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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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魔王ダンジョン中層

 「雰囲気が変わったな。」

 「そうですね、大変暑いですね。」

 俺がつぶやくと、それを受けてミリィが答える。

 上層から中層に抜ける扉を通り通路を進んできたが、なんとなく壁などの雰囲気が違って見える。

 そして、ミリィが言うように中層に入ってから、進めば進むほど暑くなってきている。


 俺達の装備には、カナミの意向で自動温度調節のエンチャントが掛けられている。

 そんなエンチャントの存在は知らなかったのだが、グリムベイブルを使って調べさせられた。

 結局は耐熱・耐寒付与の応用で出来る事がわかったのだが、それに必要な触媒の素材を集めるのに大変な苦労をしたのはここだけの話だ。

 まぁ、多大なる時間と、超高価な素材と、手間をかけたため、俺達の装備全てには寒熱無効と内部温度自動調節のエンチャントがかかっている。

 その為、砂漠だろうが雪山だろうが、外気温の影響をそれ程受けないはずなのだが……。


 「おにぃちゃん、暑いよぉー。これ脱ぐー。」

 ソラがそう言って、服を脱ぎだす。 

 「あ、ソラ、ちょっと待て……。」

 俺が止める間もなく、さっさと装備を脱いでしまうソラ。

 年に似合わない、大人っぽい下着があらわになる。

 

 「うー、余計暑いー!」

 一度脱いだ装備を、慌てて着直すソラ。

 だから、俺達の装備には自動温度調節がついているんだって……。

 「ソラちゃん、大丈夫?」

 カナミがアイシクルランスの応用で氷の塊を出すが、すぐに溶けてしまう。

 それでも、少しは涼をとれたらしいソラが、カナミにお礼を言う。

 「カナミお姉ちゃん、ありがとう。火傷するかと思った……。」

 「私達の装備には温度調節がついているからね……脱いだほうが暑くなるから気を付けてね。」


 「広い所に出たら一旦休憩にするから、それまで頑張ってくれ。」

 俺はそんなソラとカナミのやり取りを見て、皆に提案する。

 流石にここでは休憩するだけの場所が取れないからな。


 俺達はそれから黙々と歩き続け、やがて、開けた場所へ出る。

 「うっわぁー……暑いわけだよ。」

 カナミが、眼前の光景を見て言う。

 無理もない。周り一面マグマの池なのだから。

 見回すと、ここと同じ位の広さの場所が点々としていて、細い足場のような通路でつながっている。

 この先は、マグマの池を横断していかなければならないらしい。

 

 「とりあえず、あそこまで行くか。」

 俺は目の前の、やや広めの場所を指さす。

 そして目的の場所につくと、広場全体を覆うような魔法陣を描き耐熱結界を張る。

 それだけでも、グッと温度が下がった気もするが……。

 「アイシクル・ピラー」

 陣の要部分、6か所に大きな氷柱を作り出してセットする。

 ヘキサグラムを応用した氷柱結界だ。

 耐熱結界と併用したことで、結界内の温度はグンと下がったはず。

 「これで少しは涼しく……。」

 俺が、結界を設置して皆に声をかけようと振り向いたら……。

 「あー、涼しぃ……レイにぃ、扇風機は?」

 「涼しぃっす……、もう動きなくないっす。」

 「ぐ~……。」

 「脱いだらもっと涼しぃ~。」

 「ぐでぐで……。」

 みんなだらけていた。 

 中には、一部お見せ出来ないような露わな姿で、寛いでいる娘もいたりする。


 ……世の中の、働くお父さんってこんな気持ちなんだろうか?

 俺は思わず遠い目をして、働くお父さんたちへ思いを馳せるのであった。


 思い思いに寛いで一時間余り……。

 「そろそろ、先の事を……。」

 「「「「「「暑いからもう少し後でー。」」」」」」


 さらに1時間経過……。

 「おーい、そろそろ……。」

 「うーん、そうだねぇ……。」

 ゴロゴロ……

 こいつら、ダメだ。


 さらに2時間経過……。

 「にぃに、なんか暑くなってきた気がするんすが?」

 リィズが暑いと訴えてくる。

 俺は黙って、結界を指さす。

 内側の氷柱結界に使用していた氷の柱は1/10ぐらいまで小さくなっている。

 そして、外側の耐熱結界には……。


 「キモッ!……レイにぃ、あれ何なの!」

 「これは……なんというか……クるものがありますね。」 

 「にぃに、なんすか、あれは!」

 結界の外側には、びっしりと火トカゲが張り付いていた。

 「火トカゲのお腹って……グロい。」


 「お前らが、グダグダしてる間にな……集まってきたんだよ。……このまま結界が破れたらどうなると思う?」

 俺は、つい意地悪をしてみたくなり、そんな事を言う。

 ……。

 スッパーンッ!

 カナミのハリセンが振るわれる。

 「キモい事想像させないでよ!」

 みんな青ざめながら、カナミの言葉に頷いている。

 このまま、結界が破れると、あの何百という火トカゲたちは降ってくる……キモいな。


 「いや、お前らがグダグダしてるから……見ろよ、まだ増えているぞ。」

 俺はそう言って、結界の外を指さす。

 わらわらと、マグマから這い出てくる火トカゲの群れ。

 

 「にぃに、どうするっすか?」

 リィズが聞いてくるが……どうするかね。

 「……まぁ、結界を消すと同時に吹き飛ばして、その隙をついて逃げるか、さらに小さい結界を張りつつ逃げるか……。」

 吹き飛ばすって言っても、結構タイミングがシビアだからなぁ……。

 「とりあえず、皆戦闘準備よろしく。」

 「「「「「「「はーい。」」」」」」」


 「じゃぁ、とりあえず結界消すと同時に、ストームで吹き飛ばすからリィズとリナが先頭で中央突破。向こうの広場まで走る事……でいいか?」

 俺はこの先の流れを皆と確認する。

 そうこうしている間にも、どんどん火トカゲたちは集まってくる。

 「じゃぁ、準備いいか?カウントダウンするぞ……3……2……1……。」

 『爆烈風(ストーム)!』

 俺はゼロのタイミングで結界を解除し、詠唱待機しておいた魔法を放つ。

 結界が消えた途端、重力に従って落ちてきた火トカゲの大群だが、俺が放ったストームの魔法により、四方へ飛び散っていく。

 それに引き続き、リナとリィズが前方の火トカゲたちを切り伏せながら駆けていく。


 「みんな遅れるなよ。」

 俺は、残った奴や後から湧いてきた奴らを切りすてながら、殿を務める。

 『大いなる風の龍(ウィンド・トルネード)!』

 後から追われないように、後方に魔法を放つ。

 後ろから迫っていた火トカゲたちが風の渦に巻き込まれる。

 「これで、しばらくは大丈夫だろう。」

 俺は通路の左右から這い上がってくる火トカゲを、ウィンドカッターで薙ぎ払いながら、皆の後を追う。


 「はぁはぁはぁ……。もう大丈夫?」

 カナミが息を切らせながら、確認してくる。

 まだ、左右や後方から這い出てきているが、これくらいなら個別に処理できるだろう。

 「まぁ、とりあえずはな。」

 俺は近寄ってきた火トカゲを斬り捨てながら、カナミに応える。

 一息入れたら、このまま進んだ方がよさそうだな。


 「リィズ、リナ、そのまま進めるか?」

 俺は前方のリィズ達に声をかける。

 「大丈夫っっすよ。みんな私に続くっす。」

 リィズとリナが先頭で露払いをしていく。

 その後に、ブラン、ミリィ、ラン、ソラと続く。

 俺とカナミは後方より、後から這い出てくる火トカゲを処分しながら追いかけていく。


 火トカゲを払いつつ、進むこと30分……ようやく通路の終わりが見えてくる。

 扉の前のちょっとしたスペースで、一息入れる。

 後方から火トカゲが入れないように、ちょっとした罠を仕掛けておく。

 「ボク、疲れたー。」

 ソラが、バタリと、床に寝転がる。

 「ソラちゃん、痛くないの?」

 ゴツゴツとした床に寝転がるソラを見て、カナミが心配そうに尋ねる。

 「うぅ……痛いけど疲れたー。」

 疲れた、疲れたと言いながらゴロゴロするソラに膝枕をするカナミ。


 「たぶん、この扉の向こうがボス部屋だろうな。」

 ダンジョンの作りからすれば、間違いないと思うが……。

 「にぃに、ボス部屋と見せかけて、更に通路かも?」

 「そんな性格の悪いダンジョンは、クリアした後潰そう。」

 「にぃにの場合、本気でやりそうで怖いっす……。」

 俺の言葉に引き気味のリィズ……。

 いや、冗談だよ?

 

 一息入れた俺達はボス戦に向けて準備をする。

 と言っても、装備やアイテムは整っているので、単に気持ちの切り替えだけの問題なのだが。

 「じゃぁ、開けるぞ……。」

 扉を押し開いた先にいたのは……。


 「……ドラゴンだな。」

 「ドラゴンですね。」

 「ドラゴンっす。」

 部屋の中央には、燃え盛る炎とマグマを身に纏ったドラゴンが居座っていた。

 見た感じ、ランと同じか、少し若い感じがする。

 「ラン、一応確認しておくが、お前の知り合いって事は……ないよな?」

 「……いや、主殿あ奴は……。」

 ランが、珍しく口ごもる。


 「おぉ!、久しぶりの客人かと思えば、姉者ではないか!」

 俺達を見たドラゴンの声が部屋の中に響き渡る。

 「「「「「…………。」」」」」

 俺達はみんな、ランの方へ視線を向けた。

 「姉者とか言ってるが?」

 皆のジト目に晒されて、居心地が悪くなったランは視線を明後日の方向へ向けている。

 「どうしたのじゃ、姉者?我じゃ、フレイじゃよ!」

 眼前のファイアードラゴンが、ランに自己アピールをしだす。

 「フレイさんだって。」

 「……はぁ、フレイよ、久しぶりじゃのぅ。」

 皆のジト目が、益々酷くなるのに耐えきれず、諦めたようにフレイに話しかけるラン。

 「里を出てから100年になるか?、お主はここで何をしとるのじゃ?」

 「働いておるのじゃよ!「あるばいと」とかいうやつじゃな。」

 勝ち誇ったかのように、自信満々とそう言うフレイ。

 ……話が見えん。

 俺は、説明を、とランに視線を向ける。

 「あぁ、主殿すまぬな。……あのドラゴンはフレイと言って、100年ほど前に里を飛び出していった若者達の内の一人じゃ。」


 ランの話によれば、ドラゴン族というのは長命の為子供が出来にくく、また、生まれた子供は一族全員で育てるのが普通だという。

 その為、一族の愛情を沢山受けて育った幼龍は我が儘になりやすいそうだ。

 大抵の者達は、若龍になる頃には物事の通りというものを覚え、落ち着くのが一般的ではあるが、稀に「我の内なる秘めた力を開放!」とか「封印が解ける!」「愚民どもに我の力を見せつけるのじゃ!」等と言って、他所に迷惑をかけ、引きずる個体が居たりする。

 人族に襲い掛かってくるドラゴンとかは、大体がこういう個体らしい。


 しかし、最近では若いドラゴン達の間で「働いたら負け」とか「明日から本気出す」などの言葉が流行りだし、何もしないドラゴンの若者達が増えているそうだ。 

 ちなみに、最近ドラゴン被害がほとんどなかったり、そもそもドラゴン自体を見かけることが少ないのは、この辺りが原因のようである。


 そして、100年ほど前に『この里の奴らには、俺を使いこなせない!』とか言って飛び出して行った若龍がいて、それに感化された若龍たちの集団家出?が発生するという事件があったらしい。

 「フレイは、その時に出て行った内の一人じゃよ。」

 身内の恥を晒すようで恥ずかしいのじゃがと、ランが語る。


 ……誰だ?ドラゴンの世界にニート論を持ち込んだ奴は!


 まぁ、でもランの知り合いなら話は早い。

 「えーと、フレイと言ったか?俺達はこの先に用があるんだ。通してくれないか?」

 俺がそう叫ぶと、フレイはしばらく考え込む。

 「そう言われても、ここは誰であろうとも通すなと言われておるしのう……。」

 俺はランを肘で突っつく。

 「フレイよ、我とお主の仲ではないか。ちょっとだけ通してくれればよいのじゃ。」

 俺の意を得てランがそう言うが……。

 「むぅ……しかし……そうじゃ!我と戦え!勝ったら通してやる。」

 良いアイディア、とばかりに頷くフレイ……なぜそうなる。

 「おっと、ただし、姉者は手出し無用じゃ。我では勝てぬからのう。」

 割と身勝手な事を言うフレイ。

 しかし、ドラゴン族という奴は揃いも揃って……事ある毎に戦おうとするんじゃねぇよ。

 俺は知らなかったが、ドラゴン族の中では「困ったら戦え!……困って無くても戦え!」という名言が存在するらしい。

 

 「ラン抜きで勝負って、俺達人間じゃドラゴンと勝負にならないだろ?」

 正直、俺達ならそこそこの勝負は出来ると思う。

 しかし、勝負できるだけで、ドラゴンを倒すまでに至らないであろう。


 ドラゴン族の強さは内に秘める圧倒的な魔力量と、耐物理効果のある特殊な鱗による圧倒的なまでの防御力にある。

 ドラゴンの鱗は、幼龍であってさえ50%以上の耐物理効果を発揮し、老龍(エルダー)クラスになると95%、古の龍エンシェント・ドラゴンに至っては99%というほぼ物理無効効果を発揮している。

 完全物理無効でないのは、弱点属性を帯びた攻撃ならわずかにダメージが入ることが確認されているからだ、と古い文献に載っていた。

  つまり、ドラゴンを倒すには、ドラゴンを圧倒出来るだけのパワーをもってして、弱点属性の攻撃を延々と繰り返すか、ドラゴン以上の魔力を持って、力づくで魔法障壁を打ち破る、魔法攻撃を与え続けるしかないわけだ。


 圧倒的な防御力でダメージを受けず、一方的な大火力によってダメージを与え続ける……それがドラゴンの戦い方だ……人の身で敵うわけがない。

 ……だから、ドラゴンバスターなどの特効武器を作り出すことになったのだが、例え特効武器を持ったとしても勝率が0.000001%だったのが、20%程度まで上がる程度。

 ようやく勝ち目が見えてきたというだけで、必ずしも勝てるわけではない。


 「わかっておる。だから、我に「痛い」と思わせるダメージを与えることが出来たならお主らの勝ちにしてやろう。どうじゃ?」

 余裕たっぷりでそう言ってくるフレイ。

 自分にダメージを与えることなど出来はしないと、本気で思っているのだろう。

 ……なんかムカつく。

 「よし分かった。約束を違えるなよ!」

 俺はフレイにそう言うと、対ドラゴン戦に向けての準備に入る。


 「にぃに、どうするっすか?」

 リィズが聞いてくる。その表情はいつもより暗めだ。

 このメンバーの中で、リィズが一番ドラゴンと戦っている。

 暇があれば、ダーちゃんやランと模擬戦をして鍛えているのだが、それだけにドラゴンの強さというものを身に染みて分かっているのだ。

 「とりあえず、リィズとリナとブランが前衛、ソラ、ミリィは援護しつつ攻撃を加えて。カナとレイファは後衛で援護と補助と回復の基本パターンで行く。」


 俺はフレイ攻略のための手順を皆に話していく。

 「まず第一フェーズとして、フレイの逆鱗の場所を探し出してほしい。どうせ、こちらの攻撃は大したダメージにはならないから、相手の攻撃を躱すことを優先して、探し出してほしい。」


 龍の逆鱗……地球の伝説では、顎の下に1枚だけ逆さに生えている鱗の事で、これに触られるのを大変嫌うと言われているが、この世界のドラゴン族に於いての逆鱗は、やや趣が異なる。

 この世界で逆鱗というのは、龍族唯一のウィークポイントである。

 鱗の位置は個体によって異なり、その場所は一見して分からないように偽装されている。

 それを戦闘中に探せというのは、どだい無理な話であるが、戦闘中ゆえに万が一の事がないようにと庇ったりする事もあるだろう。


 「逆鱗の位置が分かった時点で第二フェーズに入る。皆でフランを挑発して判断力の低下を狙う。」

 逆鱗を狙うしか勝ち目がないというのはフランにもわかっていることだから、徹底して悟られないように、また、守って来るだろう。

 だから、挑発して冷静さを失わせれば、狙う隙も出来るに違いない。

 

 「そして第三フェーズ。隙を見て逆鱗に最大火力を打ち込む……1度外したら後は無いからな。もし自分に好機が来たら絶対に躊躇うなよ。迷わずに打ち込むんだ。」

 俺は皆の顔を見回して、言葉を重ねる。

 「これでうまくいかなかったら、ランにドラゴンバスターを借りて脅すから大丈夫だ。気楽にいこうぜ。」


 「準備はいいかの?」

 俺達の話し合いが終わったタイミングで、フレイが声をかけてくる。

 俺はゆっくりと振り返り、フレイを見上げる。

 「あぁ、待たせたな。」

 俺は背中越しにみんなの様子を窺う……大丈夫かな。

 「じゃぁ、早速……カナ!」

 俺はカナミに合図を送る。


 『雹雷雪・絢爛!』

 カナミがロッドを振ると、上空に描かれた魔法陣より、雷を帯びた無数の氷の塊がフレイに向かって降り注ぐ。

 いきなりの大技だが、どうせタメのある大技は初手以外では使いづらい。

 「ほぅ……人間にしては中々……じゃが利かぬ。」 

 フレイが、驚いたように、だが余裕たっぷりという。

 こっちも、効くとは思っていない……目晦ましの意味合いの方が大きかったりする。

 フレイが魔法に気を取られている間に、リナが、ブランが、リィズが取りつき攻撃を始める。

 

 「ウッ、おっ、こ、この……ちょこまかと……。」

 3人が縦横無尽に斬りかかる。

 探るための攻撃……ダメージを与えるというより、広範囲を攻撃することを主にする為、一撃離脱を心掛けた攻撃だ。

 俺もフレイの後ろに回り込み、ケイオスを突き立てる。

 フレイに刺さりはするものの、ダメージを与えている感じが全くしない。

 尻尾の攻撃を避け、縦横無尽に斬り裂いていく。

 

 ソラの援護の歌と銃声が飛び交う。

 ミリィが、フェンリルの分体を呼び出す。

 フレイに弾き飛ばされたブランにレイファが駆け寄り、回復魔法を施す。

 リナが、迫りくる前脚の攻撃を避ける。

 カナミの魔法で、フレイのバランスが少し崩れ、その隙を狙ってリィズの双剣が切裂いていく。


 30分程たった時だろうか……フレイを斬り裂きながらリィズが近づいてくる。

 「にぃに、多分見つけたっす。」

 「本当か!」

 尻尾をケイオスで打ち払いながらリィズとの会話を続ける。

 「あの、尻尾の付け根から前脚迄のライン……その途中……わかるっすか?」

 リィズが指し示した場所……ちょうどカナミの放つ鳴雷が向かっていた。


 「がぁ!」

 フレイがいきなり体を捩る。

 その為、よじ登って鎚を振るおうとしていたブランが、振り落とされる。

 攻撃に備えてリナがフォローに入り、その間にレイファが駆け寄って、ブランに回復魔法をかける。

 

 「見たっすか?」

 「あぁ、確かに不自然だ。」

 あの程度なら、無理に避けようとせずに、無視をしていたフレイ。 

 なのに、今回に限って避けている。

 明らかに無理な体勢であったにもかかわらずに……だ。

 フェイクの可能性もあるが……。

 「とりあえず、リナとあの辺りに集中して攻撃してみるっす。」

 そう言って、リィズが駆けていき、俺はそれを見送りながら、ミリィやカナミのいる方に向かう。


 リィズとリナの攻撃が始まる。

 目的の場所から1mぐらい離れたところを狙うリナ。

 それを無視して、逆方向から迫るブランを首を振った攻撃で迎撃する。

 目的の場所を10㎝程避けたところへ向かって、アイスエッジを打ち込もうとしたリィズに尻尾が襲い掛かる。

 リィズが飛びのきつつ、3mほど離れたところに斬りつけるが、フレイは気にせずに、カナミに向けて炎弾を放つ。

 リナが30cmぐらい離れたところを狙うと、急に首の向きを変え、リナに目掛けて放たれる炎弾。

 ……間違いないな、あそこだ。

 俺はリィズに向かって合図を送る。

 リィズはフレイとのすれ違い様、目的の場所付近にマークを入れる。


 ここから、第二フェーズだ。

 挑発……というより、意識を逸らせばいい。

 もっと言うなら、準備した俺の前に、逆鱗が曝け出されるような動きをするように誘導してくれれば尚OKだ。

 

 「アイシクル・ランス!」

 ミリィが氷の槍でフレイの足元を狙う、と同時にフェンリルが飛び出して噛み付く。

 煩わしそうに払い除けようとしたところへ、ソラの銃弾が放たれる。

 右側より、リィズが、左からはリナが、斬りつける。

 両腕を振るって、二人を跳ね飛ばすが、そこにブランの一撃が入る。

 ダメージはないものの、相当煩わしいようだ。 

 フレイは上体を反り息を大きく吸い込む動作をする。

 ブレスで一気にカタをつけるつもりか。

 させない!

 俺は横から、フレイに向かって飛び出す。


 『龍の咆哮(ドラグ・ロア)!』

 カナミの手から放たれた魔力が、描いた魔法陣を通して、フレイの顎に向かう。 

 フレイがブレスを吐くより一瞬早く、カナミのドラグ・ロアが襲い掛かる。

 ブレスの熱量が、中と外から一気に口元に集中したのだ。

 流石のフレイも、前脚で口元をガードする仕草を見せる。


 空いた!

 口元にもっていく為に、前脚が動く。

 その瞬間、俺の目の前にウィークポイントである逆鱗が曝け出される。

 俺はそこに思いっきりケイオスを突き立てる。

 『絶対零度の凍結(アブソリュート・ゼロ)!』

 氷結系最大の魔法を、ケイオスを通じて叩き込む。


 「がぁぁぁぁ~!」 

 突然暴れ出すフレイ。 

 その反動でケイオスごと弾き飛ばされる。

 カナミが俺の傍に駆け寄り、回復魔法を唱える。

 「レイにぃ、大丈夫?」

 「あぁ、大丈夫だ。」

 

 「痛い~!冷たい!痛い~~~~~!」

 俺達の眼前でのたうち回るフレイ。

 「痛いと言ってるから、とりあえず俺達の勝ちかな?」

 「たぶんそうだけど……大丈夫かなぁ?」

 巨体のドラゴンがゴロゴロとのたうち回る。

 そのせいで地響きなど、アレコレが酷い事になっている。

 

 「あの、フレイさん。治療いたしますので、人の姿になってもらえませんか?」

 あまりにもの惨劇に、そう声をかけるレイファ。

 「痛い!痛い!痛い!……。」

 そう言いながらも、レイファの言葉に従って人化するフレイ。

 「今癒しますから……。」

 

 

 「アンタ!サイテーね!」

 寛いでいる俺の前に一人の女の子……ソラと同じぐらいか、やや幼く見える……が立ちふさがり、指を突きつけてきた。

 「いきなり、何を言い出すんだ?」

 褐色の肌にスレンダーなボディライン。

 美少女と言っていい顔立ちの中で最も目を引くのは、その活力溢れた、勝気そうな瞳だろう。

 「だって……その……私の大事なトコロを、あんな堅くて太いモノで突き刺すなんて……。」

 顔を赤く染め、モジモジしながら、そんな事を言う女の子。

 傍目から見れば、中々クるものがあるシチュエーションではあるが……。


 「言い方……。」

 なんて言い方をしやがる。

 誤解を受けるだろうが!

 周りを見ると、カナミをはじめ、皆の目が冷たい。


 「あんなに冷やされたら、子供産めなくなっちゃう……責任、取ってくれる?」

 上目遣いで迫ってきながら、更にとんでもない事を言い出す女の子。

 周りの空気が、グンと冷えた気がする。

 ……おかしいなぁ、ここマグマ地帯だよね?


 「フレイ、そこまでにするのじゃよ。」

 見かねたランが割って入ってくれる。

 って、この美少女、フレイだったのか。

 「でも、姉者。この人に責任取ってもらわないと、私……。」

 その場で泣き真似を始めるフレイ……かなり、強かかも?


 「とりあえず、勝負には勝ったんだから、ここは通らせてもらうぞ!」

 俺は強引に話を纏め、すぐにでも移動をしようとする。

 フレイのペースに付き合わされると、社会的に抹殺されそうな気がする。

 ここは、さっさと戦略的撤退をしつつ先を急ぐべきだ。

  

 「さぁ、次はどんな感じかなぁ……。」

 周りの冷たい視線に気づかない振りをしながら、下層へと続く扉を開ける。

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