第一話 成長
早速ダンは時を止めようとした。
そしてふと気になった。
(この時間を止める能力は魔法ではないのか?)
とこの能力だけはスムーズに使えることに気が付いたダンは一度ゆっくり発動しつつ、どこに意識が向いているのか調べることにした。
まず最初に時が止まったあの世界をイメージする。
次に体の中心に魔力を溜める。
そして抑えていた魔力を一気に放出する。
初めて使った時からこれだけは無意識に出来たので気づいていなかったがどうやらダンは元から出来ていたようだ。
ダン「あれ、ってことはこれを昨日教えて貰ったやり方でやってみれば...」
と自分の能力を理解した上でやってみると簡単に手のひらから魔力を出すことが出来た。
拍子抜けしたダンはその場にへたり込み笑った。
ダン「なんだよ。これだけのことだったのか。あ、そうだついでにあれもやってみよう」
起き上がったダンは魔力を手のひらから出し操る練習を始めた。
最初は手のひらから出すことだけしか出来なかったことも一日分の時間を費やせば何とか出来るようになった。
ダン「完璧とは言わないがこれであいつらに追いついただろ」
と言うとダンは魔法を解除し、時を戻した。
それからというもの毎日のように六人で集まり、魔法を練習したり、元気に遊んだりと特に変わり映えのない日常が二年程続いたある日、ある人たちがやってきた。
ある朝いつも通り広場に行き今日は何をしようかと考えていると村の入り口が騒がしいことに気が付いた。
???「我々はサルーア王国から来た、王直属の護衛軍である。王女様からお話があるので良く聞いておくように」
王女様「突然の訪問失礼します。私はサルーア国第一王女、ルーシー・サルーアです」
村長「こんな辺鄙な村に王女様が何用でございますか?」
ルーシー「実は風の噂でこの村には勇者様がいらっしゃると耳にしたもので、真相を確かめに来ました」
村長「勇者...はっ、もしや...」
予想通りその場にレオンが呼ばれた
村長「この子が勇者ではないかと騒がれていた子で、名をレオンと言います」
ルーシー「突然ですがレオン様、このような剣をご存じありませんか?」
ルーシーは一枚の絵を広げて見せた。
レオン「それってこれのことですか?」
それを見たレオンは腰にさしていた剣を抜いて見せた。
ルーシーと護衛軍がざわめいた。
どうやらレオンは本当に神様から勇者として選ばれたらしい。
王女御一行はまた来ると言葉を残し、王国へと帰っていった。
慌ただしかったいきなりの訪問も落ち着きを取り戻したところで、すぐさまレオンの元へ五人が集まった。
トーヤ「レオンが本当に勇者だったなんてな」
ダン「やっぱりレオンは凄いやつなんだよ」
レオン「でも僕なんかが勇者で良いのかな...」
ダン「俺たちだけじゃなく国の偉い人や神様にまで認められてるのに悪いわけがない」
スズ「そうよ、少しは自信を持ちなさい。その卑屈ささえ無ければあなたはこの中の誰よりも強い人よ」
レオン「わかった。今は無理でもいつかそんな皆の言ってくれてる理想の人になって見せる」
その日から一週間後、再度王女様がやってきてレオンにこう告げた。
ルーシー「勇者となったレオン様には今二つの選択肢があります。王都に移住しそこで訓練を経て魔王討伐に行って頂くか、この村で訓練を行いつつ時が来たら魔王討伐に行って頂くかです」
レオン「その選択肢しか無いのなら二つ目のこの村に残れる方を選びます」
ダンは驚いた。いつものレオンならまずは否定から入りそうな内容のはずなのに、断るどころか即決で決めてしまったからだ。
(あの時皆でかけた言葉が思っている以上にレオンの自信につながったのかそれとも...)
少し不安はあったがダンはレオンを応援することに決めた。
二日後には王都からディグリーという男がやってきて勇者に訓練をつけるために来たといった。
レオンだけでなく志願する者は誰でも参加可能ということだったのでダンとトーヤ、スズ、それに村の人たち数人も一緒に受けることになった。
ジュディとルルカは二人で魔法について勉強するらしい。
最初は皆張り切って訓練を受けていたが厳しさに耐えかねてやめる人が続出し、結局残ったのはレオン、ダン、トーヤ、スズの四人だった。
相変わらずレオンは異常な成長ぶりを見せた。しかしそれはレオンだけだは無かった。
トーヤ、スズもレオンには劣るがなかなかの成長ぶりだった。
この中でダンは一人だけ取り残されてしまった。
そんなダンに出来ることはただひたすら追いつく努力をするしかなかった。
毎日ディグリーの訓練が終わるたびに時を止め、皆に追いつくところまで練習する。
そんな日々を一年続けたある日いつもの練習のため時を止めるとあることに気が付いた。
ダン「止まってるけど止まってない...」
最初の頃はダンの体のどこかが干渉している場所しか動かなかったが範囲が広がったようで体から一メートルくらいなら動くようになっていた。
と言っても静止している世界では風も吹いてないのでダンが動かさないと揺れることも無い。
この変化に気づいたダンは再度この魔法について調べることにした。
まずはゆっくり魔法を発動してみた。
これで分かったことは
体内に魔力を溜めて一気に放出する時の魔力を溜める量が少し増えてるということだ。
そこてダンは
(もっと魔力を溜めるとどうなるんだろう)
と考えた。
すぐにやってみた。
体に流れている魔力を一滴残らず体内に溜め、一気に放った。
と同時にダンは意識を失った。
どうやら魔力の使い過ぎのようだ。
ダンが起きたのは約三日後だ。
体をゆっくりと起こし周りを見渡した。
ダン「凄い、風が吹いてる」
どうやらダンの考えは正しく魔力を使った分だけ動かすことが出来るようだ。
風はこの動いてる空間のみで循環し、川は流れを止め動いていない場所まで到達すると川の水は溢れ、決壊していた。
ダンはこれを見ると焦って魔法を解除すると不思議なことに気づいた。ダンの位置は変わらなかった。
発動した場所ではなく解いた場所に留まっていた。
だが川の水は決壊する前に戻っていた。
相変わらずダンが干渉していないと元に戻ってしまうようだ。
そしてもう一つあることに気が付く。
ダン「あれ、魔力が増えてる」
どうやら魔力は使えば使う程成長するようだ。
ダン「そう言えば魔法について最近練習してないけどディグリーさんに教えて貰えるのかな」
翌日ー
ダン「ディグリーさん、ここでは体を鍛える訓練だけだけど魔法とかは教えて貰えないの?」
トーヤ「そういえばそうだな」
ディグリー「魔法を教えろってか。そりゃ無理な話だ。俺は生まれてこの方一切魔法は使ったことが無ぇ。魔法を覚えたきゃ学校にでも通うんだな」
レオン「がっこうってなんですか?」
ディグリー「学校ってのは色んなことを学ぶ場所だ。例えば魔法、普通に生活してるだけじゃ絶対覚えることは出来ないが知ってる人に教わることで魔法がどういうものでどうすれば使えるようになるかがわかるようになる」
トーヤ「難しいことはわかんねぇけど魔法は少しなら使えるぜ」
と言うと手のひらから魔力を出し操って見せた
ディグリー「それが魔法?俺の知ってるのと随分違ぇな」
トーヤ「あ、これは魔法じゃなくて魔力っていうやつだった」
ディグリー「へぇ、魔力ってそんなやつなんだな。とにかく魔法について詳しく学びたいなら学校に通ってみるといい。一旦王都に行かなきゃならんが行って損はないと思うぞ」
ディグリーに学校についてもう少し詳しく話を聞いた後の夜いつもの六人で集まった。
トーヤ「ディグリーさんが学校に通ってみないかって言ってたんだけどお前らどう思うよ」
ジュディ「がっこうって?」
トーヤはディグリーの説明をそのままジュディにした。
レオン「それで僕たちとディグリーさんだけで強くなるのも限界があると思うんだ。最近はほとんど変化が無いし。それで皆で学校行ってみない?」
ダン「俺は行きたい。正直この中で誰より遅れてる。せめて皆に追いつきたい」
トーヤ「言う程遅れてるか?そんなこと言うなら俺だってレオンに勝てる未来が見えないぜ。だからそんなレオンを超すためにも俺も通おうと思う」
ジュディ「私とルルカはここでずっと魔法について勉強してたけどそろそろ限界みたいだし、丁度良いから通いたいわ」
ルルカ「ルルカももっと魔法について学びたい」
スズ「私も今の知識がどれだけ通用するのか知りたいし、行ってみようかしら」
ジュディ「そういえば学校とか王都に行くとかって凄くお金がかかりそうだけど大丈夫かしら」
トーヤ「そこら辺はディグリーさんが大丈夫、何とかなるって言ってたよ」
そんなこんなで話を終えて翌日、ディグリーに報告することに決まった。
登場人物の軽い見た目紹介
ルーシー・サルーア第一王女 銀色の髪の女の子。六人より二つ歳上。小さい。
ディグリー 冒険者ギルドの指導員。スキンヘッド。おじさん。大きい。