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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう
62/153

再会 

 俺の周りの光が消え去ると、そこには懐かしい風景が広がっていた。

 ミンディアだ。ここを抜ければレイファのいる教会だ。

 きっと、そこにミリィやリィズ、ソラが……そしてカナミがいるんだろう。

 もうすぐだ、もうすぐ会える。

 俺ははやる心を抑えて、同行者に声をかける。

 「初めての転移だ……気分悪くなっていないか?」

 「……えぇ、大丈夫です。……もう、ここがミンディアなんですか?」

 同行者……リナが答える。

 気分は悪くはなっていないようだが、初めての転移を目の当たりにして驚きを隠せないでいる。

「あぁ、楽だろ?」

 「なんか・・・・・・すごいですね。」

 「いくつかの制限があるが、陣を設置した処なら一瞬で移動できるのがウリだからな。」

 俺はリナに転移陣の説明をしながら教会を目指す。

 この時間なら聖堂の方かな?と、聖堂を覗いてみるが誰もいない。

 裏に回り、関係者が寝泊まりする施設の方を確認すると、奥の部屋でレイファが寝台に横たわっていた。


 「レイファ、大丈夫か?」

 俺がレイファに声をかけると、レイファがゆっくりと起き上がろうとする。

 「レイさん……ですか?……本当に?……よくご無事で……。」

 レイファの眼からポロポロと涙が零れ落ちる。

 俺はレイファのもとに駆け寄り、体を支えてやる。

 「無理するなよ……」

 「ミリィさんから聞いていましたが……。」

 その後の言葉が続かない。

 泣き崩れるレイファを、落ち着くまで抱きしめて、あやしてやる。

 その間に、リナが部屋の中をかたずけ、お茶の用意をする。

 勝手知ったる……と言うように、その動きは迷いがなく滑らかだ……まぁ、迷うほど広い部屋じゃないけどね。


 「落ち着いたか?」

 「はっ……すみません、レイ様。はしたない真似を……。」

 しばらくすると、レイファも落ち着きを取り戻したようで、パッと離れると、顔を赤くしてモジモジしだす。

 「落ち着いたんだったら、何が起きているのか離してくれると助かるんだが?」

 「そうですね……どこからお話ししましょうか……。」

 レイファは、居住まいを正し、大きく息を吐き……ここで起きた出来事を話し出す……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「カナミ。南の方から第二王子の軍が攻めてきてるっす。このままでは持ちそうもないので、ちょっと手伝ってくるっす。」

 リィズちゃんが、部屋に駆け込んできたかと思うと、そう報告してくれる。

 かなり慌ててるみたい……リィズちゃんがこんなに慌ててるって事は、結構ヤバいかも。

 「ウン、リィズちゃんお願いするわ。後、リーンも連れて行って。役に立つはずよ。

 ……無理はしないでね。」

 そう言って私はリィズちゃんを送り出す。


 詳しい情報は入ってきていないけど、リンガード共和国で、何か事件が起きているらしい。

 そのため、王国軍と、クーデター軍の動きが急に活発になってきた。

 まぁ、リンガードの騒ぎはセンパイが起こしてるんだろうけど……ね。

 私の役目は、センパイに逢うまで、アルガードを抑える事。

 ……まぁ、潰しちゃってもいいと思うんだけど、リィズちゃん達が止めるから仕方がないよね。

 どうせ、センパイが潰すんだろうなぁ。

 

 そう言えば……今の状況USOのギルドウォーで、似たようなことあったっけ。

 あの時は、センパイと私とフレンド数人で臨時のギルド作って、教会を本拠にして参加したのは良かったけど……結局大手のギルドに押しつぶされたんだったよね。

 ただ、あの時の先輩の戦略はえげつなかったわ。

 ギルドの構成員の3/4が生産職だったのもあって、手数・火力が足りずああいう結果になったけど、もし1/2が戦闘職だったら、逆の結果になっていただろうって、みんなが言ってるわ。

 もし・たら・れば、なんて、言っても仕方がない事なんだけど……伝説として語り継がれていることはセンパイ知らないだろうからナイショなんだ。


 ……ウン、たまには私もセンパイの真似をしてみますか。

 「レイファ、現在の相手方とこちら側の、戦力と分布を教えて頂戴。」

 私はレイファに指示を出しながらビットンの台と駒を取り出す。

 「そうですね、相手の戦力は2万位。ミンディアの西の草原に布陣を敷いています。

 そのうちの5千が南回りで攻めてこようとしていますわ。

 それをリィズちゃんが、当方5千の兵の内2千を率いて撃退に向かってます。」

 私はビットン台の上、西側に1万5千の駒を置き、南に5千の駒を配置する。そして色違いの2千の駒と戦士の駒を南の5千の前に置く。

 「うーん……。」

 私は少し考える。

 「レイファ、リィズちゃん達に伝言お願い。『一戦交えた後、リーンに任せて、リィズちゃんは500の戦力で、大回りで西の本体の裏に回り込んで頂戴。無事回り込んだら、第一目標、敵の糧食。第二目標、王子の身柄拘束。無理でも最低限補給路は絶つように。』って。

 それから、ミリィとソラちゃんに2千の兵を連れて西の草原に向かってって伝えて。

 派手に暴れていいよって。ただ無理しないように。

 あと、レイファは残りの千を連れて北の警戒をお願いするわ。」

 ……とりあえず、今打てる手はこんな所ね。

 北の動向だけはしっかりとチェックしておかないとね。


 「あの、ナミ様?北から攻めてくるとお考えですか?」

 レイファが戸惑ったように聞いてくる。

 北にはヤムロ山脈がそびえたっていて、普通なら、こんな所から敵が来るとは考えもしないだろう……でも、多分来るわ。

 「ウーと、これはカンなんだけどね。国王派……たぶんソフィアかな?が来ると思うんだ。

 数は多くても500くらいだと思うから、千もいれば足止めぐらいなら出来るんじゃないかな?」

 足止めしている間に私を呼んでくれればいい。

 北側ならタロウ達の応援も呼びやすいしね。


 正直、第二王子軍なんて、2万だろうが3万だろうが敵ではないと思っている。

 こっちにはミリィ、リィズちゃん、ソラちゃんと言う上級精霊と契約している一流の精霊使い(シャーマン)がいるのだから。

 上級精霊と契約した精霊使い(シャーマン)一人で1万の兵を相手にできると言われてる。

 しかも、本体は遮蔽物のない草原に布陣している……いつでも壊滅に追い込めるのデスヨ。


 だから、私は国王軍……特にソフィアを警戒している。

 真っ当に攻めてきてくれれば、負けることは無いけど……なんだかんだと言ってもあの子は油断がならない。


 とりあえず私も戦闘準備をしよう。

 私はいつもの服から、戦闘用の巫女服に着替える。

 これは以前エリィに作ってもらったものをベースに改良を重ねたものなの。

 素材に霊糸と上質なスパイダーシルクを織り込んであるから、耐刃・耐魔に優れているわ。

 後、霊糸に加護を掛けてあるので、各状態異常にはかかりにくくなってるの。

 本当はエンチャントとか使えれば、もっと便利になるんだけどね。……今はこれで我慢よ。

 

 それから、ミリィからもらった魔法のカバンの中身を確認する。

 何でも、センパイが作ったものらしくて、このかばんの先が、隠れ家の倉庫とつながっているんだって。

 で、ミリィがこっちに来る前に、沢山のポーション類を作ってきたらしくて、ポーションに困ることは無いって話。

 でも、今探してるのはポーションじゃなくて……あった。

 私が取りだしたのはセンパイ特性の特殊メイス。

 メイスっていうよりロッドの方が近いような気もするけど……。

 センパイの事だから、絶対作ってると思ったんだよね。

 メイスだけじゃなく、他の武器もゴロゴロしてる。

 たぶんとりあえず作ってみた程度の物なんだろうけど……センパイのとりあえずは侮れないからなぁ……。

 このメイスもどんなギミックが仕込んであることやら……こうして持ってるだけでも、魔力が溢れてるのが分かるくらいだからね。

 

 アッと、忘れちゃいけない転移石。

 これも、センパイが作ってミリィが持ってきてくれたもの。

 魔石の中に転移陣が仕込んであって、どこにいても、これを持っていれば対になる陣へ即転移出来るっていう優れもの。

 ただ、魔石の要領の関係で、現在は1か所しか登録できないんだって。

 リィズちゃんもミリィもソラちゃんも、登録先はここ、ミンディアにして持って行ってるから、何かあればすぐ戻ってこれるのよ。


 だけど……私がこれを持つと、また違うことが出来るんだなぁ。

 私の女神の力「遍在」……これは教会から、私の知っている場所……しっかりとイメージできる場所ね……に瞬間移動できる。つまりこのミンディアの教会から、リィズちゃんのいる南の村まで一瞬でいける。

 ……一方通行だけどね。

 でも、この転移石があれば、すぐ此処まで戻ってこれるから、また教会に行って、別の場所に移動が出来るのよ。

 まぁ、遍在で他の人と一緒に移動しようとしても、せいぜい4~5人しか運べないから、大軍を送り込むとかには使えないんだけどね。


 よし、準備完了。

 まずはリィズちゃんの所ね。

 私は聖堂から「遍在」を使ってリィズちゃんのもとに飛ぶ。


 「わわっ!びっくりさせないでほしいっす!」

 私が急に現れたので、リィズちゃんが驚いたみたい。

 「ウン、伝令送ったんだけど、よく考えたら私が直接来た方が早いかなって思って。」

 「……普通、大将は、そんなにホイホイと動かないモンすよ。」

 リィズちゃんが呆れたように言う。

 「大軍を動かすの向いてないんだよ……きっと。」

 そう言うのはセンパイの役目だし。


 「それで何すか?」

 「あ、そうそう。これからね、私が相手の真ん中に魔法ぶち込むから、リーンはそれを合図に攻撃をお願い。でリィズちゃんは、その混乱に紛れて相手の本陣の裏に回って欲しいんだ。……500人くらい連れて行けば大丈夫?」

 「そうっすね……目的は糧食の焼き討ちと大将の捕縛っすか……。」

 リィズちゃんが考え込む。

 「500もいると小回りが利きにくいっす……100で充分っす。」

 リィズちゃんがそう言ってくる……ちょっと心配だけど、リィズちゃんお考えがあっての事だろうから、お任せするね。

 「ウン、分かった。じゃぁ、お願いね。……でも絶対に無理しちゃダメだよ。」

 「任せて置くっす。準備に10分貰うっすよ!」

 リィズちゃんはそう言って、兵士たちに何やら指示を出す。

 

 「リーン。あなたの役目は陽動よ。……と言っても、魔法を打った後はほぼ戦意喪失してると思うけどね。」

 捕縛の方がメインかも?とリーンに告げておく。

 「姫様はどうなさるおつもりで?」

 リーンが後の予定を聞いてくる。

 「私は、ここの様子を見た後、本体に合流するわ。リーンは残った兵を連れてミンディアの守りを固めて頂戴。」

  実際、ここでの戦闘が始まる頃には、本体がぶつかるタイミングだと思う。

 だから私が行った時は、ほぼ終わってる可能性の方が高いんだけどね。


 「カナミ、準備OKっす。言ってくるっすよ!」

 「ウン、じゃぁ、こっちも準備するわ……気を付けてね。」

 私はリィズちゃんを送り出すと、敵が一望できる高台にあがる。

 おー、上から見ると壮観だねぇ。

 位置としては……あのあたりがいいかな?

 私は狙いを定めると、魔力を圧縮してイメージを固めていく。

 イメージは大規模な爆弾……広範囲にダメージを与える奴……

 よし……いくよ!

 「集束爆弾(クラスター・ボム)!」

 私の魔力は狙ったところに着弾し拡散する!

 密集していた敵の兵士は、魔力爆弾によって吹き飛ばされる。

 爆風と砂煙が収まる頃には立っている者はほとんどいなかった。

 そしてそこへ、無傷のミンディア兵たちが襲い掛かる。

 「……圧倒的ね。リーン、あとお願いね。」

 私は転移石を取り出してミンディアへ戻る。


 結局、私達レベルの魔法使いがいれば、数万ぐらいじゃ相手にならないのよ。

 私達を相手にするなら、隙をついて接近戦に持ち込まないと……

 ……こんな風にねっ!

 私は身体を捻って、刃をギリギリのところで躱し、メイスを取り出す。

 さらに追撃に来る剣を、メイスでさばいていく。

 受け止めながら、風の刃をイメージし、相手がのけぞったところで魔法を叩きこむ。

 「真空刃(カマイタチ)!」

 風の刃が、相手の胸元を抉る。

 

 逆方向から振り下ろされる刃を左腕で受け止め、右手で持ったメイスを相手のお腹に叩きこむ。

 私の左腕には光輝く小手がある……魔力で形作ったもの……昔センパイが話してくれてたのを真似してみました。

 

 さらに、魔法とメイスを襲ってきた敵に叩きこんでいく。

 5分後には立っている敵は一人になっていた。

 「あなたは、まだ高みの見物してるつもりなの?……ソフィア。」

 「……正直驚いている。ナミがこんなに戦えるとは思っていなかったから。」

 「私は、火力より女子力のタイプだから、戦えないわよ?」

 ソフィアに軽口を叩いてみる。

 まさか、こんなに早いタイミングでソフィアが来るとは思ってなかったよ……計算が狂っちゃった。

 「ナミにお願いがある……一緒に来てくれないか?」

 ソフィアがそう言ってくる……予想通りの展開だけど……。


 「可愛い子いる?ちょっと撫でるだけで恥じらうような子がいいなぁ。最近、リーンもスレて来てるのよねぇ……。」

 「冗談ではなく!私と一緒に来てほしい。」

 「イヤって言ったら?」

 「レイファと他のシスターたちを教会に捕らえている。……ナミが断るなら……部下たちが暴走するかもしれない。」

 ハァ……やっぱりこうなるのね。

 他の子はともかく、レイファ見捨てたら、センパイに怒られそうだしなぁ……仕方がないか。

 「……ソフィア、貴女恥ずかしくないの?」

 一応嫌味を言っておく。

 「なんとでも言うがいい……大義の為には、私の風評など……。」

 「一緒に行ってあげるけど……ハァ……友人を亡くすのって淋しいもんね。」

 そう、人質と言う札を切ってきた時点で、私とソフィアの友誼は途切れた。

 

 水上香奈美の時から、私はあまり人づきあいがいい方ではなかった。

 本当の友人と言えば美鈴ぐらいしかいなかったと思う。

 「この世界で友人が増えたと思ったんだけどね……。」

 私は自嘲する……結局、向こうでもここでも、そう簡単に友情は育めないって事ね。

 そう思った時、なぜかリィズちゃんの顔がよぎる。

 何バカなこと言ってんすか!って言ってる気がした。

 「フフッ、そうね……バカなことだよね。」

 今ではリィズちゃんやソラちゃん、ミリィもレイファもいる。

 彼女らは、センパイの事を抜きにしても代え難い親友たちだ。

 

 「ソフィア=エルファント、私をどこへ連れて行ってくださるのかしら?」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「私達の所為で、ナミ様はソフィア様に連れて行かれました。」

 なるほどな……。

 「ミリィ達はどうしたんだ?」

 「ナミ様が連れて行かれた後、お三方とも戻ってこられて……追いかけて行きました。」

 三人とも……特にリィズの怒り様は半端なかったそうだ。

 レイファが口を挟む間もなく飛び出していったそうだ。

 

 「あのぉ……。」

 レイファが恐る恐ると言う感じで問いかけてくる。

 「どうした?」

 「いえ、レイ様が思ったより冷静なので……。この話を聞いたらリィズちゃんのように飛び出していくんじゃないかと……。」

 まぁ、レイファの考えは正しい。正しいんだが……。

 「人って、誰かが先にキレると、残された方は意外と冷静になるもんだよね。」

 「ハァ……そうなんですね……。」

 「ところで、カナミが連れてかれたのは王宮でいいのかな?」

 「たぶんそうだと思うのですが……ひょっとしたら離宮の方かも……。」

 ソフィアが使っている離宮の可能性もあるとレイファが教えてくれる。

 「なるほど……どっちも潰せば問題ないってわけだ。」

 俺はレイファに微笑みかけるが、何故がブルブル震えている。

 ……寒いのかな?

 ………魔王サマですから……とリナがレイファに伝えているが……なんのこっちゃ?


 「じゃぁ、レイファ、準備しろ。派手に行くぞ!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「やめて!私の為に争わないで!」

 「何バカなことを言ってるんすか?」

 だって言ってみたかったセリフなんだもん……。

 それなのにリィズちゃんたら……。

 

 今、私の前で、リィズちゃん、ミリィちゃん、ソラちゃんとソフィアたちが睨み合ってる。

 リィズちゃん達が助けに来てくれたのはいいけど、ソフィアが私に付きっ切りだった為、こうして睨み合う羽目に陥ったの。

 ちなみに、私は縛られてるのよ。

 「ソフィアさん、最後にもう一度言うわ。カナミを開放しなさい。そうすればあなたは見逃してあげる。」

 ミリィがそう言うんだけど……。

 「それは出来ない。聖女様には第一王子と婚姻してもらい王妃となっていただく。」

 ハァ……農民の娘が王妃ですって……どこの成り上がり物語よ?

 ……よく見ると、リィズちゃんの耳がピクピクしている、尻尾もピコピコしている……さっきからなんか嬉しそうなんだよね……私が捕まってるからうれしいとか?


 「ねぇリィズちゃん?」

 「何すか?大事な時にあっさり捕まってる人?」

 ひどぃ……。

 「なんか、嬉しそうだよねぇ?……私が捕まってるから?」

 思い切って聞いてみる。

 「はぁ?カナミはやっぱりバカっすね。……それよりいい加減にしたらどうっすか?」

 ……時間ないっすよとリィズちゃんが呟く。

 時間?何の事だろ?

 まいっか。

 「そうね。言ってみたいセリフも言えたし。そろそろいっか。」

 私は縛られていた縄を振りほどく。


 「なっ!」

 ソフィアが驚いた顔で私を見る……本気で私が縛られていると思ってたの?

 「魔法使いを何の枷もなく捉えるなんてできないっすよ?」

 そんな事も知らなかったっすか?と、可哀想な子を見る目でソフィアを見つめるリィズちゃん……その眼やめてあげて……地味に傷つくのよ。

 「まぁ、今回は、そのおかげで命拾いしたと思うっすけどね。」

 意味深なことをつぶやくリィズちゃん。


 「ソフィア=エルファント、剣を引きなさい。今引き下がれば、今までの友誼に免じて見逃してあげます。」

 私はソフィアにそう告げるが……。

 「もう遅いわ……。」

 ミリィが呟く。

 「時間切れっすね。」

 リィズちゃんも呟く。

 「ボク知らない……。」

 ラちゃんが顔を背ける。


 ドゥーーン! ズシャァ!

 

 遠くで何かが崩れる音がする……何?

 

 「カナミ、早く障壁を張るっす!」

 リィズちゃんが少し慌てた声で言う。

 ……やり過ぎっす……とつぶやくのが聞こえた。

 「え?何?」

 私は訳が分からないまま、とりあえず3人を含む範囲で障壁を張る。

 その直後……。

 

 ドッカーンッ! ドゥーーン! ズシャァ!

 

 すぐ近くで大きな音がすると同時に地面が揺れる。

 壁面がにヒビが入り崩れ落ちる。

 天井もひび割れて崩れる。

 あ……

 ソフィアの上に瓦礫が落ちそう。

 私は慌ててソフィアの方にも障壁を張る。

 ちょっと弱いけど……死ぬことは無いだろうね。


 そして崩れ落ちた壁の向こう側から人影が現れる。

 

 「にぃに、やりすぎっす!」

 リィズちゃんがその人影に抱きつき、訴える。

 ……え、じゃぁ、あれが……センパイ?

 土煙が晴れた後に出てきた男の人……私の知ってる「星野彼方」センパイの顔じゃない……でも、センパイだ……センパイだぁ!

 

 私は、彼にふらふら―と近寄り……抱きつく、抱きしめる。

 「せ、センパイ!センパイ!センパイ……逢いたかった!やっと逢えたよぉ……ぐすん。

 私信じてた。絶対に逢えるって信じてた……やっと、やっと逢えたよぉ……。」

 私は彼の胸に顔をうずめ泣きじゃくる。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ドゥーーン! ズシャァ!

 俺の目の前で、アルガードの宮殿が半壊する。

 まぁ、あれくらいならそんなに被害はないだろう。

 カナミがいるのは、あっちの建物っぽいな。

 

 俺はケイオスに魔力を込め、振り切る。

 ドッカーンッ! ドゥーーン! ズシャァ!

 壁が崩れると中から、エアリーゼとファルスの気配が感じ取れるようになる。

 俺は崩れた壁の瓦礫を、さらに切り崩して中に入る。


 中ではミリィ、リィズ、ソラの3人と、もう一人の女の子が立っていた。

 

 「にぃに、やりすぎっす!」

 リィズが飛びついてくる。

 ほんと久しぶりだ。俺はギュッと抱きしめてから離す。

 リィズにはちゃんと、後でゆっくりなと告げておく。

 

 目の前の女の子。

 その顔は良く知っている。

 USOのカナミの顔そのものだ。

 水上香奈美の顔ではない。

 しかし、それと同じぐらい見慣れた顔……カナ……カナミ。

 涙を浮かべて立ち尽くしていた女の子が、ふわーと寄ってきてしがみつく。

 「逢いたかった……」と連呼して泣きじゃくるカナミ。


 「カナミ……俺も逢いたかった。」

 俺はカナミをギュッと抱きしめる。

 しばらくして落ち着いたのか、カナミは一度上体を離して俺を見上げる。

 「センパイ、酷いよ……私の事好きって言い逃げするなんて……私返事していないのにぃ……。」

 「あ、あれは……。」

 凄い遠い過去のように思える、香奈美への告白……。

 「私の方が、ずっとずっと好きだったんだゾ。……改めて返事するね。ここからじゃないと……この先を始めることが出来ないから……。

 私、水上香奈美は、星野彼方さんが好きです。愛してます。……告白してくれて嬉しかった。ありがとう。」

 カナミの眼には大粒の涙が溢れているが、満面の笑顔だ。

 そう、俺はこの笑顔が好きだ、この笑顔を守ると決めたんだ。 

 俺はカナミを見つめる。

 カナミも俺を見つめ……目をつむり軽く顔を上げる。

 俺はカナミに顔を近づける……。

 彼女の唇の柔らかさがとても懐かしい感じがした。


 「あー、そろそろいいっすかね?」

 突然リィズの声が響いた。

 「あ……。」

 そう言えば、3人を放りっぱなしだった。

 カナミは唇に手を当て、真っ赤になって俯いている。

 「私もソラもずっとお預けっすか?」

 ちょっと拗ねた感じでリィズが言う。

 ソラは俺の背中によじ登っている。

 

 「えーと、リィズちゃんゴメンね。」

 カナミがリィズに謝る。

 「まぁいいっすよ。カナミの気持ちわかるっすから……。」

 それに……とニヤリと笑ってリィズが続ける。

 「カナミのファーストキスは私が頂いたっすから。」

 「それを、今、ここで言う!」

 カナミが真っ赤になって、リィズに詰め寄る。

 よくわからんが、仲良くていい事だ。


 「あの……そろそろ脱出しないと……崩れそうですよ?」

 今まで黙って控えていたリナが口を出してくる。

 「そうだな……あ、最後にでかい花火を上げておくか。」

 俺はみんなを近くに集め、飛翔の魔法で空高く飛び上がる。

 「俺に掴まっていないと落ちるからな。」

 一応みんなに注意を促しておく。

 

 下を見るとアルガード王国が一望できる。

 「お城崩れてるよ?」

 ソラが言う。

 「さっき崩したからな。」

 そして俺はケイオスに魔力を注ぎ、もう一度宮殿めがけて振り下ろす。

 宮殿を中心に魔力がはじけ飛び、土煙が消えた後には、首都の半分が消え去り、大きなクレーターが出来ていた。

 「何年か後には、大きな湖となった新しい観光名所になるだろ?」

 「……にぃに……すごく怒ってるっすね。」

 「そんなことないさ。一応、来る前に避難勧告はしておいたし………後で、王族他関係者に謝罪させるぐらいで許してやる程度だよ。」

 「リンガードでは、いまだ恐怖におびえ眠ることが出来ない高官たちがいます。」

 リナがボソッと漏らす。

 「コラッ、余計なことを言うんじゃない。本気にするだろ?」

 「……本当の事じゃないですか。」

 ……みんなの眼が冷たい……


 「し、仕方がないだろ?俺だって、もっと穏便に済ますつもりだったんだよ……。」

 「私がアルガード潰しておいた方が被害は少なかったと思うの。」

 「……そうっすね。カナミの言う通りだったっす……。」

 「と、とりあえず、ミンディアに戻って、再会を祝おう!そうしよう!」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ミンディアの街の広場。

 まだ住民たちは戻ってきていないので、俺達だけの貸し切り状態だ。

 中央に大きな篝火とビックボアやヤンゴンなどの丸焼きがまだ残っている。

 ソラとリィズはタイガーウルフ達と肉の取り合いをしている。

 ミリィはリナと精霊について語り合っているらしい。

 リーンは、ミーナを抱きしめてスリスリしている。


 「なんか不思議。」

 少し離れたところからみんなを眺めていた俺の横に、カナミが来て座る。

 「まったく違う世界で、人間関係も変わって……でも、センパイはセンパイで……。」

 カナミが俺にもたれ掛ってくる。

 「そうだな、なんか向こうの世界の事が夢だったんじゃないかって思う時魔あるよ。」

 カナミの重みを全身で感じながら会話を続ける。

 「今、この時が夢じゃないかなぁ?」

 「それはそれで淋しいな……そう思えるぐらいにはこっちに馴染んだよ。」

 「可愛い彼女が一杯いるもんねぇ。」

 カナミが抓ってくる。

 「いたた……まぁ、それは……仕方がないという事で……ダメかなぁ?」

 「ハァ……まぁ、仕方がないよねぇ……こればっかりは女神様にクレームものだけどね。」

 「そうだそうだ、全部女神が悪い!」

 「……女神様、怒って出てくるよ? ……それより、これからどうするの?」

 カナミが、今後の予定を聞いてくる。

 

 「そうだな……やることは一杯あるんだが……とりあえずはポメラ獣人国の奥に土地を確保してあるので、拠点作りかな?

 そこでしばらくはのんびりしよう。

 落ち着いたら魔族領に行くからな、その準備もしないと。」

 

 魔族から、色々話を聞かないといけない。

 特に勇者と魔王のシステムについて。

 魔人の暗躍の事もあるから、力をつけるのも大事だ。

 

 でも、しばらくはゆっくりしてもいいだろう。 

 ようやく、みんなと再会できたんだからな。

 今はゆっくりと……

 見上げた夜空には、俺の知らない星座が瞬いている。

 

 この先の困難も、何とかなるさ。

 みんなの顔を見てると、自然とそう思えた。

 カナミと、ミリィと、リィズと、ソラと……それから関わってきた皆と、これからも楽しく生きて行こうと、星を見ながら決意した。


 


 



 

 

 

 


 ようやくカナミと合流です。

 一応、第一部―完―って感じですかね。

 まだまだ続きますが、しばらく更新ペースが落ちるかもしれません。

 この先の先の流れは決まっているのですが、そこに繋ぐ為のネタがきまりきってなくて(^^;


 出来るだけ、ペースを落とさず行きたいと思いますので、今後も応援よろしくお願いします。

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