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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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心機一転……新しい生活のスタート?

 「こいつでとどめだ!」

 ズシャッ!

 俺は向かってきたジャイアントビックボアの首を刎ねる。

 こいつはビックボアの突然変異で通常の4倍近い体と力がある為、一般の狩人たちでは危なくて、冒険者ギルドに討伐依頼が回ってきたものだ。

 この依頼はBランク以上しか受けれないという事から、どれだけ危険なモンスターか、という事がわかるだろう。

 ……まぁ、俺にかかればこんな感じだけどな。

 俺はビックボアの解体作業を始める。 

 討伐証明部位は牙だけあればいいが、これだけの大きさの毛皮と肉ならかなりの値段で売れるだろう。

 骨と内臓はここで処理していくしかないか。


 解体作業が終わる頃、俺は周りの気配が多くなっているのに気づく。

 「取り囲まれているか。」

 解体中に気配は感じていたが、数もそう多くはなかったので無視していたんだけど……。

 ビックボアの血の匂いにつられて集まってきたハイエナども……中に、サーベルウルフがちらほらと混じっている。

 「……面倒だから一気に片付けるか。」

 俺はファリスを雷の剣に変幻させて天に掲げる。

 『雷の爆風(サンダーブラスト)!』

 俺が「力ある言葉(ルーン)」を唱えると、俺を中心に電撃交じりの風が吹き荒れ、周りにいたハイエナや狼どもを吹き飛ばしていく。

 飛ばされずに堪えていたものも、雷によって麻痺して動けなくなっている。


 「さて、帰るか。」

 俺はピクピクとしている狼たちを放っておいて帰路につく。

 奴らもしばらくしたら動けるようになるだろう。


 今日の討伐依頼、成功報酬は銀貨40枚だ。

 肉や皮などの素材を売った分と合わせれば銀貨50枚はいくだろう。

 一家族が2ヶ月は暮らせるだけの報酬。

 これを高いとみるか安いとみるかは人其々だろうが……少なくともリスクなしで得られるのであれば、ぼろい儲けだと考えるんだろうなぁ。

 ……こいつらみたいに。


 俺は目の前に現れた盗賊達に声をかける。

 「最近依頼の横取りをする奴らがいるって聞いたけど、お前らの事か?」

 「えっへっへっ……知らねぇなぁ。お前は黙って、荷物を全部おいていけばいいんだよ。」

 目の前に5人、陰に隠れているのが3人……他にはいないな……。

 (ファー、逃げられると面倒だ。陰に隠れてる3人を眠らせておいてくれ。)

 (了解よ。)

 俺は小声でファーにお願いをする。

 後は目の前の5人を処理するだけ。


 「この近くに、お前らのアジトはあるのか?」

 「お前が気にすることじゃねぇよ。さっさと降参して荷物を差し出しな。」

 「あー、一応降伏勧告な。今すぐ武装解除してアジトへ案内すれば命だけは助けてやるぞ?」

 「生意気な!お前らやっちまえ!」

 俺の言い方が気に食わなかったのか、5人の中でもイケメンっぽい偉そうな奴が、他の奴らをけしかける。

 「忠告はしたからな。……『雷神(サンダーブレイク)!』」

 俺が放つ電撃であっという間に4人が戦闘不能になる。

 『蔦の拘束(バインド)!』

 リーダーっぽい男も拘束する。


 (レイ、向こうのどうするの?)

 「あぁ、一応こっちでまとめるか。」

 俺はファーによって眠らされていた奥の3人も連れてきて纏めて縛り上げる。

 「おい、もう一度聞くぞ、アジトは近くにあるのか?」

 俺は縛り上げた盗賊達に聞いてみる。

 「誰がしゃべるかよ!」

 ひげ面の男がペッと唾を吐く。


 「あー、まだ立場が分かっていないんだねぇ。」

 さっきイケメンっぽい男と思っていた奴は実は女性だった。

 どおりで優男っぽいと思ったよ。

 その女を見せしめとして盗賊達の前に引っ張り出し、その意外と豊かな双丘を剣の先でツンツンする。

 「とりあえず、素直に答えればやめるけど、どうする?それとも、部下たちの前で嬌声を上げるまでやる?」


 (レイ、悪い顔になってるよ?)

 ファーが窘めるように言ってくるが仕方がないじゃないか。

 「盗賊に人権はないって、偉い人が言ってたからな。」

 「誰が貴様なんぞに!」

 盗賊の女は、顔を真っ赤にして羞恥に耐えながらも、まだ虚勢を張っている。

 「あっそ。じゃぁ……。」

 俺は盗賊達に見せつけるようにして、さらにツンツンする。

 「や、やめて……。」

 女の声が震える。

 「じゃぁ、喋るか?」

 「……いやぁ!」

 「やめてくれっ!喋る、喋るからやめてくれ!」

 女の悲鳴と同時に、ひげ面の男から懇願の声が上がる。

 

 「正直に答えないと、この女がどうなっても知らないからな。」

 俺はひげ面の男に尋問を始める。

 一応女には毛皮をかけてやっている。

 「まず、最近依頼を横取りしている奴がいるって聞いたけど、お前らの仕業か?」

 「あぁ、そうだ。アレフって言う貴族様の依頼でな。」

 アレフってやつは、最近急にランクを上げてきた嫌味なヤツだ。

 貴族の坊ちゃんの気まぐれ冒険者のくせに実力はあるのか?と思っていたら、そんな裏があったとはね。


 「じゃぁ、お前らのアジトはこの近くにあるのか?」

 「……あぁ、10分ほど行ったところにある。」

 「お前らの仲間は後何人いる?」

 「じ、10人だ。」

 俺は女を男に見える位置に引っ張る。

 「正直にって言ったよな?それとも……。」

 「クッ……。」

 声を出さないように必死に食いしばる女。

 「や、やめてくれ20人だ。ここに居る奴らを除いて20人いる。」

 「最初から、素直に言えばいいんだよ。……さてと。」

 俺は、立ち上がり、地面に魔法で穴を掘っていく。

 「な、何するんだ。」

 「いや、まぁ逃げられても困るからな。」

 穴に一人一人放り込み、首だけだして埋めていく。

 少し離れたところで、女も同じようにして埋める。

 そして、ひげ面の男にアジトまで案内するように告げる。

 

 「そうそう、下手な事は考えるなよ。この奥にさっき眠らせたハイエナどもが30頭ばかりいるからな。……っと、もう回復したのか。」

 俺の視線の先にハイエナがいるのを見て怯える盗賊たち。

 「一応結界を張っておいてやったけどな。30分ぐらいしか持たないからな。」

 俺がしゃべっている間にも何頭かが集まってくる。

 ウザいので電撃を与えておく。

 

 「お前が早くアジトへ案内してすぐ戻ってこれば、助けれるかもな?」

 「悪魔か!」

 「うるさい、さっさと案内しろ!」

 

 縛り上げた男を道案内に、歩くこと10分。

 「俺だって、こんなことしたくないんだよ、分かる?」

 「……。」

 男は答えない。……ま、いいか。

 「ここだ。」

 やがて、洞窟の前で男が立ち止まる。

 「そう、じゃぁ、先に立って歩いて。お仲間がいたら降伏勧告してもいいよ。」

 俺は前に男を立たせて洞窟の中へ入る。


 「ん?誰もいないな。」

 奥の広くなっている所まで移動したが誰もいない。

 「ハッ、馬鹿め。こんなところまでノコノコ入ってきやがって!おい、お前らやっちまえっ!」

 急に男が威勢よく喋り出す。

 ……。

 ……。

 ……。

 「おい、お前ら、どうしたっ!」

 男が焦った声を出すが、応える声はない。

 「どうした?仲間がいる夢でも見たか?」

 男は俺の顔を見て青ざめる。

 「もっといい夢見れるといいな。」

 俺は男の後頭部を思いっきり殴り昏倒させる。


 「おーい、もういいぞー。」

 俺は隠れている皆に声をかける。

 「えーと、どうかした?」

 俺を見る皆の視線が冷たい。

 「えーと……。」

 ヤバい、何か怒ってらっしゃる……。


 「……っすか?」

 「えっ?」

 リィズが何かつぶやくがよく聞き取れない。 

 「やっぱり、胸っすか!胸が大きい方がいいんすか!私の胸じゃ満足できないっすか!」

 リィズの魂の叫びに胸が痛くなる……胸だけに。

 「またくだらないこと考えてるっす!」

 わーんと泣いてミリィの元へ向か……いかけてカナミの方に方向を変え、抱き着くリィズ。

 「えーと、急に私の方に来たのはどういう事かなぁ?」

 リィズの頭を撫でつつも、プルプルしているカナミ。


 「とりあえず、お宝回収しような?」

 俺はそう言って、盗賊達がため込んだお宝を回収していく。

 予想以上にお宝をため込んでいたので、これだけあれば予定金額に手が届くだろう。


 今回の依頼は巨大ビックボアの討伐。

 それは間違いない。

 しかし、最近ギルドでは、依頼を受けたパ=ティが帰ってこない、もしくは失敗して帰ってくる……そんな事が続き、その直後に別の冒険者が、依頼を完了したと報告に来るケースが多くなっている。

 あるパーティが受けた依頼が失敗し、受け継いだ別のパーティが完了させるなんて言うのはよくあることだ。


 別段、取り立てて騒ぐようなことでもないのだが、短期間に立て続け……となると事件性を考えるのは当たり前だろう。

 そのため、ギルドマスターが信頼する、俺達をはじめとしたいくつかのパーティが内密に調査するように頼まれていたのだが……。

 

 正式な依頼でもないため、このまま素直に報告しても損するだけなので、アジトを見つけてゴッソリとお宝をいただこうと計画したのが、今回の顛末だ。

 そのため、俺が一人で囮になり、みんなには隠れてフォローをしてもらっていたのだが……。

 まさか、あっさりと黒幕まで割れるとは。

 

 まだ泣いているリィズをミリィとカナミの二人がかりで宥めているが、そっとしておく。

 下手に口を出せば、こっちに飛び火してくるからな。

 俺は黙々と共有バックにお宝を詰め込む。

 前のバックは、魔王島とのリンクが途切れたせいで使えなくなっていたので、新しく作った奴だ。

 まだ拠点が定まってないため、そんなに容量は入らないが、ここにある分ぐらいなら余裕で納めることができる。

  

 俺はお宝を回収した後、アジトを崩落させ、新たな捕虜と共に盗賊を埋めた森へ戻っていく。

 まだ、結界が利いていて盗賊達は襲われていなかったが、目の前にハイエナの顔があり、生きた心地がしなかったようで、皆一様に青ざめていた。


 「で、レイさん、この人達どうするんですか?」

 目の前に転がっている30人近い盗賊を見て、ミリィが言う。

 「うーん、どうしようか?一番手っ取り早いのは、このまま放置しておくことなんだけどね。3日以内にはハイエナさんたちがすべて処理してくれそうだし。」

 俺は遠くから、こちらを窺うようにしているハイエナたちを見る。

 下手に近づくと痛い目に合うことを学習したようで、遠巻きにこちらの様子を窺っている。


 「ちょっと可哀想じゃないっすか?」

 リィズが言うと、盗賊達は激しく頷く。

 「でもなぁ、俺、こいつらに襲われたんだぜ。8対1だよ?更に20人近くで待ち伏せまでしてたんだぜ。もし俺が負けていたら、俺の命無かったかも?」

 「にぃに、こいつら殺すっす!」

 あっさりと手のひらを返すリィズに青ざめる盗賊たち。

 「まぁ、待て、いまさら殺すのもなんだかなぁ。」 

 俺がそう言うと縋るような目で盗賊達が見てくる。

 いや、別にお前達を助けたいわけじゃないから。


 「あ、でも、もしレイにぃが負けてたら、私達もあの女の人のように襲われたかも?」

 「いや、襲ってないから……。でも、そうだな。こいつら殺しておくか?」

 カナミ達が襲われる?

 そんな危険な奴らは処分しておかないと。

 俺の言葉に絶望する盗賊たち。


 「まぁまぁ、一応、この人たちの話も聞いてみましょうよ?」

 ミリィがそう言うので、俺はひげ面の男の猿轡を解いてやる。


 「はぁはぁ……た、頼む、助けてくれ!」

 ……俺は黙って猿轡をし直す。

 「むぐぅっ……。」

 代わりに女の猿轡を解いてやる。

 女は黙ってこっちを睨んでいる。


 「なぁ、俺は放っておいてもいいんだけど、どうしたい?」

 「……助けてくれる気は……あるのか?」

 俺の問いかけに質問で返してくる女。

 めんどくせぇ。

 「正直、どうでもいいんだよ。俺たちに刃向うなら殺す。そうじゃないならどうでもいい。」

 「……頼む、もう2度とお前らには手を出さない。だから助けてくれ。」

 女が、悔しそうに、しかし、しっかりとした意志を持って懇願してくる。


 「って言ってるけど、どうする?」

 「手を出さないって言ってるし、いいんじゃないっすか?」

 「まぁね、無抵抗の人間殺すと、ご飯おいしくなさそうだし。」

 「レイさんに任せますわ。」

 リィズ、カナミ、ミリィが口々に助けてもいいよって言う。

 「まぁ、助けてもいいけど、縄を解いた途端にさっきのコイツみたいに裏切られてもなぁ。」

 そう言って俺はひげ面の男を蹴り飛ばす。


 「よし、こうしよう。お前が信用できると思う奴を二人選べ。」

 俺は女にそう告げる。

 「ここから街まで大体30分だ。往復で1時間だな。一人は、街まで助けを呼びに行きな。

 アレフってやつに助けを求めてもいいけど、たぶん見捨てられるだろうな。おすすめは警備隊だ。

 命だけは助けてくれると思うぞ。


 もう一人は保険だな。下半身だけ動かない魔法をかけてやる。上半身は動くので、頑張って仲間の縄を解いて助けてやるんだな。

 そして、ここに結界を張っておいてやる。

 この結界はきっかり2時間、中からも外からも入れない結界だから、襲われることもないし逃げることもできない。


 最初の一人がしっかり助けを呼んでこれば、きっかり2時間後助かる。

 裏切ったとしても、もう一人がしっかりと助けていれば2時間後逃げることが出来るかもしれない。

 まぁ、お前らの信頼関係が試されるってわけだ。」

 俺がそう告げると、女は早速二人の男を選び、何やら指示を出している。

 フン、こんな奴らの信頼関係なんて、たかが知れてるけどな。

 ……信頼関係か……強固だと思っていても、ちょっとしたことで崩れてしまう、形のない脆いもの……。

「こいつはプレゼントだよ。」

 俺は、心の中の黒いモヤモヤを振り払うかのように、地面に刃の欠けたナイフを思いっきり突き刺す。

 武器としては心許ないが、ロープを斬るぐらいなら役に立つだろう。

 俺は結界を張ると、ミリィ達を促して、その場を後にした。


 ◇


 「にぃに、あれでよかったんすか?」

 街へ帰る途中、リィズが何かを気にしているそぶりで言う。

 「まぁ、後はアイツらの信頼関係の問題だろ。ちゃんと関係を築いていれば助かるだろ。」

 ミリィとカナミが、一瞬痛ましいものを見るみたいな視線を向ける。

 そして左右からギュっとしがみ付いてくる。

 ……ゴメン、気を使わせてるよな。


 世界の改変……女神たちと会ったあの事件から3か月が過ぎた。

 俺達は、他のメンバーを探して獣人国のあった場所まで行ってみたが、ミィルの言うとおり、ポメラの街はなく、また、獣人の国が建国されたという話を聞く事もなかった。

 幸いだったのは、ポメラの街があった場所の近くに獣人の隠れ里があり、そこでリナとミーナとついでにダビットと再会することはできた。

 しかし、彼女らの反応は、ミーナを奴隷狩りから助けてもらって感謝している、という以上のものはなかった。


 ミリィやリィズ、カナミにしても、一緒に暮らしていた仲間の豹変ぶりに思う所があるらしく、再会後はかなり落ち込んでいた。レイファやソラ程長く一緒にいたわけではないにせよ悲しいと思うのは当たり前だろう。

 ましてや、俺に至っては常に好意を向けられていて、少なからず関係を持った相手だけにショックは大きかった。


 ブランの事も心配だったが、そもそもミネラルド国へ渡る術がない以上、確認することは不可能だった。


 彼女達が悪いわけじゃないのは分かっている。

 大体、何があっても俺の事が好きで、裏切ることはないと勝手に思っていただけだ。

 そもそも、何もなかったことになっているのだから、裏切られたと思う方がおかしい。

 理屈ではわかっていても感情が納得しないというのはこういう事なんだと、初めて理解した。


 あの日から、三人は事ある毎に俺に寄り添ってくる。


 「例え忘れる事があっても、世界が変わったとしても、センパイと再び会えたのなら、私はまたセンパイに恋をするよ。」

 カナミはそう言ってくれる。


 「世界が変わったとしても、レイさんの魂が傷ついていれば私は助けたい。逆に、私が傷ついていたら、レイさんは助けてくれるんでしょ?」

 ミリィらしい言葉だ。


 「忘れるとか、世界が変わるとか、分かんない。でも、にぃにに会えたから今ここに居る。にぃにに会えなければ、今生きていない……世界が変わっても、それは変わらないっすよ。」

 リィズはブレない……強い子だと思う。


 三人も辛いはずなのに、俺が支えなきゃいけないのに、結局俺が支えられている。

 表面は何とか取り繕えていると思うのだが、こういう時、寄り添ってくる三人を見ると、結局見透かされているんだなと、自己嫌悪に陥る。


 ……よし、反省終了!

 俺は大きく首を振って気持ちを切り替える。

 「よし!今夜はいい宿に泊まってご馳走を食べよう!」

 「いいっすね!お肉頼んでいいすか?」

 「おぉ、いいぞ。ビックボアの肉も大量に手に入ったから、これも調理してもらおう。」

 俺の大盤振る舞いにリィズが乗ってくる。

 クヨクヨしていても仕方がないからな。

 今は出来る事を頑張ろう。

 

 ◇


 「……という事で、裏にはアレフが絡んでいるという証言がある。」

 俺は、最近の依頼横取り事件についての有力情報を、ギルドマスターに提供したところだ。

 「まさか、貴族が絡んでくるとは……。」

 「にぃに、やっぱり、あの盗賊達連れてきた方が良かったんじゃ?」

 「依頼も受けてないのに、そんな面倒な事出来るかよ。それに、運が良ければ今頃警備隊が捕らえているだろう?」

 俺達が街に入った時に、警備隊に盗賊達の事を、依頼横取り事件の証人になるかもしれないという事を添えて伝えておいた。

 

 「そうだな、こんなことなら、正式に依頼を出しておけばよかった。」

 がっくりと項垂れるギルドマスター。

 「まぁ、そんなに落ち込まれると、悪かったって気になるからやめてくれ。」

 「そうは言うがな、このままでは、証拠を握りつぶされてとんずら……俺は被害にあった奴らになんて詫びればいいんだ!」

 「にぃに、何とかしてあげれないっすか?」

 リィズもさすがに気まずいようだった。


 「……成功報酬金貨1枚。」

 「何だって?」

 「金貨1枚で何とかしてやろうって言ってんだよ。」

 俺は落ち込むギルドマスターに声をかける。

 「本当か!アレフを無事に捕まえることが出来たら金貨10枚出そう!」

 おいおい、いきなり10倍って、失敗出来ないじゃないか。

 「仕方がないな、じゃぁ…………。」

 俺はギルドマスターにアレフを嵌めるための作戦を話す。

 俺の話を聞き、目を輝かせたギルドマスターは早速各所に手配をかける。

 

 「じゃぁ、俺達は行ってくるな。」

 「あぁ、よろしく頼む。」

 ギルドマスターに見送られてギルドを後にする。


 ◇

 

 「リィズ、悪いな。高級ホテルが野宿になっちゃったよ。」

 「いいっすよ。落ち込んでいる癖に無理に笑っているにぃにと高級ホテルで過ごすより、いまの悪だくみを考えている顔のにぃにと野営する方が楽しいっす。」

 「言ったな。」

 「正直者っすから。」

 リィズと笑い合う。

 確かに、こっちの方が俺らしいよな。


 「でも、ミリィとカナミには悪かったなぁ。」

 街に入った時、リィズとギルドマスターの所に行っている間、ミリィとカナミには宿の手配をお願いしておいたのだ。

 しかし、急に予定が変わったので、明日の朝まで宿に行くことは出来なくなってしまった。

 二人には悪いと思うが、たまにはゆっくりしていてもらおう。


 「仕方がないっす。二人には高級ホテルでのんびりとしてもらうっすよ。……それよりこの辺りでどうっす?」

 「そうだな、丁度いいかも……じゃぁ偽装するか。」


 そして、夜も深まりみんなが寝静まっている頃、俺は焚火の番をしつつ、ウトウトと舟をこいでいた。

 その俺に気づかれることなく、馬車に忍び込む影……。

 荷物の間に押し込まれる様にしている毛布の下では、誰かが寝ているかのようだ。

 その証拠に、呼吸に合わせて毛布が動いている。

 人影はナイフを掲げ、一気に毛布に向かって突き下ろす。


 『拘束(バインド)!』

 ナイフが毛布に刺さる寸前、俺の魔法が人影を絡めとる。

 『捕縛の投網(ネット)!』

 更に網が人影を身動きできなくする。

 『眠りと麻痺(スリープスタン)!』

 自害されても困るので、体の自由を奪い、意識を刈り取る。


 「リィズ、大丈夫か?」

 俺は天井に張り付いている、リィズに声をかける。

 「大丈夫じゃないっす、そろそろ限界っす。」

 そう言って落ちてくるリィズを受け止めてやる。

 ちょうどお姫様抱っこをしている感じになった。

 「エヘッ。」

 何が嬉しいのか、リィズは笑顔で俺の首に手を回してくる。

 んー、最近、リィズのこういう笑顔が可愛くてしょうがない。

 気づくと、俺はリィズにキスをしていた。

 

 「ダメ……アレを早く連れて行かないと……。」

 唇を離すとリィズが困ったように言ってくる。

 「魔法を解かない限り意識は戻らないからな、少しぐらいなら大丈夫。」

 そう言って俺はもう一度リィズに口づける。

 俺の首に回されたリィズの腕に力が入り、ギュっと引き寄せられる。

 …………。

 ………。

 ……。


 「もぅ、にぃにの所為で遅くなっちゃったじゃないですか!」

 馬を操る俺の横に座ったリィズが、しがみ付きながらそんな事を言う。

 「リィズが可愛いからいけないんだ。」

 俺は手綱から手を放し、リィズを抱きかかえて膝の上に座らせ、リィズを後ろから抱きしめる感じで手綱を持つ。

 ちなみにこの手綱持っているだけ。

 馬車を引いているのは、馬に似せたゴーレム……というか張りぼて。

 ……仕方がないじゃないか、御者なんてやったことがないんだから。

 今回の為に馬車と馬のはく製を借りて、急遽こしらえた「なんちゃってゴーレム馬車。」

 動力は俺の魔力……街まですぐ近くだから、これでいいんだよ。


 「にぃに、どうしたの?」

 リィズが俺を見上げる。

 「いや、こういうのいいなぁって。」

 俺の膝の上に座らせ、抱え込むようにしている今の状態。

 下手したら理性が吹っ飛んで第二ラウンドに突入してしまいそうになる。

 「私も、なんか落ち着く……。この仕事終わったら、馬車買う?」

 「いいな、丁度移動手段をどうしようか考えていた所だしな。」

 俺達は街までのそれ程長くない時間をまったりと過ごしていた。


 ◇


 今回の作戦については、かなり単純だ。

 ギルドマスターに「ある冒険者が、盗賊を捕まえて護送中だ。どうやら、その盗賊は最近噂の依頼横取り事件と関係があるらしい。明日朝一で警備隊と一緒に迎えに行く。本当はすぐ行きたいんだが、どうしても明日になってしまう。まぁ今夜一晩ぐらいなら大丈夫だろう。」という噂を「ここだけの話」として広まっている……とアレフの耳に入る様にする。

 というかアレフ以外に耳にしない方がいい。

 

 第二便として警備隊に「どうやら、捕まった盗賊は事件の犯人の顔と名前を知っているらしい。情報と引き換えに助命を乞うているので、早めに引き取りに来てほしい。」という話をしたことにする。もちろん、アレフの耳に入るように……。


 そして、街の近くでは、盗賊を捉えた馬車が野営をしていて、番をしている冒険者は居眠りをしている……。

 となれば、バカの考えることはひとつだろう……。

 とはいってもここまで単純に引っかかるとは思ってもいなかったんだけどな。


 「待たせたな。」

 まだ夜も明けきらない頃、俺はギルドの裏口から、こっそりとマスターの部屋へ忍び込む。

 「こいつが下手人だ、眠らせてある。」

 俺はギルドマスターに、襲ってきた犯人を差し出す。

 縛ってはいるが、魔法が解けていないため、犯人はまだ眠ったままだ。

 「とりあえずマスクを剥ぐか……これは……。」

 ギルドマスターはそう言って、マスクを取り……出てきた素顔に唖然とする。

 マスクの下から現れたのは、アレフ本人だった。


 「どうやってアレフとのつながりを吐かせようかと思っていたが……。」

 ギルドマスターが、気が抜けたようにつぶやく。

 まぁ、本人が手をかけるなんて誰も思わないよな。

 「折角用意したコレ、必要無くなったっすね。」

 リィズがポーションの瓶を振りながら、呟く。

 「ん、それは何だね?」

 「自白ポーションっす。これを使えば、ちょっと素直になって本当の事を話すっす。人体に無害な優しいポーションっす。」

 「そ、それ譲ってくれないかね。それがあれば、アレフ本人から自白が取れる。」

 「まぁ、いいすよ。代金は報酬に上乗せっす。」


 とりあえず、夜遅い……というか朝早いので、後の事はマスターに任せて、ギルドを出る俺達。

 「しかし、自白ポーションなんていつの間に用意したんだ?」

 「ねぇねが作ったんすよ。最近いつも持ち歩いてるっすよ。」

 「……なぁ、それ何に使うんだ?」

 「……秘密ダヨ♪」

 小悪魔のような笑みを浮かべるリィズ。

 あまり深く突っ込まないほうが身の為かもしれない。


 ◇


 俺とリィズはまだ薄暗い街中をゆっくりと歩いている。

 霧がかかっている朝靄の中の街の風景は、昼間とはまた違った顔を見せる。

 「なんか、こういうのもいいな。」 

 「そうっす……ね……。」

 ん?リィズどうした?

 リィズの様子がおかしい……リィズの視線の先には人影が見えるが霧と靄の所為で、顔がはっきりしない。


 「楽しそうですわね?」

 「ふーん、深夜のデートで朝帰りなの?」

 ……この声は……ミリィとカナミ?

 (おい、どういうことだ?ちゃんと説明したんだろ?)

 (えーと、えーと、アハハ……)

 小声でリィズに確認を取っている間にも二人は近づいてきて、俺の両脇をがっしりと捕まえる。

 リィズはいつの間にか、バインドで拘束されている。

 

 「まだ、時間はたっぷりあるから、ゆっくりとお話しできますね?」

 「そうね、ゆっくりと話し合いましょうか?」

 ミリィサン、カナミサン……笑顔怖いっす……。 

 

 偶然ですが、9/1 通常なら2学期の始まりですね。

 夏休みが明けて、今までとは何かが違う、何か新しい事が起きるかも?

 レイフォード達も、そんな前向きな気持ちでスタートしてもらえたら、良かったのですが(^^;

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