81話 貝独楽(べいごま)平次
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着替えが終わり、先ほどの部屋にみんなで集まった。
「テンタ君、なかなか似合ってるじゃない~」
と部屋に入るなり、シェリーさんに褒められる。
「いや~シェリーさん達こそ……」
と言いかけシェリーさんとタミーさんの姿をまじまじ見て、
俺は少し頬を赤らめる。
「どうしたのテンタ君?」
とタミーさんが聞いてくるが……。
「いや、その~……」
と俺が言いあぐねていたら、俺の隣の犬の上に乗っている
三毛猫が代わりに言う。
「シェリーさん!タミーさん!着物の裾が!」
そうなのである。
2人共髪の毛は日本髪を結ってもらい、シェリーさんは、紫の着物
に桜色の帯で、タミーさんは、黄色の着物に赤の帯……まではいい
のだが、如何せん着物の裾が短すぎるのだ。
まるでミニスカートを穿いているよな短さ。
(多分、動くと見えちゃうと思う俺は)
「だぁ~て、歩き辛いんだもん!」
と三毛猫の問いにそう言い返すタミーさん。
更に、
「大丈夫よ、見えないから」
とさらっとおっしゃるシェリーさん。
(いや、絶対に動いたら見えるぞ!)
と心に思いながらも言い返さない俺。
そこにニヤニヤの顔のガレン・アノル(エメラルド柱)が、
「いいじゃないか、若いんだから」
っておっしゃる。
(あんた、それでも柱か!)
と思いつつ突っ込まない俺。
そこに、長崎屋文左衛門さんが言う。
「では、ご準備はよろしいでしょうか、必要なものは瓢箪に仕舞
われましたか?」
「はーい」×3
文左衛門さんの問いに元気よく答え、”小槌”を
文左衛門さんの前に差し出すのだった。
◇
「では、小槌をお預かりいたします」
と文左衛門さんが、言い”小槌”を俺達から
預かると、次に、
「では、これは当座の経費です」
と各自に1づつ、切り餅を渡す。
「これは?」
と渡された切り餅を見て言うシェリーさん。
すると、文左衛門さんではなく代わりにガレン
・アノル(エメラルド柱)が答える。
「これは、切り餅と言って、小判を25枚を包んだものだ」
と言いながら、切り餅を切って(包紙を破って)見せる。
中からは、ガレン・アノル(エメラルド柱)が言う通り、
小判が25枚出てくるが……。
(あれ?金じゃないんだ)
俺は、包み紙から出てきた小判を見てそう思った。
この三日月魔王国の通貨は、銀貨と銅貨なのだそうで、
1両(4000文)銀
2分×2銀=1両
1分×4銀=1両
2朱×8銀=1両
1朱×16枚銀(250文)=1両
100文×40枚銅=1両
4文×1000枚銅=1両
1文×4000枚銅=1両
って感じで、魔人たちは元々銀貨を使っていて、町人と呼ばれる
人達は主に銅貨を使っていたが、魔王がこの国を治めた時に銀貨
と銅貨両方を使う制度にしたそうだ。
貿易を唯一行っている晋王国のお金に換算して、1両=約4,000要
だそうで……日本円だと10万円くらいか……って25両って、250
万円!ってことだ。
(えっ1人250万円も!)
と俺は驚いていると、そんな俺をほっといて、ガレン・アノル
(エメラルド柱)さんが文左衛門さんに交渉する。
「いや、当座の経費としては文句ないが、月港の町で
使うには小判は少々大きすぎる金だ、どうだろう2,3両細かにのに
替えといてくれないか」
その言葉に文左衛門さんが、
「あっ、それもそうですね、畏まりました」
と頭を下げると、ガレン・アノル(エメラルド柱)さんが、付け加える。
「文左衛門手数料は取るなよ!」
その言葉に、文左衛門さんは笑いながら、
「はい、わかっております」
と言うのだった。
◇
奉行所から出て、出島の裏……つまり、三日月魔王国側の港から、
月港に向け、小舟で出発する。
海から大きな川、その名も大川から月港の町に入り、
川から水路を通り、月港の南側の大名屋敷が並ぶ場所
へと入り、上月藩の藩邸の裏の船着き場に着いた。
「着きましたぜ、旦那方」
と船頭さんに促され、船を降りると、40歳くらいの偉い侍風の
魔人が出迎えてくれた。
「これはこれは、遠路はるばるお越しいただき、誠に恐縮至極」
とガレン・アノル(エメラルド柱)さんはじめ俺達に深々と頭を
下げる。
そして、
「某は、上月藩月港家老の加納彦右衛門
と申します。 まずは藩邸内へご案内仕ります」
と俺達を上月藩へ案内するのだった。
◇
ガレン・アノル(エメラルド柱)さんは、藩主、上月雷蔵さんと、
話があると言うので、俺達は別室で待つことになった。
その間に、家老の加納彦右衛門さんから、ここ三日月魔王国の
事を教えてもらった。
約200年前までは、現在魔人と呼ばれる種族と町人と呼ばれる種族は、仲良く
この三日月島で暮らしていた。
主に魔人達は島の東側(山岳地帯)で、町人達は主に島の西側の平地部で暮らし
ていたのだが、丁度今から200年前に、人鬼族と言うのがこの地に現れ、ここ
三日月魔王国を支配しようと、魔人の町も町人の町も襲った。
魔人達は、元々戦闘集団だったため、人鬼族をほどなく撃退出来たのだが、
町人達は、体格に勝る人鬼族に抗えず、自分達の町を次々人鬼族に支配される中、
町人達の長である次郎長さんが、その時の魔王に救援を求めた。
その次郎長さんの救援要請を受け入れ、町人達の町々を支配する人鬼族を
次々と滅ぼし、町人達の長である次郎長さんの願いもあって、ここ
の国を治めるようになったそうだ。
その折、人鬼族の本拠地のあった砦を封印し、そこを治める様上様(魔王)
から命じられたのが、現在藩主の上月雷蔵さんのお爺
様なんだって。
(なるほど……って事は人鬼族ってのが再び動きだしたのか?)
(それを手引きしたのが悪魔達……!?でも何のために?)
◇
ガレン・アノル(エメラルド柱)と、藩主、上月雷蔵さんの話は
終わったらしいが、ガレン・アノル(エメラルド柱)さんと、藩主、上月雷蔵
さんは、ここ月港から東にある魔王が住んでいる月都に向かう
とのことだ。
で、俺達は……どうするかと言うと、しばらくここに滞在することになったのだが、
ただ、本来、ガレン・アノル(エメラルド柱)さん単独だと家老の加納彦右衛門
さんは、聞いていたので、俺達の部屋を用意していなかったので、その用意が出来るまで、
月港にある旅籠に滞在してほしいとのことだった。
そして、月港にある旅籠を案内する人物が来るまでここでしばらく待ってほしい
とのことなので、待っていると……。
「おまたせしやした」
「失礼いたしやす」
と言って障子を開けて、俺達の居る部屋に入って来たのは、町人の男性。
見た目、時代劇で見る”目明し”風の男の人だった。
「お初にお目にかかりやす、あっしは、神田魔神社下に住む
平次と申します、以後よろしくお頼み申します」
とあいさつされた。
ので、俺達もあいさつをする。
「僕は日向天太です、そしてこちらは」
と俺の左右に座るシェリーさんとタミーさんを
「岩崎沙里さんで、こちらが岩崎民さんです」
とまず紹介する。
シェリーさんとタミーさんの名前が違うのは、出島で、文左衛門さん
に、
「バルバン、シェリー、タミーとはいかにも外国人だと思われます
ので……」
と遠慮気味にだが、名前を変えろと言わんばかりに言われたので、俺は元々の
名前を、そしてシェリー、タミーさんは、父親のトムさんの転生前の苗字と
音的に近い名前にしたのだった。
「で、こちらがオトアで、こっちが禍龍です」
と紹介すると、平次さんは、
「これはこれは、猫ちゃんやワンちゃんまでご紹介いただきやして、
恐縮です」
と言われた。
(これは嫌味なんだろうか?)
とは一瞬思ったが、平次さんを見ているとどうもそういう感じでもない。
「では、めいりやしょう」
と平次さんに促され俺達は部屋を出て、上月藩藩邸を出るのだった。
◇
藩邸を出てしばらく歩いていると、タミーさんが言う。
「あー、お腹すいた~」
「そうね、私もすいたな~」
とシェリーさんまで言い出した。
すると平次さんが、
「そうでやすね、そろそろ昼時ですし、蕎麦でもどうです?」
と言ってくれた。
「そ・ばぁ?」
平次さんの言葉に蕎麦がわからず尋ねるタミーさんに俺が、
「うーん、パスタみたいなものです」
と答えると、
「ああ、パスタねぇ、うん食べる食べる」
と元気に言うタミーさんに、
「そうね、まだ外は暑いからその方が良いわね」
とシェリーさんも同意するので、
「では、ご案内しやす、こっちです」
と平次さんが蕎麦屋に案内してくれる。
ここ、月港は、北に魔王直属の部下である旗本の屋敷が
連なり、俺達の居る南には、上月、下月、東月藩藩の上屋敷
(藩主がいる屋敷)と下屋敷(下級魔人が住む屋敷)が、ならんでいて、真ん中に
あるのが、江戸の町を小さくした(3分の1)町人達が住む地域がある。
因みに、200年位前までは、魔人達は蕎麦を食べ、町人達はうどん
を好んで食べていたんだそうだが、ここ最近町人達も蕎麦を食べるよう
になったらしい。
俺達は、平次さんに案内され、藩邸のある南の町から北西に歩き、
月港の西側にある平次さんの知り合いの蕎麦屋を目指した。
◇
蕎麦屋『ちくま庵』に着く。
のれんをくぐり、店の中に入る平次さん。
「いらっしゃい」
店の奥から聞こえる。
俺達も平次さんに続きのれんをくぐり店の中に入る。
「あら、貝独楽の親分さんw」
と振り返って言う町人の女の人。
「おう、お美代さん久しぶりだな」
平次さんも女の人に気さくに答える。
すると、店の奥の調理場から、顔を覗かせる町人の男の人が、
「おう、貝独楽の~、どうしたんだ今日は、この辺で
事件でもあったか」
と聞くと、平次さんは手を”ちがうちがう”て感じで振り、
「いや、黒門町の~今日はこの方たちの付き添いでな~」
と俺達を手で示し言う。
俺と目が合った黒門町?さんは、
「ああ、いらっしゃい」
するとお美代さんが、
「さぁさ、こちらへ」
と席に案内してくれた。
木のテーブルに長椅子の席。
俺の向かいに平次さん、シェリーさんタミーさんが座り、
俺の横には、三毛猫と……!?
犬の禍龍が、人間のように座る。
それを見たお美代さんが、ほほ笑みながら言う。
「あらあら、お行儀のいいワンちゃんだこと」
で、奥の黒門町さんが調理場から聞く。
「で、なににしやす」
その言葉を聞いて、すかさず平次さんは言う。
「おいら~ざるな」
「あいよ」
平次さんの言葉にすかさず反応する黒門町さん
そして、平次さんが俺達に聞いてくる。
「旦那達はなんになさいやす」
その言葉を聞いて、俺がざる蕎麦を注文しようとすると、
俺の向かいに座るシェリーさんが俺に顔を近づけ小声で
聞く。
「ねぇねぇ、テンタ君ざる蕎麦ってあれなの?」
って聞くのでシェリーさんが指さす、他のテーブルに座る
お客さんの方を見ると、まさしくざる蕎麦を食べていたので、
「ええ、あれだと思いますよ」
と言うと、少し嫌な顔をして、
「麺だけぇ~なの、なんかシンプル過ぎなぁ~い」
と少々ご不満の様子なので、店の壁に書いてあるお品書きを
俺は見た。
因みに、ここ三日月魔王国では、日本語の漢字、カタカナ、
ひらがなに似た文字を使っていて、町人達は、主にひらがな
で、魔人達は漢字とカタカナを使っている。
100%同じではないが、俺や三毛猫は読める
のだ。
すると、三毛猫が俺に言う。
「じゃ、あの天ざるってのにしたら~」
三毛猫の意見に俺も、
「そうだな」
と言い、シェリーさんに提案する。
「シェリーさん、あのざる蕎麦に天婦羅と言って、魚や野菜を
揚げたものが付くあれにしませんか?」
って提案したら。
「ああ、それいいわね」
と喜んでくれた。
なので、
「天ざるを5つ……」
と言いかけて、俺達だけ天ざるを食べるのはどうかな?って
思ったんで、平次さんに聞いてみた。
「よかったら、平次さんも天ざる食べませんか?」
と聞いたら、手を振りながら、
「いやいや、旦那……滅相もない、天ざるってざる蕎麦の
2倍もしやす、そんな高いのは……」
と言うので、俺が
「いや、お世話になったお礼に僕が払いますよ」
って言ったら、
「えっ、……」
と少し間があってから、
「じゃ~、おねげぇしようかな」
って、遠慮気味に言う平次さんだった。
「じゃぁ、天ざるを6つお願いします」
とお美代さんに言うと、お美代さんは元気な声で、奥の
調理場に向かって言う。
「天ざる六ちょう~」
「あいよ!」
◇
天ざる蕎麦が来る前に俺は、人間のように座る犬の禍龍に
萬豆を1粒食べさせておく。
でないと、ここのお店の食べ物すべて食べつくす恐れがあるからだ。
「はい、お待ちどうさま」
と順番に俺達に天ざるそばを持ってきてくれた。
そざる蕎麦は、日本のざる蕎麦と変わりはない、天婦羅の方は、アナゴ
に車海老、キスそれに、レンコンとカボチャなどの野菜がある。
「いただきます」×4
犬の禍龍以外三毛猫を含む4人で手を合わせて
言い、天ざるをいただく。
その様子に不思議そうに聞く平次さん。
「えっ、旦那達のお国でもいただきますの習慣があるんでやすか?」
に対して、シェリーさんが、
「いえ、聖クリスタル国でって訳でもないんですが、父が元居た国の
習慣だそうで、私達も子供のころからねw」
(確かに、転生前の習慣ですが)
と答えると、なんとなくだが納得してくれたようだ。
三毛猫に蕎麦を食べさせながらシェリーさん達に俺は
言う。
「えーと、お蕎麦はそこのつゆに……天婦羅は、こっちのつゆで」
って言っていたら、またもや平次さんが今度は俺に聞く、
「旦那、この国の食べ物に詳しいんでやんすね」
と聞いてくるので、俺は愛想笑いしながら、
「ああ、まぁ、僕の居た国で似たような食べ物があったので」
とごまかす様に言うが、平次さんはそんな俺の言葉を
「へー、そうでやんすか」
と素直に受け入れた。
ふと、禍龍は、どうやって食べてるんだろう
と思い見ると……。
手(前足)は使わず、しかも蕎麦つゆに蕎麦をつけることなく
念力で蕎麦を空中に浮かせ”パクリ”と一口……。
天婦羅も同じく1口合計2口で食べてしまう。
(ありゃりゃ、味も風味もあったものじゃないな)
って思っていた時だった。
「てーへんだ、てーへんだ」
と勢いよく入って来る町人の男の人。
見せに入るなりきょろきょろとしたかと思うと、俺達の
テーブルに来て、
「親分、てーへんだ!」
と叫ぶ。
”プッフ”
とすすっていた蕎麦をつまらせながら、
「……っ、ど・どうした六五郎」
「だから、てーへんなんです親分」
と会話になっていない。
そこに店の奥に居た黒門町さんが出てきて、
「ちーと、これでものんで落ち着きな六五郎」
と言いながら湯呑に入った水を差しだすと、”ゴクゴク”
と一気に飲み干しそして、
「よ・吉原で男が刀振り回して暴れて死人が出てやす」
「な・なんだって!」×2
それを聞いて驚く平次さんと黒門町さんだった。




