魔王城の作り方
「それはもうちょっと右だー。そうだ、そこに降ろしてくれ!」
俺は、高台から資材を運んでいるフォレストジャイアント達に指示を出す。
「レイにぃ、どう?」
カナミが進捗を聞いてくる。
「側の問題だけなら、あと少しの資材が必要だな。側が出来れば、中はゆっくりでもいいだろう。」
「最低限必要なのが……なんだっけ?」
カナミがメモを見て考える。
「えっと、ミリィの要望が、牧場の設置だよね?どこ?」
「ここから見て城の右側にあたるところ。」
そう言って俺は指をさす。
「あぁ、あそこね。すぐ後ろが森に近いけど、そのあたりは大丈夫?」
「基本的に野生の動物たちがやってくるから問題ない……むしろ、増えすぎても大丈夫なようにする対策だよ。」
放っておくと、どんどん増えていくのがミリィ牧場だ。
森に戻れる奴は戻った方が助かる。
「今は即席で牧草を育てている所じゃないか?……こういうの見ると精霊の力って偉大だよな。」
精霊の力を借り、部分的に精霊力のバランスを崩すことによって、本来ではありえない季節を作り出している。
今、あの牧草地辺りは春先の季節になっているはずだ。
(今頃分かったの?レイは遅れてるねぇー。精霊は偉大なのよ!わかったら敬うのよ!)
「ハイハイ、精霊様、今日のご供物ですだ。」
俺は、急に現れて偉そうに踏ん反り返っているエアリーズに、ハニーガレット(正確にはガレットじゃないけど、めんどくさいのでそう呼んでいる)を渡す。
最近のエアリーズとファーのお気に入りのお菓子だ。
……って言うか、お菓子を食べる精霊ってどうなんよ?
一度そこをツッコんだことがある。
小妖精の身体を持っているファーならともかく、基本身体を持たない上級精霊にお菓子が必要なのかと。
(ファーリースみたいにねー、身体を作ってみたら、食べ物を味わうこと出来るじゃん!驚きよねぇ)
などと言ってた。
要は、小妖精化したら、飲食が味わえるようになり、そこで俺達の食べ物がお気に召した……という事らしい。
まぁ、喜んでいるならいいけどな。
(レイ、もっとないの?ファーリースの分足りないよ?)
二人分のつもりで渡したハニーガレットを、こいつは一人で食べてしまったらしい。
「今あるのはこれで終わりだ。ちゃんとファーと分けるんだぞ!」
俺は、残しておいたガレットをエアリーゼに渡す。
(ハーイ、じゃぁ、ファーリースと食べてくるー)
エアリーゼは騒ぐだけ騒いで去っていく。
残された俺とカナミは顔を見合わせて、クスリと笑う。
「精霊って自由だねぇー。」
羨ましそうに精霊を眺めるカナミ。
「そんな事より、アレ何か知ってるか?」
俺は門の前で何やら作っているジャイアント達を指さして、カナミに尋ねる。
「そんな事って……もぅ……あれは、リナの作業ね……」
カナミは文句を言いながらも、作業進捗のメモをめくっていく。
「あった、これだね。……えっとね「偉大なる魔王サマをたたえるため、金の像を建設します」だって。」
「ライトニングサンダー!」
俺は、カナミの報告を聞くや否や、建設途中の像に雷の魔法を落とす。
(アババババ………)
像は崩れ落ち、近くで作業していた奴らが皆、痺れのたうち回っている。
ふぅ……悪は滅びた。
「レイにぃ……。」
カナミがジト目で見てくる。
「仕方がないだろ?……建設予定の教会に『聖女様』の像を建てるって言われたらどうする?」
「ウン、レイにぃは正しい!」
あっさりと手の平を返すカナミ。
「レイ様!何故邪魔するんですか!」
足元に置いてあるスピーカーからリナの声が聞こえる。
この工事に先駆けて作ったマイクとスピーカーはこのように有効利用されている。
「いや……金の像なんて恥ずかしすぎるだろ?何の嫌がらせだよって感じじゃないか?」
俺はマイクを取り出し、リナに対して喋る。
「だったら!ポメラの像も撤去してくださいよぉ……。」
リナの魂の叫びだった……。
まぁ、あれ撤去すると、獣人全員が暴動を起こしかねないからなぁ。
俺は黙って、マイクのスイッチを切る。
「そう言えばリィズの姿が見えないが?」
「リィズちゃんは、今ランさんとダンジョンの中に行ってますよ。
ランさんの居心地のいい場所を探すんだって。」
「ランの奴……あのダンジョンに居付く気かよ。」
ダンジョンにドラゴンが生息していると、ドラゴンから漏れ出す魔力とダンジョン特有の瘴気が交じり合い、ダンジョン内が活性化する。
500年前、水龍を閉じ込めた魔人は、それを狙っていた可能性があると教えてくれたのは、ダークネスドラゴンの「ダーちゃん」だ。
まぁ、ダンジョンが活性化すれば、モンスターも湧き出すし、丁度いい資源回収の場になるからいいんだけどな。
「ちなみに、鉱山の奥には、すでにダーちゃんさん用のスペースが用意してあると、報告にあがってるよ。」
「ダーちゃんまでか!」
はぁ……鉱石の質が上がるから文句どころか感謝なんだけどなぁ……本当に魔王島になりそうだ。
「んーと、ソラは……?」
俺はソラの姿を探す。
「ソラちゃんなら、レイファと一緒に農作業地で整地してるはずよ。」
そう言って、カナミが指さす方を見ると、確かに、レイファとソラが何かをやっている。
「あれは……水田か?」
「そうだよ、私のイメージをミルファースが読み取って、レイファに伝えたの。……ミルファースの加護があるから、大体2か月毎に収穫可能になるはずだよ。」
「……もう、なんでもアリだな……精霊の力も凄いが、女神の力も大概だ。」
「あはは……。」
カナミが力なく笑う。
まぁ、女神の力や精霊の力を私用に使っている俺達は何なんだと言われそうではあるが。
「しかし……ソラの場合、どう見ても泥遊びをしている子供にしか見えないな。」
「あはっ、無邪気でいいよね。」
城を建てた後、最初に作る内装は温泉にした方がいいかもしれない。
「あ、そうだ、ソラちゃんとレイファから伝言。」
「ん?」
また無茶ぶりする気じゃないだろうな?
「ソラちゃんからは……『おにぃちゃん、教会の祭壇を、ステージに変わる様にしてね!』だって。」
カナミが空の口真似をして伝えてくれるが……似てねぇ。
つい笑いそうになるのをこらえる。
そんな俺の反応を知ってか知らずか、カナミは伝言を続ける。
「レイファからは……『レイ様、ミンディアと此処の懺悔室を転移陣でつないでください。お願いします。』だって。」
……やっぱり似てねぇ。
しかし、レイファは、ここの教会で誰の懺悔を聞くつもりなんだろう?
「ねぇ、レイにぃこの島には私達だけ?」
「基本的にはそうだな。保安上の面から見ても出入りは少ない方がいいだろう。」
「じゃぁ、お城の掃除とか維持はどうするの?」
「そうだなぁ……住み込みのメイド募集するか。ポメラの屋敷と転移陣を繋いでおいて、外に出るのはポメラ側だけ、ここの城からは出れないようにしておけば安全だろう。」
「じゃぁ、この入り口横にメイド室作って、そこと、ポメラの屋敷の入り口を繋ぐ……って感じでいいかな?」
カナミが城の内面図を書き換えていく。
「それなら、鉱山で働く人足なども募集したほうがいいか?」
俺が言うとカナミも考える。
「ダンジョンに入りたがる人がいるかも……」
資源を眠らせておくのももったいないが、かといって人が出入りするのも好ましくない。
「一応鉱山の方は、入り口前の広場に結界を張って出入りできないようにして……、結界内に小屋を作って、そこに転移陣を設置するか。」
そうすれば外部からは、直接鉱山入り口にしか来れないことになる。
ダンジョンも1階層に、そう言う場所を作ればいいだろう。
「……とりあえず、ギルドと相談してみるか。」
「そうだね、管理とかは丸投げしたいよね。」
「常駐精霊がフェンリルだけってのは淋しくないか?」
「うーんどうなんだろうね、それはウラヌスさん交えてミリィとファルスと相談かな?」
森の中に精霊の泉を作ってみるか。
「教会だけどね、私の力使うためだけだからそんなに広くなくていいんだけど……」
「ソラとレイファが張り切ってるからな、それなりには体裁を整えないとな。」
教会は城に隣接するように建てる予定だ。
隣接というより、内部ではつながっているのだが。
当初カナミから相談された時、聖堂だけを場内に作るつもりだったのだがレイファとソラの食いつきが凄くて、結局丸々建てることになった。
レイファが時々「私の教会」とつぶやいているのは聞こえなかったことにしている。
ソラに至っては「教会=ステージ」という感覚なので、音響や照明設備が大変だ。
カナミの持っている内面図には、そのあたりまで記されているはずだ。
「後はいいか?」
「そうね……建物の配置だけしっかりしておけば、細かいところは後で修正可能だから。」
俺はカナミの持つ全体図に目を通す。
「大丈夫そうだな。」
俺とカナミが、確認をしている間に最後の資材が運ばれてくる。
「もっと右においてくれ……そう、そこでいい!」
俺は資材の置き場所を指示する。
「さて、最後の仕上げに入る前に休憩に入るか。フォレストジャイアント達も返さないといけないし……とりあえずあそこに集合な。」
俺は入り口付近に広場を指さす。
「OK!」
カナミは各地に連絡しに走っていく。
俺は下に降りてリナに指示を出す。
「リナ、ジャイアント達を向うに送ってやってくれ。報酬はダビットから出ているだろうけど、落ち着いたら俺からも礼をするって伝えておいてくれ。」
「分かりましたわ。でもお礼については私の方でやっておきますので、ご主人様がわざわざ出ることはありません。」
魔王様が安売りなんてとんでもないと言われてしまった。
まぁ、いいけどさ。
俺はリナに、ジャイアント達を送ったら広場に来るように伝える。
「みんなお疲れ。作業状況はどう?」
俺は食事をしながら、みんなの様子を伺う。
「そうっすね、城の後でいいので、ダンジョンの方に来てほしいっす。ランが50階層を気に入ったみたいなので。」
「了解。」
俺はリィズの要望に応えておく。
……しかし50階層か、一気に潜ったなぁ。
「みんな、食事が終わったら、俺とカナが仕上げをする。かなりの衝撃があると思うので、ビーチの方へ退避しててくれ。……ソラはカナを手伝ってほしいので一緒に来てくれ。魔法を使った後のカナのフォローはミリィに頼む。」
俺の言葉にみんなが頷いてくれる。
俺とカナミが使う魔法は「領地作成」
簡単に城を作れないかとグリムベイブルで探したところ、見つかったのがこの魔法だ。
本来であれば領主となる膨大な魔力を持った者が、各技術者たちの力を借りて3日にわたる儀式を経て行使する集団魔法なのだが、膨大な魔力量を誇る俺と、様々な抜け道を探すのに便利なグリムベイブル、加えてカナミのチート能力「行使者」があれば比較的容易に使えることが分かった。
ただし、問題もある。
カナミのチート能力「行使者」は他人の能力を借りて使うことが出来るというものだ。
その範囲は広く「協力」さえ得られれば女神の力さえ使うことが出来るというとんでもないものだ。
カナミは、借りた能力は、本を開いている間しか使えないと思っていたようだが、この力にはカナミが気づいていない事があった。
それは、カナミがその力を使えば使うほど熟練度ともいうべきポイントがたまり、一定数を超えると、完全に自分のものにできるというもので、自分の物になった力は、本のあるなしに関わらず行使できるようになる。
まぁ、すべての能力が……ってわけじゃないのが難点だが。
そして、「領地作成」はそのカナミの行使者の力を技術者の代わりとして使う。その代償としてカナミが溜めたポイントをすべて失ってしまうというものだ。
カナミは『生産系の能力は、あまり使ってなかったし、これからはレイにぃやミリィに頼めば事足りるからねぇ、気にしないで』と言ってくれているが、かなりの代償であることは間違いない。
俺達ゲーマーにとって、それにかけたリソースがすべて無になるというのは、かなり痛いダメージだ。
だから、俺は拠点に関しての希望はカナミを優先することに決めた。
そんなことぐらいで代わりになるとは思えないが、せめてもの……ってやつだ。
「さて、そろそろ行くか?」
「そうだね。」
カナミの方も準備万端みたいだ。
「おにぃちゃん、ボクはどうすればいいの?」
ソラが聞いてくる。
「ソラはファルスと一緒にカナミを持ち上げて、上まで運んでほしい。」
「わかった!ファルス、お願い!」
ソラの背中から翼が広がる。
「お姉さん、しっかり捕まっててね。」
ソラがカナミを抱え込んで、飛び上がる。
「ファー!」
俺もファーを呼び精霊化して浮かび上がる。
「ケイオス!」
俺がケイオスを呼ぶと、右手に光が集まり顕現する。
「カナ、頼む!」
「了解……ブック!」
カナミが行使者の本を広げ、技術のスキルを魔力に変換し、俺へと注いでくる。
「ファリス!」
俺は聖魔剣ファリスを顕現させ、カナミからの魔力をファリスに集めていく。
カナミからの魔力をすべてファリスに込めると、ファリスをケイオスに重ねていく。
ファリスが光の粒子となりケイオスを包み込む。
俺は両手でケイオスを構え、頭上に魔法陣を描く。
『領地作成』
俺の声と共にケイオスから膨大な魔力が、魔法陣へと流れ込んでいく。
一気に4/5ぐらいに魔力が持っていかれる。
なんてコストだ……普通じゃぁ、使えないだろう……集団魔法なのが分かる。
一人で賄える奴がいたら、それは異常だよ。
やがて、ケイオスから流れる魔力をすべて吸い込んだ魔法陣が、光の増大とともに広がっていく。
光が大地を包み込む。
俺とカナミは地面へ降り立ち、動向を見守る。
しばらくの間、光に包まれた大地を見つめていると、やがて段々と光が薄れていく。
光が消え去ると共に静寂が訪れ……目の前に現れる魔王城。
「成功だな。」
「おにぃちゃん、おねえさんが。」
カナミは気を失っているようだ。
「大丈夫、魔力枯渇を起こしているだけだ。ミリィの所に運んでやってくれ。」
俺は寝ころんだままソラに指示する。
「おにぃちゃんは大丈夫なの?」
「俺もかなり魔力持っていかれたからな。でも、しばらく休めば大丈夫だよ。」
「分かった。お姉さん運んだあとポーション持ってくるね。」
そう言って、ソラはカナミを運んで行ってくれる。
「ふぅ……。」
俺は寝ころんだまま目の前の『魔王城』を見上げる。
「我ながらイメージが貧困だなぁ。」
目の前の城は、某テーマパークのシンボルとなっている城に酷似していた。
色彩がダーク調になっている分、辛うじて『魔王城』の威厳を醸し出している……と思う。
「城って言ったらこれしか思い浮かばないんだから仕方ないだろ……和風にしなかっただけマシだろ。」
俺は誰に言うともなくつぶやく。
城を眺めてぼーっとしているうちに魔力が回復してくる。
「さて、そろそろ動くか。」
まだ1/3ぐらいしか回復していないが、作業しているうちに回復できるだろう。
まずは食堂と風呂場だな。
魔道具の設置などは後回しにして、水回りを整備していく。
ポメラの屋敷とリンクするように食糧庫を設置する。
食堂にあたるところにはとりあえず、簡易テーブルと椅子を設置しておく。
今後、いい物を買うか作るかして取り替えよう。
とりあえず、これで、簡単な調理と食べるぐらいはできるだろう。
細かい所はリナやミリィと相談だな。
パイプや小物、造形など「創造」の魔法が役に立つ。
「創造」は資材をイメージ通りのモノに変化させる魔法だ。
もちろん、イメージがしっかりしていないと失敗する。
俺は、イメージを補完するために「英知の書」を併用している。
全く、役に立つ能力だ。
そして俺は地下フロアに赴く。
このフロア全体を使って温泉場を作るのだ。
中央に大きく浴槽になる部分を作っていく。
さらに、囲むように少し小さめの浴槽も。
ダンジョンを探索して見つけたのだが、水龍のいた15階層以外にも温泉が湧いているポイントがいくつかあった。
しかも、水質がそれぞれ違っていたのだ。
せっかくなので、色々楽しめるようにとSPAみたいに、複数の温泉が楽しめるように分けてみた。
洗い場やサウナなんかも用意した。
一応、隅っこを仕切って男湯も作っておいた。
外のリクライニングルームには水分補給のための冷蔵庫やマッサージ機など、とりあえず思いつく限りのものを用意してみた。
後でカナミと相談して増やしたり減らしたりすればいいだろう。
「後は、お湯を引けば完成だな。」
魔鉱石で作成したパイプを各浴槽へ埋め込む。
このパイプは片側がふさがれていて、そこに転移の魔法陣が刻んである。
中央の浴槽にはライオンの像を作り、その口の中にパイプを埋め込む。
まぁ、これはお約束だから外せないだろう。
そして俺はダンジョンの温泉が湧いているフロアに飛ぶ。
邪魔してくるモンスターをあしらいつつ、パイプを温泉に設置していく。
「濾過させる場所が必要だな。」
俺は、適当なフロアの程よく開けた場所に「灼熱の大爆発」を放ち、クレーターを作る。
クレーターを半分に仕切り、底を金属でコーティング、水に泥が混じらないようにする。
そして洗浄・濾過・リフレッシュ・回復・治癒などの魔法陣を刻みこむ。
そしてそこにパイプを設置。
後は、俺が魔力を流し込めば、それぞれのパイプに刻んだ転送の魔法陣が発動する。
温泉に設置されたパイプから、ここの右半分にお湯が流れ込む。
魔法陣が発動し水質にリフレッシュや回復などの魔法が溶け込む。
そしてもう一方に設置したパイプから水が流れていく。
このパイプの先の転移陣は、城の浴槽のパイプの陣とつながっている。
今頃は浴槽に温泉が流れ込んでいるはずだ。
そして排水されたお湯が、ここの左半分に戻って来る。
洗浄・濾過された水が、それぞれの源泉へと戻っていく。
……よし、温泉の循環経路が完成したぞ。
しばらく流れを見て異常がないのを確認してから、濾過装置全体を覆うように結界を張る。
城の浴槽を確認。
「よしよし、うまくいってるな。」
お湯をたっぷりと湛えた浴槽を見て、俺は満足気に頷く。
そして、もう一つの設備を作る為に、最上階へと移動した。
一通りの作業を終えると、あたりはすっかり暗くなっていた。
他のみんなも一段落着いたみたいなので、夕食にすることにし、みんなを食堂へ呼び集める。
食堂ではリナとミリィが食事を用意していてくれた。
本格的なキッチンではないので簡単なものではあったが、十分な出来だ。
俺達は、新しい場所での食事を大いに楽しむ。
軽い夕食を取った後、俺は温泉施設が出来た事をみんなに伝える。
「地下の温泉が完成した。いつでも入れるので、ゆっくりと浸かって体の疲れを取ってくれ。
まだ、試作段階だから、こうしたいというのがあれば教えてほしい。
明日は、城の内部を改装していくからよろしくな。」
食事を終えた皆は浴場に向かって飛び出していく。
この世界ではお風呂というのはある種の贅沢なのだ。
そんなみんなを見送り、俺はこっそりと城の最上階へ行くのであった。
「ふぅ……極楽極楽。」
城の最上階に設置した露天風呂。
月明りと満天の星空……打ち寄せる波の音。
ロケーションは最高だ。
認識疎外の結界を張ってあるため、外から覗かれる心配もない。
「皆には悪いが、今日だけは独り占めさせてもらおう。」
別に意地悪をしているわけじゃなく、覗き防止の認識疎外の結界を通り抜けるための道具の作成が間に合わなかっただけの話だ。
ピチャン……。
俺が湯船で極楽気分を味わっていると、誰かが入ってきた。
「どうして……結界は?」
「私に認識疎外は効かないよ。」
カナミはそう言って俺に近づいてくる。
乳白色の濁り湯の為、胸の谷間から下は見えないが、それだけに艶めかしい。
「うわぁー、最高の眺めだねぇ!」
「別に黙ってたわけじゃなくてだなぁ、アイテムが……。」
月明りに照らされたカナミの肌についた水滴がきらめく。
「わかってるよぉ。」
カナミはそう言って俺にもたれかかってくる。
俺も少しだけ、体重をカナミに預ける。
ゆったりとした時間が流れる。
波が打ち寄せる音だけが聞こえる。
……こういう時間もいいな。
「月が綺麗だねぇ。」
しばらくして、カナミが空を見上げて言う。
「あぁ、奇麗だな……それは夏目漱石的な意味か?」
俺がそう聞くと、カナミは俺の方に向き、見つめてくる。
「両方だよ……。」
そう言ってカナミは俺の首に両腕を回し唇を寄せる。
俺の胸で、カナミの胸が押しつぶされる。
俺は知らず知らずのうちに、カナミの背中へ腕を回していた。
やがて、唇を離したカナミは、俺を見上げてつぶやく。
「いいよ……。」
そしてもう一度唇を寄せる。
俺も抱きしめた両腕に力を込める。
月明りが二人を照らしていた……。
その後のことは想像にお任せしよう。
ただ、この状況下で、俺の理性が働くわけがないという事は添えておく。




