魔王島を探して……拠点を作ろう。
ガタゴトガタゴト……
小刻みに揺れる馬車の振動にもようやく慣れてきたな。
「ねぇ、にぃに?」
御者台で手綱を握る俺の膝の上に乗ったリィズが、首を回して見上げるようにして聞いてくる。
「ん?どうした?」
俺の腕の中に、すっぽりと納まっているリィズ……ウン、やっぱりこれはいい。
思わず、リィズをギュっとしたくなる……が自制する。
……今はそう言う事をしている場合じゃない……たぶん……決して、左右からの圧力に屈したわけじゃないよ?
俺の右側にはミリィが、左側にはカナミが、ギュっと引っ付いている。
俺が手綱を握ると言ったら、みんなも御者台に座りたいと言い出した。
まぁ、みんなで御者台に座ってもいいように広くはしてあるが……後ろの馬車の意味がない様な気がするのは気のせいだろうか?
その後、誰が横に座るかで揉め……結局今の状態に落ち着いた。
流石に、カナミやミリィを膝の上に乗せるのは無理がある。
「この馬車?……やり過ぎじゃ無かったっすか?ギルドマスターも目を丸くしてたっすよ?」
「そう言ってもなぁ、お前らもガタガタ飛び跳ねるような馬車は嫌だろ?」
「そうっすけど……普通馬車はそう言うもんっす。」
「私は快適でいいと思うけどなぁ?」
俺がリィズの質問に答えると、カナミが同意してくる。
まぁ、リィズが言いたいのも分るんだけどな。
この世界の馬車は、まぁ、とにかく振動が酷い。
道が悪いという事を差し置いても、サスペンションなどの概念がなく、構造そのものが単純なので、振動がダイレクトに伝わる。
その為、乗り心地は最悪なのと車体の耐久が低い原因となっている。
俺の作った馬車は、そのあたりを改良してあり、王侯貴族でも持っていないような逸品となっている。
これを可能にしたのは「クリエイト・モデル」というクリエイト系の魔法だ。
大体馬車ぐらいまでの大きさのモノであれば、構造をしっかりとイメージすることで作ることが出来る。
最初は、どうせならと自動車を作ろうかと思ったが、エンジンなどの構造がわからなかったのであきらめた。
逆に言えば構造さえわかれば作れるという事なのだが。
「でも、ギルドに目をつけられたっすよ?」
リィズはこの後色々問題が起きるのではないかと心配しているらしい。
「いまさらだろ?それに、ギルドの方から俺に口止めしてきた件もあるし、そうそう面倒は起きないよ。」
先日の依頼横取りの件に関わっていた……というか張本人だった貴族のアレフだが、親がかなりの大物だったらしい。
その為、犯人については内密に処理という事で有耶無耶にしたいらしく、俺にも協力を申し出てきた。
まぁ、俺にはどうでもいい事だったので「貸し一つ」という事で終わった話である。
「あ、そろそろ交代の時間ね。」
「もうそんな時間か……って言うか、なんでこんな面倒な事……。」
「もぅ……仕方がないじゃない。そうしないと、皆が拗ねるんだから。」
カナミに時間だと告げられ、俺は一旦馬車を止める。
カナミは馬車を降りて、車を引いていた馬……ではなく、大きな狼……タイガーウルフの元へ行く。
「ありがとうね、交代の時間だよ。また今度よろしくー。」
馬車を作った後、問題になったのが引く馬の事だった。
普通に馬に引かせても良かったのだが、餌とか世話が面倒なのでゴーレムを作ろうとしたんだけど……。
「そう言う事なら、いい方法があるよ。」
とカナミが言って呼び出したのが、目の前にいるタイガーウルフ達。
なんでも、以前眷属の契約を結んでいたらしい。
俺は再会してから見た事ないと指摘すると、忘れていたとあっさりと言うカナミ。
そんなんでいいのか?と思ったが、やっぱりあまり良くなかったらしく、タイガーウルフ達が思いっきり拗ねていた。
なので、こうして呼び出すことによって機嫌を取ることになったのだが、呼び出して使役するというのはいいんだろうか?……まぁ喜んでいるのでいいのか?
「じゃぁ、次の子達呼ぶね……『コール!』」
カナミが召喚の呪文唱えると、呼ばれた眷属がその場に現れる。
……キュィ、キュィ、キュィ…………
…………カナミの召喚に応じたのは、トライアングラーをはじめとした、アングラウサギ……その数50羽。
おいおい、ウサギが馬車を引くのかよ?
カナミも想定外だったらしく、トライアングラーたちと話をしている。
ちなみにトライアングラーというのは、アングラウサギの中でも特にカナミに懐いていた3匹だ。
最近では俺にもよく懐いてくれていて、呼ぶとすぐ来てくれる。
モフモフ度No1の可愛い奴らだ。
「あのぉ……レイにぃ、この子たちがどうしても馬車が引きたいって……どうしよう?」
カナミが困ったように聞いてくる。
その後ろではつぶらな瞳で見上げてくるアングラウサギ50羽。
「イヤ……希望に沿ってあげたいが……引けるのか?」
キュィ、キュィ、キュィ!
任せて!というように騒がしくなるアングラウサギたち。
ガタゴトガタゴト……
俺達の馬車?の旅は続く……
……50羽のウサギが引く馬車……どう見ても異様だよなぁ。
カナミを見ると、彼女の顔も心なしか引きつっていた。
◇
「明日には予定の場所につきますわね。」
あっという間でしたねと、焼けた肉を俺に差し出しながら、ミリィが俺の横に腰を下ろす。
「ありがとう。……まぁ、今回は馬車を試す意味もあったからな。2日程度の距離で丁度いいんだよ。」
俺は貰った肉に齧り付きつつミリィと会話を続ける。
「目的の場所で、魔法を発動して半日程度で拠点が出来上がるからな。近くに森もあるし、ミリィ達には自給自足が出来るような下準備をお願いしたいな。」
「そのあたりはお任せくださいな。森の恵みがありますからね。」
「放っていても、動物たちも集まってくるだろうしな。」
「まぁ。」
くすくすと笑うミリィ。
「拠点が出来たらいよいよ魔王島探しですね。大丈夫ですか?」
ひとしきり笑った後、ミリィが真面目な顔で訊ねてくる。
「時間の問題だな。時間さえかければ必ず見つけ出すことはできる……けど実際、どれくらい時間が残っているか分からないんだよ。魔王島は現在狭間の世界を漂っている。この世界との繋がりは、あそこにいる三体のドラゴンの存在だけ。だから、出来るだけ早くこの世界と繋がないといけないんだけどな。」
ミリィにはそう説明したが、実際には見つけること自体はそう難しくないと考えている。
ただ、見つけた後どうすればいいかが見当もつかない。
その場になってから、グリムベイブルの知識に頼る。
何とも行き当たりばったりだけど、俺が今できるのはそれぐらいだ。
「にぃに、結局、魔王島ってどうなってるんすか?よくわからないっすよ。」
俺とミリィの会話にリィズも加わってくる。
「うーん、女神さまの話だとリンクが外れてって言ってたけど、そこの所どうなの、レイにぃ?」
同じくカナミも聞いてくる。
「うーん、どこから話せばいいのか……魔王島の存在って都合がよすぎるって思ったことないか?」
「そう言えばそうね。」
俺の質問にミリィが応え、他の二人もうんうんと頷いている。
「あそこあった島は、俺の『あったらいいな』が変革して具現化したものらしいんだ。」
「どういう事っすか?」
余計分らなくなったっす、とリィズが言う。
「なんといっていいか分からないんだけど、女神が言うには俺の魂は別格なんだと……ある程度世界に無理を強要できるくらいに。」
「なんすか、それ?」
「そう思うよなぁ。……まぁ、そう言うものらしい。
例えば、魔王島に関していえば「周りから遠く離れた無人島」「温泉が湧き出ている」「ビーチになる海岸がある」「恵みの多い森がある」「城を建てるのに適していて、その周りには農業に適した土地が広がっている」「侵入不可な断崖絶壁」「ダンジョンが存在する」「レアメタルが取れる資源豊富な鉱山がある」等々、一つ一つの要因としては、別に普通にあってもおかしくないよな?」
「そうね、「無人島にビーチ」があったり「森の中にダンジョン」があったりは別に珍しくもないわね。」
「そうそう、島の中に森があったり鉱山があったりって普通にあるよね。」
俺の言葉に、ミリィとカナミが同意してくれる。
「そう、いくつかの条件が重なるなんてのは、探せばいくらでもある。……けど、俺が望んだすべての条件に当てはまるとなると?」
「まずないっすね。」
リィズが言う。
「探せばどこかにあるかもしれないけど……奇跡的な確率よね。」
「それだよ、その「あるかもしれない」という部分、そこがポイントなんだよ。」
「どういうことですか?」
カナミの言葉に、俺がそれだ、と答えると、余計分らなくなったとミリィが聞いてくる。
みんなの頭の上に、はてなマークが浮かんで見える気がする。
「細かい事を言っても理解できないと思うし、俺もうまく説明できる自信がない。だから簡単に言えば『俺に都合のいい事が起きやすい』って事だ。」
「最初からそう言ってくれればいいっす。」
「あはは……、まぁ、そう言うわけで、俺が無理やり起こしていた『都合のいい現象』が、この間の女神達との一件でぐちゃぐちゃになったんだ。
それをミィルが何とか調整したんだけど、魔王島に関しては「因果律」を無視する存在「ドラゴン」がいた為に調整が出来ず、どこにも属していない「狭間の世界」に残ってしまったというわけだ。」
わかったかな?と皆の顔を見るが、はてなマークは消えていないみたいだ。
「まぁ、難しい事はどうでもよくて、魔王島を見つけてこっちの世界に戻せばOKという事だよ。」
「そんなんでいいの?」
「いいんだよ……それより……。」
「ウン、わかってる。」
さっきから、近くを取り囲む気配があり、段々近づいてくる。
せっかくのんびりと食事をしているというのに、無粋な奴らだ。
俺は、気づかない振りをして会話をしつつ、皆に戦闘準備を促す。
「オウオウ、楽しそうじゃねぇか、俺達も混ぜてくれよ。」
うひゃひゃひゃと下品な声で笑い声をあげながら近づいてくる夜盗たち。
その数10人余り……しかし、少し離れたところに、さらに20人ぐらいが隠れている。
まぁ、何とか出来る数だがどうするか?
「あなた達、私達の時間を邪魔して、ただで済むと思ってないよね?」
俺がどうするかを考える間もなく、カナミが夜盗に対し啖呵を切る。
あらら、怒ってらっしゃる。
「威勢のいい姉ちゃんだぜぇ。俺達がいい事してやるよ。」
グヘヘとさらに品のない声を上げながら、イヤらしい目でカナミを見る。
マズいなぁ。
俺は止めに入ることにする。
「あー、君たち。何の用か知らないけど、今すぐ立ち去れば見逃してあげるから、さっさと帰った方がいいよ。」
「あぁん?何言ってんだぁ?」
俺が親切に忠告してあげたのに、絡んでくる夜盗。
「今から、俺達がこの姉ちゃん達と遊んでやるから、お前は指咥えて見てな。」
何がおかしいのか、ゲラゲラと笑う男たち。
「そう、遊びたいんだ……いいよ、この人たちと遊んであげて。」
カナミがそう言うと同時に、男たちに飛び掛かる獣……タイガーウルフ達だ。
タイガーウルフの脅威は群れでの戦闘であり、単体ならCランクハンターでも互角に戦える程度なんだが、カナミの影響下にあるタイガーウルフ達はBランクハンター並の戦闘力を持っている。
碌な戦闘訓練もしていない夜盗たちが敵う筈もなく、あっという間に戦闘終了……今では、あちらこちらで、タイガーウルフ達に押さえつけられて、顔をベロベロと舐められている夜盗たちの姿があった。
……ウン、出番がない。
俺はそんな夜盗たちの一人に声をかける。
「なぁ、アンタらのアジトってこの近くなのか?」
俺の拠点に近くに盗賊のアジトがあるなら、処理しておかないとな。
「へ、へっ!だ、誰が話すもんか……。」
威勢のいいことを言ってるけど、声が震えてるぞ。
「あ、レイにぃ、この子たちのご飯まだだったんだけど?」
そこにカナミが声をかけてくる。
その声を聴いて、グルルゥと唸り声をあげるタイガーウルフ達。
中には、今まで以上に勢いよく嘗め回している個体もいた。
「ウルフ達のご飯かぁ?」
俺はそう言いながら、ちらりと夜盗を見る。
「はい!すみません!近くにあります!、案内します!だから助けて!」
あっという間に手の平を返す盗賊。その顔はすでに血の気がなく、真っ青というより真っ白になっている。
まぁ、顔中ベロベロ舐められている所に「ごはん」等と言われたら……ねぇ?
結局、夜盗たちの案内でアジトへ行き、溜め込んだお宝をすべて頂いた後に開放してやったら泣いて喜んでいた。
タイガーウルフ達は名残惜しそうだったが。
◇
「ついたぞー!」
ただっ広い平原の中の、少し小高くなっている場所。
見回せば近くに森が見える以外何もない。
「さて、早速準備をするか。」
「にぃに、私達は何すればいいすか?」
リィズが聞いてくる。
「そうだな、馬車の手前に積んである箱……そうそれをこっちへ……ありがとう。後は……そうだな、ミリィとリィズは森へ行って今夜の食事の調達を、カナミは馬車を片付けたらこっちへ来て手伝ってくれ。」
俺は其々に指示を出すと、リィズに持って来てもらった箱を開ける。
箱の中からインゴット、木材、布などを取り出して積み上げる。
「よし……『人形作成!』」
俺が素材に対して魔力を注ぎ込むと、全ての素材が一つに交じり合い発光する。
光が収まると、そこにはメイド服を着た猫耳のゴーレムが2体出来ていた。
背丈はやや小柄でリィズぐらいだが、ゴーレムなだけあってパワーは人間の数十倍はある。
ちなみに顔の造形は色々問題が出そうなので作っていない……いわゆる「のっぺらぼう」だ。
「馬車の資材を、あそこへ移動させろ。」
俺はメイドゴーレムに指示を出す。
後は作業が終わるのを待つだけだ。
「ねぇ?」
不意に背後からカナミの声がする。
……いつものカナミらしくない、低い底冷えのしそうな声だった。
「な、何かなぁ?」
俺は平静を装って、カナミに応える。
「アレは何かなぁ?」
カナミはせっせと働くメイドゴーレムを指さして訊ねてくる。
笑っているんだけど、その笑顔が怖い。
「お手伝いゴーレム?」
「何故、メイドさんなのかなぁ?」
カナミの笑顔がヒクついている。
ウン、このままではまたお説教だね。
「何を言ってるんだ!お手伝いと言えばメイドさん!メイドさんと言えばネコミミに決まってるじゃないか!ココでネコミミメイドさんを出さずに、どこで出すんだよ!」
とりあえず、勢いで反論しておく……引いたら負ける。
「大体ネコミミというのはだな……。」
その後、カナミに反論の間も与えず、30分にわたってネコミミとメイドさんの素晴らしい関係を解説することによって、危険を回避することが出来たのだった。
「ただいまーって、カナミどうしたんすか?」
「あ、リィズちゃん、……うわぁーん、きいてよぉー。」
晩御飯用の獲物を狩って、帰ってきたリィズに泣きつくカナミ。どうしたんだろうか?
さっきも生気のない目をしていたし、疲れたんだろうか?
その後、ミリィも戻ってきたころに、資材が所定の場所に設置し終えた。
「さて、仕上げだな、……カナミ大丈夫か?」
カナミが居なくても何とかなるので、疲れているなら休ませてあげたいが……。
「ウン、大丈夫……というより、これ以上レイにぃに任せたらどんな屋敷が出来上がるかわからなくて怖いし……。」
……あまり信用されていないみたいだ。
「……ま、いっか。じゃぁこっちに来て。」
カナミを呼んで後ろから抱きかかえるようにして腕を前に出す。
その腕にそっと手を添えるカナミ。
「じゃぁカナミは、イメージして……。」
俺はゆっくりと腕に魔力を溜め込んでいく……。
これから使う『家建築』に限らず、クリエイト系の魔法は、内部構造と外見イメージをそのまま形にする魔法なので、術者のイメージ力というのがそのまま反映される面白い魔法だ。
なので、さっきのクリエイトゴーレムで作ったネコミミメイドさんは100%俺の趣味そのものなのだが、今は置いておこう。
この外観のイメージだが、正直自身がない。
俺はどちらかというと機能美を求めるタイプなので外観にこだわりがないのだ。
逆にカナミは「火力より女子力」「可愛いは正義!」を座右の銘とするぐらい外見にこだわりがあるので、イメージ部分だけをカナミに任せることにした。
ちなみに、この方法はなぜかカナミとしか成功できず、ミリィやリィズとも試してみたが上手くいかなかった。
魔力の質とか相性とかが関係あるんだろうか?
……魔力が溜まるのを感じると共にカナミのイメージが流れ込んでくる。
『家建築』
俺の腕から、前方の資材に向かって魔力が放たれる。
魔力が資材を包み込み、敷地全体が光で覆われる。
光が収まると現れる、俺達の新しい屋敷……。
「おい?」
「ん?可愛いでしょ?」
俺の問いかけに、満面の笑みで答えるカナミ。
屋敷を見ているミリィもリィズも言葉を失っている。
俺の目の前にそびえたつ屋敷は、……夢と希望を売りにしているテーマパークが似合いそうな、それはもう、大変可愛らしいドールハウスだった。
別に、どこが悪いとかおかしいという事はないので文句のつけようがない。
ただ、この世界にない様式であることと、誰が見ても一言目に「可愛いね」という言葉が飛び出す以外は……。
しかも、そのドールハウスの入り口に立つ、俺が作成したメイドゴーレムが非常にしっくりと来る。
このドールハウスにいるのは、こういうメイドさん、とまるでセットで作成したかのように、マッチしているのだ。
これでは文句のつけようがない。
「どう?可愛い?褒めていいのよ?」
ドヤ顔で迫ってくるカナミ。
……俺は、全面降伏するしかなかった。
◇
「……なんでこうなった?」
夜、屋敷の前で焚火を囲んでの大宴会が行われている。
「まぁまぁ、皆お祝いに来てくれたんだし。」
カナミはご機嫌でそう言ってくる。
まぁ、来る人来る人……主に女性……が屋敷を可愛いと褒めてくれるのだから、ご機嫌にもなるだろう。
今、宴会をしているのは、近くの隠れ里に住む獣人達。
何もなかったところに急に屋敷が出来たので、見に来たら俺達だったという事で、急遽食べ物を持ち寄り宴会へと……。
「ま、いっか。」
細かい事を気にしても始まらないしな。
「あの、レイフォード様?」
カナミと話している所に一人の獣人の女性がやってくる……リナだ。
「ん、どうした?」
「実はお願いがございまして……私を雇ってはいただけないでしょうか?」
リナは、この場所なら里からそれ程離れていないから安心だという事、以前受けた恩を返すのにちょうどいい機会だという事、自分をアピールするいいチャンスであり、また何かあれば庇護してもらえるのではないかというちょっとした打算などを、隠し立てせず一生懸命話してくれた。
色々言ってはいるが、単に俺の役にたちたいという事は言葉の端々から伝わってくる。
「俺としては構わないんだけど……。」
ちらりとカナミを見る。
「そうね、後は任せて。」
そう言って、カナミはリナを連れて、リィズ、ミリィの元へ行き、何やら話をしていた。
しばらくして、皆がリィズを連れて戻って来る。
「決まったわよ。」
カナミがリナの耳をモフモフしながら言ってくる。
リナの目がやや虚ろになっているのが気になるが……あまりやり過ぎないようにな。
「一応、繋がるまでは通いでお願いしてますわ。」
ミリィが言う。
何が、とは言わないあたり、詳しくはまだ話していないんだろう。
「あと、レイにぃはモフモフ禁止。モフハラで訴えられたくなかったら手を出しちゃダメよ!」
カナミがリナをモフりながら言うが……全然説得力無いよな?
「お前は訴えられないのか?」
「私達はいいの!特別モフ手当出すんだから。」
なんだよ、モフ手当って……。
「まぁ、リナが来たのも、にぃにの「都合のいい」事なのかな。だったら仕方がないかって事っすよ。」
リィズに言われて初めて、気づいた。
そう言う事なんだろうか?
「そう言う事だと思うか?」
俺はリィズに聞いてみる。
「そうじゃないかって思うっすよ。だから、にぃには、にぃにのやりたい様にすればいいっす。私達はずっとついて行くっすよ。」
リィズがにっこりと微笑む。
「そうだな、俺のやりたい様にやる!それでいいよな。」
俺はリィズを抱きしめながら言う。
「むぎゅ……そうっすけど……苦しぃっす……。」
下手に難しく考える必要はなかったんだ。
やりたい様にやる。それでいいんだよな。
俺は腕の中の温もりと、最近悩んでいたことがなくなるような心の軽さを感じながら、そう思った。




