ダンジョンクリアとオーガ族
「……ウン、そうだね。ウン、ウン、大丈夫。じゃぁ、また連絡するね。」
「どうだった?」
俺はカナミの会話が途切れるのを待って、声をかける。
「ウン、とりあえずみんな元気みたい。ただ、待ってるだけなので退屈だって。」
「まぁ……な、退屈だろうなぁ。」
リィズ達がこのダンジョンに囚われてから、もう3日経つ。
安全な場所を確保でき、食料の心配もない状況下で、移動できないというのはそれなりのストレスだろう。
俺達と連絡が取れるだけ、マシな状況ってところか。
「正直、いつ合流できるかどうかわからない、この状況はかなりストレスたまるしな。」
「だからと言って、最初みたいに壁をぶち抜こうとしないでよ。あのせいで余計大変なんだから。」
カナミが呆れた口調で言ってくる。
ダンジョンの入り口を見つけ、飛び込んでみたのはいいけど、ミリィ達の居場所がわからない。
カナミの感知能力のお陰で、方向だけが辛うじてわかるという状態だった。
俺は、方向がわかっているなら、と最大級の魔力をぶつけて壁を壊し、道を作ろうとしたのだが……。
「壁を崩したのはいいけど、道はなくなるわ、新しい壁は出来るわ、魔力がぐちゃぐちゃに散乱して感知が出来なくなるわ……散々だわ。」
はぁ……とカナミがため息をつく。
まぁ……悪かったなとは思う。
「ミリィ達と引き離されて、心配なのはわかるけどさぁ……私だって、いるんだぞ。ちょっとくらい、目を向けても……。」
カナミが拗ねたようにつぶやくとそっぽを向いてしまう。
「あぁ、悪かった。カナミを蔑ろにしたわけじゃないんだ。……俺の大事なパートナーだからな。」
俺が言うとカナミがこちらを見上げる。
「大事なパートナー?ミリィ達より大事?」
「……そう言う意地悪はやめてくれよ……同じくらい大事だ……順番なんか付けられない。」
「クスクス……もぅ、仕方がないなぁ。それでいいよ。」
そう言ってカナミはそっと目を閉じる。
俺はカナミに近づきそっと唇に……。
「ゴホンッ!あー、そろそろいいいかな?」
チッ!
良い所で邪魔しやがって。
「ハクレイ、居たのか?」
「いたよ!……俺の事無視するのはともかく、目の前でのイチャイチャはやめてくれ!」
どうやら、オーガ族は公衆の面前でのイチャラブに免疫がないらしい……って、俺もそんなのはないけど。
イチャつくのは、人目のない所でこっそりと……というのがオーガ族の感覚らしいが、俺だって人目のない所でしかしてないぞ。
「ところで、あまり進んでいる気がしないのだが、大丈夫なのか?」
ハクレイが聞いてくるが、何とも答えようがない。
「カナミとミリィの感知能力だけが頼りだからな……一筋縄ではいかないようだ。」
このダンジョンは周りが樹木に覆われていて道がわかりづらくなっている。
それを隠れ蓑に、少しづつ地形を変えているらしい。
今は、カナミがミリィの、ミリィがカナミの魔力を互いに感知しあって、方向と距離を確認しながら進んでいる。
それなりに魔力消耗が激しいため、常時発動は難しく、分かれ道とか違和感を感じた時に方向確認のためにしか使用していないので、どうしても歩みが遅くなる。
「まっすぐ行ったら突き当たるはずだから、そこを右ね。」
「了解。」
俺達はカナミのナビゲーションにしたがって、この樹木だらけのダンジョンを踏破していく。
時々出るモンスターは、ハクレイが一撃で仕留めていく。
「あ、ちょっと待ってね、確認するから。」
分かれ道に出ると、カナミが魔法感知の為しばし瞑想に入る。
「……わかったわ、こっちよ。」
無駄に迷わないためにも、カナミの感知能力に頼るところは大きい。
力業では逆効果だという事は、最初にわかったので、今は時間がかかっても地道にいくしかない。
「ダメね……手詰まりだわ。」
そう言って、カナミは俺の膝に倒れ込んでくる。
ダンジョンに入って5日目。
今は食事を兼ねた休憩中だが、その合間にも、魔力感知を使って様々なルートを確認していたカナミ。
昨夜辺りから、ミリィ達との距離は縮めることが出来ていない。
ミリィ達の場所を中心にぐるぐる回っているだけ、という感じがずっと続いている。
「何かねぇ、ミリィ達との間に大きな障壁があるイメージ?それを壊さない事にはどうしようもなさそう。」
「壊すアテは?」
「ウン、たぶん、ここのダンジョンボスを倒せば消えると思う。」
「場所はわかるか?」
「今は分からない……けど、障害の多い方に行けば、きっとそこに……。」
カナミから力が抜けていく。
かなり力を使っていたから消耗したのだろう。
俺はカナミの髪の毛を撫でながら「おやすみ」という。
カナミから完全に力が抜け、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえ始める。
「ということで、カナミが起きたらボスを探しに行くからな。お前も今のうちに休んでおけよ。」
俺は少し離れたところで、こっちを見ないようにしているハクレイに声をかける。
「あぁ……レイフォード殿、少しいいか?」
ハクレイが少し酔ってきて話しかけてくる。
「どうした?」
「いや、今更な話なんだが、レイフォード殿は、どうしてこっち……魔族領へきたのかと。」
ハクレイがそんな事を聞いてくる。
「ほんと、今更だなぁ。……アドラーに呼ばれたから来たんだよ。俺も、アドラーに話があったからちょうどよくってな。」
「アドラーって、あのアドラー様か!」
ハクレイが驚いた声を上げる……そんな有名人なのか?
「どのアドラーか知らんが、こう……。」
俺はハクレイにアドラーの特徴を告げる。
「魔族四大侯爵が一人、烈風のアドラー様だ。」
最初声も出なかったハクレイだが、気を取り直すとアドラーが如何に偉いかと滔々と語りだした。
「あぁ、もういいから……っと、会うの今日じゃなかったっけ?……ま、いっか待たせておけば。」
「お前バカか!アドラー様を待たせるなど!」
ハクレイが凄い勢いで怒鳴る。
「静かにしろよ。カナミが起きるだろ……それに、アドラーに会いに行くのを邪魔したのは誰だ?誰のせいで今こうなってる?」
俺はドラグーンをハクレイの額に突きつけると、グッと唸り……大人しくなってくれた。
「そうだな……知らぬこととはいえ、許してほしい。謁見には俺も一緒に行き、アドラー様に許しを願う。」
「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりオーガ族について色々教えてくれよ。」
俺はせっかくなので、ハクレイからオーガ族について色々と聞くことにした。
オーガ族は総じて体格がよく、頭に1本ないし2本の角が生えている。力が強い反面、判断力や知性に乏しいというのが一般的だ。
だが、実際の彼らは、力強くたくましいが、素朴で優しい性格だ。
しかし、素朴と言えば聞こえがいいが、単純なため騙されやすく、様々な所でいいように利用されているのは、歴史を紐解けばすぐにわかる。
オーガ族の中で、ハイ・オーガに進化するものが出てくるが、稀に鬼人へと進化する個体もいる。
鬼人は通常のオーガ族より一回り体格が小さくなるが、内に秘められている魔力量はハイオーガでさえ足元に及ばない。
また、知力も高く魔法を使う個体もいる。
その知力の高さ故、オーガ達を率いる立場となっている。
この近隣のオーガ集落には、目の前のハクレイの他4人の鬼人がいて、オーガたちを纏めているらしい。
「んっ、んー。……。」
俺の膝の上でカナミが身じろぎをする。
そろそろ起きるかな?ハクレイと他愛もない話をしていたが、結構な時間が経ったようだ。
「んー、あはぁ、センパイがいたぁ……むちゅっ。」
カナミは目を開け、俺を見ると、首に手を回しキスをしてくる。
トローンとした目つきからすると、寝ぼけてると思われる。
熱いキスを返してやってもいいが、ハクレイもいるし……後々面倒にならないか?
等と考えてはいたものの、体は正直でいつの間にかカナミを強く抱きしめ濃厚な口づけをしていた。
しばらくして体を離すと、カナミが驚いた眼で見ている。
「おはよう。ぐっすり眠れたかい?」
俺は出来るだけ爽やかイケメンを装って言ってみた。
「……センパイ。」
カナミが震える声で言う。
「……そのキャラ似合わないからやめて。」
バッサリだった。
カナミも十分休めたようなので、俺達はボス討伐へ向けて準備をする。
「……うん、わかった。急ぐからそっちも……ウン、きをつけて……、じゃぁまたね。」
準備の間に、カナミがミリィとコンタクトをとる。
「向こうの様子は?」
「今のところ問題ないみたい。ただ、モンスターの動きが活発になってきて、結界を破ろうとしてくるのが増えて来たって。ソラちゃんとリィズで十分撃退できる程度らしいけど。」
「そうか、急いだほうがいいか?」
「ううん、急ぐのはボスを倒した後。変な話、私達とミリィ達を隔てる障壁が、そのままモンスターたちも阻んでいるみたいだから、ボスを倒して障壁がなくなると……。」
「モンスターが一気に押し寄せる可能性もあるってか。」
「そう。だから、ボスを倒した後は一直線に向かうつもりで行きましょ。」
俺達は話をしながらもボスの元へと向かう脚は緩めない。
前をふさぐモンスターはハクレイが一刀両断していく。
トラップは、感知する度に無駄に発動させるか、物理的につぶしていく。
俺達が進むにつれて、モンスターの数、トラップの数が増えていく。
「どうやら方向は間違ってなさそうだな。」
ここまでくると、俺の魔力感知でもはっきりと捉えることが出来る。
「ウン、でも入り口が巧妙に隠されている……みつけた!」
カナミの案内で、ボス部屋の入り口の前まで来た。
「行くぞ。」
俺はゆっくりと扉を押し開ける。
中に入ると、そこは広場になっていた。
エビルトレントらしき樹木を従えた、巨大なモンスター……アレがボスか。
サイクロプスを思わせる巨体に大蛇の尻尾。頭部はサーベルベアの頭が中央にあり、右にレオウルフ、左にレオタイガーの頭部がついている。
腕は2対4本あり、それぞれ棍棒やサーベル、斧などを持っている。
「シュールだ。」
なんと表現していいかわからないが、獣なのか巨人なのかはっきりしてほしい所だ。
「ハクレイ、奴の右側から、俺は左から行く。 カナ、援護とあのエビルトレントたちへの牽制を頼んだ!」
「承知!」
ハクレイは一気に距離を詰める。
「任せてね。」
カナミは魔法の詠唱に入る。
普段詠唱無しでも魔法を使えるカナミだが、詠唱をしているってことは大技を使うつもりなんだろう。
「ファー! ……来い!ケイオス!」
俺は巨人キメラとの距離を詰めながらファーと融合し、ケイオスを召喚する。
巨人キメラの棍棒が振りおろされるが、ジャンプしてかわす。
落下の勢いを利用して、ケイオスを振り下ろす。
わずかな傷が出来、血を吹き出すが、大したダメージにはなっていない。
俺はそのまま足を狙って斬るつける。
ガッキィン! ガッキィン! ガッキィン!
堅い!金属の塊に斬り付けているようだ。
わずかではあるが傷をつけるものの、大きなダメージにはなっていない。
「やはり頭を狙うか……ッツ!」
いやな気配がして俺は思いっきり後方へ飛びずさる。
ヴォンッ!
俺のいた所を大蛇のような尻尾で薙ぎ払う。
アブねぇー。
俺は体勢を立て直しつつ、ハクレイとカナミの様子を見る。
ハクレイは、巨人キメラが振りおろす攻撃をかわし、その腕を支店にしてジャンプ。落下の勢いを利用しつつ頭部……レオウルフの頭部に斬り付けている。
カナミは炎弾を打ち出してエビルトレントが巨人に近づけないように牽制している。
時折、真空の刃を巨人の足元に放つが、表面を傷つけるだけで、大したダメージは入っていない。
ただ、それでも気にするそぶりを見せ、その隙をハクレイが狙っている。
体勢を立て直した俺は軽く地面をけり、空中へと飛び上がる。
ファーと融合している間は、自由自在に飛び回るとまではいかないが、ジャンプしてなら結構長い時間滞空していられる。
上空より落下の勢いを利用して、レオタイガーの頭部へケイオスを突きさす。
そのまま、俺はケイオスに魔力を込める。
『爆破!』
ケイオスより放たれた魔力がレオタイガーの頭部を吹き飛ばす。
爆風の流れに乗り、一旦距離を置く。
「ハクレイ!合図したら離れろ!」
俺はハクレイに叫ぶと、ファリスを取り出す。
ファリスに魔力を流し込みながらケイオスの上に重ねる。
ファリスは光の粒子となってケイオスに吸い込まれていく。
漆黒の刃のケイオスが銀色の光を纏う。
『万物の根源たるマナよ』
ケイオス全体の輝きが増す。
『大いなる光を力に変えて、溶かし燃やし貫け!』
ケイオスが金色に輝く。
「ハクレイ!どけ!」
俺の言葉にハクレイが最後の一太刀を浴びせた後、大きく後方へと退く。
『輝ける光槍!』
俺は巨人キメラに向かってケイオスを振り下ろす。
ケイオスの剣先から金色の光が放たれ、巨人キメラの喉元を貫く。
貫かれたところを中心に爆発が起き、頭部が吹き飛ばされ、地面に転がる。
そこにすかさずハクレイが刀を突きさし止めを刺す。
巨人の胴体がゆっくりと倒れる。
俺は倒れた胴体へ飛びあがり、心臓にあたるところへケイオスを突きさす。
『爆破!』
念のために魔法で吹き飛ばす。
巨人の身体は心臓部を中心として弾け飛ぶ。
カナミは!
俺はカナミの方を見る。
エビルトレントの枝が燃えている。
エビルトレントが必死になって火を消そうと、枝を揺すったり、地面に転がったりして消化している。
しかし、消えかけたところで、カナミの炎弾が別の個所に着火し、燃え上がる。
新たな火災を必死になって消火するエビルトレント。
……遊んでるなぁ。
「あ、レイにぃ。そっち終わった?じゃぁ、こっちも片付けるね……。」
『地獄の劫火!』
辺り一面を焼き尽くす炎。
それがエビルトレントに向かって収束していく。
『滅!』
カナミがタクトを振ると、ひときわ大きな炎が立ち上り……爆発する。
「ふぅ……ちょっと疲れたよぉ」
カナミはバックからマナポーションを取り出して飲み干す。
「お待たせ、ミリィ達の所を探すね。」
そう言ってカナミは瞑想に入る。
「捕まえた。……レイにぃ、ここの真下だよ!」
「OK!」
俺は地面にケイオスを突きさし、魔力を開放する。
『灼熱の大爆発!』
地面に大穴が開くと、俺は躊躇わずに飛び込む。
◇
これはヤバいかも……。
私は迫りくるワイルドウルフの群れを切り裂いていく。
1頭1頭は大したことないけど数が多い。
さっき大きな地響きがあって、その後、結界が破られた。
真っ先に飛び掛かってきたのがこいつらだ。
ズシャッ! ズシャッ!
私が小剣を振るう度に1頭、また1頭と倒れていく。
「とどめっすよ!!」
ズシャッ!
私は最後の1頭を切り裂く。
これでここは大丈夫。
他のみんなを見るとソラは逆方向から来たゼブラタイガーを食い止めている。
助けに行った方がいいかも?
ねぇねの方を見ると、サーベルベアが襲い掛かるところだった。
ねぇねは、セイラを中心に結界を張っていて、迎撃が間に合わない。
『炎の刃!』
私は魔法の刃を飛ばし、ねぇねの元に向かう。
「エアリーゼ頼むっす!」
(了解よー)
私はエアリーゼと一つになり加速する。
それなりに魔力を消費するので、あまり使いたくないけど、今はそんな事を言っている場合じゃない。
「ねぇね、ここは任せて、下がるっす!」
私は振り下ろされたサーベルベアの腕を双剣をクロスさせて受け止める。
「リィズ!」
ねぇねの叫び声が聞こえる。
下がってって言ってるのに。
「クッ!」
私は、横から来たサーベルベアのもう一方の腕で弾き飛ばされる。
予想外の攻撃だったので、受け身に失敗する……動けない。
私を齧ろうとサーベルベアのアギトが近づいてくる。
ここまでなの……にぃに……。
ドゥーンッ!
辺り一面を揺るがすような大きな音が響く。
辺りを土煙が覆う。
サーベルベアの動きが止まる。
今!
私は、その隙を逃さす、サーベルベアの攻撃範囲から逃れる。
双剣を構えなおし、サーベルベアに相対する。
土煙ではっきりと見えないがサーベルベアは棒立ちのままだ。
私は、じりじりと間合いを詰める。
もう少しで間合いという所で、サーベルベアが崩れ落ちる。
えっ?
土煙が晴れ、サーベルベアの後ろで立っている人の姿がはっきりと見える。
「にぃにー!」
私は大好きなあの人の元へ飛び込んだ。
◇
俺は着地すると、周りを見回す。
リィズが倒れている。目の前にサーベルベアがいる。
しかし、今の衝撃でサーベルベアの動きが止まり、その隙にリィズは抜け出した。
……よかった。
俺はサーベルベアにケイオスを突きさす。
次第に土煙が晴れてくる。
向こうに人影が見える……リィズか?
土煙が晴れてお互いの姿が見えると同時にリィズが俺の胸に飛び込んできた。
「にぃにー。会いたかったっす!」
「けがはないか?みんなは無事か?」
俺はリィズを抱きしめながら周りを見回す。
奥の方でソラがゼブラタイガーを食い止めているようだが、カナミが向かっているので大丈夫だろう。
ほら、言ってるうちにカナミの魔法で、ゼブラタイガーたちが吹き飛ばされた。
少し離れた所では、ミリィと女の子がいる。
女の子の頭に2本の角がある……おそらくあの子が鬼人の姫セイラだろう。
ハクレイが近寄っていき……いきなり土下座している。
ミリィが若干引いてる……イヤ、ドン引きだろう。
とりあえず、疲れているだろうし、情報のすり合わせもしたいので、この場で休憩をすることにした。
一休みしたら転移石を使って外に出ればいいので、時間的なロスはそれほど問題はない。
「ハクレイ、其方の所為で、お姉さまが酷い目にあったというではないか!どう落とし前をつけるのじゃ。」
「ハハッ!このハクレイの責任は承知の上、如何様な処罰も受け入れる所存であります。しかし、許されるのならば、レイフォード殿御一行への恩を返す機会を与えていただけたらとお願い申し上げまする。」
……鬼人たちの間で主従ごっこが始まった。
いや、本人たちは真面目なんだろうけどさ。
聞くところによると、あのお姫様は、危ない所をリィズに助けられてからは、リィズにべったりだそうだ。
だから、リィズがこのダンジョンに囚われる原因になったハクレイに対して怒ってるらしいのだが……。
「えっと、セイラちゃん。それぐらいで許してやれよ。ハクレイからすでに謝罪は受けているし、それに、結果論ではあるが、リィズがこのダンジョンに囚われたおかげで、君を助けることが出来た。だから、相殺ってことで許してやってくれないか?」
「……そうですね。ハクレイが居なければお姉さまがここに来ることはなかった。……ハクレイのお陰でお姉さまに出会えました。……ハクレイよくやりました。褒めて遣わします!」
おいおい……。
「それより、セイラは薬草を探しに来たって言ってたっすが、見つかったっすか?」
おかしな方へ行きそうになった雰囲気を察して、リィズが話題を変える。
「それが……見つかりませんの。」
セイラちゃんが、悲しそうに俯く。
「それなんだけど……カナミなら直せるんじゃないか?」
「そうね……ハッキリと確約は出来ないけど、手遅れじゃない限り女神の癒しで直せると思う。」
俺の言葉にカナミが頷く。
「本当ですか!本当であれば是非お願いします。御館様を……お祖父様を助けてください。」
「図々しいのは承知の上、俺からもお願いする。」
鬼人二人が頭を下げる。
「大した手間じゃないし、俺達に敵対しないと約束してくれるならいいよ。」
「ほんとですか。ありがとうございます、ありがとうございます。」
セイラちゃんが涙目で、それでも嬉しそうにリィズの手を握って感謝の言葉を継げる。
……ココは俺に抱き着いてくるところじゃ?
俺の考えを読まれたのか、カナミとミリィが冷たい視線を送ってくる。
「レイフォード様、この度はお爺様の治療を受けていただき、オーガ族一同感謝いたします。」
セイラちゃんは、落ち着いた後居住まいを正しあらためて感謝の意を告げてくる。
「まだ、治療したわけじゃないし、そう言うのはおじいさんが直ってからでいいよ。」
「ありがとうございます。お爺様が完治した暁には、我らオーガ族一同、レイフォード様に忠誠を誓わせていただきます。」
「ま、まぁ、とにかく、ここを出てオーガの集落に向かおう。森から近いんだろ?」
「あぁ、お前たちが目指していたゼブラの街のすぐそばだ。」
「じゃぁ、さっそくむかおうか。」
俺は会話を打ち切るように、転移石を発動させた。
「もうすぐ集落が見える。……しかし、アドラー様を待たせることに……。」
ハクレイは族長の治療とアドラーへの畏敬との間で板挟みになっているようだ。
「待たせておけばいいって、それに、近いんだったら先に治療によっても大差ないって。」
「あ、見えましたわ。あそこが私達の……っ!」
セイラが指さした先には、集落っぽい建物が並んでいたが、煙を上げ、まだ消え切らない炎が上がり、打ち崩されていた。
「なぜ……。」
「急ごう!まだ誰かいるかもしれない!」
俺達はオーガ族の集落に向けて駆けだした。