9話 : デスゲーム界の神童、皮栗鼠 ライム
私は皮栗鼠 ライム、小学4年生。
副業でデスゲーマーをしている。
世界ランキングは、昨日は21位だった。
「世界ランキング、今日は何位になってるかな」
朝起きてすぐに最新の世界ランキングを確認するのが日課である。
私には憧れの人がいる。
その人は世界最強のデスゲームクラン、必殺隊の1人だ。
私も必殺隊に入れて欲しいと必死でお願いしたときに、
『デスゲーム世界ランキングの10位代になれたら必殺隊に入れてあげるわ♡
ま、無理でしょうけどねえ♡』
と言われてから3か月間、私は必死で戦い続けた。
そして今朝、私の順位は19位になっていた。
「やった。やったぁ!」
ついに念願の10位代である。
「これであの人との約束の条件は満たした。もう一回会いに行こう」
学校の友達から得た情報によれば、その人はクランの仲間たちと昨晩から関西に行っているらしい。
「よし、急ごう」
変身能力で背中に翼を生やした。
電車で行くよりも自分で飛んだ方が早い。
2時間ほどの飛行の末、ようやく関西に到着した。
関西で最も大きなデスゲーム会場は、関西拳闘協会の本部の近くにあるコロシアムである。
他に情報も無いため、コロシアムの周辺を散策していた。
見つけた。あの人だ。
いつものように白いスーツは着ていないが間違いない。
「あ、あの……」
「あ、喰噛! こっちこっち!」
「今行くわ♡」
声を掛けようとしたが、近くに仲間たちがいたようで、どこかへ向かって歩き始めた。
後をつけると、タイマン戦が行われているコロシアムに入って行った。
(必殺隊ってタイマン戦に出るイメージ無いけどな)
コロシアムの観客席を探すと、あの人と仲間はすぐに発見できた。
人数は5人。
「水巻にすぐ見つかるんじゃないか?」
「大丈夫でしょ、後ろの方の席だし」
私も顔くらい知っている。
5人とも必殺隊のメンバーである。
リーダーの四季咲に廻原姉妹、狙撃手の砂井。
そして、喰噛 明広さん。
そのとき、闘士が入場したのか会場がひときわ大きな歓声に包まれる。
「あ、出てきたよ」
「げげ。水巻の相手、タイマン勢最強の火熊じゃん」
「良いなあ、私も戦いたいなあ」
「アタシも戦ってみたいわ♡」
「ボクは絶対嫌だ」
闘士を見ると、片方はタイマン勢最強の火熊 大輝。
もう片方は必殺隊の水巻 影雄だった。
少しの会話の後、戦いは始まった。
彼らはしばらく観戦するようだったので、私もタイマン戦を眺めることにした。
(へぇ……あの水使い、槍術も使えるのか)
と思ったら、火熊にあっさり躱されて殴り飛ばされていた。
(あんなのが必殺隊なの?
昨日戦った廻原 薔薇といい、大したことないじゃん。
私の実力ならもっと役に立てるのに)
勝負は結局、水巻の勝利に終わった。
異能力の撃ち合いのときは互角に見えたが、いきなり火熊が倒れたのである。
水巻は火熊に気付かれないように何らかのダメージを与えていたのだろう。
「それじゃ、医務室行こうか。水巻を迎えに行こう。
ついでに火熊にも会いに行きたいし」
なんで必殺隊が火熊と?
「もしかして、ホテルで話してたタイマン戦の件か?」
「うん、火熊なら仲間に最適でしょ。
問題は私たちの仲間になってくれるかだけど」
(まさか、火熊を必殺隊に引き入れるつもり?
私という者がありながら)
「水巻、顔焼かれて痛そうだったわねえ♡」
「そうだな。あんな状態で喋り続けるなんて、さすが水使いだ」
「あれは能力関係ないでしょ」
そんな会話をしながら5人が観客席を出たので、私も後をつける。
すると、そのうちの1人が突然消えた。
(あれ……?)
「きみ、何者? どこかのクランの回し者かい?」
「っ!」
ほんの一瞬の間に、背後に回られていた。
砂井 葉月、強力な瞬間移動の使い手である。
他の4人にもすぐに気付かれた。
「砂井? どうしたの?」
「あ! お前! 皮栗鼠だろ」
「誰?」
「世界ランカーの皮栗鼠 ライム。薔薇の宿敵」
「宿敵じゃねえし!」
ものすごく怖い。
やばい……何か言わないと。
「……よ、よく気付きましたね」
「そんな目立つ髪色の奴がずっとついて来たら誰でも気付くでしょ」
「あ、あの……」
何が怖いって、四季咲がものすごく怖い。
さっきからずっと私の顔を見たまま微動だにしないのである。
「ん、どうしたの? リーダー」
「その子、喰噛に用があるみたいだよ」
四季咲がようやく口を開いた。
というかなぜ分かった。
「アタシに?」
「うん。記憶を辿ってみたんだけど、その子がデスゲーム世界ランキングの10位代に入れたら必殺隊に入れる約束をしてたみたい」
記憶を辿る?
そんなこともできるのか。
「そんなこと言ったかしらねえ……言ったかもしれないわ♡」
「喰噛さぁ、あんまり勝手なこと言わないでよ。ごめんねライムちゃん。残念だけど私たち、新しい仲間は募集してないんだよね」
「そんな……」
(あれ?
でもさっき、火熊を仲間に入れたい的なことを言ってた気がするんだけどな)
「あ、その話聞かれてたんだ」
「四季咲さん、思考も読めるんですね」
「あれはクランメンバーじゃなくて、ある重要なデスゲームのメンバーを集めてるんだよ」
「どんなデスゲームですか?」
「そうだねえ……未知の異世界人と戦う系デスゲーム」
「異世界人?」
「そう。味方が10人必要だから、これから火熊を誘いに行くところ」
冗談だろうか。
しかし、あまり嘘を言っているようには見えない。
「そろそろ行こうか。じゃあね、ライムちゃん」
「あの! 四季咲さん」
「どうしたの?」
と、四季咲はこちらを振り返る。
「お願いします! そのデスゲーム、私も参加させてください!」
「ふふっ、良いんじゃない? その子、昨日の準バトで薔薇と互角の戦いしてたよ」
「ちょ、百合!」
「ライムちゃん。さっきの話、信じるんだね」
四季咲は少し真剣な表情になり、そんなことを聞いてきた。
「正直言うと、信じてません」
でも、明広さんに近づくためなら何でもする。
そのために私は今まで戦ってきたんだ。
「そっかー。いいね、キミ」
四季咲はこちらに背を向けた。
「これから火熊を誘いに行くからさ。ライムちゃんもついて来て」
「はい!」
その後、私と火熊は必殺隊が出ようとしているデスゲームの詳細を聞いた。
そのデスゲームは、
『10人対10人のチーム戦で、どちらかのチームが全滅するまで1対1の勝負を繰り返す』
という普通の内容だったが、なんと対戦相手は異世界の住人なのだそうだ。
火熊も私も半信半疑ではあったが、
火熊は「今後、必殺隊のメンバーをタイマン戦に出さないこと」、
私は「自分を必殺隊に入れること」を条件に参加を決めた。
「それじゃあ明日は本部で作戦会議しよう!
早速、関東にある必殺隊の本部に、レッツゴー!」
このときの私はまだ知らなかった。
四季咲の話が冗談でもなんでもなく、これから本当に異世界人との壮絶な戦いに巻き込まれることを。
登場人物紹介:
・皮栗鼠 ライム
10歳。
名門であるヨゼラ学園の生徒。
クランは無所属であり、世界ランキング19位。
デスゲーム歴は約4ヶ月と短いが圧倒的な強さを見せており、「デスゲーム界の神童」と言われている。
相手の体の動き(剣術、格闘技など)を見ただけですぐに真似できる才能を持つ。
異能力は「変身」。
動物、物、他の人間などに変身することができる。