第2話 お昼過ぎ迄
× × ×
夜のネコ人の目は、瞳孔に黒と差し彩のコントラストが生まれてビー玉のようにキラキラと輝く。網膜の裏に、タペタムという反射板が付いているからだ。原種の夜行性の名残によって、暗い夜を歩く為にこんな器官が付いている。しかし、色は判別出来ているため、この目は単純な進化だと言えるだろう。
「ねぇ、ご主人」
「ん?」
「よいしょ」
そう言って、這うように主人の腕の隙間を潜り抜けて膝に座ったのは、甘えん坊のベタだ。ベタは、そこに座って主人のミルク入りのコーヒーをひと舐めすると、「あにゃ」と呟いてからジッと上目で顔を見た。
「これ、犯人?」
そう言って、小説の中の単語を指さす。そこには「煙草」の文字。ベタは、家の表札にある二文字の漢字の並びを見てから、二つ並んでいる文字を全て人の名前だと思っている。
なぜそんな事を訊くのかと言えば、ベタは以前にテレビドラマでたまたま犯人を言い当てたからだ。それ以来、物語を目にすると事あるごと犯人かどうかを尋ねてくるようになった。因みに、主人は推理小説を書いたことはない。
「違うよ」
「ふぅん」
それっきり、興味もないと言った様子で部屋の天井を見上げると、「ふんす」と鼻を鳴らして、黙って主人の仕事の様子を眺めていた。眠る訳でもなく、暴れる訳でもなく、時折もぞもぞとショートパンツの違和感を直し、胸に寄りかかる。
しかし、画面を横から覗かれるのが嫌いなベタは、自分の耳の間から主人の顎が消えたと思うと、場所を確認してその下に頭を置くのだ。それがくすぐったくて避けても、気が付けば必ず同じ場所に収まっている。
理由は、主人が普段あまり頭を撫でてくれないからなのだろう。寡黙な主人は、自分からネコ人に構うような真似をしない。去る者は追わず、来る者は拒まず。それくらいの距離感が、きっと人間が持つべきネコ人への愛情だと考えているからだ。
それから、一度朝食を挟んで、翌日の昼過ぎ。ようやく執筆を終えた主人は、猫まんまの用意をしてからベッドに沈んだ。しかし、主人がベッドに着くと、三人はどこに居ても必ず寝室にやって来て、その横に丸まってスヤスヤと寝息を立てる。
これはどうしてかというと、僅かに残されている野生の本能が働いているからだ。自分よりも狩りの出来ない、もとい虫やネズミを捕れない主人を守る為にそうしている。もちろん、主人は虫やネズミを捕る必要がないから成果を出さないワケだが、獲物を捉えて見せびらかすネコ人にとって、それは自分よりも弱い生き物を守るという愛情の表れであると言えるだろう。
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