魔王島を探して……復活の日!?
「ようやく術式が完成したよ。みんなのお陰だよ。」
俺は、みんな顔を見回して言う。
特にこの完成直前の1週間は、食事やらなにやらみんなのお世話になりっぱなしだった……らしい。
らしい、というのは、俺に自覚がないからだったりする。
2~3日集中して作業をした覚えがあるが、カナミに聞いたら1週間その状態だったらしい。
心配で、皆で交代しながら俺の様子を見つつ、食事の面倒を見てくれたりしたんだとか。
ほんと、ありがたい話である。
「あとは、魔力を流せば向こうに転移できるんだけど……何があるか分からないから、一緒に行ってくれるか?」
「「「当たり前だよ(っす。)(です)」」」
俺が聞くと、3人が声を揃えて同意してくれる。
「じゃぁ、今日は疲れたから、明日出発な。……俺も外に出て羽を伸ばすよ。」
俺がそう言うと、皆が気まずそうに顔を背ける。
「ん?どうかした?」
「ううん、なんでもないっすよ。」
慌ててリィズが応えるが……何かあるんだろうなぁ。
「何じゃこりゃぁ!」
俺が研究室?を出ると、眼前に広がっていたのは毛玉の山だった。
……何がどうなって、こうなった?
俺は視線をカナミ達の方へ向ける。
「あ……ち、違うのよ、これはね……。」
慌てふためくカナミ。
「カナミが、暇つぶしにタイガーウルフ達のブラッシングをしたら……。」
困ったものだというように、額に手をあてるミリィ。
「あー!そう言うミリィだって、私がブラッシングしてるのを見て、私もやるとか言ってヤンゴン達の毛刈りを始めたじゃないの!」
互いに責任を押し付け合う二人……。
「で、これどうするんだよ?」
「えーと、糸とか紡げないかなぁーと……あはは。」
「はぁ……ちょっと待っていろ。」
俺は作業場から資材をかき集める。
後回しにしても良かったんだが、あの毛玉の山をどうにかしないと精神衛生上よくない。
『人形作成!』
……残ってた資材では6体しかできなかったが、とりあえずはこれでいいだろう。
『道具作成!』
俺は続いて糸紡ぎ機と機織り機を作り、作業場に設置する。
そしてゴーレムたちに、毛玉を運び込んで、ここで糸を紡ぎ布を織ることを指示しておく。
あれくらいの量なら3日もあれば十分だろう。
一通りチェックをしてから、作業場を出る。
皆はすでに各自のやる事をするために移動したらしく誰もいない。
俺は体をほぐしつつ屋敷の外へ出る。
屋敷の外には牧場と畑が広がっている。
畑では獣人達が作業をしている……いつの間に?
「びっくりした?」
後ろからカナミが声をかけてくる。
「あぁ、いつの間にこんなことになってるんだ?」
「えっとね、リナがここで働くようになってから、獣人達が顔を出すようになってね。それで、皆手伝いたいって言いだして……ほら、獣人さん達って加減を知らないから。」
少し困ったように言うカナミ。
たぶんカナミの予定以上に畑が広がったのだろう。
純粋な好意でやっているだけに文句を言えないってところか。
「あっちもすごいんだよ。」
そう言ってミリィがいる牧場の方を指さすカナミ。
ヤンゴンの群れに交じって見慣れない……というか、ある意味見知った個体を見つける。
「アレは……牛……か?」
「うーん、牛そっくりなんだけど『モゥシー』って言う魔物なんだって。お肉もお乳も向こうの牛そのままだよ。」
はぁ……ミリィの牧場については何があっても驚かないつもりだったけど、まさか牛まで出てくるとは……。
「まぁ、でも数日でここまで馴染むなんてすごいよな。」
「そうね、私も驚いているわ。リナがいるとは言っても、獣人達があそこまで好意的なんて思わなかったから。」
「うーん、何らかの形で変革前の世界との繋がりがあるのかもな。無意識下にポメラ獣人国の時の記憶の欠片が残っているのかもな。」
「そうだといいな……。さぁ、ご飯にしよ!今夜はご馳走だよ。」
少ししんみりしかけた空気を振り払うようにカナミが言う。
「そうだな。」
カナミに手を引かれながら屋敷へ戻る。
◇
「みんな準備はいいか?」
準備が出来てるのは分かっていたが、一応確認しておく。
「だいじょうぶっす!いつでも行けるっすよ。」
リィズが代表して応えてくれる。
「じゃぁ行くか。」
俺はゆっくりと魔法陣を描いていく。
一つ一つを確認していくように魔力を流し込む。
魔法陣に光が行き渡り俺達を包み込んでいく……。
『転移!』
力ある言葉を唱えると、俺達の身体を魔力が包み込み……一瞬後には別の場所に運ばれる。
「ここは……。」
周りを見回すと、なんとなく見覚えのある気がする……魔王城の転移ルームだ。
「成功……だな。」
俺は皆に声をかける。
「魔王城だ。変わった所がないか、手分けして見て来てくれ。1時間後に俺の部屋に集合な。」
俺は皆に声をかけると、転移陣の調整に入る。
……リンク先が消滅している部分をすべて削除し、途切れているリンクを繋ぎ直す。
これで、魔王城への行き来はOKと……後は、魔王島自体の存在を繋ぐには……と。
俺は脳内のグリムベイブルにアクセスしながら、どうすればいいのかを探っていく。
……。
……。
……1時間後。
「レイにぃ、食堂、浴室その他城内は以前と全く変わりなかったよ。」
「作業場、倉庫、お城の周りにも変化はなかったですよ。」
「外の地形も全く変わりないっす。人の気配は全くしないっすが、魔獣などの固有の生き物は生存していたっす。後、ラン達も無事だったっすよ、後で顔を出すって言ってるっす。」
「了解。こっちも転移陣の調整は終わったよ。これで、いつでも此処と向こうを行き来できる。」
よかった、と喜ぶミリィ達に、ただ……と話を続ける。
「この魔王島を向こうの世界に戻すことは無理だというのがわかった。」
「じゃぁ、この島はどうなるっすか?」
「その事なんだが……ラン達が来てから話した方が早いから少しだけ待ってくれ。」
そんな事を話しているうちにラン達がやってくる。
「主殿、息災じゃったか?」
「久しぶりじゃのぅ。」
「無事でよかった。心配しておったぞ。」
「心配をかけたようで申し訳なかった。……何が起きているのかは理解しているか?」
以前と変わらぬ挨拶をしてくるラン達ドラゴンに、俺は確認を入れる。
「あぁ、どうやら変革が起きたみたいじゃが……それがどうしたのじゃ?」
あっさりと言うラン。
変革そのものに対しても、気にしていないようだ。
そのあたりを確認すると……。
「その様な小さき事、我らには何の関係もないからのぅ。」
とダーちゃんは言う。
長命種であり、世界の因果を超越しているドラゴン族らしい言葉だった。
「……という事で、俺達が取れる方法は二つだ。」
俺はラン達を交えて、魔王島における問題を説明する。
改変により狭間の世界に飛んでしまった魔王島を、元の世界に戻す方法は失われた事。
俺達に出来る事は二つしかない事。
「まず一つ目は、ラン達を連れて元の世界へ転移する……つまり、魔王島を捨てるって事だ。」
「それはちょっともったいなくない?」
カナミが言うが、放っておいても消えていくのだからこのままでは一緒の事だ。
「何とかならないんですか?」
ミリィも聞いてくる。
「何とかしようとするなら二つ目の方法だな……龍族の力を借りて、この島を亜空間に固定する。」
「龍界域作成の法じゃな。」
「その通りだ……しかし一つ問題がある。」
「レイにぃ、問題って?」
「龍族の力を借りて龍族の為の界域を作る為にここは龍族が支配する島になるんだ。」
「……それのどこが問題なんすか?」
カナミの疑問に俺が応えるが、それに対し何が問題なのか分からない、というリィズ。
「だから龍族が………って、別に問題ないのか?」
「ダーちゃん達が支配するって言っても、今とあまり変わりないっすよね?」
「そうじゃな。」
リィズの言葉に大きく頷くダーちゃん。
……そうか、問題ないのか。
「じゃぁ、後は『龍界域作成の法』を完成させるだけか……。」
「何か、まだ問題があるんですの?」
俺の声が沈んだことに気づいたミリィが訊ねてくる。
「あぁ、『龍界域作成の法』を行うには、四属性の魔法陣が最低限必要になる。……本来は六芒星の魔法陣で行うのが正しいんだけどな。そしてここに居る龍族は火属性のランと水属性のスイちゃんの2属性だけ。ダーちゃんは闇属性なので、四属性には入らない。だから土属性のアースドラゴンかガイアドラゴン、風属性のウィンドドラゴンかスカイドラゴンの協力が必要になる。」
「ダーちゃん達みたいに話が分かるといいっすけど……どうなんすか?」
「ウム……風のドラゴン達は気まぐれじゃからのぅ……気が向いたら協力してくれるかもしれんのぅ。」
「そうじゃな、大地のドラゴン達はノロ……のんびりしておるから、動いてくれるのに時間がかかるかもしれん。」
ダーちゃんとランが、そんなありがたい情報をくれる。
「とりあえず、ドラゴンの里に行ってみるのじゃよ。地龍、風龍達に繋がる誰かが何か知ってるかもしれんぞ。」
スイちゃんがそう言って里の場所を教えてくれる。
この場所ならミンディアから行くのが早そうだ。
転移ルームを調整した今なら、ミンディアまでは一瞬だし多少の余裕は出来そうだ。
「とりあえず、今夜一晩ぐらいはゆっくり出来そうだし、久しぶりの魔王城でゆっくりしようか?」
「そうね、そうしましょう。」
皆も久しぶりの魔王城に浮かれていたようだ。
解散を宣言すると思い思いに散っていく。
「じゃぁ、俺もちょっと休むか……ラン、スイちゃん、ダーちゃん、悪いけど、もうしばらくの間留守番頼むな。」
「我らは、ここが気に入っておるでの。ただのんびりしておるだけじゃから、気にしなくていいぞ。」
「あぁ、ありがとう。」
俺は龍達にお礼を言って部屋を出ていく。
とりあえず、せっかく魔王城に戻ってきたんだ、展望大浴場でのんびりしよう。
「ふぅ……やっぱり、ここはいいな。」
「そうねぇ……。」
「……やっぱりいたか。なんでいつも気配を消してるんだよ?」
俺は、不意に現れたカナミに文句をつける。
「今日は私だけじゃないよぉ。」
そう言って指さす方にはミリィとリィズがのんびりと浸かっている。
気配は感じなかったが、いるとは思っていたよ……みんな考えることは同じだよな。
「やっぱり、広いお風呂はいいねぇ……。でも、狭間の世界なのに海が見えるのはなぜなの?」
「うーん、この島を中心に、海まで含んでかなりの広い範囲が飛ばされているんだろうなぁ……ちなみに、あの太陽に見える光については、俺にもわからんぞ。」
「ちぇー、この後聞いてみようと思ったのにぃ。」
カナミがぶつぶつ言う。
「にぃにー!」
じゃぶっ!とリィズが飛びついてくる。
……だから、その格好で抱きつくのはヤバいんだってば。
「レイさーん。」
嬉しそうな笑顔でミリィも抱きついてくる。
「あーずるーい、私もー。」
カナミが対抗して背中から抱きつく。
だから、そう言うのはマズいってば……。
「にぃにぃ、どうしたのかなぁ?」
リィズが俺の身体にすり寄り、ニマニマ笑いながら見上げてくる。
……わかっていてやってるな。
「レイさーん、どうしたんですかぁ?」
ミリィが俺の腕を、その豊満な胸に抱きよせながら聞いてくる。
……ミリィまで!
「センパーイ、私の事忘れてないですかぁ?」
カナミが背中にギュっと押し付けてくる。
……こ、こいつら……。
俺の理性がどこまで持つか……。
まぁ、でもこういうのも久しぶりだ……。
◇
「ねぇ、センパイ、まだ起きてる?」
「あぁ、起きてるよ。」
「向こうに戻ったらドラゴン探しだよね?」
「そうだな……2ヶ月以内には探し出して説得しないとな。」
「……その後は……どうするの?」
カナミが珍しく真面目なトーンで聞いてくる。
「うーん、ここ数ヶ月でわかった事は「俺達にシリアスは似合わない」って事だな。」
「そうだねぇ、センパイの場合はシリアスって言うよりネクラになるだけだからねぇ。」
カナミがクスクス笑いながら言う。
「だから、お気楽に笑って暮らすため……『魔王』を目指す!」
「魔王かぁ……じゃぁ私は魔王様のお妃様ね。」
カナミがクスクス笑いながら顔を近づけてくる。
「抜け駆け禁止っす!私が魔王様のお妃っす。」
リィズが、突然俺とカナミの間に割り込んでくる。
「もぅ!リィズはいつもいつもいい所でー。」
「抜け駆けするからっすよ!」
リィズとカナミがいつもの様にじゃれ合い始める。
「私の魔王様……いい響きですね。」
ミリィが寄り添ってくる。
結局みんな起きてたのかよ。
「魔王になって、邪魔ものを蹴散らしてみんなで気楽に暮らそうぜ。」
「いいですわね……でも、レイさん、ちょっとシリアスになってますよ。……『シリアスは似合わない』んですよね?」
そう言って、チュッと口づけてくるミリィ。
「「あー、ズルいー!」」
リィズとカナミが俺の傍に寄ってくる。
結局こうなるのか……まぁ、色々と考えているのがバカらしくなるぐらい騒がしい。
でも、これが俺が望んでいることだ。
バカ騒ぎをしながら、日々楽しく過ごす。
「でもなんで魔王なんすか?」
リィズがカナミを押さえつけながら聞いてくる。
「むぐぅ、むぐっ……。」
「おーい放してやれよ。」
「イヤっす。この間の仕返しっす。」
……まぁ、楽しそうだから放っておこう。
「この間女神たちが言ってただろ?魔王の役目は世界の調整だって。つまり、俺が魔王になってうまく調整している限りはこの世界は安泰って事だろ?」
「そう言うもんすか?」
「むぐぅ……。」
「そういうモノと考えて行動すればいいさ。」
「まぁ、私はにぃにについて行くだけっすよ。……カナミ、また成長したっすか!」
「むぐっ、むぐぅー……。」
「……適当に開放してやれよ?」
久しぶりの魔王城の広い寝室で、はしゃいでいる皆。
こういう毎日を過ごしていくんだ……。
はしゃいでいる3人を眺めているうちに、いつしか眠りへと落ちていった。
◇
「転移!……トランスレーション!」
翌日、俺達は屋敷に戻り魔王城とのリンクを再調整する。
「これで屋敷に入った瞬間、魔王城に移動できるようになったはず。」
「ホントっす!入ったら向こうの玄関っす。」
リィズが扉を開けて中に入り、また戻って来る。
これで「見た目はドールハウス、中身は魔王城」の出来上がりだ。
「じゃぁ、まずはミンディアですね。」
ミリィが、俺の横で屋敷を見ながら言ってくる。
俺はミリィの手を握り、力強く答える。
「あぁ行こう、ドラゴンを探しに!」
少し短いですが、キリが良かったので(^^;
※誤字脱字報告・感想など、ありがとうございます。




