魔王ダンジョンをめざそう!
「こんな夜中に呼び出して、何の用だ?」
ミンディアの教会、その中の大聖堂で待っていた俺に声がかかる。
「おいおい、夜中を指定してきたのはアンタだろう。それに待ち合わせと言ったら、走ってきて……
『ごめんね~、待った?』
『いや、今来た所さ。』
『出る前に服が気になってぇ、着替えてたら遅くなっちゃった。テヘッ。』
とか言って腕を絡ませてくるのが定番だろ!」
「レイにぃ……キモッ!」
一人芝居をする俺を、カナミが汚物を見るような目で見てくる。
「ゴメン、俺も今のはないわー、と思った。」
「オイ……帰っていいか?」
俺のボケに、ずっと放置されていた来訪者が、声をかけてくる。
「おっと、忘れる所だった。折角来たんだし、お茶でも飲んでいけよ。」
「にぃに、お茶なんて用意してないっす。」
リィズがツッコむ。
「ボク、リナに頼んでくるよー。」
そう言って、教会を飛び出していくソラ。
「おい、今の冗談……って、もう行っちまった。」
「なぁ、本当に帰っていいか?」
「待て、待て、冗談だって。とりあえず落ち着けよ、ソフィア。」
焦れて本気で帰ろうとする来訪者……アルガード王国女王ソフィアを俺は宥める。
とりあえず、ここではなんだからと、カナミが聖堂脇にある客間へと案内する。
「じゃぁ、早速だが、本題に入らせてもらおう。アルガード王国はミネラルド国の事をどこまで掴んでいる?」
「どこまで、とは?」
俺の問いかけに、ソフィアは探るような目つきで問い返してくる。
こういうのは嫌いではないが、今は時間が惜しい。
「まぁ、時間が惜しいからぶっちゃけるが、ミネラルド国が戦争の準備をしているってことは知っているのか?」
しばらく、ソフィアが黙って考え込む。
「ダンジョンに人員を送り込むという事で人を集めているのは知っていたが、戦争の準備とは知らなかった。……お前はどこでそれを?」
「サガ国王から聞いた。」
「なっ……。」
国王の名前を聞いて、ソフィアが絶句する。
「そんな事はどうでもいい。しかし、その様子だと、相手が魔族だということも分って無い様だな。」
「なっ……、魔族だと。」
「あぁ、魔族だ。しかも相手は魔王直々に指揮をする精鋭軍だ。このままでいけば、大体2か月後にはぶつかるだろう。」
「まさか……魔王直々……でまかせもいい所だ。」
ソフィアは、俺の言葉が信じられないようだ。
「でまかせじゃないさ、魔王軍幹部から直接聞いたからな。」
俺の言葉に、呆けていたソフィアの目が険しくなる。
「レイフォード……貴様何者だ!」
ソフィアの手が腰の剣にかかる……が、その時にはソラのワルサーが、リィズの双剣が、ソフィアを射程に捕らえていた。
「ソフィアさん、落ち着くっすよ。」
リィズが、いつでも突き刺せることを示しつつ、ソフィアを宥める。
ソフィアは、剣から手を放し、体から力を抜く。
それを見届けてから、リィズとソラは武器を下ろす。
「失礼した。しかしレイフォード殿、なぜそこまでの情報を……。」
「魔族との戦争とかどうでもいい事だ。俺が聞きたいのは、これらの事を聞いて「アルガード王国はどう動く気か?」……それが聞きたい。」
「そ、それは……今すぐ答えは出せない。」
俺の質問に対しソフィアは答えを出せないと言う。
「……ま、俺に火の粉が飛んでこなければ好きにすればいいさ。一応おすすめは何もしない事、だな。なるべく距離を取って関わり合いにならないようにするのがいいと思うぞ。」
俺はソフィアに忠告してやる。
ソフィアは俺の言葉を、どこまで理解しているのかは分からないが「善処しよう」と言ってくれる。
会談は、これで終わりだ。
カナミがソフィアを王宮へ送っていくというので、見送ることにする。
「レイフォード殿、その……貴重な情報を感謝する。」
ソフィアは他に何か言いたげではあったが、結局それだけを口にした。
「気にするなよ。今度は行動を間違えないようにな。……3度目はないぞ!」
俺がそう言うと、ソフィアは黙った頷き、カナミの遍在の能力により王宮へと帰っていった。
ソフィアは三者会談の時と内乱の時の2回にわたり、俺に敵対している。
本人にその気があったかどうかというのは別問題で、結果として、ミリィ、リィズ、ソラ、カナミが悲しい思いをした、という事実がある。
今までのカナミとの友誼の事を思って、とりあえず不問にしているが、今回俺に敵対するのであれば、アルガードという国がなくなることを覚悟してもらうつもりだ。
「主殿よ何を考えておる?」
魔王島に戻り、城の外の岩場で月を見ながら、自分の考えに耽っていると、ランが声をかけてきた。
「いや、特には……。」
「ならいいが、アルガードを潰そうとか思っているならば考え直すがよいぞ。」
「俺がそんなことするわけないだろ?」
そう言いつつ、俺は内心を探り当てられたようで気分が悪かった。
「ならよいのじゃが……最近の主殿を見てると、若いドラゴン達が暴走するときとよく似ておるのでのぅ。……自分の力を過信し、人間達を下等生物とみなして、自分の思い通りにならなければ焼き尽くそうとする……若いドラゴン達が一度は通る道じゃ。」
ランもそういう時があったのか、自嘲するようにつぶやく。
「……そうだな、俺もそう言う風にならないように気を付けるよ。」
それがいいと言ってランは自分のねぐらへと戻っていく。
俺も寝るか……明日からは魔王を探しての旅が始まるからな。
◇
「うーん、久しぶりに冒険者の気分だぜ。やっぱり、こうでないとな。」
「そうね、私もフィールドに出るのって、何気に初めてかも?」
俺の言葉に、カナミが答える。
「そう言えば、そうだな。魔族領に行った時は、冒険者としてフィールドに出たわけじゃないしな。」
「うんうん、ダンジョンアタックは、それなりに冒険者!って感じはしてたけど。」
「カナミもにぃにも、何なごんでるんすか!周りをよく見るっすよ。」
俺とカナミがほのぼのトークをしていると、リィズがツッコんでくる。
今、俺達は絶賛包囲され中……。
俺達の周りには、ワイルドウルフやサーベルウルフ、ウルフファングなど、100頭を超えるウルフ系のモンスターに囲まれている。
1頭1頭は、俺達にとってはそれ程脅威ではないが、何分数が多い。しかも、まだまだ集まってきている。
それ程広い場所という訳でもないので、どこか一点を突き破って突破……というのも難しい。
まぁ、俺達の後ろが山壁なので、後ろを気にしなくていいという事だけが幸いか。
「ねぇ、ねぇ、アレやっちゃっていいかなぁ?」
「何やる気っすか?」
「本邦初公開、カナミちゃんの新必殺ワザ♪」
「好きにするっす。」
何故かノリノリのカナミに、双剣を手にし、柔軟に対応できる様に構えているリィズが、対応している。
「じゃぁやっちゃうよ……ヴィノゥ!」
カナミがワードを唱えると、目の前にタクトが現れ、短めのロッドに変化する。
それを握りしめ、空にルーン文字を書き記す。
「ᚨᚲᛋᛏᛜ……」
ルーンを中心に魔法陣で囲むと、両手を前に突き出す。
「いけー!龍の咆哮!」
カナミの手から放たれた魔力が、描いた魔法陣に収束し、そこから膨大な量の魔力・熱・光・炎がウルフ達の群れに向かって放たれる。
魔力衝撃を受けたウルフ達は、一瞬で燃え上がっていく。
カナミが手をそのまま横にスライドさせると、魔力の奔流もそのまま横へと流れる。
そのまま腕を左右にスライドさせて、モンスター達を薙いでいく。
まるでドラゴンブレスそのものだ。
「凄いっす……。」
「お姉さん一人で終わらせちゃった。」
リィズたちも、カナミの大技に見とれている。
「一体あれは……。」
俺も見たことがない魔法だった。
カナミは無詠唱やワンワード魔法は使えても、俺と違ってイメージだけで魔法を発動させる事はできない、……はずだ。
「龍魔法じゃ。」
ランが答えを教えてくれる。
「我ら龍族が人化した状態で使う魔法じゃ。龍族以外で使えるのはドラゴニュートの巫女をはじめとした極一部の者達だけなんじゃがのぅ。」
少し前に、ラン達がカナミに請われて教えたことがあるという。
その時はいい暇つぶしという事で、調子に乗って教えていたらしいが、まさか本当に使えるようになるとは思ってもみなかったと言う。
「ふぅー、疲れたよぉ。レイにぃおんぶー。」
魔力を使い切って、地面に座りこんだカナミが甘えた声で、両腕を差し出してくる。
仕方がないなぁ、と俺はカナミに背を向けてしゃがむと、カナミの腕が俺の首に回り、カナミの体重が俺にかかる。
よいしょっと、カナミを背負って立ち上がる。
「エヘッ♪」
カナミが俺の背中に頭を摺り寄せる。
「先行くぞー!」
俺は、カナミを背負ったまま歩きだし、リィズたちに声をかける。
「あー、カナミばっかりズルいっす!」
「おにぃちゃん、ボクも、ボクも!」
「えーと、ご主人様、出来ましたら私も……。」
「ダメだよー、ここは私の特等席!」
カナミとリィズたちが言い合いをしている。
姦しい……。
「おい、それだけ元気なら下ろしていいか?」
「ダメぇ―。」
カナミがギュッとしがみついてくる……ま、いいか。
結局、カナミの魔力が回復して降ろした後、リィズたちを順番に背負っていくことになった。
……平和だなぁ。
◇
パチパチパチ……
俺の目の前で焚火にくべられた薪がはぜる音がしている。
みんなは、すでに就寝してる。
周りを結界で囲ってあるから、余程の事がない限り安心なのだが、寝付けずにいる事もあって、こうして夜番をしている。
カサッ……。
「ん?」
「となり、いいですか?」
「あぁ、座れよ。」
俺は、ミリィに座る場所を開けてやる。
「どうしたんだ?寝ておかないと明日が辛いぞ。」
「えぇ、わかってはいるのですが、寝付けなくて……レイさんも寝付けないんじゃないんですか?」
わかってますよ、というように微笑むミリィ。
「そうだな、これからの事を考えると、ちょっとな……。」
俺は正直に、ミリィに打ち明ける。
「よかったら話してくれませんか?先日のお話では、私も理解しかねるところも多かったですし。」
「そうだな……。」
まぁ、眠くなるまでの暇つぶしだ。
また、人に話すことによって、論点が整理されるかもしれないしな。
「まず『勇魔システム』と呼ばれる、勇者と魔王の関係なんだが……。」
この世界はマナによって構成されている。
マナは万物の根源のエネルギーだ。
生命エネルギーも魔力も、すべて、このマナが変換されてできている。
マナはすべての生物のエネルギーとして、また、魔力等によって消費される。
そして、生物が死を迎えるとマナに還元される。
しかし、普通の人間や生物が普段消費するマナは微々たるもので、消費より供給量が多くなりすぎると、世界にマナが飽和して、限界を超えると世界が破裂するらしい。
そこで、マナを大量に消費する、モンスターや魔族達が現れることになり、それらを統括する『魔王』という存在が作られた。
しかし、魔王の力は大きくマナの消費も大きいので、そのままにしておくと今度はマナの枯渇という事が起きる。
マナが枯渇すれば、この世界の生あるものすべてが死に絶えることになる。
そう言う事にならないように『勇者』という存在が作られた。
勇者は魔王を倒せる唯一の存在。
逆に言えば、勇者でなければ魔王は倒せない、という事だ。
マナの供給過多になれば「魔王」が現れ消費する。
マナの消費が激しくなれば「勇者」が現れ、消費の元である魔王を倒す。
「その繰り返しで世界はマナのバランスを取っているんだ。」
「そうなんですね。……でも、勇者が弱くて魔王に返り打ちになったらどうなるんですか?」
俺が勇魔システムについて話すと、ミリィが疑問を投げかけてくる。
きっとミリィの頭にも、「あの勇者御一行」がよぎったんだろう。
「次代の勇者……簡単に言えば子供、もしくは勇者適性を持った者がいれば特に問題はない。そいつらが育って、魔王を倒せばいいのだから。……まぁ、マナが枯渇する前に、だけどな。」
「もしいなければ?」
「これはアドラーから聞いた話だが、魔王は理性を失って破壊と殺戮だけの存在になるらしい。
……俺の推測だが、消費し続ける魔王を倒す勇者が居なくなることにより「消費」が抑えられなくなるから、すべての命を刈り取り「マナに還元」することで、マナの枯渇を抑えようというシステムの在り方じゃないかと思う。
まぁ、すべての命を刈り取ったとしても、魔王が存在する限り消費されていくから、そのうちマナ枯渇が起きて世界は滅ぶんだけどな。」
「それで、レイさんは何を気にしているの?」
「俺の望みは、お前らと笑って過ごしたい。お前らの笑顔を見ていたい。ただそれだけなんだ。
しかし、ミリィも知っているだろう?あの「勇者御一行」……あいつらが今代の勇者なのは間違いないらしい。が、奴らでは魔王は倒せない。だったらどうするか?
俺が魔王を倒すか、あいつらに力を貸して魔王を倒すのか?」
「レイさんが魔王を?勇者しか倒せないのでは?」
「いや、たぶん、俺なら「勇者」として魔王は倒せると思う。」
俺の言葉にミリィが納得したように頷く。
「そう言えば、精霊さん達は皆、レイさんの事を「英傑の魂を持つ者」と言ってましたね。」
「ただなぁ、勇者が、魔王を倒した後の事を考えるとな。」
「何かあるんですの?」
「勇者は、魔王を倒した後、時代の種を残して消えるんだよ。」
「……どういうことですの?」
ミリィが不思議そうな顔で聞いてくる。
「俺にもよくわからん。色々調べたが、勇者の血を引く者については語られているんだが、勇者そのものについては、どの文献を調べても分からないんだよ。
まるで、本当にこの世界から消え去ったような感じで。」
「そうなんですね……。」
ミリィも考え込む。
もし、本当に消えてしまうのであれば、俺の望みが叶わない事と同義だ。
つまり、俺は『勇者』という選択肢は選べない。
「後、魔王の役目についてなんだが『魔族やモンスターを統括し、適度のマナを消費すること』だけじゃなさそうなんだよ。だから、簡単に魔王を倒すという訳にもいかないかもしれない。」
「魔王様に聞きたいこと、というのはそれなんですね。」
「そう言う事。魔王の本当の役目、勇者の末路、他、俺が知らない世界の秘密……そのあたりを知ったうえで、お前たちと笑って過ごすためにはどうすればいいかを考えないとな。」
「ふぅ……。スケールが大きすぎて、やっぱり私にはよくわかりませんわ。」
「いいさ、それで。話したことで、少しまとまった気もするしな。」
「よくわからないけど、私は最後まであなたの傍にいますから。」
ミリィは俺の肩に、コテンと頭をのせて囁いてくる。
俺はミリィの肩に手を回し、そっと自分の方へ引き寄せる。
「あぁ、最後まで、俺の傍で笑っていてくれ。」
「はい。」
魔王……勇者……世界のシステム……女神の存在……。
確かにスケールが大きいな。
でも、俺は今度こそみんなと笑顔でいられる道を探す。
俺は肩にかかるミリィの体重を感じながら、決意を新たにするのだった。




