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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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魔王の影

 ……ぐるぅ、ぐるっこぉー……


 ……ン……うるさい……


 ……ぐるっこぁー、ぐるぅー、ぐるぅー……


 「……きて。……ぃちゃん……。」


 「……ん、なんだぁ……。」


 ……いつものベガス達の騒がしい鳴き声にまぎれて、誰かが呼んでいるような気がする。。


 ……ぐるぅー、ぐるぅー……。

 

 唇に柔らかいものが触れた気がした……ベガスか?

 俺はゆっくりと目を覚ます。


 「にぃに、起きたっすか?」

 目の前に美少女の顔がドアップで映る。

 艶やかな黒い髪に、大きな黒い瞳。やや幼さを残した顔立ち……世が世なら親衛隊がいてもおかしくないとびっきりの美少女……。


 「リィズか……おやすみ。」

 俺はリィズを抱きしめ二度寝に入る。

 「わわっ、にぃに、いきなりは困るっす!」


 パッシーンッ!

 「おわっ!」

 いきなりの衝撃に、思わず飛び起きる。

 「早く起きなさい!」

 声がする方を見ると、慌てて衣服を整えているリィズの横に、ハリセンを持ったカナミが立っていた。

 「カナ……?」

 「今日は、ダンジョンに遊びに行く約束でしょ!」

 ……あぁ、そうだった。

 ランが、せっかくダンジョンを整備したのに誰も来なくてつまらないってボヤいてたんだっけ……。


 「食事の用意も出来てるから、早く来てよね。……リィズ、行くよ。」

 ……まったく、起こしに行ったリィズがイチャついてるから……

 ……今回のは不可抗力っす……

 二人がぶつぶつ言いながら部屋を出ていく。

 部屋の中には、俺と数羽のベガスが残される……起きるか。


 「おにぃちゃん、遅いよー。僕たち先食べてるよ。」

 食堂に入った俺を見つけたソラが声をかけてくる。

 「今、スープを温めますので、お席へ。」

 リナが、椅子を引いてくれ、給仕をしてくれる。


 「遅くなって、すまない。」

 俺は食事をしている皆に声をかける。

 カナミ、ミリィ、リィズ、ソラ、ブラン……朝は其々別に食事をとることが多いのだが、たまにはこの様にみんな揃うこともある。

 給仕をしてくれるリナにも、最初の準備が終わったら一緒に食事をするように言ってあるので、今日はフルメンバーでの朝食だ。

 夕食はこのメンバーに加え、頻繁に顔を出すレイファが加わる。

 そしていつもではないが、鬼人のセイラや、ラン、スイちゃんなどが加わる時もあり、とても賑やかだ。

 

 「レイさん、どうしたんですか?」

 つい、顔が緩んでいた俺を見て、ミリィが聞いてくる。

 「いや、人が増えたなぁ、と。」

 そんな風に答える俺を見て、ミリィがクスリと笑う。

 「そうですね。以前は私とレイさんの二人だけでしたからね。」

 そう言って皆を眺めるミリィの目は、凄く優しい印象を受ける。

 「そうだな……。」

 俺は、しばし感傷に浸りながら朝の食事を楽しんだ。


 「ご主人様、本日の予定なのですが……。」

 食事を終えると、リナが声をかけてくる。

 「ん?ダンジョンアタックだっけ?」

 「いえ、その予定もありますが……アドラー様より魔王様についての話があるとの伝言を承っております。」

 「アドラーから?」

 魔王に謁見する手はずが整ったのだろうか?

 「みんな、悪い。この後アドラーと会ってくる。」

 「私も行こっか?」 

 カナミの言葉に、俺は少し考える。

 「いや、みんなで行こうか。手が空いている者は準備して、転移の間に集合な。」


 1刻後、カナミ、ミリィ、リィズ、ソラ、リナ、ブラン、そして、なぜかランまでが転移の間に集まっていた。

 「ラン、どうして?」

 「いや、最近暇でのぅ。今日も、お主らが遊びに来ると言うとったのに、急に来れなくなったと聞いたから、暇つぶしじゃ。」

 暇つぶしって……まぁいいか。

 「大人しくしてろよ。」

 俺はランにそう言って、皆の方へ顔を向ける。


 「これからアドラーに話を聞きに行く。話の内容次第だが、魔王に会いに行くことになると思う。話を聞いてすぐってわけじゃないが、今後の動向を決める話になると思うので、皆にも聞いておいて欲しい。」

 俺はそう言うと転移の間の奥の扉へ魔力を通す。

 俺の魔力の反応を受けて扉が現れる。

 この扉の奥にあるのは転移陣のコントロールルームと言って差し支えない部屋だ。

 城の入り口などに設置してあるような簡易性の物ではなく、全ての転移陣に繋がるメインの転移陣が中央に設置してあり、壁のパネルで操作できるようになっている。

 この部屋からならば、全ての転移陣をコントロールできるので、やろうと思えばミンディアの協会の転移陣を使用不能にしたりすることもできる。


 ここで一括コントロールするために、獣人のメイドたちや魔族たちが使用している、行先固定の簡易的な転移陣以外はすべて、ここに繋がっている。

 つまり、ここを経由しないと別の所に行けない仕様になっている。

 やや不便だが、万が一の事を考えて、ここからコントロールするためにはこの方式を取らざるを得なかった。

 そのため、防犯上の理由から、この転移陣は俺がキーを渡した者と一緒じゃないと使えないようにしてあり、この転移の間はキーを持っている者、もしくは俺自身が許可した者しか、出入りできなくなっている。

 万が一……例えば敵がソラを脅して、転移陣を使ってここまで来たとしても、ここから動けなくなるというわけだ。

 ちなみに、キーを持っているのは、いつも一緒にいるリィズ達5人の他には、レイファと、最近城に来たブラン、鬼人のセイラとハクレイ、サキュバスのセレナ、ラン、スイちゃん、ダーちゃんのドラゴン達だけだ。

 ミーナに持たせるかどうかは、リナと相談中だが、ゆくゆくは持たせることになるだろう。


 先程の話ではないが、冒険者として街を出た時はミリィとリィズと3人だったのに、いつの間にか大所帯になったもんだ。

 俺は扉をくぐっていく皆を見つめながら、感慨深げに思った。


 皆が魔法陣の中に入ると、俺は行き先を「ミルワの街」にセットする。

 「じゃぁ、行くぞ。」

 俺は転移陣を起動させると、魔法陣から光があふれ、光が消え去ると、そこはもうミルワの街に設置した転移ルームだった。


 ミルワの街はゼブラの街から中央へ向かったところにある、かなり大きな街……というより、この辺り一帯を納めている侯爵家がある「領都」だ。

 そして、その侯爵がアドラーというわけだ。

 転移ルームは、侯爵家の屋敷の離れに設置してある。

 

 「えっと、ここどこかな?」

 転移ルームから出たカナミが不思議そうにあたりを見回す。

 周りは丁寧に整備されたガーデン。

 近くにある調度品も高級品というのが一目でわかる。

 「あぁ、ここは魔族4大侯爵が一人、アドラー侯爵の屋敷だよ。」

 「アドラーさんって偉い人だったんですね。」

 俺がカナミに答えると、ミリィが偉そうには見えなかったと言ってくる。

 まぁ、ミリィは殆ど、アドラーと面識がないしな。


 「にぃに、いつの間に、こんな所と繋いだんすか?」

 「こんな所って……まぁ、殆ど必要ない所だけどな。……何度か、アドラーを呼び出していたら、ここに転送陣をつないでいいから、呼び出さずに会いに来てくれって懇願されたからな。」

 「はぁ……魔族の侯爵様を、ホイホイと呼び出すのは、にぃにだけっすよ。」

 アドラーさんに同情っす……と、リィズが呆れかえっていた。


 「ご主人様、今迎えの者が来ますので、少しお待ちください。」

 転移後、すぐに屋敷の者に連絡をしに行ったリナが、戻ってきた。

 「あれ?リナは来たことあるの?」

 ソラが不思議そうに聞く。

 「えぇ、アドラー様との連絡や、日程調整などで、何度も足を運んでおります。」

 そんな事をリナとソラが話していると、屋敷の者がやってくる。


 「お待たせいたしました、レイフォード殿。」

 いつも案内してくれる衛兵だ。

 「あぁ、アドラーに呼ばれたんだ。案内してくれるかい?」

 「もちろんです!」

 衛兵は笑顔で答えてくれる。

 屋敷の門をくぐるとメイドたちがずらりと並んで出迎えてくれる。

 「「「お待ちしておりました。レイフォード様。」」」

 「あぁ、ありがとう、通らせてもらうよ。」

 「にぃに……すごく歓迎されてる気がするんっすが?」

 「そうか?いつもこんなもんだよ……あ、リナ、いつものお土産渡しておいて。」

 「はい、すでに。」

 「ありがとう。」

 俺はリナに指示を出すが、リナも心得たもので、すでに済ませているとのことだった。

 「にぃに、お土産って?」

 リィズが興味深そうに聞いてくる。

 「いや、いつも突然押しかけているから、悪いと思って、来る時はお土産を用意してるんだよ。」


 衛兵たちには、振ると水や炎が出る剣……剣の形をした水鉄砲やライターだと思ってもらえばいい……を上げたら、思った以上に好反応だった。

 最初、俺の事睨んでいたから、ジョークグッズで場を和ませようとしたら、すごく気に入られたので、あげたのが最初だった。

 それからは来るたびに、いろんなジョークグッズを同僚の分までお土産として渡してやった。

 メイドたちも、最初はすごく冷たい態度だったが、お土産として、カナミの作るクッキーやカステラなどのスイーツを差し入れしたら、いつの間にかお出迎えまでしてくれるようになり、屋敷の者すべてが、いつの間にか俺の来訪を心待ちにしているという、今の状態になっていた。


 「……というわけなんだ。」

 そう、リィズに説明する。

 「要は賄賂で誑し込んだってわけっすね。」

 「賄賂って……お土産だよ、お・土・産。」

 「……なんか、段々アドラーさんが気の毒になってきたっす。」

 そんな話をリィズとしていると、謁見の間の前についた。


 「よく来てくれた、レイフォード。」

 「悪い、待たせたか?」

 「そんなことはない。あー……今回も家の者に色々心配りをしてくれたそうだな。」

 「まぁ、気にするな。」

 アドラーが疲れた感じなのは気の所為かな?

 「その、なんだ……そう言うのは控えてくれると……。」

 アドラーが困ったように言ってくる。

 「あぁ、そう?じゃぁ、アドラーに言われたから、今度からお土産無し!って事でいいか?」

 俺が「お土産無し」の所を少し声を張り上げて言った途端、部屋の中にいる側近、メイド、衛兵、皆がアドラーに視線を送る。

 場の空気が凍る。……皆の視線がアドラーの次の言葉を待っている……。

 …………。

 「いや、まぁ、せっかくの好意だしな、アハハ……。」

 「そうかい、じゃぁ今度もまた何か見繕ってくるよ。」

 俺がそう言うと、今までの張りつめていた空気が緩む。


 「はぁ……本当にアドラーさんが気の毒っす。」

 リィズがため息交じりに言うと、アドラーが「わかってくれるか」……とリィズに視線を送っていた。


 「それで、魔王の事で話があると聞いてきたんだが?」

 俺は、今日来た事の本題へと話を進める。

 「あぁ、少し時間がかかったが、魔王様とコンタクトが取れた。」

 それで?と、俺は続きを促す。

 「2ヶ月以内に魔王様の所へたどり着けたら話を聞いてやる……とのことだ。」

 「たどり着けって、場所はノーヒントか?後、魔族が邪魔するのか?」

 とりあえず、気になる事を聞いておく。

 「魔王様の居場所は後で教える。……最も場所を知ったからと言って簡単には辿り着けないのだがな。……それから、魔王様の傍に居る魔族は、皆、魔王様に近づく敵を排除しようと動く。そう言う意味では邪魔することになるな。」

 「他に、何か言っていたか?」

 「魔族の掟は弱肉強食。何かを成すのならば力を示せ!とのお達しだよ。」

 「成程な。わかった、魔王に会いに行こう。」

 俺は、魔王の居場所をアドラーから詳細に聞く。

 このミルワの街から、ずっと北に行った所にある大霊山。

 その天頂付近に魔王ダンジョンなるものの入り口があるとのことだ。 

 ダンジョンの最奥に魔王がいるらしい。


 「なぁ……本当にいくのか?」

 アドラーと二人きりになった所で聞いてくる。

 リィズ達は、まだ時間があるからと、街に観光に行かせている。

 「何をいまさら。」

 俺は、アドラーに答える。

 「言っただろ?俺はやりたい様にやるって。……今後の為にも、魔王には一度会わなきゃいけないんだ。」

 「お前と会う事で、魔王様の負担が少なくなるのならいい。しかし、魔王様の敵に回るのならば!」

 アドラーから殺気が膨れ上がる。

 「それは全て魔王次第だな。敵に回る気はないが、俺の邪魔になるなら……。」

 俺はアドラーの殺気を往なしながら言う。

 「邪魔になるなら排除する!」

 俺とアドラーはしばし睨み合う。

 …………。


 やがて、どちらともなく、力を抜く。

 「まぁ、そうならないように祈っていてくれ。」

 「そうだな、祈らせてもらうよ。この屋敷の者達も、皆お前の事を気に入っておる。今更敵対するというと、悲しむ者も出よう。」

 「あぁ、俺も、ここの人達の事は気に入っている。魔族がこんなにノリがいいとはおもっていなかったからな。」

 俺が言うと、アドラーが笑いだす。

 つられて俺も笑ってしまう。

 人族より、魔族の方が気の良い奴が多いというのも可笑しなもんだ。


 「じゃぁ、今回はありがとう。助かったよ。魔王の所に行くときはここを通らせてもらうからな。」

 俺はそう言ってアドラーに別れを告げる。

 ミリィ達はすでに城に戻っていて、俺が最後だ。

 「あぁ、……一応教えておこう。魔王様が2ヶ月以内と言ったのは、その期間を過ぎた後、人族領に攻め込むからだ。」

 「そうか。でも、何故それを教える?」

 俺は、何故このタイミングで、そんな事を言い出したのか?と、アドラーの真意を探ってみる。

 「いや、それを知ったお前がどういう行動に出るのかが楽しみでな。」

 アドラーがニヤリと笑う。

 「はん、相手はミネラルド国だろ?サガにも言ったが、勝手にやってろ。俺を巻き込むんじゃねぇ!」

 俺はアドラーに言い放ち、背を向ける。

 「またな。」

 俺は転移陣を起動させ城へ戻る。

 後ろでアドラーが笑っている気配がした。


 「カナミ、近い内……そうだな、2~3日以内にソフィア女王と、密会できる手はずを整えられるか?」

 「うーん……ちょっとあっちに行って聞いてみるよ。」

 「時間が無いから、無理ならそれでいいからな。」

 「ハーイ。」

 カナミは軽く返事を返すと、ソフィアに会いにいく為に部屋を出ていく。

 カナミにアルガード王国の新女王のソフィアと話をできる場を設けてもらうのは、魔族との戦争の事を示唆しておくためだ。

 ただ、こちらも時間があるわけじゃないので、忙しくて時間が取れないのならば仕方がない。

 そう言う運命だったと思うしかないだろう。


 「リナ、ダビットに今日か明日、時間が取れないかどうか確認しておいてくれ。」

 「わかりました。確認を取ってまいります。」

 リナにポメラ獣人国国王であるダビットの予定を確認させる。

 魔王と会う事でどういう影響が出るか分からないから、今のうちに出来る事はしておくべきだろう。


 「リィズ、セイラとハクエイを呼んできてくれないか?」

 「ソラはハルピュイアのリサとハルを呼んできてくれ。」

 「ミリィはセレナに声をかけてきて欲しい。」

 リィズとソラ、ミリィに命約を結んだ種族の代表を呼びに行かせる。


 後は、レイファだが……今夜一緒に食事するって言ってたからその時に声をかければいいだろう。

 「ブラン?いたらちょっと部屋まで来てくれ。」

 俺は通信の魔道具を使ってブランを呼び出す。

 ブランがここに来た時に、他の子と同じようにアクセサリー類や装備一式は渡してある。

 まぁ、その日のうちに、自分なりに改良したのは、ブランらしいのだが。

 

 「レイ、何の用?」

 ブランはもじもじしながら部屋に入ってくる。

 「あぁ、俺達は近い内に魔王に会いに行く。ブランはどうする?」

 城の管理もあるから、ブランが残るのならそれを任せてもいいと思っている。

 「レイ、それって、ウチ以外の子にも聞いとるんか?」

 ブランがうつむいたまま聞いてくる。

 「……?いや、そう言えば聞いてないな。」

 「それって、皆は行くって事やろ?なんで、ウチだけ聞くんや?」

 ブランの身体が小刻みに震えている。

 そう言われると、なんでブランだけ確認しようと思ったんだろう?

 「……魔王との会見、何があるか分からないからな。危険な事になるかもしれないから……。」

 「ウチの事、あんま見くびらんといて!ウチはそんなに信用無いんかい!みんな連れていく、言うなら、ウチの事も確認なんかせずにつれてき、ドアホ!」

 ブランが俺を睨みながら、すごい剣幕で怒鳴る。

 あぁ、そうか……危ないから、と思っていたけど信用してないか……。

 

 「あー、ブラン、ごめん。今のは俺が悪いよな。魔王に会いに行くけど、ついて来てくれるか?」

 「当たり前や……最初からそう言え……ドアホ。」

 俺はブランの瞳に溜まった涙を拭ってやる。

 「悪かったよ。」

 そのままブランの腰に腕を回し、落ち着くまで抱きしめてあげる。

 ブランはしばらく俺に体重を預けて、そのままでいた。


 ◇

 

 「レイフォード様、お呼びと伺いましたが何の御用でしょうか?」

 執務室にセイラとハクレイが入ってくる。

 「あぁ、色々あってな。……俺達は、近い内に魔王に会うために出かける。一応話を聞きたいだけなんだが、どうなるかわからん。場合によっては魔王と敵対することになるかもしれん。」

 俺は此処で一度言葉を切り、セイラとハクレイを見る。

 二人とも黙って聞いている……。

 「そこで、だ。もし、魔王と敵対することになったらお前らはどうする?魔王側につきたいというのなら、命約を破棄してやるぞ?」

 俺はそう言って二人を見るが、二人の顔は笑っている。

 

 「レイフォード殿は我らの忠誠を試しておいでか?」

 「いや、そう言うわけじゃないけど。」

 「笑止!我らが鬼人・オーガ族は一度主と決めた方に未来永劫尽くすのみ!」

 あー、はいはい、そう言えばオーガ族って、こういう奴らだっけ。

 「レイフォード様、ハクレイの言うとおりですわ。それに、私がお姉さまと離れることを望んでいると思ってらして?」

 そうだったな。こういう姫様だった。


 「あはは……はぁ。お前らはそう言う奴らだったな。悪かった。セイラに頼みたいことがある。」

 俺は改めてセイラに声をかける。

 「ハイなんでございましょう。」

 「俺達が留守の間、この魔王城の事を頼む。

 まだ、環境が完全に整ったわけじゃないから、色々トラブルがあると思うが、セイラの裁量に任すから

好きにやってくれていい。

 ハクレイはその補佐を頼む。 

 後、敵が攻めて来たりとかはないと思うが、万が一のことがあれば、ダーちゃんやスイちゃんを頼ってくれ。」

 「「お任せください。」」

 二人は快く引き受けてくれ、俺達の留守の間どうするかを話ながら部屋を出て行った。


 ◇


 「「命主様ー、話ってなぁに?」」

 ハルピュイアのリサとハルが部屋に入ってくる。

 「今度魔王と話をする。場合によっては敵対することになるかもしれん。お前らはどうする?」

 「「…………。」」

 「どうした?」

 「言ってることわからないですー。」

 とリサが言うと、

 「命主様、難しいお話イヤー。」

 ハルも言ってくる。

 「…………。」

 これでも難しいのか……。

 俺は頭を抱える。


 「俺が、魔王と戦うかもしれない。これは分かるか?」

 「「わかるー。」」

 「その時、お前らは、魔王側か、俺達の側か?」

 「「ソラちゃんと一緒ー。」」

 「わかった。もう行っていいぞ。あんまり他所に迷惑かけるなよ。」

 「「ハーイ」」

 ……どっと疲れた。

 話をする必要があったのかどうかもわからん。


 ◇


 「命主様、お呼びと伺ったのですが?」

 サキュバスのセレナが入ってくる。

 「あぁ、忙しいときに悪いな。店の方はどうだ?生活に不自由はないか?」

 「えぇ、おかげさまで、お店は繁盛しています。精も快く提供していただけるので満足ですわ。また、最近はオーガの皆様が近くにいらしてくださるので、お店以外でも安定供給できておりますわ。」

 「そうかそれは良かった。」

 サキュバスたちは、うまく溶け込んで生活できているらしい。

 

 「それで、今回呼んだ件なんだが……近い内に魔王に会いに行く。こっちは話し合いのつもりだが、場合によっては敵対することになるかもしれない。そうなったらお前達はどうする?魔王側につくというのであれば命約を破棄してもいいが?」

 「そうですね……。」

 セレナは考え込んでいる。 

 元々、魔王と敵対するつもりはないという事で結んだ命約だしな。

 まぁ、今でも敵対する気はないんだけど、どうなるか分からないしな。

 でも、破棄してもチェムだけは置いて行ってもらおう。


 しばらくして、セレナが口を開く。

 「そうですね、せっかく手に入れた地盤を手放すのはもったいないですからね。命主様が私達を守ってくださる限り、ついていきますわ。」

 「そうか、ありがとう。じゃぁ、これからもよろしく頼む。」

 「こちらこそ、よろしくお願いしますわ。」

 セレナはにっこりと笑って、部屋を出て行った。


 とりあえず、魔王島周りの事は大丈夫そうだな。

 後で、ダーちゃんとスイちゃんにお願いだけしておくか。


 ◇


 「ご主人様、ダビット国王御一行が来られましたわ。」

 「すぐ行く、客間に通してくれ。」

 リナからの連絡が入る。 

 

 「レイフォード殿、急な呼び出し……何があったのだ?」

 俺が客間に入ると、ダビットたちが気づいて、挨拶もそこそこに聞いてくる。

 「あぁ、順に話すから、まずは落ち着いて座ってくれ。」

 俺は落ち着く時間を作る為、リナが入れてくれたお茶に口をつける。

 ダビットたちもお茶に口をつけると、少しは落ち着いたようだ。

 

 落ち着いたところを見計らって、俺は話し出す。

 「約2か月後、魔族と人族の間で戦争が起きる。」

 まずは確実に起きる事実を伝えると、ダビッドたちは動揺を隠せずにオロオロし出す。

 「落ち着けよ。場所は此処から離れたところだ。この街まで飛び火してくることはない。」

 戦争が起きる場所をミネラルド国と魔族領の国境付近だと告げると、明らかにホッとした表情になる。

 こいつらには、外交は無理だな。

 「でも、何故レイフォード殿がその事を知ってるのだ?」

 「双方から聞いた。」

 俺の答えにどよめくダビット達。

 「今更そんなことで驚くなよ。……俺が言いたいのは、巻き込まれないようにしろって事だ。戦場は遠くても、ミネラルドのサガ国王はなんとしてでも獣人のお前らを戦力に加えたいはずだ。

 だから、色々な手を使って、お前らを戦場に出すよう画策してくるに違いない。

 何を言われても、戦場に行くな!この街を守る事だけに専念しろ。」

 「しかし……。」

 ダビットが不安そうだ。

 って言うか、国王だろ、もっとシャンとしろよ。


 「生憎、俺達はまだ戻ってきてないと思うから、どうしても困ったらセレナーデのセレナか、屋敷に居るセイラに相談しろ。二人には力になってくれるように頼んでおくから。」

 「戻ってないって、レイフォード殿はどちらへ?」

 「あぁ、魔王に会いに行く。その結果次第では戦争は起きないかもしれない。もしくは魔族を指揮するのが俺かもしれない。」

 「そ、そんな……。」

 「だから、絶対に戦場にはいかないようにな。2~3日中にリナが、想定される事柄を纏めてくれるはずだから、それをよく読んで頭に叩き込んでおけよ。」

 俺はリナの方を見ると「無茶ぶりしないでください!」という顔でM睨んできた。

 おー怖。


 ◇


 「レイにぃ、明日の夜中、ミンディアの教会の聖堂で……大丈夫?」

 カナミが、ソフィアと話をつけてきたようだ。

 「OK!ありがとうな。」

 「ううん、それより、ソフィアに何の話?」

 「あぁ、人族と魔族の間で戦争が起こるからな、それについて色々とくぎを刺しておこうと思って。」

 「何、その話。初耳だよ!」

 カナミが驚く。

 あれ?話してなかったっけ? 

 「もうすぐ夕食だろ?その時に話してやるよ。」


 今日の夕食はいつものメンバーに加え、レイファ、セイラ、ラン、ダーちゃん、スイちゃんとウラヌスが一緒だ。

 俺は食事をとりながら、サガ国王との話、アドラーとの話などを皆に聞かせる。

 「で、お主は、その戦争を止めるために魔王に会いに行くのか?」

 ランが聞いてくる。

 「いや、サガにも、アドラーにも勝手にやってろって言ってある。魔王に会いに行くのは別件だ。」

 魔王と勇者のシステムや、魔王の持つ使命などの事でわかっていることを、皆に伝える。


 「だから、そのあたりの事をもう少し詳しく聞いて、その結果で俺の今後を決めたいと思っているんだ。」

 ただ……と、話を続ける。

 「魔王から話を聞くには、一度戦う可能性も出てくるんだ。だから、ランとレイファにも一緒に来て欲しい。」

 「おー、いいぞ、そう言うのを待っておったのじゃ。」

 「大丈夫ですよ。レイ様についていくと決めていますから。」

 俺の頼みを快く引き受けてくれるランとレイファ。

 この二人がいるのといないのでは戦力に大きな差が出る。


 「そう言う事ならワタシも力になろう。」

 ウラヌスがそう言って会話に入ってくる。

 ウラヌスから光が出てミリィのブレスレットに吸い込まれていく。

 「私の分体だ。ミリィ殿の意思で呼び出せる。」

 役立ててくれというと、ウラヌスは、またスイちゃんの足元に戻って丸くなる。


 「あと、スイちゃんやダーちゃんにお願いがあるんだ。」

 俺は他のドラゴン達に魔王島の守護はもちろんの事、ポメラの街にも何かあったら助けてやって欲しいと頼んでおく。

 「それくらい構わぬよ。呼べばいつでも助けに行こう。」

 頼もしいダーちゃんの言葉に、俺はありがとうと感謝の意を伝える。


 「それで、お主らは、いつ旅立つのじゃ?」

 スイちゃんが、ウラヌスの腹を撫でながら聞いてくる。

 モフモフ、気持ちよさそうだなぁ。

 「あぁ、明日の夜アルガードの女王と話をするから、明後日の昼過ぎかな?」

 モフモフ、俺にもさせてくれないかなぁ。

 横を見ると、カナミも同じ目をしている。

 「そうか、お主らの事じゃから、大丈夫だと思うが、気を付けていくのじゃよ!」

 「あぁ、ありがとう、スイちゃん。」

 

 そして、食事を終えた俺達は、各々の部屋へと戻っていく。

 俺はそのまま寝る気にもなれず、展望露天風呂へと行く。


 「はぁー、やっぱ温泉はいいなぁ。」

 思わず口に出してしまう。

 「ホントだね。」

 「うわぁっ!」

 いつの間にか隣に来ていたカナミ。

 「レイにぃ、驚きすぎ!」

 「いや、さっきまでまったく気配がなかったのに、いきなり現れたらびっくりするだろ。」

 「えへへ、どっきり成功!」

 「ったく……。」

 俺は、そのままカナミと肩を並べて温泉に浸かる。

 カナミも、俺の方に体重を預けてくる。

 

 「ねぇ、魔王様に会いに行かなきゃダメかなぁ?」

 カナミが突然そんな事を言い出す。

 「まぁ、な……たぶん会いに行かないとダメだと思う。」

 「そうかな?なんかね、私の心の奥で、魔王様に会ったら、引き返せなくなるよ!って警告みたいなのを感じるのよ。だったらこのままでもいいんじゃないかって。」

 「奇遇だな。俺も心の奥で、望みを叶える為のカギは魔王にあるって言ってるんだよな。だから、魔王に会って話す必要があるんだ。」

 「センパイ……なんか怖いよ。嫌な予感がするの。」

 カナミが俺に抱き着いてくる。

 俺はカナミを抱きしめながら囁く。

 「大丈夫だよ。俺の望みはカナミ達がずっと笑っていられる世界だ。だから、カナミは俺の横で笑っていてくれればいいんだ。お前が笑ってくれるなら、それが俺の力になるんだ。」


 俺はカナミを抱く腕に力を込める。

 二人の姿を月明かりが照らし出す。

 俺は二度と手放さない。そう誓うのだった。 

 

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