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いつか魔王になろう!  作者: Red/春日玲音
第一章 魔王になろう

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エミリア仮面現る!?

 ポツ……

 地面に水滴が落ちる。

 俺は天を見上げる。

 ポツ……ポツ……・

 俺の頬に水滴が落ち、それは次第にザーッっという音と共に大粒の雨となり降り注ぐ。

 俺は作業を中断すると、慌てて小屋の中に飛び込む。

 「急に降ってきたよ……参ったなぁ。」

 「そろそろ、この辺りは雨期に入りますからね。」

 俺のつぶやきに、メイド服を着たリナが答えてくれる。

 このメイド服は、最近アルガード王国ではやっているモノらしい……どう見ても、向こうのデザインだ。

 誰が発案かを思い当たり、俺はつい顔がほころんでしまう。


 「そうだ、リナ、地図を持ってきてくれないか?」

 「はい、少々お待ちください。……どうぞ。」

 俺は手渡された地図を眺める。

 地図の上には何か所か「×印」が打たれている。

 「ココと……ココ……だな。」

 俺はいくつかの場所を確認して、リナに声をかける。

 「リナ、ここに書いてあるので全部か?」

 「はい、かなり入念に調べましたから、間違いはないと思います。」

 「そうか、じゃぁ雨が止んだらでかけるか。」 

 俺はそう言って、地図をしまう。

 

 リナは、俺からの依頼でリンガード国内の事を調べていた。

 何をやるにも情報は必要だ。

 当初リナで大丈夫かと懸念していたのだが、意外とこの手の事に長けていて十分すぎる情報を得てきてくれた。

 リナに言わせると……

 「ネコ科の獣人は、元々こういうの得意なんですよ」

 とのことだった。

 

 俺がリナの依頼を受けて考えたのは「どういう結末がいいのか?」だった。

 正直、いくら考えても答えは出てこなかったが、現状のまま進むとポメラ獣人国はリンガードの傀儡として、好きに使われることだけは分かっている。

 だったら、最低限そうさせなければいんじゃね?……という結論に達した。


 次に、その結末に持っていくための要因を探す。

 こういう風に順序だてて思考するのは嫌いじゃない。考えがまとまりやすいからだ。

 しかし香奈美に言わせると「それが出来ないんだよ!」という事らしい……よくわからん。


 どちらにしても、ポメラ獣人国が傀儡とならないためには、まず、エミリアの排除。

 それから背後にいるリンガードの排除の2点だ。

 アルガードに関しては、とりあえず後回しだな。

 リンガードの影響がなくなれば何とでもなりそうだし、聖女もいるしな。

 聖女が香奈美だったことは朗報だ。

 早く逢いに行きたいが、厄介な事を引き受けた手前、放り出していけないし。

 ……それに、正直怖い。

 どんな顔をして逢えばいいのだろう……香奈美は、どう思っているのだろう……。

 そんな思いが、動けずにいる原因にもなっている。

 ……厄介な事を引き受けたと思っているが、……口実に使っていることぐらい自覚している。

 ……あー、やめ、やめ!考えても仕方がないことは後回しだ。


 「あ、レイ様、この先の屋敷がそうです。」

 1軒の大きな屋敷が見えてきたところで、リナが声をかけてくる。

 「よし、じゃぁ忍び込むぞ。」

 そう言って俺は、気配遮断の魔法をかけ、屋敷に忍び込んでいく。

 ちなみに俺達の今の格好は、俺が白タキシードにマント、リナが黒を基調としたメイド服だ。

 共に顔には、マスカレードマスクと呼ばれる仮面をつけている。

 ……仕方がないじゃないか。

 怪盗といえば、この格好しか思い浮かばなかったのだから。

 俺は、目的の部屋に入ると、あらかじめ目をつけていたものを探し出し、手に取る。

 物を確認し、代わりにメッセージカードを置く。

 「リナ、いつものように頼む。」

 俺は、リナに指示を出した後、適当な場所を探し、しばらく待つことにする。

 

 しばらく待つと部屋の外が騒がしくなる。

 「いいか、すぐに運び出すんだ。アレを持っていかれたら、儂は破滅だ。」

 この屋敷の主人と思しき声が聞こえると同時に部屋の扉が開け放たれる。

 使用人らしき男たちが部屋の中を物色し始める。

 扉付近に立っている主人らしき人物は、手にカードみたいなものを握りしめながら、ぐぬぬ……と唸っている。

 「ご主人様、大変です!こんなものが!」

 使用人の一人が俺の置いたカードを見つけ、主人の下に駆けつける。

 「何だと!、探せ、お前ら探すんだ!」

 カードを見た主人が焦って喚き散らす。

 ……無駄なことを。

 カードにはこう書いておいた。


 『暁の女神の像、確かに頂きました。 エミリア仮面。』


 「ぐぬぬぅ!エミリア仮面め!盗み出すのは明日の晩じゃなかったのか!」

 そう言って屋敷の主人は、最初に握っていたカードを床に叩きつけ踏みつぶす。

 気が収まらないのか、何度も何度も……まるで地団太を踏んでいるようで笑える。

 ちなみに屋敷の主人が持っていたカードにはこう書かれていたはずだ。


 『ハーイ!。私が噂のエミリア仮面よ。あなたの大事なモノ……わかるかしら?『暁の女神の像』アレをいただきに、明日の夜お邪魔するわね。お茶を用意して待っててくださるかしら? あなたのエミリア仮面』


 予告状を受け取った主人は、お宝を盗まれる前に移そうと考えてここに来たのだろうが……。

 場所を変えられたり、警備が強化されるのを黙って見ているという「怪盗のロマン」と言うのは、俺にはわからん。

 何故、わざわざそんなメンドクサイ事をと思う。

 まぁ、予告状を出す……と言うのは分からなくもないので、真似させてもらったが……面倒なことを楽しむM体質じゃないので、さっさとモノは頂いている。  


 「くっそー、エミリア仮面め!警備を強化したはずなのに、何故こうも易々と……。」

 主人が悔しそうに呻く。

 そんな主人をいたわしそうに見る使用人達。

 とりあえず、眠らせるか。

 『眠りの霧(スリープミスト)!』

 部屋の中に霧が立ち込め、その中にいた使用人と屋敷の主人は、すぐに意識を失って倒れる。

 「リナ手伝ってくれ。」

 俺は部屋の外で、隠れて様子を伺っているはずのリナに声をかけ、屋敷の主人と使用人を縛り上げる。

 そして、使用人はそのままにし、主人だけを邪魔が入らない場所まで運び込む。

  

 ここ最近、リンガードでは『エミリア仮面』を名乗る盗賊の被害が頻繁に起こっている。

 ただ、被害にあった者達は皆「そのようなことは無い」と口をつぐんでいる。

 なぜならば、被害にあった物は、表立って所在を明らかに出来ない物ばかりだからだ。

 しかも、被害にあった者達は、彼らだけにわかる共通点があった。

 

 「ウッ……ここは……。動けん、なんだ、何が起きている!」

 「あら、お目覚めかしら?」

 縛られた主人の前に立つ、変装したリナが声をかける。

 「お前は!……お前がエミリア仮面か!」

 「そんな恥ずかしい名前は知らない……。」

 ……エミリア仮面は、恥ずかしくないだろ?

 ……まぁ、俺も名乗るのが恥ずかしいので、リナに押し付けているんだが。

 後は俺がやるか。


 エミリア仮面を名乗る人物が女だという事を印象付けたら、リナの出番は終わりだ。

 「エミリア……仮面様、後は私が。」

 そう言って、俺はリナを下がらせる。

 わざと、エミリアの後にタメを作っておいた。

 ちょっとした小細工だ。


 「さて、ここに『暁の女神の像』があります。」

 そう言って、俺は男に見えるように像を見せつける。

 「そ、それは、儂のっ!」

 「いやいや。あなたの……じゃないでしょう。」

 そう言って、俺は像を弄ぶ。

 

 暁の女神像は、元々、アルガード王国の古く由緒ある美術館に納められていたものだ。

 しかし、その美術館が十数年前に大火災に見舞われ、その時に燃えて失われてしまったと言われる美術品の一つだ。

 それが、どう巡ってこの男の下にあるのか、詳しくは知らないが真っ当な手段で手に入れたのでない事だけは確かだ。


 「まぁ、でも条件次第では、あなたの手に戻してもいいと持っているんですよ。」

 「クッ……何が望みだ!、金か?女か?」

 ……望みと言えば金か女……ほんと下衆くて低能だなぁ。

 「何、簡単なことですよ……ポメラ獣人国から手を引いていただきたいのです。」

 「何だと?」

 「今後、一切、ポメラ獣人国に、関わるな……と言ってるんですよ。」

 俺は、男に、一言一言噛み締めるように伝えていく。

 「あ、もちろん、この場だけの言い逃れなんてできませんからね。……3日前のブラニュー子爵の家で起きた事故……ご存じですよね?」

 「まさか……あれは……。」

 「いやー、大変痛ましい事故でしたねぇ……話を聞いた時、私の胸も痛んだものですよ。なぜ、あんな『事故』が起きたのかと……。」

 

 三日前、このリンガードで衝撃的なニュースが流れた。

 リンガード共和国の中でも1,2を争う発言力を持った人物……ブラニュー子爵の屋敷に、突然大きな岩が降ってきたのだ。

 屋敷は半壊したものの、一応人的被害はなかったというのだが、ブラニュー子爵のすぐ横を岩が掠めており、少しでもズレていれば子爵の命はなかったという。

 子爵は、ショックのあまり寝込んでしまい、なるべく早めの復帰を関係者各位は願っているという……。


 そして俺は男の前で大仰に指を鳴らしてみせる。

 ドゥンッ!

 直後、男の横に一抱えもある岩が落ちてくる。

 掠めるように、しかし当たらないという、絶妙な距離で地面にめり込んだ岩を見た男は顔を青ざめさせる。

 「おやぁ?最近は岩が降ってくるのが流行り何ですかねぇ?ちょっとズレていれば『痛ましい事故』が起きる所でしたねぇ。」

 そして俺はさらに指を鳴らす。

 ドゥンッ!ドゥンッ!

 立て続けに二つの岩が男の横と後ろに落ちる。

 これもまた絶妙な距離感で、男を囲むように落ちたため、身動きが取れなくなっている。


 「さて、先程の答えを聞かせてもらえますかね?」

 「わ、わかっ……わかった。言う通りにする。」

 男は震えながら答える。

 「んー?何が分かったのですか?ハッキリ言ってもらわないと。」

 「今後一切ポメラ獣人国と関わらない!……これでいいんだろう!」

 男が叫ぶと同時に光が弾ける。

 『誓約(ギアス)』の魔法が掛かった証だ。


 「フム、まぁいいでしょう。今の光は『誓約(ギアス)」の光です。誓約を破ったら不幸な事故にあいますから気を付けてくださいね。」

 俺は、とりあえず注意をしておく。

 「私の言葉が信じられなければいいですけど……チップは自分の命だという事をお忘れなく……メラヌ男爵のような愚かな選択をしないことを祈りますよ。」


 メラヌ男爵は5日前、謎の死を遂げた人物だ。

 使用人の話では、来客がありと話をしている際、突然体が弾け飛んだという……会話の内容まで分からないのと、その時の来客も一緒に吹き飛んでいる為、何が起きたのか見当もつかず、関係者を唸らせているという事件だ。


 「ま、まさか、あれは……お前の仕業なのか!」

 「さぁ?私は何もしてませんよ?私は……ね。」

 クックックッ……と笑ってみせる。

 ……ヤバい、楽しい、癖になりそうだ。


 「あ、そうそう、断っておきますが、私達は『エミリア』さんとは『関係』ありませんからね。」

 俺は最後にエミリアと関係ないという事をわざわざ強調して伝えておく。

 そして、もう一度スリープの魔法をかけ、眠った男を屋敷の寝室に放り込む。

 もちろん暁の女神像も一緒に……だ。

 俺は約束は守る男なんだよ。


 「次で最後だったな。……今夜のうちに片付けようか。」

 俺はリナに声をかけ、次の目的地に向かう。

 そして同じことを繰り返し、すべてが終わったのは夜が明ける少し前だった。


 「レイ様……これでうまくいくのでしょうか?」

 「……んー、ま、何とかなるんじゃないか?」

 リナの心配そうな問いかけに軽く答えておく。


 俺とリナはこの10日ほどかけて、リンガードの有力者を脅してきた。

 リナに調べてもらったのは、リンガード共和国内で、特に発言権が高く、ポメラ獣人国もしくはエミリアと深く関わっている者達だ。

 人に言えない財宝を狙っている怪盗の振りをして誘き出し脅しをかける。

 「エミリア仮面」や最後に「エミリアとは関係ない」とあからさまに出しているのは、エミリアとの関係性を疑わせるためだ。

 あからさま過ぎて、エミリアがやっていると信じる奴は少ないだろうが、それでいい。

 わざわざエミリアの名前を出すぐらいだから、エミリアを恨んでいるか陥れようとしているかという奴だと思ってもらえるだけでよかった。

 脅迫時に力を見せているので、下手にエミリアと関わると、また自分に被害が来るかも?と思ってエミリアと距離を取ることになるだろう。

 もちろん、素直にエミリアの仕業だと思い込むバカであれば、放っておいても、エミリアに何か仕掛けるだけだろうから、こちらに何の問題もない。


 こんな回りくどい事をしたのには訳がある。

 一つは、エミリアとリンガードを切り離すため。

 エミリアに手を出した時、リンガードに助けを求められたり、エミリアを排除しても、その後にリンガードが出しゃばってきたら面倒なことになるのは目に見えている。

 だからあらかじめ、リンガードが手出ししないようにしておく必要があった。


 もう一つは、もっと単純な理由で、単にエミリアに嫌がらせがしたかっただけだ。

 事件が起き始めてから10日、エミリアの下にも、真偽の問い合わせなど、色々な情報が錯綜しているだろう。

 しかも、自分にとって面白くもない情報ばかりが集まっているに違いない。


 「次はダビットだな。」

 俺は次の目標をダビットに決める。

 とりあえずダビットの本心を確認しないとな。

 「リナに確認しておきたい。……ダビットを拉致して本心を確認するが、ダビットが今の状態をよしとしている場合、状況によっては処分することになるがそれでもいいか?」

 リナは言葉を失って青ざめ……途切れ途切れに問いかけてくる。

 「処分……と言うのは……具体的には……。」

 「状況次第だがな……戦争をするというのがダビットの望みなら……最悪、処刑されることになるだろうな。」

 俺は一番最悪の事態を最初に告げる。

 「そ、そんな……ダビット様……。」

 「ここで最後の選択をさせてやるよ。

 これから見たくないものを見なければならないかもしれない。リナ自身の手で、獣人国にとどめを刺すことになるかもしれない。

 だから、今なら俺から離れることを許可する。

 ……どういう選択をしても、ポメラ獣人国は今のままではいられない事には変わらないからな。」

 俺は、そう言ってリナの選択を待つ。

 長い間リナは黙っていた。

 そして口を開く。

 

 「私はダビット様のお心が変わっていないと信じています。そして……レイ様にお願いしたのは私です。どのような結果となろうとも、私は見届ける責任があります。」

 それに……と、リナが顔を赤らめながら続ける。

 「私はレイ様の奴隷ですから……ずっとおそばにいる事を誓いましたから……私は、レイ様について行きます。」

 「そうか。」

 俺は一言だけ答える。

 ……うーん、ミリィとリィズと言う嫁候補にソラと言う被保護者……リィズに言わせると、将来の嫁候補らしいが……に加えてリナ……妾か?……香奈美になんて説明するかなぁ。

 実は、この辺りも香奈美に会うのを躊躇する要因だったりする。

 かといって、香奈美に逢わないという選択肢はあり得ないのだから、いい加減覚悟を決めるべきだと思うんだけど……。


 ……とりあえず、ダビットを拉致って八つ当たりしよう。

 俺は、今後の方針を決める。

 

 「じゃぁ、リナ、ポメラ獣人国に向かうぞ!」

 「はい、レイ様。どこでもついて行きますわ。」

次回で、ポメラ獣人国編終了……の予定です。

たぶん……終わると思います。

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