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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう
80/153

大霊峰

 「ここが大霊峰か……。」

 魔王のダンジョンへの入り口があるという大霊峰。

 その麓へ、ようやくたどり着いた。

 「えっと、にぃに……これ登っていくっすか?」

 「そう……なるかな?」

 俺達の前には険しい山道しか見えない。

 ここまで近づくと、上を見上げても、山の頂など見えはしないのだ。

 「……ラン姉ちゃんの背中に乗っていけばいいんじゃないかな?」

 ソラが、そんな素敵アイディアを提供する。

 「残念じゃが、山全体に結界が張られておる様じゃのぅ。正規ルート以外は弾かれるようじゃ。」

 しかしそんな素敵アイディアも、全体を確認したランの一言で消え去ってしまう。


 「……帰るか。」

 「なんでやねん!」

 スッパーンッ!と、俺の一言に間髪を入れず、カナミのツッコミが入る。

 「あれだけカッコよく『カナミの笑顔を守るために魔王に会うんだ!』って言ってたくせにっ!」

 ゼェゼェと、息を切らしながらハリセンを構えたカナミが言う。

 周りからも冷たい視線が注がれる。

 ウン、お約束に忠実な相方をもって、俺は嬉しいよ。


 

 山を登り始めて1時間。

 途中モンスターと出くわすかとも思ったが、そのようなこともなく、ただ、ひたすらに山道を登るだけだった。

 「おにぃちゃん、ボクもう疲れたー。」

 ソラが疲れたと騒ぎだす。

 まぁ、実際は疲れたというよりは飽きたんだと思う。

 1時間も何の変化もない山道を、ただダラダラと歩き続けていれば誰だって飽きるだろう。

 俺だって飽きているんだ、ソラはよく我慢している方だろう。


 「そうだな、もう少し進んで良さそうなところがあれば休憩にしようか?」

 俺はソラ以外のメンバーにも聞こえるように言う。

 その言葉に、皆からホッとした空気が漂う。

 やはり、皆も飽きていたらしい。

 せめて、景色に変化でもあればな……。

 そんな事を考えていると、少しなだらかで開けた場所に出る。

 

 「ここで休憩にしようか。リィズ、カナ、周りの確認を。リナとブランは火を起こしてくれ。ミリィとレイファ、ソラは辺りを散策。野草とか採取してくれ。ランは、全体の警護を頼む。」

 俺は皆に指示を出すと、休憩所となるこの付近を結界で囲む準備をする。

 結界の魔法陣の要所になる処へ、魔晶石を埋め込んでいく。

 横目で中央を見ると、リナたちが集めた薪に、ランがボッとブレスを吐いて火を点けているのが見えた。……便利だな。


 俺はそのまま作業を続け、いくつ目かの魔晶石を埋め込んだ時に、ふと周りの違和感に気付く。

 目の前には、鬱蒼と茂る樹木……しかし、その一角だけ何かがおかしい。

 「カナ、ミリィ、ちょっと来てくれ。」

 俺は二人を呼ぶ。

 感覚的な事は、俺より二人の方が優れている。俺にわからなかったこの違和感、二人ならあるいは……。

 「レイにぃ、どうしたの?」

 「レイさん、何でしょうか?」

 俺の呼びかけに応えて二人がやってくる。

 「ちょっと、ここを調べてくれ。俺には違和感しか感じれないんだ。」

 俺の指し示す処を確認すると、二人は其々サーチを始める。


 やがて、二人のサーチが終わる。

 「どうだ?」

 「偽装の結界ですね。この奥に扉らしきものがありますが……この結界はかなり強力で解除できないですわ。」

 「ウン、結界だね。この結界、別の所から力を供給されている感じ……。その別の所をどうにかしないといけないみたい。」

 「どうにかって言われてもなぁ……。どこに、何があるかもわからずにか?」

 ノーヒントの初見ギミックって、いきなりルナティックモードですか。

 「レイにぃ、こういう時こそグリムベイブルの出番だよ。」

 「ん?あぁ、そうか。すっかり忘れていた。」

 俺のチート能力『英知の書(グリムベイブル)

 これは、古今東西、世界を渡ってもすべての知識が得られるという、魔法の書物。

 しかし、今一つ使いづらく、最近はグー○ル先生か、ウィ○○ィアみたいな使い方ぐらいしかしていない。

 カナミが女神から聞いたところによると、俺は殆ど使いこなせていないそうだ。


 『英知の書(グリムベイブル)

 「サーチ:目の前のギミックについて」

 …………

 ……

 …

 …

 …

 「鑑定結果:目の前のギミック」

 特殊結界:トライフォース。

  3か所に分散した結界派生ポイントより魔力を集めることによって強化した特殊結界。

  1か所に異常が発生しても、他の2か所よりすぐさま修復がかかる為、より強固な結界となる。

 解除方法:

  設置した本人もしくは委託されたものが正規の手順を踏んで解除することが出来る。

  強制解除……、サプポジションの2か所を同時に止めた上で、メインポジションを強制解除することが出来る。


 「……だそうだ。」

 俺は「英知の書(グリムベイブル)」の解析結果を二人に見せる。

 「うーんと、結局、この2か所を同時に破壊してから、ここを破壊するって事でOK?」

 「ま、そう言う事だな。」

 カナミの脳筋的な解釈にとりあえず賛同の意を示しておく。


 「とりあえず準備も必要だし、ここにベースキャンプを作ろう。」

 俺は、カナミとブランにログハウスの製作、リナとリィズとソラに食糧の確保、ランとミリィに必要素材の採集、レイファに留守番がてら食事の用意と、各自に指示を出す。

 その後、途中だった結界を張る作業の続きをすすめた後、細かい情報を集め、必要と思われるアイテムを製作していく。


 「……という訳なんだ。だから、明日から3つにグループ分けをして行動することになる。」

 夕食後、俺はみんなに結界の解除についてと、明日からの事について話す。

 「とりあえず、この場所をAポイント、北北東のこの場所をBポイント、北北西のこの場所をCポイントとする。」

 俺は、昼間作成した地図をみんなに見せ、要所にA,B,Cと書き込む。

 「ここAポイントは連絡を受けてすぐに、フォースブレイカーで結界を壊すだけだから、2人もいれば十分だろう。……ランと、ソラに任せようと思う。」

 「ぶぅー、置いてきぼり?」

 「その話なら我一人でもいいかと思うのじゃが?」

 ソラが拗ねて、それをフォローするようにランが言ってくる。

 「念の為……かな?通信の魔道具があるから大丈夫だと思うけど、万が一のことを考えて、俺とリィズとソラは別グループがいいと思うんだ。」


 ファルスとエアリーゼ、ファーの3柱の精霊は、俺達と長くいる所為なのか、または別の要因があるのかは分からないが、最近では多少離れていても、お互いの意思疎通が出来るようになっている。

 だから、俺達3人が別グループに居れば、魔道具が使えなくても、精霊間で連絡を取り合うことが出来る。 

 その様なことを説明したら、ソラは納得してくれた。

 まぁ、魔力結界とか精霊の力を阻む結界が張られていたら、意味はないんだけど、そこまで説明する必要もないだろう。


 「そう言うわけで、俺とリィズは別グループになる。他に、探査能力とか、戦闘力の兼ね合いで、俺のグループにはレイファとリナ、カナミのグループにリィズとミリィとブランで行こうと思う。」

 それから俺は、各自にフォースブレイカーと転移石、爆薬石などを渡す。

 「B,Cポイントがどうなっているか分からないが、拠点の破壊、もしくは結界の破壊か解除を同時に行う必要があるので、ポイントについてからは、連絡は密に取り合う事。あと、事が済んだら今渡した転移石を使って、速やかに此処へ戻ってくる事……なくさないように。」 

 転移石は、転移陣を応用したもので、魔晶石に陣を刻むことによって、指定した転移陣へ移動できるお手軽アイテムだ。

 指定先1箇所のみ、しかも一方通行で使い捨て……もとになる魔晶石の質によって使える回数は決まってくる……なので、使い勝手は微妙なのだが、今回みたいな場合には重宝するアイテムである。

 他に細かい事柄も決めていき、ようやく休めるようになったのは、結構夜も更けてからだった。

 

 「さて、出発だ。忘れ物ないか?……ソラ、ラン留守を頼んだぞ。」

 翌朝、俺達は準備を確認したのちベースキャンプを後にする。

 途中の分かれ道、ここから俺達はカナミたちのグループと別行動となる。

 「リィズ、この地図に書かれている場所は大まかなものだし、そこに至るまでにどんな障害があるか分からないからな、気を付けて。」

 「にぃにこそ、無茶しないでほしいっすよ。……リナ、にぃにが暴走したらちゃんと止めるっすよ。後、ボケはスルーでいいっすから。」

 「はい、心得ています。」

 あれ?なんか、おかしくない?

 「レイにぃ、ポイントに着いたら連絡するからね。」

 「あぁ、気を付けてな。」

 そして俺達は分かれ道をそれぞれ別の方へと進んでいく。


 ◇ ◇ ◇


 「でね、リィズちゃん、迷ったというのが分かったのよ!」

 私は地図を見ているリィズに声をかける。

 「はぁ……それはよかったすね。」

 リィズの返事がおざなりよ。

 レイにぃと別れてから30分……道なりに進んできてるはずなのに、いつの間にか同じところをグルグルしているのに気付き、今は現状打破のために小休止しているのだけど。

 現状打破って言ってもね、ミリィが精霊さんに聞いてるだけなんだけどねー。

 魔法による認識阻害だったら、私にはほとんど効かない。それなのに迷ってるという事は認識阻害じゃないって事になるんだけど……厄介なことになる未来しか見えないわ。


 「ダメね……精霊たちも強い力で縛られていて、これ以上は無理みたい。」

 ミリィで無理なら、他の方法考えなきゃいけないわ。

 「ねぇ、認識阻害の魔法結界じゃないはずだから、どこかでループさせられているはずよ。そこを見つければ何とかならないかなぁ?」

 「それしかないっすね。」

 私の提案にリィズが答えてくれる。

 まぁ、言うのは簡単だけど、実際は根気のいる作業になるのよね。

 ループさせられる場所……本当に気付かない微かな痕跡を探さないといけないのだから。

 そして、それが出来るのはこの中ではリィズだけ……負担掛けちゃうね。


 私達は慎重に、ゆっくりゆっくりと一歩づつ進んでいくことにしたの。

 「ストップっす!」

 10分ほど歩いたところで、リィズがストップをかけてくる。

 「リィズちゃん見つけたの?」

 「たぶん、ここっすよ。」

 私が聞くと、リィズが自信ありげな顔で答えてきたわ。

 「念のため確認するっす。私がここで待っているから、カナミとねぇねとブランは、まっすぐ進んで行ってほしいっす。」

 「分かったわ。」

 私はリィズの言葉に従って、ミリィ達と一緒に進んだの。

 微かな違和感。

 リィズの横を通る時、本当に微かな、ずっと意識を集中していなければ絶対に見逃すぐらいの微かな違和感を感じたの。

 振り返ったらリィズの姿は見えたけど……。

 それから5分ぐらい歩くと、前方に明かりが見えてくる。

 リィズが目印にと、明かりを用意していたのよ。

 リィズは私達の姿を見つけると手を振ってくれた。


 「間違いないっすね。」

 「そうね、さっき、ここを通る時、微かな違和感も感じたから間違いないと思うわ。」

 リィズにさっきの違和感の事を伝える。

 「この辺りを細かく探索しよっか。」

 それから、リィズは地形の細かな差異を、ミリィは精霊力の分布を、私は魔力やマナの状態に変化がないかを、詳細に調べて行ったわ。

 「ウチ……役立たずでごめんなぁ。」

 ブランが謝ってくる……しょんぼりと力なく垂れた耳が可愛いわ。

 「こういうのは適材適所ですよ。ブランさんの力を発揮するのが此処じゃないってだけですから。気にしないで下さいね。」

 ミリィが、ブランを慰めて……あぁ!頭撫でるふりして耳を触ってるよぉ!

 うぅ……だからミリィは油断ならないのよ。

 ったく……って、あ、ここだ。


 「みんなこっちへ来て。」

 私はみんなを集める。

 「見つけたっすか?」

 「ウン、ココからココと、ここからで魔力の流れに歪みがあるのわかる?」

 リィズに私が答えてあげると、リィズは集中して魔力を感じようとしているけど……。

 「ダメっす、やっぱり私ではここに魔力が流れているぐらいしか分からないっす。」

 「うーん、言われてみれば、微かに……って感じだわ。私ではカナミほどの精度で分からないわ。」

 リィズは早々に諦め、ミリィもはっきりと言えないというレベルみたい。

 「じゃぁ、ちょっとここを壊すね。……ディスペル・ブレイク!」

 私は魔力の歪みのあるあたりを中心に、魔力をぶつけると、一瞬視界がぐにゃりと歪んだ。


 「うぅ……気持ち悪いよぉ。」

 一瞬の事だったけど、あの歪み方は十分に私の三半規管にダメージを与えてくれた。

 「大丈夫っすか?」

 リィズが心配して私をのぞき込んでくる……口は悪いけど、優しい子なんだよね。

 「ウン、こうしてれば大丈夫!」

 私はのぞき込んできたリィズに、腕を回してひきよせギュッと抱きしめる。

 うぅ、落ち着く……。


 しばらくしてからリィズを離す。

 「えっと、怒らないの?」

 てっきり「離すっす!」とか言って、突き放されるかって思っていたんだけどねぇ?

 「普段なら怒る処っすけどね……カナミの顔が酷かったすから特別っす……もう大丈夫そうっすね。」

 そう言って、私から離れるリィズ。

 ほんと優しいリィズちゃんだね、私の顔色で……ん?顔?顔色?

 「ちょっと待って。リィズ、今顔が酷いって言った?顔じゃないよね、顔色だよね?」

 「どっちも一緒っすよ。ほら、先行くっすよ。」

 「一緒じゃないよぉー!」

 私は先行したリィズを追いかけて、文句を言う。


 「リィズも素直じゃないから。」

 「ホンマやね。」

 私達の後ろで、ミリィとブランが笑いながらそんな会話をしていた。


 「ここね。」

 ミリィの言葉に、全員が頷く。

 私達の目の前には、大きな建物があった。

 多分あの建物の中が目的の場所で間違いないと思うの。

 「まずは中に入れるかどうかね。」

 私とリィズが先行して、建物の周りを調べることにしたの。

 トラップとかもなかったから、中に入ることにしたんだけど……あっさりと扉が開いて拍子抜けしちゃったのよ。

 てっきり、結界か何かで阻まれると思ってたんだけどね。


 「あの装置よね?」

 「あれだけ怪しい魔道具何やから間違いないと思うで。アレがちゃう言うんやったらおかしいわ。……とりあえずウチが調べるさかい、周りの警戒よろしゅう。」

 そう言って、ブランが魔導装置を調べ始めたのよ。

 「じゃぁ、今のうちににぃにに連絡するっす……。」


 『あ、リィズちゃん、何かあった?』

 通信機の向こうで答えたのはレイファだったの……レイにぃ手が離せないのかな?

 「あ、レイファ?にぃには?」

 リィズも同じことを思ったみたいね。

 『えっと……今、おっきいモンスターがいまして……リナと二人でヒャッハーしてます。』

 アハッ、レイにぃが弾けてるっぽいね。楽しそうだわ。

 「何やってるんすか……私達は、装置の前で待機中。連絡待ってるってにぃにに伝えるっす。」

 リィズが呆れた声で言ってるけど、きっと本音は混ざりたかったんじゃないかな?

 『了解よ。あれがボスっぽいから、もう少ししたら連絡入れれると思うわ。それまで待っていてくださいね。』

 そう言って通信がきれる。

 「しばらく連絡待ちっすね。……ブランそっちはどうですか?」

 「ちょい待ち……わかったで、ここのレバーとスイッチの操作でここの機能が止まるはずや。後は連絡待ちやな。」

 私達は、レイにぃからの連絡があるまで、休憩することになったのよ。

 

 ◇ ◇ ◇


 「これはまた……。」

 俺は、眼下に広がる光景に呆れかえっていた。

 ポイントと思われる大きな建物。多分あの中に魔導装置か何かがあるのだろう。

 それはいい。問題はその建物の前に集まっている、大小さまざまのモンスター達。

 建物の前に陣取る一際大きいモンスター。

 ドラゴンに見えるが、アレは魔導機械だろう。

 いわゆる「メカドラゴン」ってやつだな。

 そして、その前にはウルフ、ベアー、タイガー、レオなどの猛獣を模した様々なメカ達

 中に人形っぽいのが紛れているのはご愛敬ってヤツかな?

 その数ざっと200以上……集まり過ぎだろ?


 カナミたちと別れて1時間ほど歩いた。

 特に障害はなく開けた場所に出たと思ったら、目の前に広がる光景に出くわしたという訳だ。

 こちらの方が高台にあるため、相手はまだ気付いていないようだが、時間の問題だろう。


 「ご主人様、どうなさいますか?」

 「まぁ、あれだけいるんだから、忍び込むってわけにもいかんだろ。……最初に広範囲魔法をぶち込むから、そのあと突撃。殲滅後建物内へってところだな。」

 「あの……レイ様、私は?」

 「レイファはここでお留守番。ヤバそうなら回復魔法かける感じで。」

 俺がレイファに応えている間に、リナの準備が整う。

 メイド服に長剣を構えるその姿。

 バトルメイドさんですか……ミスマッチがいい具合にハマってますなぁ。


 「ではご主人様、お願いします。」

 「OK!……灼熱の大爆発(エクスプロージョン)!」

 俺は詠唱省略した広範囲魔法をモンスター達に群れにぶち込み、リナと共に走り出す。

 「来い!ケイオス!」

 俺の召喚に応え、漆黒の魔剣が俺の手に握られる。

 「雷撃剣(ライトニング・ソード)!」 

 ケイオスの刃から細かい電が飛び散る。

 「うおぉー!」

 俺は前方のモンスターに向かってケイオスを横に一薙ぎする。

 ケイオスに斬り裂かれ、その切り口から電撃が入りショートしていく。

 数が多いので、一振りごとに数体のモンスターが犠牲になっていく。

 見ると、リナも踊るようにして、敵モンスターを次々と切裂いている。

 

 「旋風刃」

 俺自身を中心にして、独楽のように回転し、周りのモンスターを薙ぎ払う。

 2回、3回とまわると、面白いように倒れていく。

 アカン、めちゃ楽しくなってきた。

 俺は次々と、モンスターの群れに飛び込んでは切り倒していく。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ去る……その言葉を表すかのように、気付けば俺とリナの他に立っているのはメカドラゴンだけだった。

 そのメカドラゴンも、体中傷だらけで、切裂かれた傷口からは、パチッ!パチッ!と火花が飛び散っている。

 「じゃぁ、そろそろとどめだな。」

 「えぇ、そうですね。」

 そう言うとリナはまっすぐメカドラゴンに突っ込んでいく。

 俺は、リナが突っ込むと同時に走り出して大きくジャンプしていた。

 メカドラゴンは向かってくるリナに対し前脚を上げて踏みつぶそうとするが、難なくかわすリナ。

 躱しざまに前脚を斬り裂いていく。

 たまらずにバランスを崩しながらも、その首を振って薙ぎ払おうとしている。

 俺は落下速度を利用して、その首と胴体の付け根をめがけて剣を突き刺した。

 

 「雷撃(ライトニングサンダー)!」


 天空より雷が降り注ぎ、ケイオスを通じてメカドラゴンの内部で暴れまわる。

 メカドラゴンは暫くヒクついていたが、やがて動かなくなった。

 「ふぅ……リナ、お疲れさん。」

 「ご主人様もお見事です。」

 久しぶりに思いっきり暴れまわったせいか、リナはいい笑顔だ。

 たぶん俺も同じだろう。

 「あのーレイ様、リィズさんが連絡待ってますって。」

 遠くから、レイファが叫んでいた。

 カナミたちも無事にポイントに辿り着いたようだな。


 ◇


 「じゃぁ、そっちも同じ形状なんだな。……あぁ、今レバーを降ろした。」

 俺は建物の中の魔道具の前でブランと話しながら、操作している。

 向こうの装置は、ブランが解析したところによると、一定の手順で操作すれば動作を止めるらしい。

 話を聞くと、こちらの装置も同型みたいなので、同じ操作で止まるだろう。

 「あぁ、このスイッチだな……じゃぁ、カウントダウンで……3……2……1……0。」

 ポチッ!

 俺はブランとタイミングを合わせ、ゼロの所でスイッチを押し込んだ。

 室内に入ってからずっと聞こえていたブーンという作動音が小さくなり、やがて静寂が訪れる。


 「どうやら止まったみたいだな……ラン、聞こえるか!結界を破れ。」

 俺はAポイントで待機しているランに通信を送る。

 『今フォースブレイカーが作動しておる……ふむ、どうやら、結界が解除された様じゃ。』

 うまくいったみたいだ。

 「カナミ、リィズ、ブラン、ミリィ、結界は解除された。転移石を使って戻ってくれ。……じゃぁ、俺達も戻るか。」

 カナミたちに通信を送り、リナとレイファに戻ろうと促す。

 「「分かりました。」」

 リナとレイファがそれぞれ転移石を取り出し、作動させる。

 転移したのを確認して俺も転移石を作動させる。


 転移すると、すでにみんなは戻って来ていた。

 どうやら、俺が最後だったらしい。

 俺は急いで、みんなのいる結界のあった場所へ向かう。

 「あ、にぃに、道が出来てるっすよ!」

 俺をいち早く見つけたリィズが、側によってきて案内してくれる。

 目の前には細い道が出来上がっていた。


 「準備が良ければこのままいくぞ……いつまでも結界が解除されている保証はないからな。」

 俺が言うと、皆はすでに準備できていると言うので俺を先頭に、道なりに進むことにした。

 しばらく歩くと扉が見えてきた。 

 「これか。」

 俺は扉に近づく。

 「にぃに、ちょっと待つっす!」

 リィズからストップがかかる。

 「一応周りを調べるっす。」

 リィズとカナミが、物魔両面からチェックしていく。

 「ウン、大丈夫そうよ。」

 カナミがOKを出したので、俺は改めて扉に手をかけて押し開く。


 「うわぁ……」

 みんなから驚嘆というかがっかり感の大きい声が漏れる。

 見た目豪華でがっしりとした扉を開けたら、6畳程度の広さの部屋の中央に転移陣がポツンとあるだけ……。

 「……行こうか?」

 俺は、みんなに先に進むことを提案する。

 まぁ、ここでウダウダしていても仕方がないからな。

 俺達は順番に転移陣に入っていった。


 「うわぁーいい眺めー。」

 転移陣の行先は大霊峰の天頂だった。

 天頂から見下ろす景色はまさしく絶景だった。

 俺達は、休憩がてらしばらく景色を眺めてゆっくりとしていた。


 「ん?あれは……?」

 「あっ……。」

 俺は皆と一緒に景色を眺めていると、あることに気付いてしまった。

 そばにいたカナミが俺の見た方向を見て、声を漏らす。たぶんカナミも気づいたんではないだろうか?

 「……えっと、あれって……。」

 「レイにぃ、言わないで!……みんなにも内緒だよ!」

 「あぁ、うん……。」

 俺はカナミに頷くと、もう一度見てみる。

 そこには下から続く山道があるのだが……その向こうにベースキャンプに建てたログハウスの屋根が見える。

 たぶんこの距離なら1~2時間でたどり着けるだろう。

 俺は、苦労した1日半の出来事を振り返る……ウン、みんなには言わないでおこう。


 「にぃにー、見つけたっすよ!」

 向こうでリィズが呼んでいる。

 カナミと顔を見合わせ、一緒にリィズの下に……。


 「あ、にぃに、ダンジョンの入り口っすよ!」

 リィズが指さしたところにはダンジョンらしき入り口に『ようこそ!魔王のダンジョンへ!』と、へたくそな文字で書かれたプレートが掛けてあった。



※ 誤字報告ありがとうございます。

 たまに見直しているのですが抜けが多く、報告していただけるのは大変ありがたいです。

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