納棺師
死体に囲まれるというのは存外、気味の悪いものではない。
思い返せば、というより見渡せば人間の周りには多くの死体に溢れている。
そんな物騒な物言いをしてしまうと、まるで飢餓の時代のように、夥しい数の人間が骸に成り果て横たわっているような感覚が襲うだろう。
世は飽食の時代なのだ、そういう意味ではない。
私の扱う「死体」は世に言う「死体」とは少し違う。
人間を意味するところの「死体」は、心臓が止まってしまえば、それまでの功績や足跡は自動的に引き剥がされ意味を無くし、個として消失する。
しかし、私の扱う「死体」は、すでに死した個が密集し、密着することで、新たに個として再構築され、生まれてくれた「物」たちだ。
今夜もただの仕事として、そんな「死体」を処理していく。
雑多に詰められた死体死体死体死体死体死体死体を一つ、一つ、決められた手順に従い平坦に詰め直し棺へ納めていく。
そうして納められた「死体」たちは多少の鮮度を保つため冷蔵庫に移される。
そのうち運の良い「死体」は役目を全うすることができる。
世は飽食の時代である。