第3話 お坊っちゃん
× × ×
クラゲは晴れの日、朝ごはんを食べてから軒先で眠り、昼ごはんを食べてから軒先で眠り、夜ご飯を食べてから軒先で眠る生活を送っている。雨の日は、リビングのソファの上だ。
「……にゃう」
今日も名を体で表すと言わんばかりに、まるで海に浮いているかのようにフワフワと眠っていた。しかし、そんな昼下がりのこと。鼻先に違和感を覚えて起き上がると、頭を振ってあたりをキョロキョロと見渡した。
「あれ、ご主人。そんなところでどうしたの?」
訊くと、主人は庭で干していた鯵を指さして網の上でひっくり返した。ところで、クラゲの鼻の違和感はてんとう虫が止まったからであったらしい。未だ、上向きについている鼻には赤い点があった。
「おいしそうだね、僕これ好き」
裸足のままテクテクと歩いて、腰の後ろに自分の体を押し付けたまま主人の作業を眺めた。
この干物は、ネコ人たちのおやつだ。作って置いておくことで、先日のような緊急時の大合唱を食い止めることができる。
今回の魚は、7月に旬を迎える千葉の金谷港で捕れるマアジ。つまり、回遊せずに同じ海域に生息しキラキラと体を輝かせることで黄金鯵と呼ばれている絶品魚だ。
当然クラゲはなんの魚を干しているのかまでは分かっていない。彼の言う『これ』とは、魚を干したモノの事を指している。
「え?それホント?」
今晩のご飯に柔らかく脂ののったその刺し身が出ることを主人から聞いて、クラゲは丸い尻尾をピョコピョコと動かして笑った。
「ご主人は何でも出来るね」
「小説を書く為に調べたんだよ」
「ふぅん。あ、僕も手伝うよ」
「じゃあ、見張りをお願いね」
「にゃす」
そして、主人は先に捌いておいた鯵の刺し身をこっそりクラゲにあげると、自分の部屋へ戻っていった。
「おいひぃ」
それから、クラゲは静かに見守る鯵の干物の番人となった。その間に一度だけ、トイレのために部屋を出た主人はクラゲの姿をこっそり覗いてみたのだが。
「食べちゃダメだよ」
呟き、カラスにおやつの半身をお裾分けして、ネコ人一人とカラス一羽で風に揺れる青いかごを夜になるまで眺めていた。クラゲが一睡もせずに午後を過ごしたのは、今年に入ってから初めての事だった。
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