女神との邂逅………香奈美END
「……レイにぃ、起きて……レイにぃ……。」
体が揺すられる……。
「カナミ、にぃには疲れてるんっす。もう少し休ませて。」
「わかってるけど……そんな場合じゃないのよ。」
「おにぃちゃん、キスしたら起きないかな?」
「「「それだ!」」」
何やら不穏な空気を感じる。
これ、すぐ起きないとヤバい奴だ。
なんとなくヤバい気がして目を覚ます。
目の前には見慣れた美少女達。
「みんなおはよう。……いつのまにか寝ていたのか……カナミ、気分はどうだ?」
俺はそう言って、まだベットに横になっているカナミを見る。
魔王に会うため、苦労の末ダンジョンを攻略し、ようやく会えて色々話を聞けたのがつい昨日の事。
その際、女神がカナミの身体に降りてきて魔王を攻撃した事により、魔王との謁見はあえなく終了したのだが、それなりの収穫はあった。
「ウン、大丈夫。それより……。」
「あぁ、わかっている。女神の事だろ?」
カナミの言葉を遮って俺が言うと、カナミは、うん、と小さく頷く。
「とりあえず、準備が整って、カナの体調が回復したらミンディアに行く。それまで休んでいろよ。」
「ウン……。」
俺は、小さく頷くカナミのおでこに軽くキスをすると、皆を促して部屋を出る。
「にぃに、カナミは大丈夫なんすか?」
「マナの乱れと消耗が激しいみたいです。心配ですね。」
「カナミお姉ちゃん、大丈夫なの?」
カナミを心配するリィズ達に、心配ないと告げてそのまま俺の部屋へと移動する。
部屋の中は、すでにリナによって整えられており、お茶を用意した後、リナはそのまま退室したため、部屋の中に残ったのはミリィとリィズ、そしてソラだけである。
あまり広めたい話じゃなかったので丁度いい。
リナも、そのあたりを察したのだろう。ほんとによくできた娘だよ。
「お前達、カナミと共に行動していた時、どのあたりまで聞いている?」
「それはカナミ自身の事っすか?それとも、にぃにとカナミの事っすか?」
かなり抽象的な聞き方になってしまったが、リィズにはちゃんと伝わったようだ。
ミリィは、俺抜きでカナミと接していた時間はそれほどないため、今回は聞き役に徹するという態度を崩さない。
ソラに至ってはあまり理解できていないようだが、それは織り込み済だ。
実際ここに連れてきているのはファルスがいるからなので、ソラ自身が理解しているかどうかはあまり関係はなかった。
結果として、リィズとの会話になるのは自然な流れである。
「そうだな、その両方だ。」
本当はカナミ自身についてだけでよかったのだが、せっかくの機会なのですべてを打ち明けようと思う。
「……あまり聞いてないっす。私が知っているのは、にぃにとカナミが昔一緒にいた事。それは、ここよりずっと遠い場所でここに来た時に離れ離れになった事。
にぃにを探している間に、なぜか、女神と会話することが出来たため、聖女と呼ばれる様になったこと……ぐらいっすよ。」
リィズが知っていることを話す。……概ね間違ってはいない。
「まぁ、それだけ知っていれば十分なんだが……折角だしな、ちょっとだけ昔話に付き合ってくれるか?」
俺はそう言って、昔の事を皆に話す。
俺とカナミは、この世界ではない別の世界……異世界という概念は意外とすんなりと受け入れられた……から、この世界に生まれ変わり、その際に前世界の記憶を受け継いでいること。
生まれ変わりに際し女神が関わっている事。
そのせいかどうかは知らないが、この世界では非常に強力な能力を授けられている事。
カナミと女神の親和性が高いのは、女神が何らかの形でこの世界に干渉するためだと推測している事などを語った。
「成程っす。そう言う事なら納得できる点も色々あるっす。」
リィズなりに疑問視していた所も、今の説明が本当なら納得できるものだという。
理解が早くて助かる。
「それで、今回の事に繋がるわけだが……。」
俺は今一度3人の顔を見る。
「今回、女神が邪魔してきたのは、魔王と敵対というよりは、あの時点で余計な事を俺達に知られたくなかった、という理由が大きいみたいだ。」
「余計な事っすか?」
「あぁ、それがどの内容を指すのか分からないがな。今度会った時にでも聞いてみるさ。」
俺は、カナミの体調が万全になったら、女神に会うためにミンディアに行くことを告げる。
「ファルス!」
俺はソラを見てファルスを呼び出す。
(何でしょうか?)
ソラの周りに光が浮かび上がる。
「一応確認しておきたい。お前は精霊ではあるがミルファースの眷属でもある。……もし、俺達が女神と対立することになったら、お前はどうする?」
(…………その様な事にならないことを祈っています。)
長い沈黙の後、ようやく絞り出した答えがそれだった。
まぁ、仕方がないな。
「ソラ、悪いがミンディアに行くときはリナと留守番をしていてくれ。」
「えーなんで!ヤダよーボクだけ仲間外れ?」
ソラが納得がいかないと 訴えてくるが仕方がないのだ。
色々な理由をつけて誤魔化すことも考えたが、ここは正直に話そうと思う。
「ソラ、いいか、よく聞いて欲しい。ソラにとってファルスはどういう存在だ?」
俺はソラを見つめ真面目に問いかける。
「……とっても大事な……友達。」
俺の目を見て、我儘を言ったりしている場合じゃないと、真剣に向き合うソラ。
「ファルスもソラの事を大事に思っている。だから、色々なところで力を貸してくれる。わかっているだろ?」
「ウン……。」
「だけど、ファルス自身の想いとは関係なく、命令されたら従わなければいけない存在がいる。……それが女神ミルファースだ。
ミルファースが俺を攻撃しろ!と命令したら、ファルスは俺に攻撃を仕掛けてくる。俺も、自分を守るためにファルスを攻撃しなければならない。」
「なんで、そんなのボクいやだよ!」
「俺だって、ファルスだって嫌だよ。でも、それでも従わなければならなくなる。それがミルファースとファルスの関係だ……ここまでは分かるか?」
俺はソラに確認をするとソラは小さく頷く。
「ウン、イヤだけど逆らったらご飯抜かれたり鞭で打たれたりするんだよね……。」
ソラ自身の孤児院時代の体験と重ねて理解したらしい。
「その通りだよ。でも、ソラはファルスにそんな事させたくないだろ?」
「ウン……。」
ソラが頷いて顔を伏せる。
俺の言った事、言おうとしている事を理解したらしい。
賢い子だけど、それと感情は別物なのだろう。
必死になって何かを耐えるように拳を握り締めている。
俺はソラの肩に手を置き、優しく告げる。
「今回は女神と話をするだけだ。話を聞いたらすぐに戻って来る。」
それに……と話を続ける。
「留守番はソラだけじゃない。リナもブランも留守番だよ。魔族と人族の争いが起きようとしている現在、何が起きるか分からない。何か起きた時は、ソラ達が皆を守るんだよ。俺達が安心して帰ってこれるように守るのも大事な仕事だよ。」
俺の言葉に納得できたかどうかはわからないが、それでもソラは頷いてくれた。
「そう言うわけだから、ミンディアには俺とカナ、ミリィ、リィズの4人で行く。場合によっては領都の教会まで行くことになるかもしれないから、そのつもりでいてくれ。」
俺の言葉にみんな頷く。
「出発はカナミの体調から見て、たぶん3日後になると思う。それまでリィズはリナと共に情報収集。特にリンガードとアルガードがどう動くつもりなのか?ポメラに与える影響は?などを重点的に当たってくれ。
ミリィは各種アイテムの在庫チェック。足りないものは継ぎ足しておいてくれ。
ソラはブランと共にポメラの街中を巡回。空いた時間にはセイラと一緒に島内の巡回を頼む。
色々な問題点が出てくるはずだから、全て報告できるように……ファルスに手伝ってもらえば大丈夫だろ?」
俺は皆に指示を出した後、リナも呼んで留守の間にやっておいて欲しい事など、様々な指示を出していく。
特に、配下にいる魔族たちに関しては、魔族と人族の争いに手出しは無用。もし手を出すのなら俺との縁を切ってからにしろときつく言い渡しておく。
やる事が多く、色々と飛び回っているだけであっという間に時間は過ぎていく。
ようやく落ち着いた時間が取れたのは、すでに出発の前日であり、その時になってようやく魔王からの伝言を聞くことが出来た。
俺は掌に残った魔結晶の粉を見つめて考える。
証拠が残らないようにという配慮なのか、魔結晶に残されたメッセージを確認した後、音もなく崩れ落ち僅かな粉末だけを俺の手の中に残していった。
魔王が俺を騙そうとしているとは思わないが、すぐに答えを出せるものでもない。
どちらにしても女神との話の後にするしかないと、無理やり思考の外へと追いやる。
「風呂にでも入ってゆっくりと考えるか……。」
すでに夕方だ。夕日でも眺めていれば、少しは落ち着いて、何かいい考えが浮かぶかもしれない。
そう思って、俺は露天風呂へと向かうことにした。
「ふぅ……ココはいつ来ても落ち着くなぁ。」
俺は広い湯船にゆったりと浸かる。
「こんな綺麗な景色独り占め……。」
「……じゃないよ!」
「おわっ!」
背後から急に声をかけられ、飛びのく。
「か、カナ、いつの間に……。」
「えー、私が入ってたところに来たのはレイにぃじゃない?襲いに来たのかってドキドキしてるんですけどぉ?」
悪戯っぽい目つきで見上げながらそう言うカナミ。
……先に入ってたのか、気づかなかった。
もう体調は大丈夫なのか?
俺はカナミの身体を見つめながらそう考える。
「えっと、あんまり見つめられると……その……恥ずかしぃ。」
カナミは真っ赤になりながら胸元を隠すようにしている。
ここの温泉は乳白色の濁り湯だから、湯につかっていればほとんど見えないんだけどな……そう言う問題でもないらしい。
俺が視線をカナミから外へ向けると、カナミは俺の横に来て体重を預けてくる。
「何考えてたの?……女神の事?」
「それを含めて色々とな……。」
「あ、話さないで。……たぶん大丈夫だとは思うんだけど……万が一の事もあるから。」
その言葉でカナミも同じことを考えていたと気づく。
カナミと女神のリンク……それがどれくらいのモノかは分からない。
カナミが言うには、女神が降臨してきた時、こちらから話をしたいときなどは女神との「つながり」みたいなものを感じるという。
普段はそう言う事がないのでリンクしていないと思えるが、どこまでかが分からない。
リンクしていなくてもカナミを通して見聞きするくらいの事は出来るかもしれない。
女神と敵対する気はないが、どう転ぶか分からない現状では、情報が洩れるリスクは出来るだけ避けるべきだ。
「もし、もしもだよ、女神と敵対することになったら、私を結界の中に閉じ込めて、誰も近づけないようにしてね。センパイに迷惑かけたくない。……でも、センパイだけはたまに会いに来てくれると嬉しいな。」
笑いながら言うカナミ……そんな泣きそうな顔で必死に笑顔を作って……俺は心が締め付けられる思いがした。
「女子高生を拉致監禁ってか……そそられるが、完全にアウトだな。」
だから俺は冗談で誤魔化す。
カナミをそんな目に合わせるわけにはいかない。
だけど、それを盾に取られるわけにもいかないので、いざという時にはその覚悟も必要だろう。
「まぁ、最悪の場合は、そうするしかないけど、その時は俺がずっと一緒にいてやるからな。」
俺はカナミの肩に手を回し、グッと引き寄せる。
「ウン、ごめんね……。」
「カナミが謝る事じゃないさ。」
俺達は日が沈むまで、二人で夕焼けを眺めていた。
◇
「出て来い!話を聞きに来た!」
翌日、俺達はミンディアの教会の大聖堂で、女神の降臨を待つ。
俺の呼びかけからしばらく待つと、大聖堂を神々しい光が包み込む。
やがて光が収まると、4つの光の玉が残される。
その光の玉の形がゆがみ、やがて人型と形を変えていき……4柱の女神が姿を払わす。
『お待たせしました。何分このような事は過去にもあまり例はなく、手間取ってしまいましたわ。』
4柱の内一際輝いていた女神が声をかけてくる。
『まずは自己紹介させていただきますわ、私はネルフィー。光と秩序を司っています。』
最高神ネルフィー。絶対神ユングフィーの元、この世界を作り上げたと言われる四神の一柱だ。
『そして、後ろに控えているのが、左から「ミルファース」「エルフィーネ」「ミィル」です。それぞれ、慈愛と豊穣、創造と再生、時と運命を司る女神達です。』
其々の女神たちとあいさつを交わす。
ミルファースは、以前少しだけ話をしたし、ミィルはほとんど覚えていないが、この世界に転生したときに会話をした……はず。
初めて会うのはネルフィーとエルフィーネだけだ。
カナミからは、気さくでとっつきやすい性格と聞いているが、この間の事もあるので、警戒は解いていない。
『あまり長くはいられないので、手短にいきましょう。……レイフォード、我々はあなたに、この世界から手を引くことを望みます。』
「どういうことだ?」
あまりにも突然な上、一方的過ぎて理解が追い付かない。
『そのままの意味です。これ以上深く関わって欲しくないのです。』
「あまりにも一方的すぎないか?せめて説明位しろよ。」
『わかっていただけませんか?』
ネルフィーの言葉に沿うようにエルフィーネが腕を振ると辺りが光に包まれる。
『わかっていただけないのであれば、強制的に退場していただきます!』
直後、4柱の女神たちが光の龍となって襲い掛かってくる。
「クッ!ケイオス!」
俺はケイオスを召喚し、光の龍を斬り裂く!
しかし、分かれた光は其々龍となって俺に襲い掛かる。
1方の龍を押さえている間に、後方よりもう1方の龍に襲い掛かられる。
「しまった!」
俺は光の龍に飲み込まれ、視界全体が真っ白に包まれていく……。
「ここ……までなのか……。」
段々意識がはっきりしなくなる。
(もう、休んでいいのですよ……お疲れ様でした……)
誰かの声が聞こえるが、はっきりとしない。
そして、俺の意識は途切れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……きて……セン……ら……起きな……♪」
遠くの方で声が聞こえる。
懐かしい声だ……聴いているだけで安心できる。
「……センパイ、起きて……センパイってば……。」
体が揺すられる……ン……後5分……
「もぅ、センパイったら……起きないとキスしちゃうゾ♪」
顔が温かいもので包まれる。
そして、唇に柔らかいものが触れた気がする。
……なんだろうこれは……
意識が覚醒してくる……
目を覚ますと、目の前に美少女のアップが。
「……これは夢だな。こんな可愛い子が俺のそばに居るはずがない。」
そう思い、もう一度寝直すことに……ん?寝直す?
「もぅ!せっかく起こしに来てあげたのに!」
あれ?……
「……香奈美?」
「はい、貴方の香奈美ちゃんですよ。」
俺の目の前にいる、高校の制服を着た美少女……水上香奈美がにっこりと笑う。
……なんだ?訳が分からない……
「確か、カナとミリィとリィズと、女神にあって……。」
「もぅ!まだ寝ぼけてるの?USOの夢見てたなんて、ハマり過ぎじゃないの?……人のこと言えないけどさ。」
……USO?
そういえば、USOで女神に会うイベントをやったような気がする……あれはいつだっけ?
「ゴメン、まだ頭がはっきりしない……ところで、何故香奈美がここに?」
香奈美の家は、ここから学校を隔てた向こう側にあるので、かなりの遠回りになる。
ただでさえ、遅くまでUSOで遊んでいるのだから、眠くい上に忙しない朝にカナミが立ち寄ることはあり得ない。
「今更それを聞きますか!」
香奈美が呆れたように言う。
そして、居住まいを正して俺に向き合う。
「えっとね、昨日の事、返事まだしてないから……。」
昨日?……言われて思い出す。
そうだ、勢い余って告白したんだった。
マズい、どうしよう……。
俺は顔が火照るのを自覚しつつ、何とか平常心でいようと心掛ける。
フラれて当たり前、傷つかない傷つかない……。
呪文のように唱える。
「美鈴に行ったら、絶対フラれると思っているって言うから……。」
ん?なぜここで美鈴が出てくるんだ?
「だから、少しでも早くハッキリ言わなきゃって……。彼方センパイ、告白してくれてありがとうございます。私もセンパイの事が好きです。愛してます!」
香奈美を見ると、顔が真っ赤になって震えている。
今、香奈美が、俺の事好きって?
「えーと、聞き間違い?じゃないよな?……フラれてないよな?」
未だ信じられずぼーっとしてしまう。
「もぅ!何度も言えません!恥ずかしいんですよ、もぅ!」
そう言って、香奈美が俺に飛びついてくる。
「大好きです、センパイ!」
声は小さかったがハッキリと聞こえた。
俺はカナミの背中に手を回して抱きしめる。
香奈美が俺の事好きって……まるで夢のようだ。
でも俺の腕の中に確かにいる……大好きな香奈美。
「そう言えばセンパイ、さっきミリィとかリィズって言ってたけど……。」
香奈美が俺に抱きつきながらそんな事を聞いてくる。
「あぁ、USOの夢を見ていたみたいで、カナとミリィとリィズと4人パーティで女神に会ったよな……。」
「先日の女神イベントですね。……そう言えば、ミリィちゃん、リィズちゃんとやけに仲良しさんでしたね?」
香奈美がジト目で見てくる。
「浮気は許さないですよ。」
そう言ってギュっとしてくる香奈美。
「告白した翌日に浮気を疑われる俺って……。」
「冗談ですよぉー。センパイだーい好き!」
そう言いながら俺を見上げる香奈美。
その瞳が閉じられる。
俺は香奈美に顔を近づけ………キスをする。
USOで初めて出会って、顔も知らないまま一緒にいた、「フレンド」の2年間。
初めてリアルで会ってから「友達以上恋人未満」の1年半。
そして、今日から「恋人」としての時間が始まる……。
(カナミと幸せな時間を過ごすのです……)
そんな声が聞こえた気がした。
えっと、まだ続きます(^^;
まぁ、ここで終わりにしてもいいかなぁと考えたこともありましたけど……ゲームで言えばBAD_ENDなんですよね。
とりあえずTrue End目指して、もう少しお付き合いいただけると助かります。




