とある4人の恋愛事情 石原彩音の場合
「彩音ちゃん好きです。
彩音ちゃんには東くんがいるし無理ってわかってるから思い切って振って欲しくて…。ごめんね気持ち悪いよね。」
泣きそうな顔をしながらクラスメイトの桑原美遥が告白してきた。
いいえ気持ち悪いどころか嬉しすぎて今にも踊り出しそうです、と思いつつも返事をしようと美遥ちゃんの方に向き直った…
ピピピピッピピピピッ
なんだ夢か、クソが。
顔に似合わず口が悪いと本性を知っている人からは言われる口の悪さで心の中で悪態をつく。
私、石原彩音は自分で言うのもなんだが相当な美人である。学校一の美人だと言われる程度には。
そんな私には想い人がいる。夢に出てきた桑原美遥ちゃんである。美遥ちゃんはあまり目立たない性格だが、ほんとにかわいい。その上、県内ではそれなりの進学校だと言われているうちの学校でずっと学年トップを維持し続けている秀才でもある。なにより、かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい
はっ!
そんなことを考えつつ朝の支度をしていたら、もう家を出る時間だ。
家を出ると隣の家に住んでいる腐れ縁の幼なじみかつ、彼氏ということになっている東統吾が家から出てきた。
「はぁ〜。」
「なんだよ。人の顔みた瞬間でかいため息つきやがって。」
呆れた顔をしつつこっちを見てくる統吾は顔だけはいい、顔だけは。
しかし、夢の中とはいえ、美遥ちゃんに名前を呼ばれるとはまじで許せん。しかし、ここは話を聞いてもらって美遥ちゃんの可愛さに共感してもらうしかなかろう。
「統吾。まじで聞いて、ほんとに朝から幸せとしんどさが襲ってきてしんどいかわいい。美遥ちゃんが夢に出てきたのよ。ほんとに可愛い。助けて、可愛すぎてしんどい。しかも、告白される夢だったのよ。かわいい。夢だったのまじで許せん。かわいい。ほんとに好き。」
ほんとにかわいいかった。早く学校に行って本物を拝みたい。
「お前、ほんとに桑原のことになると性格ぶっ壊れるな。せっかく被ってる猫がどこかに出かけてるぞ。仮にも彼氏である俺の前でそれを言うかね?」
ぶつくさと統吾が小言を言ってくる。
「いや、彼氏って言ってもどっちも本命は別でしょ?
なら同士として話を聞いてもらうしかないじゃない。」
そう。統吾は彼氏ということになっているが、実際の所お互いに恋愛感情は全くと言っていいほどない。私は同じクラスの美遥ちゃんのことが好きだ。
統吾は統吾で友達である中村奏斗が好きらしい。
直接話したことはないが、童顔でかわいい顔立ちをしていて、中村くんのクラスの女子によくからかわれているのを目にする。
そんな私達がなぜ付き合っているのかと言うと、中学までは恋愛感情を向けられたとしても告白は月に1度あるかないか、といった回数だったのが高校に上がった途端、みんな青春がしたいのか週一以上のペースで告白されるようになった。私達は顔がいい、顔だけが取り柄と言っても過言ではないだろう。そんなわけで1年の一学期が終わる頃にはだんだん好きでもないやつに告白されるのがめんどくさくいちいち相手もしてられないという利害の一致があり、付き合っているということにした。
夏休みが終わる頃には、私達が付き合っていることが広まり告白されることはなくなり、告白という煩わしいイベントに付き合わされることは無くなった。
しかし、である。
「美遥ちゃんに好きですって言われたーい!
絶対OKするのに。あの子私のこと好きかどうかまではわかんないけど絶対気になってると思うの!」
「彩音のその自信はどこから来るんだよ。
あーあ俺だって奏斗から夢でもいいから告白されてー!」
なにか統吾がボヤいているが、学校が近くなり心を落ち着かせて猫を被り直していた私には興味もなかった。
「美遥ちゃん、おはよう!」
学校に着くと美遥ちゃんが先生から返却されたノートを配っていた。美遥ちゃんの持っていたノートを半分奪い私も配り始める。
「あ、彩音ちゃんおはよう、私1人で配れるから大丈夫だよ。」
「いいよ、私が美遥ちゃんのこと手伝いたいだけだもん。」
そう言って微笑むと顔を赤くする美遥ちゃんが尊いです。
いつも誰よりも早く来て、配布物を配ったりと、クラスのためにさりげなく何かをしてくれている美遥ちゃん。ほんとに健気でいい子!結婚しよ!養わせて!
そんな内心は表に出さず笑顔で手伝い、課題の分からなかったところを申し訳ないと思いつつも教えてもらう。美遥ちゃんは勉強ができるだけでなく教えるのもほんとに上手い。
美遥ちゃんが朝、早く来ているのを知り、私も早く来るようになってから教室でこうして2人で過ごす朝がすごく好きだ。
ちなみに統吾は理系、私は文系だから、クラスが違う。
私たちの学校では1年の時に文理選択をし2年から文系クラスと理系クラスに別れるのだ。だからこそ、1年の時に別のクラスだった統吾や、中村くんとはもう同じクラスになることはないのだが。
そんな統吾が、なぜ早く行く私に付き合ってくれるのかと言うともちろん優しさからではない。
統吾の想い人である中村くんが早く来て授業の予習をしているからだ。嫌味のように顔だけではなく勉強もそれなりにできてしまうあいつは中村くんに教えてあげるのだと嬉しそうに笑っていた。
いや、ほんとに興味無いが。
それから数ヶ月、高校の1番の思い出となる修学旅行が近づいていた。
それまで美遥ちゃんと進展がなかったのかって?なかったわクソが。だからこそこの修学旅行にかけているのだ。修学旅行のホテルの部屋割りは2人部屋だ。私がいつもいるクラスのメンバーは5人で美遥ちゃんのグループは3人だったこともあり、美遥ちゃんと同室をゲットした。
結果から言うとびっくりするぐらい何も無かった。
いや、美遥ちゃんの普段見られない寝ぼけた表情とか、部屋着とか、いつもメガネだからそれをかけてないところとか、かわいい一面は沢山見られたので幸せではあったが。
ちなみに統吾のやつは中村くんといい感じになって口説き落としたと自慢された。今までトークアプリでお互いの想い人が可愛いという話から惚気に変わってきて滅べ、と思っているのは内緒だ。
いや、羨ましすぎる。ちなみに中村くんには私たちの偽装恋人?とやらを話したらしい。私が彼女だと思われていることに対して少しの嫉妬と、他の女の子から告白されるのを見なくてすむことへの感謝をしてくれているようだ。
2人が恋人同士になってから話すようになったが、普通にいい子だ。構い倒したい統吾の気持ちは分からんでもないな。まぁ、美遥ちゃんのが可愛いけどね!
そもそも、私と中村くんが話していたら統吾が独占欲丸出しで睨んで来るのでそんなに話したことはないけどね。
そのまま数ヶ月がたち、あと少しで学年が上がるという日に私は美遥ちゃんに呼び出された。
誰も居ない教室で夕日に照らされている美遥ちゃんを見て、私が美遥ちゃんを好きだと自覚した1年前の出来事を思い出した。あの日は音楽室に忘れ物をして、取りに行った。統吾と一緒に帰る約束をしていたので帰宅部の私は自習室で勉強して待っていた。ちなみに統吾は陸上部だ。
美遥ちゃんは、吹奏楽部だけどその日は遠征の次の日だったとかで自主練という名のオフのようだった。
誰も居ないと思っていた音楽室に一人残ってピアノを練習していた。あとから聞いた話だけど、3月の終わりにある定期演奏会で先輩をさしおいて、ピアノのソロを勝ち取ったため、やりきれるのかと不安にだったそうだ。そんな不安そうな顔をして楽譜を見つつ、1度ピアノを弾き始めると人が変わったように曲に合わせて表情が柔らかくなる姿を見て好きだと思った。
「彩音ちゃんに話があるの!」
回想に浸っていると美遥ちゃんに話しかけられた。
「なーに?」
内心どきどきしつつも笑顔で尋ねた。
「彩音ちゃん好きです。
彩音ちゃんには東くんがいるし無理ってわかってるから思い切って振って欲しくて…。ごめんね気持ち悪いよね。」
数ヶ月前の夢を思い出し、嬉しすぎるのとまた夢を見てるのではないかと時が止まった。
そんな私を見て、美遥ちゃんが傷ついたような不安そうな顔をして目を逸らした。
私は美遥ちゃんの顔を見たくて覗き込んだ。
至近距離で見る美遥ちゃんはすごくかわいい。でもそんな美遥ちゃんが泣きそうな顔をして俯いた。
私には、それが嫌で両手で美遥ちゃんの頬を包みこっちを向かせた。すると、不安そうな顔だったのを急に真っ赤にしたのを見て我に返った。
「あっ、ごめん。」
私がそういうと美遥ちゃんは泣きそうな困ったような笑みを浮かべ逃げるように教室を出ていこうとした。
私は焦って美遥ちゃんの手首をつかみ抱きしめた。
「誤解するような言い方してごめん。私も美遥ちゃんが好き。友達としてじゃなく、恋愛的な意味で。ずっと美遥ちゃんに思いを伝えたいって思ってたけど決心がつかなくって言えなかったから、嬉しすぎて時が止まってた。」
反応がなくて不安になって顔を覗き込むと真っ赤な顔で泣いていた。
「えっ、あっ、うそ。どうしようごめん。気持ち悪かった?
え、でも、ほんとに美遥ちゃんが好き、大好きだから今更嘘とか言われても無理だよ。」
私が慌てていると、
「ち、違うの、嬉しくって、でも東くんは?
私の方こそ嘘って言われたら…」
それから統吾についての誤解を解いて、今度、統吾と中村くんと、4人で会うってことで話がついた。それから私達4人は友達、恋人として仲良くなりwデートめっちゃした。
気が向いたら他の3人視点書くかもです…