#022 英雄と書いてヒーローと呼ぶ
3年生になったアルトリア・ラーミスは、年間課題《卒業可能功績》に追われる身となった。この学院では2年生から実施される実技演習や他の学院に赴き、そこで優秀な功績を残していくという謎の課題がある――前世で言う所の大学でよくある卒業論文や研究結果という物だ。
「ダルィ・・・」
「それを言ったら――」
「いいや。 マジで要らないと思う制度だよ」
カトリーナと共に愚痴をこぼしながら廊下を歩いていると、2年生のヤフォーク・メルビンから骨伝導無線を介して『――こちら偵察部隊、偵察任務中に隣国のポートリマス帝国騎兵団を視認! 戦力およそ30万です!』と至急の伝令が入って来た。
もちろん、その報告は全体チャンネルだったために隣に居るカトリーナも深刻な顔色になった。
「ヤフォーク、アルトリアだ。 どこで見た?」
『王都より西に5キロ、ヤクスタの森近郊です』
「ヤクスタ・・・? ラーミス領の近くのか?」
『はい』
「分かった、総員。聞いたな? 全力出撃の準備で演習場内に集合しろ、緊急だ」
無線を切ると、カトリーナと一緒に頷き午後の授業を行う教室に向かわずに学院長室に向かった。
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学院長室に到着して中に入ると、学院長であるカランクス・ヴォーデンが真剣な面持ちで俺を見ていた。いや、正確には考えていたのだろう。
「姉さん、無線を聞いたよな」
「ええ、聞いていたわ。まさか、ラーミス領から来るなんて・・・」
ちなみに、カランクス・ヴォーデンという名前だがそれは結婚したから変わっただけで元の名前はカランクス・ラーミスだ。だから、実姉と言った意味が分かるはずだ。
「・・・ああ。最悪だわ」
「姉さん、俺達の故郷を荒らしたポートリマス帝国は必ず俺が、成敗させてくるよ」
「ええ、そうね。 前線は貴男に任せるわね」
「ああ。 任せろよ、何のために創設したと思って居るのさ」
踵を返してカトリーナと共に学院長室から出ると廊下を駆け足で進み、すれ違う教員たちに「廊下を走っちゃ行けません!」と注意されながらも演習場に到着した。
「遅いですよ、隊長~」
アルトリアの目の前には総勢4500人の部員達が七四式戦車やM1A1、九六式装輪装甲車などの車両を後ろに整列していた。
肩には特別作戦傭兵連隊を示すバッジが縫い付けられておりそれぞれM416やM417、M16A4などの小銃を手にした状態で笑いかけていた。
「あ、あぁ。 すまん、遅れた」
その後、軽くラーミス領の地形を述べた後に「――今回は、偵察を行いつつ敵騎兵団の殲滅作戦を実施する。 戦車部隊は小銃部隊を掩護、野砲特科部隊は支援砲撃に着手しろ。それと、カトリーナ隊。要人はラーミス領の全市民だ、奴隷でも領主でも差別をせずに救助しろ。分かったな?」と作戦概要を話した。
「はい!」
カトリーナ隊が一斉に返事をすると、いつもの授業が始まる鐘の音色とは異なる音色が学院内に鳴り響き始めた。
「総員、生きて必ずここで会おう!」
アルトリア・ラーミスはそう言うと「戦闘配置、これよりラーミス領反攻作戦を実行する!」と叫んだ。
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一週間前、隣国のポートリマス帝国がラーミス領に侵攻した際に真っ先に戦線に辿り着いたのはラーミス領領主のカンズ・ラーミスとエルネア・ラーミスの執事からなる直掩部隊であった。
彼らは戦友を失いながらも帝国騎兵団と互角に戦い続けていた。しかし、奇襲部隊によって領主家が占拠されると一気に劣勢になった。
そして今、カンズ・ラーミスが殺害されてエルネア・ラーミスだけになっていた。
「貴女だけでもお逃げください!」
「いいえ、私は仮にもこの領地の領主です。 今更、逃げる事はできません!それに、今逃げたらあの人に申し訳ないですから」
「し、しかし・・・!」
「それに、私の息子は私がピンチになって居ると知れば血相を変えて学院から帰って来てしまいますから」
それだけ言うと、夫のカンズが遺した長剣を手に取り頭上に掲げ「今こそ、反攻の時間です!」と叫んだ。
その時、地下室の扉が勢いよく開き使用人が――いや、喉元を剣で突き刺されて絶命したままの状態で帝国騎兵団に連れてこられた使用人の姿があった。
「――ここか、遂に見つけたぞ! ラーミス領領主婦人エルネア・ラーミス!」
エルネアや執事たちは最後の戦いになるかもしれない雰囲気に身を奮い立たせて、「全員、突撃!」や「ラーミス領、万歳!」と言いながら帝国騎兵らに駆け出し始めた。
しかし、それらは敵う筈もなく次々と血栓花を咲かせながら絶命して行った。残されたエルネアは逃げる様子を見せる事なく立ち向かって行こうと一歩足を踏み出した瞬間、突然帝国騎兵らが騒ぎ始めた。
「――グハァァァぁぁぁっぁ!」
「ゲフッ!」
「ギャアッぁぁぁぁぁぁ!」
エルネアは脚を止めていると先頭に立って居た帝国騎兵の頭部に後ろが見えるぐらいの穴が開き膝をついて倒れた。
「母さん、お待たせ」
身体の所々に返り血を浴びた状態で立っていたのは、学院で勉学に励んでいるだろうと思って居たアルトリア・ラーミスだった。
「あ、アル・・・なの?」
「そうだよ。カンズ・ラーミスとエルネア・ラーミスの息子の、アルトリア・ラーミスだよ」
エルネアは信じられないという表情でアルトリアを見ていたが、差し出された息子の手に自身の手を重ねると安堵したのか抱き着いた。
「――立てる? ォワッと・・・、母さん?」
「良かった・・・、良かったぁ・・・」
その後、泣きながら一週間であった事をどもりながらも息子にすべて話し終えると更に安堵したのか息子の胸の中で寝入ってしまった。




