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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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オーガの姫君とダンジョン

 「……わかりましたわ。では、カナミも……はい。」

 ふぅ……何とか連絡が取れて一安心だわ。

 ん?リィズもレイさんと連絡が取れたみたいね。


 「リィズ、レイさん?」

 私は会話が終わったのを見計らってリィズに声をかける。

 「うん、途切れ途切れだったけど、にぃにとつながったっす。」

 「ぶぅー、ボクだけ誰ともお話しできない。ぶーぶー。」

 さっきまでとうって変わって、明るい表情のリィズと、拗ねているソラちゃん。

 レイ様の作ったこの『通信機』という魔術具は、かなり魔力の質に左右されるみたいですね。


 ここは、周りが樹木で覆われてはいますが、たぶんダンジョンみたいなところなんでしょうね。

 外界との魔力は遮断されているのは明らかですが、それを突き通す魔術具の性能……本当にレイさんの技術は規格外ですね。

 メンバーの中で、魔力量は圧倒的にレイさんが一番。そしてその次がカナミ。次に私。

 だから、私とカナミの間で通信が出来、リィズとは雑音交じりで辛うじて……となるのはそれ程不思議ではないのだけれど、私とレイさんの間では雑音が少し入る程度で全く声が聞こえないのに対して、リィズとレイさんなら辛うじて会話が成り立つ程度にはつながるって言うのは不思議だわ。

 この事から考えられるのは、魔術具の性能は魔力量ではなく、質とか属性、相性などで左右されるのかしら?

 ふふっ、この事をレイさんが知ったら、しばらくは研究とか言って作業場から出てこなくなるわね。

 

 「ねぇね、一体どうしたっす?いきなり笑いだして?」

 あ、いけない。つい笑っちゃった……そんな場合でもないのにね。

 「あ、ごめんね。カナミがね、私達が居なくなった時のレイさんの取り乱しようが凄かったって言うからね。つい……。」 

 「お兄ちゃん、僕たちの事大好きだもんね。」

 私の言葉に、拗ねていたソラちゃんも機嫌を直してくれたみたい。


 「連絡が取れることも分ったし、行くっすよ!」

 さっきまでの焦りようが嘘のように落ち着いたリィズの声。

 これなら、もうひと頑張り出来そうね。

 「あの……行くってどこへ?」

 今まで、黙っていた女の子が、おずおずと聞いてくる。


 この子はオーガ族のお姫様、セイラちゃん。

 オーガ族と言っても、セイラちゃんはその上位種にあたる鬼人族なんですって。

 なんでも、お祖父さんが大怪我を負って臥せっているそうで、一命は取り留めたものの、寝たきりで動けない状態なんだそうよ。

 何とかできないかと考えたセイラちゃんは、どんな怪我でも一瞬で直せる万能薬を作る為の、大事な素材が森にあると聞いて、取りに来たそうなの。

 そうしたら、森に入った途端、あの黒い霧に捕まって、気づいたらここに居たって事らしいわ。


 話を聞いただけだと、色々胡散臭い所もあるけど、そのあたりはレイさんが何とかしてくれるでしょう。

 「今の私達がやらなきゃならないことは、レイさん達が迎えに来るまであなたを守って生き延びる事。……だから、もっと安全な場所まで移動するの。」

 私は、セイラちゃんに、そう教えてあげる。


 さっき、カナミには「敵のいない安全なところにいる」と言ったけど……。

 正確に言えば「今のところは敵がいない場所」にいるっていうだけですからね。

 向こうの方で徘徊しているモンスター……アレがこっちに気づいた時点で、ここは安全ではなくなるでしょうね。

 だから今のうちに、ある程度持ち堪えることが出来る場所を探して移動したいところだけど……。

 カナミは「すぐ行くから待っててね」って言ってたけど、2~3日、場合によっては1週間以上は合流出来ないってことも覚悟しておいた方がいいかもしれないわ。 

 

 幸い食料などは共有したバックの中に沢山入れてあるので心配ないですわ。 私達だけなら3か月はもつでしょうね。

 だから、後は安心して眠れる場所を探すだけですわ。

 できれば袋小路みたいなところは避けて急襲されても迎撃する余裕があるだけの広いスペースがいいですが……条件に合う所あるかしらね?

 ……ドライアードさん、ちょっと探してくれると嬉しいわ。

 

 「ねぇね、準備いいっすか?」

 リィズから声が掛けられる。

 「うん、ちょっと待ってね。」

 私は杖を取り出し、みんなに魔法をかける。

 「闇の精霊さん、皆に闇の加護を!『隠蔽の盾インビジブル・シールド』……これで発見されにくくなるはずよ。さぁ行きましょうか。」


 リィズを先頭にソラちゃんとセイラちゃん、そして最後尾に私という陣形で進んでいく。


 「リィズ、その先右へ行ける?」

 私はドライアードが教えてくれる道をリィズに指し示す。

 「ちょっと無理っぽいっす。……モンスターの群れに突っこむっす。」

 「そう……ちょっと待ってね。」

 私は精神を集中してドライアードさんとコンタクトをとる。

 ドライアードさんからイメージが流れ込む。

 ……だめね、やっぱり右に行くしかないみたい。


 「リィズ、モンスターはどれくらい?」

 「中央にダークウルフ30頭ぐらい?右前方にサーベルベア、左後方にゼブラタイガーの群れ20頭ぐらいってとこっすかね。」

 リィズの報告に私は今の戦力で出来る事を考える。


 「いい、みんな聞いて。この先、右へ向かいます。

 モンスターの群れがいるけど、そこを抜けたらレイさんたちが来るまで持ちこたえれそうな場所があるわ。逆にそこ以外には、場所はなさそうなのよ。だから……中央突破します。」

 私はそこで一旦言葉を切って皆を見るわ。

 セイラちゃんは不安そうな顔してるけど、それは仕方がないわね。

 リィズもソラちゃんも、大丈夫そうね。

 やっぱり、さっき上と連絡が取れたのがよかったみたいね。


 「まず、ソラちゃんの援護で、リィズはダークウルフの群れに飛び込んで頂戴。そして、道を切り開いて。

 ソラちゃんはそのままリィズを援護しつつ、サーベルベアの牽制をお願い。

 道が出来たらセイラちゃんはとにかく走って。

 モンスターの群れを抜けた後、しばらく行ったところに広場があるわそこが目的地。

 そこまで走るのよ。

 セイラちゃんが走り抜けたら、ソラちゃんもサーベルベアの牽制をしつつ、後を追って。

 抜けた前方にモンスターはいないと思うけど、万が一ってこともあるから、セイラちゃんを守ってね。

 私はリィズとモンスターを牽制しつつ二人の後を追っていくわ。

 ……リィズには負担かけちゃうけど……お願いね。」


 「任せるっす。いつまでも守られてばかりの私じゃないっすよ!今は私がねぇねを、皆を守るっす!」

 私の言葉に、リィズが力強く答えてくれる。……頼もしくなったわね。


 「ソラ、援護頼むっす!」

 そう言って駆けだすリィズ。

 双剣をもってモンスターに立ち向かうリィズを見ると、その体からは力強く優しいオーラが立ち上っている。

 そこにいるのは健気で優しく、それでいて芯の強い女の子。

 大好きな人の為なら、どんな困難にも笑って立ち向かう女の子。

 ……そうだね、私が守ってあげなくちゃって思っていた、……壊れそうなちっちゃい女の子はもういないんだね。

 私は、それが嬉しくも、誇らしくもあり……そして少し寂しかった。


 ソラちゃんのワルサーが火を噴き、前方のダークウルフを2頭、3頭と打ち抜いていくわ。

 こちらの気配に気づいたときには、リィズの振るう双剣が、脚を、首を、腹を切り裂いていくの。

 「連舞双刃!」

 リィズを中心にその周りのダークウルフが、次々と切り刻まれていく。

 まるで躍っているかのようなリィズの動きは目が奪われるくらい素敵だったわ。


 「セイラちゃん、行くよ……走って!」

 私の合図で、セイラちゃんが走り出す。

 「闇の刃(スラッシュ)!」

 セイラちゃんを狙うサーベルベアを、闇の精霊の刃が切裂く。

 私はセイラちゃんの援護をしながらダークウルフの群れの中に飛び込む。


 「リィズ、セイラちゃんとソラちゃんが抜けたわ。あなたも、切り上げて。」

 「了解っす!少し大技放つのでねぇねは先に!」

 「わかったわ、無理しちゃダメよ。」

 私は、リィズを気にしながらも、ダークウルフの群れを抜ける。

 ソラちゃんとセイラちゃんは少し前を走っている。

 

 「食らうがいいっす!黒炎の十字砲火(ダーク・クロス)!」

 リィズちゃんを見ると、ダークウルフの群れを抜けたところで、双剣を交差させ、その刃から闇属性と火属性の魔法の刃を放つところだった。

 炎に闇が絡みつき黒炎となってダークウルフの群れに襲い掛かる。

 すごいわね。いつの間にあんな技を身に着けたのかしら?


 「ねぇね、早く行くっすよ。すぐ追ってくるっす!」

 私がリィズに見とれていたら、本人から急かされちゃった。

 「そうね、行きましょ。」

 

 「きゃぁー!」

 私とリィズが走り出すと、前方で悲鳴が上がる。

 セイラちゃんが倒れている。

 そこに更に襲い掛かろうとしている、サーベルベア。

 しまった、もう一頭いたのね。

 

 「闇の礫(シャドウブリッド)!」

 私はサーベルベアに精霊弾を放つ……間に合って!


「クッ!」

 リィズは一瞬で精霊化すると、加速してセイラちゃんを抱え上げ、その場を離れる。

 サーベルベアの腕は空を切り、そこに、私の放った精霊弾が当たる。

 「木の精霊さん、お願い! 『蔦穿孔』!」

 周りの木から蔦が伸びサーベルベアに絡みつく。

 動きが鈍くなったところで、蔦の先が尖った錐となってサーベルベアの身体を貫いていく。


 「リィズ、セイラちゃんは大丈夫?」

 「大丈夫っす。ちょっとショックで気を失ってるみたいっすから、背負っていくっすよ。……それよりソラはどうしたっす?」

 言われてソラちゃんの姿を探すわ……どこ?


 「うぅー、そっちが片付いたなら手伝ってよぉー。キリがないよぉ。」

 ソラちゃんはゼブラタイガーの群れを牽制していたのよ。

 ソラがワルサーを撃っている間はいいのだが、ひとたび銃声が止むと、一気に飛び掛かってくる。

 それを、ソラは2丁のワルサーで裁いているのだが、そろそろ限界が近いらしいのよ。


 「リィズ、そのまま、行ってちょうだい。ソラちゃんは私が連れて行くわ。」

 「任せたっす!」 

 「ソラちゃん、もう少しだけ堪えてね……大地の精霊さんお願い……。」

 『大地崩壊(グランド・フォール)!』

 ソラちゃんとゼブラタイガーの間の地面が崩れる。

 「ソラちゃんこっち。」

 私は倒れそうになるソラちゃんの腕を取って一気に駆け出す。


 しばらく走ると、先に行ったはずのリィズが待っていた。

 セイラちゃんの意識も回復したみたいね。

 「じゃぁ、目的地までもう少し頑張りましょう。」

 私達はそのまま目的の広場まで駆け抜けた。


 「ソラちゃん、悪いけど牽制お願いね。」

 広場に辿り着いたものの、私達を追ってきたモンスターたちが入ってこれないようにしなければならないわ。

 私が作業している間にモンスターが来たら厄介なので、ソラちゃんに牽制をお願いしたの。

 ソラちゃんの持っている「わるさぁ」は、こういう場面ですごく助かるわ。


 私は通路の真ん中のあたりにグランドフォールで大きな穴をあけた。

 これで、足止めぐらいは出来そうね。

 後は広場の入り口の境界に、レイさんから預かっている結界石を埋め込み、結界を張る。

 同じように、広場の周りで入り込めそうなところを全部ふさぐ。


 最後に広場全体を取り囲むように結界を張る。

 ふぅ……結界石の補助があっても私の魔力根こそぎ持っていかれちゃった。

 こんなのを事も無げにやっちゃうカナミもレイさんも大概だわ。

 私は、もう大丈夫だからとソラちゃんを呼んで広場の中央へ戻る。

 そこではリィズが食事の用意をしてくれてるはず……。


 「お姉さま、ハイあーん……。」

 「食事はねぇね達が帰ってきてからっすよ!……離れるっす!」

 私の目の前には、甲斐甲斐しく世話を焼くセイラちゃんと慌てているリィズのちょっと百合百合しい光景が広がっていた。 

 「あ、ねぇね、助けてほしいっす!」

 「あらあら、楽しそうね。」

 私は笑って、放置したわ。

 だって、あんな慌てているリィズを見るの久し振りだから。

 しばらくは此処で待たなきゃいけないから、賑やかになりそうでいいと思うわ。


 食事も終えてまったりとした時間……。

 「ねぇね、酷いっすよ!」

 リィズが私の横へやってきた。

 セイラちゃんははしゃぎ疲れて寝ちゃっったみたいね。

 ソラちゃんと一緒に丸まっているわ。

 

 「まぁまぁ、可愛い妹が出来て良かったじゃない。」

 「いやじゃないっすけど困るっす。」

 リィズがはふ……とため息をつく。

 「レイさんに懐かれるのとどっちがいい?」

 私は少し意地悪な質問をしてみた。

 「うぅ……それは……。」

 ふふっ、悩んでいるわねー。

 

 「モンスターに襲われて、もうダメって思った時にさっそうと現れて助けてくれた命の恩人さん。惚れれちゃっても仕方がないでしょ。特にあの年頃は恋に恋する時期でもあるんだし……ね。」

 「うぅ……でも……。……ねぇねも……にぃにに助けられたって言ってたけど……やっぱり?」

 よく覚えているわね……。

 「私達の場合は……違うわ……。そうね……傷のなめ合い……かしらね?」

 「傷のなめ合い?」

 「私とレイさんが出会ったとき、お互いに心の奥底でどうしようもないくらい深い傷を抱えていたのよ。……でも、自分では気づかなかった……気づいてない振りをしていた。

 そんな時に出会ってしまった。自分の傷は隠して相手を癒そうと……同じ事を考えていたのよ。

 だから傷の舐め合い……あの時の私にはレイさんが必要で、レイさんには私が必要だった。

 私達はそんな始まり方よ。」


 私は今でも考えるわ……レイさんの傷は癒すことが出来たのだろうか?私の傷は癒されたのだろうか?……と。


 「まぁ、セイラちゃんの場合、一過性の熱病みたいなものよ。助かって日常に戻れば覚めるわよ……たぶん。」 

 「醒めなかったらどうするんすか?」

 「さぁ?どんな始まり方でもね、自分は本気と言い切れるのなら……それが出来るのなら、それは本当の想いだから……受け止めてあげたら?」

 「さっきと言ってること違うっす!」

 きぃーっ!となってるリィズは可愛いなって思うわ。


 「でも……カナミもにぃにもすごいっすね……。」

 リィズが急に話題を変える。

 これ以上は藪蛇にしかならないと思ったのかな?

 「今日の戦闘、あっという間に魔力が枯渇したっす。……私のスタイルの場合、それ程魔力を消費しないから、精霊化するだけの魔力は十分にあるはずなんすけどね。にぃにやカナミがいないとダメダメっすね。」

 リィズが自嘲気味に話すことは、私も思ってたことと同じね。


 「そうね……あの二人には私達と違う何かがあるわ……それが多分、私達に隠している事……。

 でもね、しょうがないわよ。私はリィズみたいに剣が使えない。リィズも私みたいに精霊魔法が使えない。……それと一緒よ。

 そして、今回は、あの二人はいないけどセレナを守っている。

 これは今の私達にしかできない事よ。……ダメダメなんかじゃないわ。」

 そう言って、私はリィズを抱きしめる。

 強くなっったと言ってもこういう甘えっ子なところは変わらないね。


 「ねぇ、リィズ……。」

 私はリィズを抱きしめながら話す。

 「なぁに?」

 「明日からの戦いは厳しくなるよ。」

 腕の中でリィズがこわばる。

 そう、明日からは「退屈」という名の戦いが始まるの。

 レイさんたちが来るのは明日かもしれないし1週間後かもしれない。

 それまで、ここから動かずにいなければいけないのよ。


 「だからね、リィズ……楽しい事一杯考えてね。」

 

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