無題i
誰かが泣いている声がした。
もちろん幻聴だ。
PCから伸びたイヤホンは僕の両耳にささり、そして可もなく不可もない曲を聞いているからだ。
部屋にも家にも誰もいない。僕一人だ。
学校から帰って、鞄をベッドの脇に置いた。今日だされた課題は、学校で終わらせてきた。
時代遅れの黒板に、白い文字が並んで、手作り感満載のラミネートされた紙も陳列された。
意気揚々と説明する教師、メモをとり、課題のヒントを手に入れていく。
いくつかの授業をこなして、購買部でパンを買い、欠伸をして、またいくつかの授業をこなした。
掃除、友人たちの挨拶に返事をして、机の上に今日だされた課題をひろげる。
授業一つ分を時間を使って、終わらせると帰路につく。
スマホに安物のイヤホンをセットして、曲を流した。
家はいつも通りに静かで、真っ暗だ。
リビングの机にはラップが被せてある晩ご飯。電子レンジを使って暖める。いつの間にか、家のWi-Fi接続されていてスマホの読み込みが早くなった。
次の曲、次の曲、曲、新しい曲。
食べながら、スマホを眺める。もう慣れたものだ。
部屋に戻ってスマホを充電用のケーブルにさすと、勉強机のノートパソコンの電源をいれる。
最近、何を聞いても同じ様な曲に聞こえてくる。目を閉じて、音量を上げた。
誰かが泣いてる声がした。
泣き声といっても、わんわんと聞こえてきたわけではない。もちろん、しくしくでもない。
驚いて、イヤホンをとったとて、家はしんとして何も聞こえてこない。
窓を開けてみた。カーテンが入ってきた風でふわり膨らんだ。
部屋はパソコンの画面光で奇妙に照らされていて、昔みたSFアニメの操縦席みたいだな、と思った。
急な眠気が襲われて耐えられなくなった僕は、ベッドに倒れ込む。
瞼を閉じながら、窓は閉めればよかった、と思った。
気がつくと教室にいた。いつもの教室だ。
黒板には授業の途中なのか、白い文字と手作りのラミネートされた紙が並んでいる。ただ、教室には教卓はあれど生徒机も椅子もない。
コレハ夢ダ、と思った。ただ鮮明なのが気になる。
剣と魔法の世界の夢なら楽しかったかもしれない。などと思いながら、静かで奇妙な教室を眺める。
おそらく自分が通う学校の教室で間違いないだろう、掲示物や教卓の草臥れ具合、教室後方の棚、教室壁の傷には心当たりがあった。完全にコピーされているなら、判別不可能だけど。まぁ、夢だし。
窓の外を見ると、剣と魔法の世界かもしれないなと思える光景だった。その窓から本来見えるはずの道や建物がない。
森があって、朽ちかけている摩天楼があった。