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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう
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魔族領へ!

 ちゅんちゅん……。

 朝の目覚めを表す鳥の鳴き声……実に爽やかだ。

 ……と言いたいところだが、この世界の現実は違う!


 ぐるっぽー!ぐるぐるっぽー!

 ……実に騒がしい。

 しかも、気を抜くとベガス達にあっちこっち啄まれる羽目になる。

 今も、隣で寝ているリィズ(夜中に忍び込んできたらしい……気づかなかった。)がベガス達に埋もれている所だった!

 「うがぁー!暑いっす!」

 ベガス達の猛攻に耐えきれなくなったリィズが跳ね起きる。

 「こいつら一体、どこから来るんすか!……侵入疎外の結界張ってあるんすよね?」

 「まぁな……ただ、阻害するのは敵意を持っている相手に限定してるからなぁ。」

 

 ここは大陸の遥か南方に位置する孤島……通称「魔王島」だ。

 周りは海に囲まれ、その海には水龍が徘徊し守護してくれている。

 また、侵入者を阻む結界と認識疎外の結界を島全体を覆うように張っているので、誰も近づけないようになっている。

 この島と外界をつなぐのは、俺が設置した転移陣だけ。

 しかも、使用制限をかけている為、俺が許可するか、専用アイテムを持っていない限り出入り不可という、まさしく「孤島」なのだ。

 

 しかし、ベガスは世界中どこにでもいる鳥とはいえ、この島を中心に半径200マイル以上は島一つないというのに、どうやってきたのだろうか?

 ある意味、謎の多い鳥だ。


 俺達がこの島を拠点と定めてから1ヶ月。

 魔王城も完成し、最近ようやく落ち着いてきたところだ。

 城内には、俺達の他に30人ぐらいの住み込みメイドがいる。

 彼女たちの大半は獣人で、世間一般的には「魔王様への生贄」なっているらしい。

 全く人聞きの悪い話だ。


 ……ただ、完全否定できないのは……

 「アン……ダメですぅ……奥様、そんなところ触らないでぇ……」

 ドアを開けると嬌声が響く。

 「アッ……ソコは許してぇ……。」

 カナミが尻尾を逆なでする度に嬌声を上げる狐の獣人の女の子。


 ……ミリィとカナミが、毎朝お気に入りの獣人をモフっているのだ。

 奥様には逆らえない……という事らしい。

 でもこれって「魔王への生贄」じゃないよな?


 「コラ、お前ら!いい加減にしておけよ。……たまには俺にもモフらせろ。」

 俺が言うと……。

 「レイさんはダメです!」

 「レイにぃはダメだよ!」

 即座に否定される。

 「「浮気は許しません!」」

 ……モフるのも浮気になるらしい。

 仕方なく、俺は別室でトライアングラーたちをモフって我慢する。

 モフモフ度はこっちの方がいいのだ。


 ちなみにトライアングラーとは、カナミについてきたアングラ兎の中で、特に懐いている3匹の総称だ。

 アングラ兎は額に2本の角を生やしているが、性格は大人しく、慣れると愛玩動物にはぴったりのモンスターだ。

 ただ、見た目の愛らしさから、不用意に手を出そうとすると、その角から放たれる電撃を浴びせられるので注意が必要だが。

 なお、アングラ兎の毛を紡いだ糸から作成される布生地の柔らかさは、他の追随を許さず、高級衣類作成には必須の素材の為、うちでは、カナミがブラッシングをした後の毛を使って、メイド隊が糸を紡ぐのが日課となっている。

 紡いだ糸の半分はメイドたちにあげているので、メイドたちも喜んで作業をしている……というか作業の取り合いになってるらしい。

 まぁ、そのあたりの事は全てリナに丸投げしてあるので、何とかするだろう。


 どちらにしても、午前中あの二人は使い物にならないから基本放置だ。

 俺は、トライアングラーたちで癒された後、場内を廻る。


 魔王城の門をくぐると、そこは中庭を兼ねた広場になっている。

 実は門に転移陣が仕込んであり、専用のメイド服を着ているとポメラにある屋敷の門をくぐった瞬間、ここに飛ばされるようになっている。

 ここのメイドたちはそうやって出入りをしているのだ。

 ちなみに、メイド服を着ていないものは、そのままポメラの屋敷の中に入ることになる。 

 今は生活の殆どをこちらに移している為、ポメラの屋敷は、謁見室を除いて、実質メイドたちの寝泊まりや休憩場所になっていたりする。


 城内の作りは、外観に比べてシンプルだ。、

 扉をくぐると3回までの吹き抜けの大広間に出る。

 そこにはテーブルやソファーなどが設置してあり寛げるようになっている。

 一応来客の為の待合室なのだが……誰も来ないから意味なかったりする。


 その奥には仰々しい回廊が作ってあり、突き当りは謁見室の扉となっている。

 実はこの扉にも転移陣が仕込んでありくぐると謁見室に入れるのだが……実は謁見室は吹き抜けの上階にあったりする。

 何故そんな事をしているかというと、あるギミックを、どうしても仕掛けたかったからだ。

 

 2階と3階は調理室や食堂のほか、メイドたちが生活できるスペースになっている。

 基本的にプライベートで親しくしている奴らしか来ない事が前提になっているので、メイドとかも本当は必要ないのだが「ケモミミメイドは必須」というカナミの言葉に心動かされてしまった。

 後はそれぞれのプライベートルームに作業場、温泉施設があるぐらいなので、場内の空間はかなり空いている。

 空いているスペースは現在放置してあるが、そのうち迷路でも作って遊ぼうかと考えている。 


 「ご主人様、今はどちらにおられますか?」

 ピアスに仕込んだスピーカーからリナの声が聞こえる。

 「今謁見室だが?」

 ピアスは骨伝導マイクにもなっているので、そのままで会話が可能になっている。

 これは彼女たちに贈ったイヤリングにも同じ機能が組み込まれていて、微弱な魔力を送ることで任意に使用できるようになっている……まぁ、ハンズフリーの携帯みたいなものだな。

 「ダビット国王が謁見を求めていらっしゃいますが、いかがいたしましょうか?」

 「そうだな……。」

 俺はしばし考え、ある考えがひらめく。

 「こっち(・・・)の謁見室に通してくれ。ここで話を聞く。」

 「いいんですか?」

 「あぁ、たまにはな。後、みんなも集めてくれ。」

 この魔王城に出入りできるのは、メイドたちを除けば殆どいない。

 プライベート空間だからな。下手に煩わしい奴を入れたくないんだ。

 しかしせっかく作ったギミックを試してみたいという、誘惑には勝てなかった。

 ダビット……特に付いてくる奴らなら期待に応えてくれるに違いない。


 謁見室の扉が開き、ダビット国王とその付きの者二人が入ってくる。

 俺は、玉座に偉そうに座っている。……あんまり好きじゃないんだけどね、様式美ってやつだ。

 俺の左右にはミリィとカナミが控えている。

 少し離れたところでリィズとソラが何かあった時いつでも戦闘には入れる準備をしている。

 ダビットたちを案内してきたリナは、下がって扉の横で控える。


 「ダビット、久しぶりだな。今日は何の用だ?」

 「はっ、レイフォード殿。実がお願いがありまして……。」

 「何だ?」

 「領内に、魔王様の金の像を……」

 「却下!」

 俺は最後まで言わせず、指を鳴らす。

 すると、ダビットたちの足元の床が消え……

 「わぁぁぁぁ……」

 ざっぼーん!

 階下に落ちて行った。

 落ちた先には、なぜか落とし穴が用意され、その中に嵌まるダビットとその連れ。


 「ご主人様、お戯れも程々にしませんと、床を掃除するメイドたちが大変ですわ。」

 穴に落ちたダビットたちを風呂に案内し、その後休む場所を整える事、汚れた床の掃除をすることなどをメイドに指示しに行ったリナが、戻ってきて、そう言う。

 「でも、ああ言うように仕込んだの、お前だろ?」

 俺はお見通しだと、リナを眺める。

 「それは……ご主人様が例の仕掛けを使いたがってましたから……。」

 赤くなって顔を背けるリナ。


 「ねぇ、にぃに……私達呼んだのって、あの茶番を見せるため?」

 リィズがジト目で見てくる。

 「そうだ……って、ちょっと待て。それだけじゃないから……。」

 双剣をスチャリと抜くリィズを慌てて宥める。

 リィズのツッコミは最近段々と物騒になってきているから、迂闊なことが出来ない。

 

 「さて、改めて話を聞こうか。」

 身を清め、落ち着いたダビット一行と再び相対し、話を聞くことにする。

 「実はリンガード共和国を通してミネラルド国の使者が着まして……。」

 ダビットたちは足元を気にしながらも話し出す。


 ミネラルド国のサガ国王が、魔王討伐に力を貸そう。具体的には、兵士を送るので、一緒に魔王城の結界を破って魔王の首を取ろう!と言ってきているらしい。

 一応外的には、獣人の勇者が自らを犠牲にして魔王を結界の奥へ閉じこめた……事にしてあったんだっけ。

 

 「面倒だなぁ……魔王は魔界に帰った、一応念のため結界は張ってあるけど、向こうには誰もいないって言っておいたらどうだ?」

 ……。

 みんなの目が冷たい。

 「……ミネラルド国、潰す?」

 「それがいいかも?」

 真っ先にカナミが賛同してくれる。

 他のみんなも考え出す。

 「ちょ、ちょっと待った。……いくら私でも、それは良くないよいう位はわかるぞ。」

 ダビットからストップがかかる。

 ……気の小さい奴め。


 「はぁ……しょうがないな。

 とりあえず、魔王に関しては調査中なので手出し無用とでも言っておけ。

 誤魔化しきれなくなったら、リナが出て行って『魔王は結界の向こうから姿を消した。今仲間が魔族領に調査に行っているので、これ以上ちょっかいをかけてくるなら侵略行為とみなして相手になる』とでも言ってやれ。」

 「それで……良いのか?」

 俺はダビットの肩に手を置いて伝えてやる。

 「サガ国王は、お前ら獣人を魔族との戦いの駒にしたがっているだけだ。

 ……お前らが戦うべき相手は誰だ?魔族なのか?人間なのか?

 違うだろ?本当に戦うべき相手は何なのか、よく考えろよ。

 そして、お前は国王なんだから、国民を守ることを第一に考えていればいい。

 今は……俺が何とかしてやるさ。」

 「レイフォード殿……。」

 ダビットが感極まったというように俺を見る。

 

 「カナミ……あれはツンデレってやつっすか?」

 「んー少し違う……かなぁ……BL風味?」

 「びーえる?ですか……よくわかりませんが、、何か、こう、心の底から来るものがありますね。」

 リィズ、カナミ、ミリィが不穏な会話をしている。

 誰がツンデレでBLだ!


 「カナ、リィズ、ミリィ、ソラ。旅の準備を。……魔族領に行く!」


 それからの数日は、準備に追われることとなった。

 装備の調整、各自のバックと城の倉庫との共有化、必要物資の調達、食料品の確保、各地への連絡などなど、やることは一杯あった。


 「……というわけで、ラン、何かあった時には助けてやってほしい。」

 「了解じゃ……しかし、楽しそうじゃのぅ。今回は良いが、次回どっか行くときは妾も連れて行ってほしいものじゃ。」

 ランの申し出に少し考える。

 「そうだな……どうなるかわからんが、魔族領に行った後は、本物の魔王と会う事になるから、その時はランがいてくれると心強いな。」

 「ほぅ、魔王とな。それは面白そうじゃ、ぜひ連れて行っておくれ。」

 「あぁ、その時は頼りにさせてもらう。……じゃぁ、今回は留守番頼むな。」

 俺はランに留守を任すと、ミンディアのレイファの所へ赴く。


 「……というわけなんだ。大丈夫だとは思うが、一応アルガードの動向も気を付けておいてくれ。」

 「わかりました。でも、新国王のソフィアさんは国内を纏めるのに必死ですから、当面は大丈夫だと思いますよ。」

 「まぁな、俺が心配しているのは、そのために、お前が利用されるんじゃないかって事なんだけどな。」

 「そうですねぇ……でも、下手に私に関わるとレイ様がでて来ますからねぇ。大丈夫だと思いますよ。」

 そう言って微笑むレイファ。

 まぁ、心配のし過ぎも良くないか。

 「一応、ランには頼んでおいたから、何かあったら、この前渡した龍笛を使うように。」

 「はい、わかりましたわ。……レイ様、お気をつけて。」

 レイファと軽く口づけをかわす。


 「まったく、ご主人様は……。」

 リナが文句を言ってくる。

 さっきからこの調子だ。

 「そう怒るなって。実際、これはリナにしか出来ない事だし。」

 そう言って、俺は後ろからリナを抱きしめる。

 「ご主人様……。」

 「悪いけど、ダビットのフォロー頼むな。リーンもついているし大丈夫だと思うけど、何かあったらすぐ城に逃げ込めよ。」

 俺はそう言ってリナに口づけをする。

 「ン……。」


 「じゃぁ、留守の間頼んだよ。」

 俺はリナから離れると、後の事を頼む。

 「はい、ご主人様。お任せください。」

 ほほを染めたリナが嬉しそうに頷く。

 ……自分でやっておいてなんだが、こんなにチョロくていいのか?


 

 とりあえず、準備は済ませた。今の段階ではこれ以上の事は望めないだろう。

 俺は、展望露天風呂につかりながら、この先の事を考える。

 まずは魔族領に行き、アドラーと会う。

 現状を確認し、出来る事なら魔王と会えるよう手はずを整えてもらおう。

 魔王と会った後は……何も考えていない。

 ま、その時の状況で決めよう。


 露天風呂から眺める景色は雄大だ……ちょうど日が沈もうとしている。

 ずっと、こんな時間が続けばいいんだがな。

 「奇麗っすねー」

 いきなり声が掛けられる……リィズだ。

 俺に気配を感知させないって、リィズの気配遮断の能力、かなり高くなってないか?

 リィズが寄り添ってくる。

 「ココからの夕日、にぃにと見てみたかったっす。」

 「旅に出たらしばらく見れなくなるからなぁ。」

 リィズの顔が夕日に照らされて赤く染まっている。


 「そうっすね……にぃに、魔族ってどんなんすか?」

 「そうだな、……俺達とあまり変わらないかな?」

 「じゃぁ、楽しい旅になりそうっすね。」

 リィズが笑って言う。

 そうだな、旅は楽しくないとな。


 「そうだな、美味しいものがあればいいが。」

 「最近はちょっと贅沢になってる気がするっす。」

 言われてみれば……まぁ、旅の間は節制するか。

 

 夕日が沈みわずかな明るさだけが残る。

 海に反射する黄金色の光。

 マジックアワーと呼ばれる時間帯にだけ見られる幻想的な景色。

 俺はリィズと一緒にその刹那的な瞬間の景色を楽しむ。


 魔族領か……みんなと一緒なら、どこでも楽しめそうだな。

 俺は嬉しそうに海を見つめる、リィズの横顔を見ながらそう思った。

日常に終わりを告げて、非日常の魔族領へ行くことになりました。

アドラーたちの性格から見ても、あまり変わり映えしない感じもしますが(^^;

次回から、魔族編にはいります。

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