魔王島を探して……閑話休題
「にぃにー、ご飯できてるよー。」
「んー、分かった……後で食べるから、先に食べてて。」
リィズが呼びに来るが、ちょっと手が離せないので、そんな返事をする。
「はぁ、そう言ってもう三日もろくに食べてないじゃないっすか!……はぁ。」
そう言いながらリィズは俺の背後に回り、抱き着いてくる。
「仕方がないから食べさせてあげるっすよ。」
そして手に持ったサンドウィッチを俺の顔の前に差し出してくる。
俺は無意識にそれに齧り付く。
「ウン、美味いな……もぐもぐ。」
「だよね……さすがはカナミっす……よく分かってるっすねぇ。」
「ん?何か言ったか?」
リィズが何かつぶやいていたが、よく聞き取れなかった。
というより、今は手元に集中しているので、大きな声だったとしても聞き逃すことだろう。
「何でもないっすよ……もう一つっす。」
再び差し出されたサンドウィッチを咀嚼する……ウン、美味い。
「美味しいっすか?」
「ウン、美味しいよ。」
そんな会話をしながらも、俺は手元に集中し視線を逸らすこともない。
リィズも分っているので、背中越しにギュっとしてくるだけで、それ以上の事は何もしない。
「どんな感じっすか?」
「あぁ、今のところが解析できれば山を越えるってところかな。」
「手が空くまでにどれくらいかかりそうっすか?」
「うーん……30分ってところかな。」
「そうっすか、じゃぁ、カナミと交代っすね……。」
俺は、それに応えようとしたが、手元のバランスが崩れかけたために、集中する。
その後も何か話しているようだったが、応えてる余裕はなかった。
◇
「ウーン……っと?」
集中しすぎたせいか、体が固まってしまっている。
俺は、キリの良い所で一旦手を止め、伸びをする……が、後ろからしがみ付かれているのに気づく。
そう言えば、さっきリィズが来てたような……?
「キリついた?」
「あれ、カナミか?リィズが来てた気がするんだが?」
いつの間に代わったんだろうか?
「リィズが来てたのは朝でしょ?もう夕方よ?」
「もうそんなに……というか、俺がこの部屋に籠ってからどれくらいたった?」
この部屋には窓がないため、時間の感覚が分からない。
更に作業に集中していた為、どれくらいの時間が過ぎたのかも曖昧だ。
途中、手が空いたときには気分転換を兼ねて、カナミ達の「お願い」なんかを聞いていたけど……2~3日は過ぎているだろう。
「はぁ……もう1週間よ。……集中すると周りが見えなくなるのは変わらないねぇ……。」
「そうか?」
「そうだよ、センパイ向こうで無茶して倒れかけたの忘れちゃった?」
カナミに言われて思い出す……アレはカナミとリアルで会って間もない頃の連休の事だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……って、聞いてますか!センパイ。」
「あぁ、聞いてるよ。今度の土曜だろ?」
「そうですよ。この前話したカフェでUSOのコラボイベントやってるんですよ。一緒に行きませんか?」
「ふーん、コラボかぁ。なんかアイテムがもらえるのかな?それなら行ってみたいけど。」
「アイテムって……この人はホントにもぅ……。一応ね、そのカフェの制服が限定装備として、メニューが食事アイテムとしてもらえるよ。」
「よし行こう!」
コラボアイテムは機能としてはそれ程でもないが、限定品の為、1年もするとコレクターたちに高値で売れることが多い。
入手が容易なため、貰えるものは出来る限り貰っておかなければならない。
「ほんとにこの人は……デートってわかってるのかなぁ、もぅ……。」
「ん?何か言った?」
「何でもないですよぉーだ。」
ベェーっと舌を出す香奈美。
こういうちょっとした仕草が可愛いと思う……っとダメだ、ダメだ。
彼女が俺を慕ってくれているのは、友人として、家庭教師として、仲の良い先輩としてだ。
間違っても惚れているなんて勘違いしたらダメだ……。
「どうしたの?センパイ。」
「いや、……あ、そうだ。これ一応貸しておくよ。」
そう言って俺は、部屋の合鍵を渡す。
「え、これって……。」
(合鍵!?どういう事なんだろ?……そう言う事って意味でいいのかなぁ?)
カナミが何かつぶやいているが、よく聞き取れない。
俺としては、ユーザーホームの共有権を渡す感覚だったのだが、そうではないと気づいたのは次の香奈美の言葉を聞いてからだった。
「へぇー、センパイは女子高生に朝起こしてもらったりご飯を作って待っていてもらうのをお望みなんですねぇ。」
からかう様に言ってくる香奈美。心なしか、頬が赤く染まっているようにも見える。
「ば、ばかっ!違うよ、これはだなぁ……実は俺明日から月曜まで連休なんだよ。で、この機会にちょっとやりたいことがあって、徹夜続きになるかもしれないんだ。だからひょっとしたら土曜日寝坊するかもしれないので、一応保険のつもりという事で……ほ、ほらっ、ユーザーホームも共有してるだろ?
だから……。」
必死になって言い訳をする。
恋人気取りでいたとか思われて嫌われたら目も当てられない。
「わかってますよ、冗談です♪」
(ホントは冗談じゃないけど……センパイだから仕方がないかぁ……。)
後半はよく聞き取れなかったけど、分かってくれたようで何よりだ。
「じゃぁ、土曜日楽しみにしてますね。」
いつもの分かれ道、香奈美はそう言って、手を振ってから帰っていく。
うん、なんか俺も楽しみだ……一緒にカフェに行くだけなんだけどな……USOのコラボって言うのがいいのかな?
俺も何となくウキウキした気分で家路につくのだった。
部屋につくと、着替えもそこそこに2台のPCを立ち上げる。
片方はUSO専用機……昔から使っている年代物だ。
そろそろ新しくしたいと思って、新しく用意したのがもう一台の方。
ただ、持ち帰った仕事にも使うため、USOを入れる訳にもいかず、と言ってもう一台用意する余裕もなく、結局USOは昔からのPCを使用している。
USOを立ち上げ、生産スキルを上げる用意をする。
同じことの繰り返しになる生産スキル上げはある程度自動化されているので、資材さえ用意していればたまにチェックしてやるだけで放置できる。
他の作業するにはうってつけなのである。
一応「離席」のマークを出しておいて、もう一台のPCに向かい、昨日まで作業していたツールを呼び出す。
俺が作っているのはUSOの支援ツールだ。
具体的には生産活動を効率よくする為、熟練度やクールタイム、資材振り分けや、必要資材の場所を示す、などを管理するツール。
これが完成すれば、生産職のスキル上げがグッと楽になる。
俺が今までやってきた経験をもとにして、「ここを肩代わりしてくれれば……」と思っていた部分をすべて管理してくれる仕様になっている。
USOの運営は外部ツールに関しては比較的寛容だ。
ツール作成のための支援アプリまで運営が用意してくれている。
しかし、審査とセキュリティは厳しく、サーバ内部に連動するものに至っては運営に許可を取り、厳重な審査が行われる。
そして問題なし、と審査を通るとサーバ連動のキープログラムが渡される。
いわゆる「公式認定」という奴だ。
しかし、公式認定を受けたとしても周りに簡単にバラまけない。
あくまでも「個人が作ったツールを個人の責任において使用する」スタンスなので、このツール使用において損害が生じた場合は、賠償責任を負わされる。
これは、第三者の行いであっても、使用許可を取った者、つまり製作者に責任がかかる。
そう言う契約を結んだ上での使用許可なので、万が一のことがればすべて自分に責任がかかるのだから、余程信用のおける人にしかツールを使わせることが出来ない。
なのでUSOには、各種多様の公式認定ツールが存在するものの、万人が使用しているというものは運営が用意したもの以外は無かったりする。
中にはソースまで公開されていて、後は個人で認可を取ってね、というところまで用意してあるツールもあったりするが。
俺が今作っているのは、そんな公式認定ツール……実は一度完成しているのだが、運営から修正を求められていた。
そこを直せば許可が下りるそうなので、土曜もしくは日曜日にはお披露目できるだろう。
俺がUSOを放置しつつ、ツール作成に力を注いでいると、やがてUSO内に香奈美……カナミがやってくる。
『やっほー、作業中?』
『あぁ、リアルで作業中だから放置。気にしないで。』
『OK!じゃぁ、適当にお店開けるね。』
『よろしく。』
それだけの会話をして再び作業に戻る俺。
USOの画面内では「カナミ」が色々と動いている。
俺のユーザーホームは、カナミの共有権を渡してからあっという間に様変わりした。
壁一面に飾られたレアを含む様々なアイテム。
テーブルと椅子が置かれてくつろげる空間。
カウンターがセットされ、そこで様々な飲み物や食べ物を提供するカナミ。
作業ツールと箱が置いてあるだけのただの作業場だったのが、今ではお洒落なカフェになっていた。
元々初心者支援と称して、素材をNPCより高めに買い取ったり、スキル上げの際に出来たアイテムを格安で売ったりとしていた為、そこそこ人の出入りはあったが、今では常連が入り浸る「隠れ家的カフェ」としてそれなりに賑わっている。
入り浸っている顔馴染みに聞いたところによると、人気の秘密は飾られているレアアイテムとカナミらしい。
俺にとってはゴミでしかない骨董品も、人によっては何千M出しても欲しいという垂涎ものだったらしく、またカナミの可愛さも輪をかけていて、カナミ目当てに来店するプレイヤーも多いとか。
「可愛いは正義」というだけあって、カナミのアバターはUSO内でも十指に入る可愛らしさを誇っている。
しかも身に着けている装備は全てレアもの……特にメイン装備の「アンチミラードレス」は運営の黒歴史とも呼ばれる逸品である。
USO初期の頃、見た目重視でも遊べるようにと、運営が試行錯誤を繰り返して様々な装備・衣装が提供されては消えていった時代の名残である。
アンチミラードレス……通称「アンミラの服」は、当時話題性のあったカフェの制服をオマージュしたうえ、運営のデザイナーが趣味に走りまくった結果生み出された幻の衣装で、見た目の可愛らしさに反し、下手な金属鎧より防御力が高く、全状態異常及び全属性に対して高位の耐性が付与されており、更に魔法攻撃の8割を反射するという特殊技能まで備えたスグレモノ。当時のキャッチコピーは「戦うメイドさん」だった。
もとになった筈のカフェの制服の面影は全く残っておらず、名称だけで誤解していたプレイヤーから非難の声も上がったが、別にそのカフェとは何の関係もない為何の問題もなかった。
流石にやり過ぎだと運営も感じたらしく、すぐ配布中止となり、その後も様々な手で回収され、現存するのは、カナミが装備している以外で十数着ぐらいだという。
見た目がいいだけでなく希少価値迄あるとなれば、一目でも見たいという奴が押しかけてきてもおかしくないらしい。
なので、常連は敢えてココの宣伝はせず、むしろ隠すように工作をしているらしい。
まぁ、本音は「俺達のカナちゃんを独り占め」らしいが。
ちなみに、このアンチミラードレスだが、アンミラドレスと名前を変えて復刻している。
こちらはデザインだけ同じで、防御力などは通常の衣装とかわらない。
後、どうでもいい話だが、冒険に行くときのカナミはアンミラドレスを装備しない。
あれだけの性能もったいないと聞いてみると、あればお店の衣装であって冒険の衣装ではないとのこと。どうやらカナミの中で譲れないこだわりがあるらしい。
そして今日もいつもの様に賑わいを見せている店内。
カナミも常連と楽しくおしゃべりに興じている。
俺は作業をしつつ、たまに画面を見て息抜きをしたりしていた。
『カナミ、今日はご機嫌だね。何かいいことあった?』
『わかるぅ?わかっちゃう?』
『もったいぶってないで、白状しなさいよ!』
カナミが数人の女の子キャラと話している。
女の子同士の会話は、見ていて飽きない。
周りのプレイヤーたちも同じ気持ちらしく、カナミが女の子と話をしているときに、邪魔をするような無粋な奴らは一人もいない。
『えっとね……ヤダ、恥ずかしぃ。』
イヤイヤというエモーションをするカナミ。
これを自然にやってるんだから女の子って怖い。
『なになに、そこまで言っておいて。』
『じらすなじらすな。』
『えっとね、あのね……』
他の子たちに囃し立てられ、意を決したように話し出す。
『出来たの。赤……ちゃん……。』
ブゥーっ!
画面を見ていた俺は思わず飲みかけのコーヒーを吹き出す。
何だって!香奈美に赤ちゃん?聞いてないぞ。
カナミの爆弾発言に、画面の中では店内が凄い事になっている。
飛び交う呪詛の声と、ファイヤーボールをはじめとした魔法。
そのほとんどが、店の片隅に設けられた作業場で黙々と作業をしている、俺に向けられている。
『えー、ホント。相手は店長?』
『なに!カナミ、店長とリアルで知り合いなの!紹介してよ!』
『わーん店長狙っていたのにぃ。』
『俺達のカナちゃんが穢されたぁ!』
『天誅でござる、天誅でござる!』
『今からでも遅くない!カナミさん、考え直すんだ!』
………。
阿鼻叫喚とはこの事か……ログ欄が凄い事になっている。
そう言えば、近々VRに対応するとか言ってたけど、その時こう言うログとかどうなるんだろう?
俺はどうでもいい事を考える。
ウン、現実逃避って事は分かっている。
『予定日はいつ?男の子、女の子?』
『ちょ、ちょっと落ち着いて』
画面の中のカナミがオロオロしている。
自分の発言の所為でこんなに大事になるとは思っていなかったのだろう。
『落ち着けるわけないでしょ。でどうなの?』
『違うの!出来たのは赤いちゃんちゃんこなの!』
カナミの発言に静まり返る画面内。
……やがて、何事もなかったかのように互いの会話に戻る客プレイヤー達。
さっきの出来事は全てなかったことになっているらしい。
うん、この反応、素晴らしいの一言に尽きますな。
カナミと話していた女の子たちも『ハーブティ、おかわりね』とか言っている。
ちなみにカナミの言っていた「赤いちゃんちゃんこ」は60歳以上のキャラクター……USOではアバターに年齢を設定できる……が装備することが出来る衣装だ。
防御力は普通だが、どんな攻撃でも1回のみ無効化できるという機能が付いている。
即死級の攻撃でも、ダメージ1の攻撃でも1回は1回としてカウントされるため、凄いかどうかは意見が分かれる所ではあるが。
裁縫スキルの中級最後の壁で、これが作れないと上級に上がることが出来ないため、裁縫スキルを伸ばしている人にとっては、一つの目安となるアイテムである。
これが作れるようになったという事は、確かに嬉しい事なんだろうけど……。
しかし、香奈美に赤ちゃん……びっくりしたけど誤解でよかった……。
でも、さすがに高校生で赤ちゃんはあり得ないけど、好きな奴とか……香奈美は可愛いからモテるだろうし……。
段々思考がネガティヴな方に行くのを自覚したので、切り換える為に外に行く。
自販機でコーヒーを買い、ひとしきり頭が冷えたところで部屋に戻ると、USOの店内も俺を残して誰もいなくなっていた。
『先に落ちるね。土曜日、遅れないでネ♪』
というカナミからのメッセージをはじめ、フレンドからのメッセージがいくつか届いていた。
俺はそれらに目を通し、返信してから作業に戻る。
今は、余計な事を考えないようにしよう……そう考えながら作業に没頭していった。
………。
………。
「センパイ!生きてる??」
誰かが叫んでる声がする……。
「センパイ、センパイ!」
揺すられてる……いつのまにか寝ていたらしい……俺はゆっくりと目を開ける。
目の前には、瞳に一杯涙をためた香奈美の顔があった。
「よかったぁ!センパイ生きてた!」
大げさな……そう言おうとして、声がかすれているのに気づく。
「ん……寝落ちしてたか……香奈美学校は?」
「バカーッ!心配かけて、今何時だと思ってるのよ!」
言われて時計を見る……7時過ぎ……まだ早い時間か。
「学校にはまだ早いか……モーニングにでも行くか?」
普段は俺一人なので、朝は抜くか近くでモーニングで済ませることが多い。
なので、香奈美が来てくれても朝食の提供は出来ない。
……そもそも、なんで香奈美が来てるんだ?
改めて香奈美を見る。
いつもの制服姿ではなく、明るい色目のブラウスに、ひざ丈のプリーツスカート。
これからデートにでも行こうかというような格好だ。
香奈美によく似合っているので、もしデートなら相手は惚れ直すだろうなぁ。
「どうしたの?」
俺がじっと見ていると、心配そうに声をかけてくる香奈美。
「いや可愛い格好だなって……学校さぼってデート?」
「バカーッ!」
思いっきり怒鳴られた。
それからしばらく、香奈美は口をきいてくれずに放置されていた。
その間に俺も何かおかしい事に気づく。
「あのぉ……香奈美さん?今日って何曜日でしょうか?」
「つーん!」
さっきは起き抜けで頭が働いていなかったが、外の薄暗さからして、今が朝ではなく夜だという事に気づく。
俺の感覚では、昨日は木曜で今日は金曜日のはず。
丸一日眠っていたというのもおかしな話だが、カナミの格好からしてそれだけじゃなさそうな気がする。
わざわざ着替えてここに来たというのも考えにくいし、その事から推測すると今は……。
その事に思い当たり、さぁーっと血の気が引く。
スマホを手に取るが、充電切れで電源が入らない。
慌ててPCを見ると、作業はすべて完了している……画面右下の時計には「土曜日 19:23」という表示が……オワタ。
「ゴメ……っ!」
慌てて立ち上がり謝ろうとするが、脚に力が入らず、その場に倒れ込む。
「センパイ、大丈夫!?」
駆け寄ってきて心配そうにのぞき込む香奈美。
「ゴメン、今日土曜日だったんだな。忘れていたわけじゃないんだけど……。」
「もういいよ、それより何があったか教えてくれる?」
「と言われてもなぁ……。」
作業のログから見ると、木曜の夜から土曜の昼過ぎぐらいまで作業していたらしい。
寝食を忘れずっと作業をして、終わった所で寝落ち……現在に至るってところだ。
「土曜の朝までに終わらせようと思っていた所までは覚えているんだけど……ゴメン。」
「はぁ……もういいですよ。それより、何も食べてないんですよね?何か作ります。」
結局、その日はひたすら謝り倒し、コラボカフェは翌週の最終日にギリギリ行くことが出来て無事にアイテムをゲットし、ゴタゴタの所為で合鍵を返してもらうのをすっかり忘れて、そのままだったりと……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……そういえば、そんな事があったかも?」
「ありました!私は初めてのデートだぁー!って気合を入れていったのに見事にすっぽかされて……あの時合鍵が無かったら、私達の関係終わってましたよ。」
「そう言えば、なんで、あの時合鍵持ってたんだろ?」
「それも、センパイの『都合のいい事』なんじゃないですか?」
カナミが笑いながら言う。
「そうかもな。」
俺もカナミに笑い返す。
「ところで、進捗はどうなの?」
「あぁ、終わったよ。ちょうどいいからみんな呼んできてくれ。」
「ウン、じゃぁ、ちょっと待っててね。」
そう言って駆けていくカナミの背中が香奈美の後ろ姿とダブる……。
向こうの世界の事を思いだしたせいで、なんとなく胸が締め付けられる思いがする。
女神との邂逅のとき……あの時の選択を後悔するわけじゃない。
だけど、あの世界の事がなかったことになるわけじゃない。
「呼んできたよー。」
「にぃに、完成したっすか!」
「出来たんですね。」
カナミが、リィズが、ミリィがそれぞれが声をかけながら俺の元に来る。
そう、今はこれが現実。
俺の都合のいい世界?
上等!俺はこのまま自分の都合のいい世界で生きるんだ。
調整?歪み?そんなのはミィルが苦労するだけの話……俺の知ったこっちゃねぇよ。
俺がそう考えていると、ミィルの困ったような、それでいて嬉しいような笑顔が見えた気がした。
えーと、ごめんなさい。
回想シーン2~3行で終わる予定でしたが、結局丸々使う事に……まぁ、番外編という事で(^^;




