そ、それでは探索開始ですよぉ~』


 不安と恐怖に若干声を震わせつつ、まさきち嬢がダンジョンの中を進んでいく。

 ふむ、かなり広いな。これではヘッドライトだけで照らせる範囲もたかが知れるな。


 :まさきちがんばえ~!

 :ちゃんと俺達が見てるからな~!


『わ。ありがとうございます~!』


 おっと、いかんいかん。

 ライバル達がまさきち嬢と交流を図っているではないか。吾輩もコメントコメント。


 :吾輩が見守っているゆえ全力で探索するのだぞ!


『何か、すごい昔の人みたいな言い方のコメント~』


 お、我がコメントを拾ってもらえたぞ。

 クッフフ、よきよき。我が励ましにてまさきち嬢から不安が取り除かれればなおよき。


 :まさきちさん こんちは~!


『あ、一人増えた。こんにちは~!』


 新たなリスナーからのコメントに、まさきち嬢が元気よく挨拶をする。

 ううむ、たったそれだけのことなのに、すでにささやかながらも『華』がある。


 まさきち嬢――、本名『玉響真咲(たまゆら まさき)』。

 本名については吾輩独自調べによる。

 今はまだまだ蕾以前、ただの新芽でしかないが、大きな成長を予感させる少女よ。


 彼女ならば吾輩、飼われてやってもよいかもしれぬ。

 探索者としても配信者としても実力はまだまだなれど、確かな可能性が感じられる。


 全く、惜しいな。

 吾輩を飼ったならば、真咲嬢の大いなる飛躍は約束されたも同然であろうに。


 何せ、美少女×モフモフは令和の日本を席巻せし黄金律。

 こと『カワイイ』において、これを凌駕する組み合わせは存在せぬ。断言できるぞ!

 と、そんなことを夢想していたら、リスナーからの新たな質問。


 :まさきち 今回はどこのダンジョンに潜ってんだい?


『あ~! そうでした! 言い忘れてましたね~。今回はですね、ちょっと前にSSSランク認定されたばっかりの土稲河市(どいなかし)のダンジョンに来てますよ~!』


 へ~、ちょっと前にSSSランク認定されたばかりの土稲河市のダンジョンかー。

 奇遇にもウチと同じであるな!


『ここは、元からSランクダンジョンだったんですけど、二か月前に最上層に最上位ドラゴンの群れが確認されて、SSSランクに格上げされたんですよ~!』


 …………って、ウチだこれ!


 え、うわ、やっべー!

 二か月ぶりに来た探索者が吾輩の推し候補とか、やっべー!


『認定後、誰も来なくなっちゃったらしいので、今回、思い切って来てみました。もしかしたらわたしがSSSランク認定後初めての挑戦者かもですよ~!』


 かも。ではないぞ、真咲嬢!

 正真正銘、真咲嬢がSSSランクになってから初めての挑戦者だぞ!


『モンスターに見つかる前に、何でもいいからアイテムを拾いたいですね~!』


 あ。ごめん。

 ウチのダンジョン、宝箱は地下三階からなのだ。だから地下一階じゃ、その、無理。


『う~ん、空気がヒンヤリしてますね~。何か急に寒くなってきたような……?』


 吾輩が見る画面の向こうで、真咲嬢がブルリと肩を震わせる。

 むむ、寒気とな? もしかして地下一階にいるファントムに憑依されたかな?


 ファントムというのは、その名の通り亡霊タイプのモンスターである。

 近くにいる生物に憑依し生命力を吸い尽くして殺す、悲しき闇属性の陰キャ幽霊だ。


「…………」


 って、のん気に解説してる場合にゃあァァァァァァァ――――ッ!?


 その瞬間、吾輩は全力で駆け出した。

 何と、わずか二歩目にして吾輩史上最高速度到達! これは新記録達成確実!


 光となって駆け抜けろ、ダンジョン猫!

 ファントムのライフドレインは時間がかかるから、急げば絶対に間に合うぞ!


 せっかく見つけた推し候補。

 こんな場末のクソ難易度ダンジョンで死なせてなるものかァ~~~~!


「にゃにゃにゃにゃにゃあァァァァァァァァァァ~~~~んッッ!」


 意訳:待っててね、真咲嬢ォ~~~~ッッ!

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