ドラゴンと温泉
「ふぅ……。」
俺は出された食事を見て、ついため息をついてしまう。
「にぃに、食べないんすか?おいしいっすよ?」
そんな俺を見て、リィズが声をかけてくる。
「いや、食べるよ……。」
そう言って、俺は熱々のおでんを手にする。
そう、「おでん」だ。
今日の食事当番はカナミなのだが、最近向こうの料理を再現しようと頑張っている。
というか、無理やり向こうの料理を作っている感じだ。
元々引きこもり中学生を経て、女子高生を頑張っていたカナミだ。
そこそこ料理はしていたが、それ程レパートリーがあるわけでもない。
まぁ、リアルシミュレーターとまで言われたUSO内で、ある程度料理の腕は磨いていたから、同年代の子たちに比べると出来る方ではあるのだが、それでレパートリーが増えているわけでもない。
つまり……
「レパートリーも尽きるってわけだ……。」
「レイさん、何か言いましたか?」
ミリィがおでんを、はふはふしながら聞いてくる。
「いや……。」
俺は、大根もどきのおでんを口の中に入れる……美味しいが……熱い……。
「おにぃちゃん、これ美味しぃねぇ。」
ソラが満面の笑みを浮かべながらおでんを頬張っている。
「えーっと、レイにぃ……美味しくなかった?」
カナミが心配そうに聞いてくる。
「カナ、とっても美味しいよ。ただな……。」
俺はそこで一旦言葉を切る。
「ただ?」
カナミが不安げな顔で聞いてくる。
「この暑い時期に、暑い場所でのおでんはどうかな?と思うんだよ。」
そう、今は夏。
しかも、俺達がいる所はダンジョンの中のマグマ地帯。
俺達の装備には自動温度調節のエンチャントをかけてあるが、それでも動くと汗ばむくらいには暑いのだ。
「無理におでんを作る必要もないだろうに……。」
「だって……。」
俺がそう言うと、カナミは目を伏せて俯いてしまう。
「にぃには女心が分かってないっす!」
リィズにダメ出しをされる。
いや、わかってたら、もっと器用に立ち回れたと、自分でも思うから……。
リィズの言葉は、地味に深く刺さるのだった。
「さて、そろそろ出発するぞ。」
食事を終え、しばしの休息をとった後、俺達は探索を続ける。
「ココを降りたら15階層になりますね。次こそ見つかるといいんですけど。」
「そうだな……そろそろ見つかってくれないと、次の予定が詰まってるからなぁ。」
◇
ここはアルガード王国から遥か南に位置する孤島に存在しているダンジョンの中だ。
この島は、周り200マイル四方に陸地は見えず、どこの国も存在を知らないと思われる、本当の孤島である。
アルガード王国の復興も進んでいるし、リンガード共和国も一時のショックから持ち直し、各国との調和を取り戻しつつある。
ポメラ獣人国も、何とか国としての体裁が取り繕える様になって来たので、そろそろ目を離しても大丈夫なんじゃないかと思う。
そこで、気になってくるのが魔族領の動き。
アドラーが言っていたことも気になるし、勇者の動きも、気になると言えば気になる。
女神たちの思わせぶりな態度からしても、近いうちに何かに巻き込まれそうな予感がする。
なので、今のうちに拠点を作ろうと考えたのだ。
どこの国からも干渉されない、難攻不落の拠点。
ぶっちゃけ、どこの国で何が起きようとも、不干渉を貫けるだけの場所を用意したいと思っている。
ポメラにある屋敷は、その入り口みたいなものと俺は考えている。
その事をみんなに話したら、賛同してくれるだけでなく、積極的に動いてくれるようになった。
リナが感動のあまり、潤んだ目で俺に訴えてくる。
「やっと、本物の魔王城が出来るのですね!嬉しいです!私も、非才の身ながら立派に勤め上げて見せますわ!」
……魔王城って………はぁ……もう、魔王城でいいよ。
「お風呂は温泉!温泉がいいわ!これは譲らないからね!」
カナミは温泉を主張するし……まぁ、温泉があるなら、俺も入りたいけどね。
「出来れば、動物の皆さんが過ごしやすい、広いお庭が欲しいですわね。」
……まぁ、ミリィがいれば動物が集まってくるからなぁ。
「ダーちゃんとかランも来れたらいいと思うっす!」
……いや、戦いたいなら、あっちに行ってやってきなさい。
「森はある?広場ある?教会は?ボクの歌う場所あるかなぁ?」
……ソラならどこで歌ってくれてもいいよ。
「畑とか、農作業できる場所ありますかねぇ?」
……レイファとミリィがいれば自給自足の態勢は整うな。
……自分の主張をしたいだけだった。
まぁ、他の子たちの主張はともかくとして、カナミの要望だけは問題だった。
なんといっても、この世界で温泉など見たことがない。
という事でランに聞きに行ったのだが……。
「何?火山?ふむぅ……心当たりはないのぅ。」
火山というものはアルガード王国近隣には存在しない。
そこに住む人々も存在を知らないというので、近くに存在しないだろうというのだけは分かった。
なので、火山と言えば火属性、火属性と言えばフレイムドラゴン……という事で、ランなら知っているかと思ったのだが、見たことはないという。
「ランさん、火山じゃなくても、マグマとか、高温の火の塊があって水脈が近くにある様な場所は、ご存じないですか?」
カナミが必死に食い下がっている。
見るとミリィ達もすごく真剣な目でランを見つめる。
「う、うむ……そうじゃなぁ……ん?そう言えばあそこに……・」
「心当たりあるんですか!」
「うむ……南の島のダンジョンに、そのような場所があったとかなかったとか……。」
「すぐそこに案内してください!!」
カナミたちの勢いにタジタジとなるラン。
結局、勢いに負けて、この島まで運んでくれた。
空から見た感じでは、拠点にするのに条件は揃っているように見えた。
島の北側1/3は森になっていて、森の中央がダンジョンの入り口になっている。
海沿いは険しい崖となっておりすぐ森になるので、北の北側から島に上陸するのは不可能に近いだろう。
島の中央付近から南側にかけてなだらかな丘や、湖、そこから海へと流れていく川など景観の良い自然が見て取れる。
南側には平地が広がっており屋敷を建てたり、牧場や農地にも適していそうだ。
海沿いには砂浜が広がっており、プライベートビーチとしても楽しめそうである。
「うーん、作為を感じるぐらいに条件にぴったりの場所だな。」
「もうここでいいじゃないっすか。
「まぁ……温泉があってもなくても、ここでいいやって気もするけどな。」
「ダメ!温泉!……さぁ、行くよ!」
◇
そしてカナミに引っ張られてダンジョン攻略をしているわけだが……。
「ッと、みんなストップ。」
扉の前に立つと、向こう側からモンスターの気配を感じられる。
……しかし、少しおかしい。
「みんな、この向こうにモンスターがいる。……が、なんか気配がおかしい。気を付けてくれ。」
「レイにぃ、おかしいって?」
「ん……カナの方がよくわかるかもしれないな。『気配感知』を使ってみてくれ。」
「分かった……「ブック!」『気配感知』………………ん、確かにおかしいね。」
カナミにも分かった様だ。
「すごく強い気配なんだけど揺らいでる感じ?……後、そのそばにもう一つ気配があるわ。んー……フェンリルかな?」
「そこまで分かるんすか?」
リィズが驚いている。
「カナは元々そういう能力に長けているからな。……しかしマグマが噴き出すこの地にフェンリルか……。」
「フェンリルは氷属性よ。ここでは辛いんじゃないかしら。」
「……分からん……とりあえず開けるぞ。みんな油断するなよ。」
俺は扉を開ける……。
バタン。
すぐ閉めた。
「さぁ、帰ろうか?」
「にぃに、なんで閉めるんすか!」
「いや、だってさぁ……。」
「いいから行くっすよ!」
リィズが扉を開ける。
扉の向こう側……中央には封印された大きな生き物……ドラゴンがいた。
そしてその前には、ドラゴンを守るかのように立ちはだかる大きな狼……フェンリルだ。
バタン……。
「にぃに、私が悪かったっす。」
「いや、わかってくれればいいんだ。」
さぁ、帰ろうか……と俺が言うが、カナミからストップがかかる。
「何バカなこと言ってるの!行くわよ!」
「いや、だってさぁ、カナも見ただろ?……ドラゴンだよ?それも封印された……どう考えても厄介事に巻き込まれるフラグだろ?」
「それは……でも……。」
カナミが言いよどむ。
「レイ様、フラグが何だかわかりませんが、あのフェンリルからとても悲しい意志が伝わってきます。……話をしてもいいでしょうか?」
「……はぁ、仕方がないなぁ。」
俺は三度ドアを開け、フェンリルに近づいていく。
(そこで止まれ!何をしに来た!)
フェンリルが誰何してくる。
「レイ様、ここは私に任せてください。」
ミリィが一歩前に出る。
「フェンリルさん……訳がありそうですが話してみませんか?何か力になれるかも……です。」
(お前らごときに何ができる! 我は、ここで主を守るのみ!)
フェンリルが威圧をしてくる。
「あぁん?誰に向かって威圧してんだぁ?」
俺のミリィに威圧する奴は御仕置をしてやらないとな。
「ケイオス!」
俺はケイオスを呼び、魔力を開放する。
(うぐっ……しかし……引けぬ!……グゥッ……)
「ふっふっふ……いつまで耐えれるかな?」
俺はさらに魔力を込める。
(グゥ……ッ……)
「レイさん、メッです!」
さらに魔力を込めようとしたところで、ミリィに後頭部をはたかれる。
「あたた……」
「レイにぃ、大丈夫?」
カナミが駆け寄ってくる。
「ミリィも大分ツッコミが激しくなってきたなぁ。」
「レイにぃが悪いよ……大人しく、ミリィに任せましょ。」
「ハイハイ。」
俺は黙ってミリィを見守ることにした。
「フェンリルさん、ごめんなさいね。……でも、力になりたいのです。」
(出来るものか…………我の望みは主の解放……それだけだ。)
「後ろのドラゴンさん……ですよね?封印ですか?」
(そうだ!強力な封印に加え、このマグマ溜まりだ。今は我の力で抑え込んでいるが、いずれ我も力尽きよう……そうすれば、主も……、クッ……。)
「レイさん、……封印、何とかできますか?」
「あぁ、出来るよ。」
……ちょっと厄介だが、俺の封印程ではない。
今の俺とファー、そしてケイオスがあればそれほど苦労はしないだろう。
(誠か!)
「嘘言ってどうするよ……ただ、封印を解く前に話をさせてくれ……こっちだって、お前らを信用したわけじゃないんだ。」
(……そうだな。その通りだな……しかし、主も弱っている……うまく話が通じるかどうか……。)
「私が力を貸します。フェンリルさん私に力を貸して……」
ミリィがフェンリルに手を差し伸べる。
フェンリルが光の粒子となってミリィに吸い込まれていく。
ミリィが光に包まれる……精霊化か?
光が収まりミリィの姿が見えてくる。
狼の耳としっぽが生えたミリィ……。
「ミリィ……可愛い……モフモフしていいかなぁ?」
カナミが暴走しかける。
「こら、カナ、落ち着け!……リィズ、カナを抑えておいてくれ。」
俺はカナミをリィズに預ける。
ミリィはそのまま封印されたドラゴンに向かって精霊力を放つ。
『氷の霧』
ドラゴンを中心にあたりの温度が、ぐっと下がる。
(グゥ……ウラヌス……じゃないのか……お前たちは誰だ?)
「俺はレイフォード……通りすがりの冒険者だよ。」
(冒険者が何の用だ……)
「話が聞きたい。それによって、お前の封印を解くかどうかを決める。」
(フン、冒険者ごときに、この封印が解けるものか……まぁ、暇つぶしにはなりそうだが。)
封じられたドラゴンは水龍だった。
かってはこのあたり一帯の守護者であり、支配者だった。
昔はこの辺りは氷に覆われた大陸だったそうで、フェンリルのウラヌスとはその時からの長い付き合いなんだそうだ。
しかし、魔族を引き連れた魔人との戦いに敗れてこのダンジョンに封じ込められたそうだ。
普通であれば、これくらいの封印はなんてことないのだが、周りがマグマの為、自己の周りに結界を張るので精一杯で封印に抗うことが出来なかったそうだ。
(少しの油断だったが、そこを突かれたのだ。)
「その魔人の目的は何だったんだ?」
(知らぬ……もう500年以上昔の事だ。)
「今は、この辺りの地形も変わっている……魔人は目的を果たしたのだろうか?」
(さぁな……いい暇つぶしにはなった。礼を言うぞ。)
「最後に一つだけ……封印が解けたらどうする?」
(解けるわけがない……だが……もし解けるのであれば……フフッ、お主に力を貸すのも楽しそうだな。)
「じゃぁ、約束だ!俺は封印を解く。そうしたら力を貸せ!」
(フフッ、出来るものなら、やってみるがいい。)
「ミリィ、まだ維持できるか?」
俺は、フリージングミストをかけているミリィに声をかける。
「大丈夫よ。」
「じゃぁ、封印解除まで、そのまま維持してくれ。……一応マナ回復ポーション渡しておく。」
俺はミリィにポーションを渡す。
「リィズ、リナ、周りからモンスター接近、各個撃破頼む。」
「了解っす」
「任せてくださいまし!」
リィズが双剣を、リナが片手剣をそれぞれ手にし、モンスターの襲撃に備える。
「ソラは二人の援護を。」
「分かった……ファルス行くよ!」
ソラの背中から金色の翼が広がる。
両手にはワルサーが握られている。
「カナも二人の援護と回復を。後、大丈夫だとは思うが、一応こっちも気にしていてくれ。」
「OK!任せてっ!」
カナミがタクトを振り、身体をくるりと回す。
1回転した時には装備が戦闘用巫女装束に変わっている。
「ファー!」
俺はファーを呼び、力を取り込む。
「ケイオス!」
掲げた右手に光が集まり、ケイオスが顕現する。
俺はケイオスを振り上げ魔法陣を描き、封印の周りへ投げつけていく。
魔法陣が封印を取り囲む。
「ファー、サポート頼む!」
(大丈夫よ。いつでもやっちゃって!)
俺はケイオスに魔力を流し込む。
俺の魔力に反応して、魔法陣が光を放つ。
魔力であふれかえったケイオスを、水龍に向けて振り下ろす。
「解呪!」
魔法陣から光が放たれ、ケイオスから放たれた魔力の光と交じり合う。
そして、封印ごと水龍を取り込んでいく。
光が水龍を包み込み、溢れかえっていく。
パリーンッ!
何かが弾ける音がする。
そして光が収まると、そこには水龍の神々しい姿が現れた。
(ほぉ……まさか、本当に封印が解けるとは。)
「ふぅ、無事に解けたみたいだな。……ちょっと待っててくれ。雑魚モンスターを片付ける。」
(イヤ、せっかくだから任せてもらえぬか?我も久しぶりに暴れてみたい。)
「じゃぁ、ちょっと待ってくれ。……みんな下がれ!ドラゴンが行くぞ!」
俺が叫ぶと、リィズたちは一瞬で俺の傍に来る。
ドラゴンの無茶苦茶さをよく知っているなぁ。
(ふむ……じゃぁちょいと捻ってやるかの。)
水龍はそう言うと、おもむろにブレスを吐き、横薙ぎにしていく。
残っていたモンスターはブレスにより、一瞬で消え去る。
「はぁ……相変わらず、ドラゴンは無茶苦茶っす。」
「言ってやるなよ……鬱憤が溜まってたんだろ。」
(ふむ、すっきりした。……ところで、冒険者よ、名は何という?)
「あぁ、そう言えば名乗ってなかったか……レイフォードだ。」
(ふむ……レイフォード殿。約束だ、力を貸そう。)
「そうだな……しかし、ここではゆっくりと話も出来ないな。……とりあえず外へ行くか。」
俺は、近くに転移陣を書く。
ダンジョンの外に転移陣を設置して来て正解だったな。
ミリィはすでに精霊化を解き、フェンリルのウラヌスは涙ながらに水龍にすり寄っていた。
「おーい、とりあえず、いったん地上に戻るぞー。」
俺はみんなに撤収の声をかける。
「ん?」
今、何か視界の片隅に気になるものが……。
「にぃにー早くするっすよ!」
「あぁ、先に行っててくれ、すぐ行く!」
俺はみんなを送り出した後、水龍がいた場所へ行ってみる。
水龍が封印されていた場所は湖だった……いや、マグマの熱で熱せられたそれは「温泉」そのものだった。
「……後で、みんなで来るか。」
とりあえず、俺も地上へと戻る。
地上に戻った俺達は、水龍とフェンリルと、改めて話をする。
やはり長い年月が経っていたため、地上の様子はまるっきり変わっていたそうだ。
俺は、この島に拠点を作るつもりだという事を話すと、水龍は島の周りの海域を守護してくれるとのこと。
俺はその申し出をありがたく受けることにした。
フェンリルのウラヌスはもっと北に送ってやろうと伝えたが、水龍と離れたくないと言うので、ミリィに手伝ってもらい、島の一部分の精霊力のバランスを変えて、永久凍土のポイントを作った。
水龍の為の休憩所「水龍の洞穴」の近くだ。
まぁ、おかげで天然の冷蔵庫が出来たと思えば安いものだ。
「みんな聞いてくれ。この島を俺達の拠点にする。これからしばらくは拠点づくりのために、みんなにも協力をお願いしたい。……ここならみんなの希望を叶えることも出来そうだしな。」
「え、それって、ひょっとして……。」
カナミが期待に満ちた目で俺を見てくる。
「あぁ、さっき見つけた。後で行こうな。」
「ウン、私頑張るよ!」
さぁ、これから忙しくなるぞ。




